ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第6話「青き雫と獅子の咆哮」

その日、IS学園のアリーナは生徒でごった返していた。

観客席には立ち見の生徒もいるほどである。

今日は噂の男性IS操縦者と、イギリスの代表候補生が模擬戦をするということが伝わっていたからだ。

 

男の子は二人とも専用の第3世代機持ってるんだって。

へー、すごーい。やっぱり特別なんだ。

昨日の男の子同士の模擬戦見た子は、モンド・グロッソ見てるみたいとかいってたよ。

そんなに強いのっ?

そのくらいじゃないと、専用機は持てないでしょ。

 

一夏と諒兵のISは、千冬が手をまわして、打鉄を再調整した第3世代機ということになっている。

『白虎』と『レオ』という名前がつけられていたことが功を奏していた。

よって倉持技研の第3世代機として『白虎』と『レオ』の名前は登録されることとなった。

もっとも、製作を担当したということになっている倉持技研の技術者たちは、二人の模擬戦のデータを見てもまったく理解できなかったそうだが。

 

だが、彼らにもプライドがあったらしく、一夏はジトッとした目で、諒兵は面白そうに学園に運び込まれたそれを見ていた。

「千冬姉。俺、いらないっていったよな」

「私もそう伝えたんだがな」

「変なところにプライド持ってんな、あんたら」

そこにあったのは純白の機体。倉持技研製作となっている『白式』だった。

一夏の専用機として製作された機体である。

「白虎がいるからいらないよ。持って帰ってくれ」

「そういわずに。白式は本当に我が社の第3世代機なんですよ」

と、運んできた倉持技研の技術者が懇願してくるが、一夏の返事は決まっている。

「いらないよ。俺には白虎がいる。こいつのこと、すごく気に入ってるんだ」

 

えへへっ♪

 

ふと、そんな声を感じた一夏は自分は間違っていないと確信する。

「どうしても?」

「どうしても」

「それなら、日野くん、受け取りませんか。初の男性用専用機ですから」

どうやらなんとしても男に使わせたいらしい。

とはいえ、諒兵も返事はきまっている。

「いらね。俺にゃレオがいるからな。こいつ以上のパートナーはいねえよ」

 

ふふっ♪

 

矛盾しているようだが、なんとなく諒兵も自分は間違っていないと確信した。

何より『白式』は自分たちには動かせないのではないか、そんなことを感じていたのだ。

「千冬さんが貰ったらいいんじゃねえ?」

「千冬姉なら、俺たちより使えるだろ?」

「私は今はIS学園の教師だ。とりあえずは必要としていない。有事なら考えんこともないが」

「すまんな白式」と、そういって『白式』を撫でる千冬に、何故か『白式』が気にするなといっているように感じる一夏と諒兵だった。

とにかくいったん持ち帰り、保管しておいてほしいと千冬が依頼したことで、『白式』は倉持技研に保管されることとなった。

そして、アリーナに浮かぶ青の機体の前に、まずは諒兵が出て行った。

一夏は観客席で二人の戦いを見守っている。

箒がやたらと周囲に睨みをきかせてくれるので、比較的しっかりとアリーナに集中することができたのは余談である。

 

 

青の機体。その名をブルー・ティアーズ。

イギリスの第3世代機であり、セシリアの専用機、正確には第3世代兵器の実践テストを行うために受け取った機体である。

「逃げずにここまできたことは褒めてさしあげますわ」

「逃げねえよ。相手が誰だろうとな。それが俺の矜持だ」

自信に溢れた表情のセシリアに、真剣な眼差しを向け答える諒兵だったが、ふと、ちょっとしたいたずらを思いついた。

「あ、いや、ちょっと訂正しとく」

「なんですの?」

「ガチで怒った千冬さんからはマジで逃げる」

あれに勝てるのは神か魔王だし、と、諒兵が続けると、真っ赤になって吹き出しそうになるセシリア。

必死に笑いを堪えているため、変な顔になってしまう。

「聞こえてるぞ、日野」

「げっ!」

「笑うな、オルコット」

「すっ、すみませんっ!」

いい意味で緊張させてくれる千冬の声に、セシリアは感謝した。

「最後のチャンスをさしあげようかと思いましたが、気が変わりましたわ」

「あ?」

「この場でコテンパンにしてさしあげます」

「そりゃ日本語的にはスラングだぞ、オルコット」

スラングとはアメリカ英語のことである。

クィーンズ・イングリッシュとはだいぶ違う、砕けた言葉遣いということができる。

どこで覚えたのか知らないが、英国貴族が使う言葉ではなかった。

「おふざけはここまでですッ、さあ踊りなさいッ、私とブルー・ティアーズの奏でるワルツでッ!」

そう叫んだセシリアは手にしていた巨大なスナイパーライフル『スターライトmk2』を構え、諒兵めがけて撃ち放った。

 

