よくある、もしIS学園が男子校だったらというネタですね。ただ、全キャラTSではなく、うちのメインヒロインに異世界体験してもらいました。
……最近、出番が少ないので。
なお、ネタですので、続きを書く予定はありません。
ある朝、鈴音が目を覚ますと、いきなり目の前に金髪イケメンがいた。
「へっ?」
「Hey、何を驚いてるんだRin」
「あんた誰?」
「ティムだよ。ルームメイトの顔を忘れたかい?」
よくみると、自分のルームメイトであるティナの面影がある。
……ある?
「えぇえぇぇぇぇえぇえええぇっ?!」
叫びながら、着の身着のままで飛び出した鈴音を待ち受けていたのは……。
「一夏っ、諒兵っ!」
「おはよう、鈴」
「おっす。今日は早いじゃねえか」
見慣れた二人の顔に安心する鈴音は、すぐに部屋にいた男について尋ねた。
「……何言ってるんだ鈴?」
「えっ?」
「鈴と相部屋なのはムカつくけど、ティムはいい奴だぜ。まあ、一人部屋ができるまでの辛抱だし、何かあったら、俺がぶっ飛ばしてやるから心配すんな」
「あの……?」
混乱している鈴音だったが、そこに声がかけられた。
「一夏君、諒兵君、レディを混乱させるのは良くありませんね」
男の声だった。
鈴音が目を向けると、イギリス紳士然とした少年がそこにいた。
「セシルじゃないか。いや、鈴の様子がおかしくて」
「ティムの事を見たことねえとかいってんだよ」
「こんなところにレディ一人では、いろいろと困ることも多いものですよ。レディ鈴音、悩みがあるならお聞きしますよ」
「……どちら様?」
「む、これは確かに重症ですね。私はセシル・オルコット。貴女とは代表戦で戦ったはずですが」
その言葉を聞くなり、鈴音は全速力で駆け出した。
そして、見覚えのある後姿を見つけるなり、声をかける。
「シャルっ!」
「あれ、おはよう、鈴」
「あの、ティナがっ、セシリアがっ、男になってるんだけどっ?!」
「えっ、誰のこと?」
「誰って……、あの、フルネーム聞いていい?」
「どうしたの鈴?僕はシャルル・デュノアだよ。ちゃんと男だって説明したじゃないか」
思わず猫みたいな顔になってしまった鈴音である。
「女装して君に近づいたことは謝ったでしょ」
「そ、そうだったっけ……」
確かに自称『シャルル』は細身の女顔なので、男の娘でも通用するような美少年である。
「シャルル、私の嫁に何をしている」
と、そこに声をかけてきたのは、小柄ではあるが、左目の眼帯をして抜き身のナイフのような鋭い雰囲気の美少年。
「……嫁?」
いや、女性に対して使うのはそこまでおかしくはないが、いきなり嫁呼ばわりはないだろうと鈴音は思う。
「ライン、それは鈴が困るって言ってるでしょ。ダメだよ。それに一夏や諒兵とまたケンカするの?」
「望むところだ。嫁は奪うものだと副隊長のクラウスが言っていた。それと名前を略すな。私はラインハルト・ボーデヴィッヒだぞ」
「君の部隊の副隊長の知識は偏ってる気がするんだ……」
と、自称『シャルル』はため息をついた。
また、『ラインハルト』と名乗った少年はどことなくラウラっぽい。
(どうしよう、どうなってるのコレ?)
鈴音は冷や汗だらだらであった。何かどころではなく、全てがおかしい。
というか、気が休まらないレベルで美形揃いの男たちの中に、自分は間違いなく女として一人きりである。
なんかもう、18禁な展開が脳裏に浮かんでしまう。
自称『シャルル』と自称『ラインハルト』が話しているのを見つつ、ゆっくりと、しかし確実に離れ、鈴音は再び駆け出した。
「