 

「確かに諒兵の言うとおりだな」と、一夏は呟いた。

「どうした一夏?」と隣にいる箒が尋ねてくる。

「俺も千冬姉がガチで怒ってたならマジで逃げる」

真剣な表情でそういってくるので、箒は思わずコケてしまっていた。

物凄く納得できるのは確かなのだが。

 

 

セシリアはブルー・ティアーズの機動力を生かし、とにかく諒兵から距離をとって狙撃していた。

近づかれれば危険だとわかっていたからだ。

昨日の一夏と諒兵の模擬戦は確かに参考になった。

接近戦では分が悪いということが理解できたからだ。

特に格闘戦を得意とする諒兵では、ライフルの内側に飛び込まれるとどうすることもできなくなる。

ブルー・ティアーズには接近戦用の武器も搭載されているが、セシリアは生粋のスナイパー。

遠距離からの狙撃こそが本領なのである。

だが。

「狙いが甘いぜッ!」

諒兵は昨日初めて飛んだとは思えないほど、多角的な移動を見せてきた。

狙いが定まりにくく、セシリアは移動先を予測しながら撃っているがそれでも当てられない。

「クッ、意外とやりますわねッ!」

移動しながら発砲してもなかなか当てられない。

とにかく相手の動きを止めないときつい。

しかし、こんなに早く奥の手を出すのは代表候補生としての誇りが許さない。

そんな逡巡が、諒兵の接近を許してしまった。

「もらったぜ」

そういって繰り出された右手のレーザークローが、ライフルの砲身を狙っていることが理解できたセシリア。

(出し惜しみできる相手ではありませんわッ!)

そのことを理解し、即座に叫ぶ。

「いきなさいっ、ブルー・ティアーズッ!」

「何ッ?」

突如、ブルー・ティアーズから分離した四つの雫が、光の牙を撃ち放ちながら諒兵に向かって襲いかかってきた。

 

 

無数のレーザーをかわす諒兵の姿を見ながら、一夏が感心したような声を上げる。

「確かに、いきなり増えた攻撃をかわしているのは見事だな」

「いや、オルコットさん、面白い武器を持ってるなって思ったんだよ」

「面白い?」

「ここからだ。あんな面白そうなもの、諒兵が見逃すはずがない」

なぜここまであの男を信用できるのだろう。

箒はそう思いつつも、一夏が親友と呼ぶ男を悪く言えないため、口を噤むのだった。

 

 

BT兵器。

イギリスの第3世代機の特徴として語られるのが、思念制御装置、すなわちイメージインターフェイスによる小型独立機動兵器による攻撃、通称ビット攻撃である。

本体から分離、独立して攻撃するビットは、事実上、敵が増えることになるといってもいいだろう。

今、諒兵は四体の機動兵器と戦っていることになるのである。

ちなみにいえば、思念制御装置とは各国の第3世代ISの特徴であり、それぞれ特色のある兵器が作られていた。

 

それはともかく。

襲いかかってきたレーザーを間一髪かわした諒兵は、一夏の言ったとおりの感想を抱いていた。

「おもしれえ。これがBT兵器か」

「ブルー・ティアーズの全方位攻撃からは逃れられませんわよ」

逃げ足には自信がありそうですけど、と、自信ありげに言いつつも、セシリアはブルー・ティアーズを使いたくなかった。

四基のビットを制御するということは、四つの身体を動かすことに等しく、はっきりいえば集中しないと動かせない。

実はセシリアはビットを制御している間は自分自身は動くことができなくなるのだ。

この状態だと、いい的なのである。

そのことに諒兵が気づく前に、ビットで撃ち落すしかない。

そう思い、四基のビットを操って諒兵に襲いかかった。

 

諒兵は襲いかかるビットを観察し、その機動に感心していた。

全方位攻撃といったことは伊達ではなく、目の前にセシリアがいながら、自分の死角からもレーザーが飛んでくるのは厄介だ。

だが面白い。

セシリアのISにこれができるのならば、自分だってできる。

諒兵はそう思っていた。

実のところ、第2世代の打鉄に思念制御装置は搭載されていない。

いないのだが、できる気がした。

「だよな、レオ」

 

ええ、あなたがそう信じてくれるなら

 

ふと、そんな声を感じ取った諒兵はイメージする。

今の段階では、諒兵にはセシリアのように自在に動かせる力はないが、似たようなことはできる。

それで十分。

「いけッ、獅子吼ッ!」

『組み上げた』諒兵は二段回し蹴りの要領で、両足のレーザークローを放った。

諒兵のレーザークロー、名づけて『獅子吼(ししこう)』

獅子の咆哮がセシリアに襲いかかる。

「なッ、射出攻撃ッ?」

まさかレーザークローを飛ばしてくるとは思わなかったセシリアは体勢を崩しつつもすぐに避ける。

「苦し紛れの大技など当たりませんわッ!」

実際、大振りすぎて撃つ前に予測できるレベルだ。

そういう攻撃が来ると思わなかったために体勢を崩したが、わかればそれほど怖くはない。

「そいつはどうかな?」

だから、諒兵がそういってニヤリと笑った意味が理解できず、できたときには更なる驚愕に襲われた。

「キャアッ?」

ガンッという音がしたかと思うと、セシリアの身体が弾き飛ばされた。

いったい何が襲いかかってきたというのか。

諒兵とはだいぶ距離があるというのに。

そこまで考えて、突然目の前を通り過ぎた光の爪に、目を見張ってしまう。

「えっ?」

六つの爪が、上下左右、斜めから自分に襲いかかってきていた。

それはつまり。

「まさかッ?」

「そのまさかだ」

諒兵を中心に、六つの爪がブルー・ティアーズのようにセシリアに襲いかかってきていた。

しかも、諒兵は驚愕するセシリアに向かって一気に迫ってくる。ビットを完璧に操りながら。

「そんなっ、私より上手くビットを操れるというんですのっ?」

「どうだかなッ、それよりお前のビットが困ってるみてえだぜオルコットッ!」

集中を乱されたセシリアのブルー・ティアーズはまともに諒兵を狙うことができていない。

それでも、今、接近されればなす術がないとセシリアは距離をとることを選択した。

 

 

監視モニター室で模擬戦の様子を見ている真耶は驚愕してしまった。

打鉄には思念制御装置は搭載されていない。

諒兵の『レオ』がビット攻撃などできるはずがない。

それなのに、今アリーナでは諒兵がレーザークローをビットのように使ってセシリアを追い詰めているのだ。

逆にセシリアはブルー・ティアーズを制御できず、レーザーも乱れ撃ち状態になっている。

「いったいどうやっているんでしょう……」

「織斑と日野のISは何ができても驚かんな。それよりオルコットは少し焦りすぎだ」

「それは、目の前であれだけ見事にビットを操られてしまってるんですから……」

自分のアイデンティティを否定されたようなものだ。

精神集中が乱れるのは仕方ないと真耶には思える。

だが、千冬の考えは違っていた。

「今の段階では、BT兵器の扱いはオルコットのほうがはるかに上だ」

「えっ?」

「私に言わせれば、日野がやっているのは子供だましに過ぎん」

冷静になれば、セシリアは十分に対抗できるどころか、諒兵のレーザークローはすべて撃ち落せるはずだと千冬は語る。

「戦場でどれだけ冷静さを保てるか。遠距離攻撃を主体とするオルコットにとっては至上命題だ。それができればあいつも変わるだろう」

「まさか、勝てと言ったのは……」

「この二つの戦いでもっとも成長してほしいのはオルコットだ。勝てば確実にあいつは国家代表を狙えるIS操縦者になれる」

厳しくても、生徒が成長できるように気づかう。

それが教師のやるべきことだと千冬は理解していた。

 

 

距離をとることを選択したとはいっても、実際にやっていることは逃げ回るだけである。

六つのレーザークローと諒兵本人。

実に七体の敵を相手にするのはあまりに分が悪かった。

(あれだけ動き回っているのにッ、ビットの機動にまったく乱れがないッ!)

イギリスにはもう一機、BT兵器を搭載した第3世代機があった。

その機体でも、ビットがここまできれいな軌道を描き続けることはまず不可能だろう。

レーザークローは諒兵からセシリアに向かって上下左右、斜めの軌道で襲いかかってくる。

どれだけ動き回ってもその動きに乱れがない。

(ビット制御は並列思考や完全俯瞰思考を持たなければ不可能なのにッ、あの男にはその才能があるというんですのッ?)

並列思考、そして完全俯瞰思考とは、機動兵器それぞれの視点で考えるか、逆に自分を含めたこのアリーナを上から俯瞰して考える思考技術を指す。

同時に複数の視点を持つか、チェス板を見ながら戦闘を考えるということだ。

実のところセシリアは努力はしているが、完全にそこまではいけていない。

だからビットの制御中は自分自身は動かせないのだ。

「クッ!」

苦し紛れにセシリアはライフルを連射した。

「狙いが甘いっていってんだろッ!」

鮮やかにかわした諒兵から、再びビットがきれいな軌道を描いて襲いかかってくる。

(攻撃を避けても軌道が『まったく同じ』ままだなんてッ!)

自信を砕かれそうになるが、必死に踏みとどまるセシリア。

自分は代表候補生だ。そうなるために血の滲むような努力をしてきた。

昨日今日ISを動かしたばかりの素人には負けられない。

それでも、常に『まったく同じ』軌道を描いてくる諒兵のレーザークローに気持ちが揺らいでしまう。

と、そこまで考えてふと気づいた。

(常に『まったく同じ』?)

そんなことはありえない。

人が考えている以上、必ず僅かな揺らぎがあるはずだ。

それを感じさせない諒兵のレーザークローの動きは、常識で考えてもありえない。

そう考えたセシリアは、すぐに組み上げて反撃を開始した。

「何ッ?」

セシリアのブルー・ティアーズが息を吹き返したように諒兵に襲いかかってくる。

その軌道は『まったく同じ』ものだった。

「おもしれえ。気づきやがったか」

「あなたに敬意を表しますわ。日野諒兵さん」

不敵に笑うセシリアは、初めて諒兵の名前を読んだ。

 

 

ふむ、と、監視モニター室の千冬は安心したように息をついた。

「オルコットさんのビットの機動が安定しましたね。まるで日野くんのビットみたいに」

「これができればオルコットに負けはない。あいつは今までバカ正直すぎたということだ」

「どういうことですか?」

「思念の自動制御。日野がやっていたのはそれだ」

あらかじめ、ビットの軌道を設定し、ひたすらその通りに動かしていただけということである。

常にビットに意識を割いている必要はないのだ。

独立した機動兵器である以上、あらかじめ設定したとおりに動く機能は最低限持っているものだからだ。

「自分を中心に敵に向かっていく軌道を設定しておけば、後はほうっておいても問題ない。日野は常にオルコットに迫っていたからこそ、オルコットにしてみればどれだけ動き回っても、自分に襲いかかられているように見えただけだ」

「な、なるほど……」

「オルコットはBT兵器それぞれに常に命令を下していた。これには並列思考か完全俯瞰思考が必要となる。これで戦闘するのは難しすぎる。いかにBT機のテストパイロットとはいえ、バカ正直すぎだ」

だが、ビット制御の負担から開放されれば、セシリアは本来のスナイパーとしての才能をフルに発揮できる。

その結果が、今、アリーナに現れていた。

 

 

「チィッ!」と、諒兵は思わず舌打ちした。

自分と同じ方法で機動を安定させたということは動きがよみやすいということになるが、ブルー・ティアーズは自分の『獅子吼』と違い、レーザーを射出できる。

本体をかわしても、レーザー攻撃が襲ってくることになるのだ。

しかも。

「うぉっとッ!」

ライフルのレーザーを間一髪でかわす。

わき腹を掠めてきたということは、セシリアは自分の動きも計算できているということだ。

「よくかわしました。ですが甘いですわ。スイッチ」

先ほどの自分の言葉を返してくるあたり、結構根に持つタイプらしいと苦笑いしてしまう。

しかし、その言葉の真意にすぐに気づかされる羽目になる。

「何パターンか組みやがったかッ!」

セシリアの「スイッチ」という命令と共に、ビットの一つが軌道を変えたのだ。

諒兵と違い、セシリアの頭の中にはビットのさまざまな軌道が記憶されている。

簡単な命令でその動きを切り替えられるように彼女はイメージを組み上げていた。

(感謝しなければなりませんわね。こういう使い方は思いつきませんでしたわ)

今までは必死にビットを制御していた彼女。

しかし、自動制御に切り替えれば、自分も自在に動くことができる。

さらに、それだけ余裕を持って射撃に専念できる。

代表候補生の座を射止めたのは、ビット制御の技術だけではないはずだとセシリアは信じている。

IS操縦者としての彼女の本領は、針の穴を通すような精密射撃なのだ。

セシリアは今、確かにブルー・ティアーズとともに奏でるワルツで空を舞い踊っていた。

 

逆に本領を発揮し始めたセシリアの攻撃に、諒兵は苦戦していた。

互いのビットはともかく、遠距離攻撃を持たない諒兵にとってはこの距離は戦いにくいのだ。

何とかして距離を詰める必要があると考えた諒兵は、ブルー・ティアーズと獅子吼に視線を向ける。

「ぶつけるしかねえか」

数の上では自分のほうに分がある。

だが、ぶつけて破壊するにしろ、一瞬の隙を作るにしても、セシリアまでの距離を一気に詰めることができなくてはライフルの餌食だ。

「瞬時加速だったか。やってみるしかねえな」

真耶に教えてもらったIS操作術の一つ。爆発的に加速する技で一気に詰める。

そう考えた諒兵は、獅子吼の軌道を操作してブルー・ティアーズに激突させる。

「突っ込むぜ」

 

ええ、行きましょう

 

「なっ?」とセシリアが驚愕の声を上げた瞬間、背中の翼を大きく広げ、まるで羽ばたかせるように一気に閉じた。

 

 

本来の瞬時加速、イグニッション・ブーストは移動のための後部スラスターの翼からエネルギーを放出、内部に取り込んで圧縮して放出。

慣性エネルギーを利用して爆発的に加速する技術である。

エネルギーが多いほどスピードは上がり、外部エネルギーを取り組む技術も存在する。

しかし、レオは違った。

翼を閉じる瞬間に輝きを放ち、諒兵の身体はまるで弾かれたように一気に加速したのだ。

「瞬時加速、ですよね……?」

「おそらくは、だな。レオにとっての瞬時加速なんだろう」と、千冬と真耶は話し合う。

そしておそらく一夏も同じことができるだろうことが千冬には理解できた。

だが、そんなことを話しながらも、千冬の視線は諒兵の頭上に注がれていた。

(まただ。諒兵の頭上に違和感があった)

ありえない、そう思いつつ、そのありえないことが答えなような気がしてならない。

自分の中の不安が広がっていくのを千冬は抑えることができなかった。

 

 

ブルー・ティアーズの攻撃が届くより、諒兵が迫ってくるほうが早いと考えたセシリアは、自らも瞬時加速を使って一気に距離を取る。

近づかせれば爪の餌食だからだ。

だが、瞬時加速はどうしても直線的な動きになる。

より高い技術を持つものであれば、複雑な動きも可能だろうが、諒兵にはそこまでの技術はないことは戦い続けるうちに理解できていた。

方向を変えてしまえば、止まった瞬間に的になる。

そう思って冷静に構えるセシリアだったが、諒兵は急停止したとたんに右手を大きく振りかぶり、叫んだ。

「穿ち抜けッ!」

 

任せてくださいッ!

 

そうして放たれた右手の三本のレーザークローは、一つにまとまり巨大なドリルのように螺旋回転を行いながら、一気にセシリアに迫ってくる。

撃ち落とす。

そう思った瞬間、悪寒がしたセシリアは、あのレーザークローに正面から立ち向かってはまずいと、再び瞬時加速を使って移動し、引き金を引いた。

「うがぁッ?」

わき腹に大きな衝撃を感じた諒兵は体勢を崩してしまう。

さらに青き雫からこぼれる光に全身を翻弄された。

次の瞬間。

 

「チェックメイトですわ」

 

こめかみにライフルを突きつけられていた。

「引き金を引かせないでくださいまし。敬意に値する方を地に伏せさせるのは本意ではありませんわ」

そういったセシリアの視線に、自分を見下すような意思は感じられない。

むしろ慈母のような優しさすら感じた。

「わりいな、レオ」と、そう呟いた諒兵は、両手を挙げる。

 

仕方ないですよ。彼女はよい操縦者でした。

 

そんな声を感じ取った諒兵は苦笑いを浮かべ、敗北を認める。

「俺の負けだ、オルコット」

その瞬間、セシリアの勝利が確定した

 

 

 

 

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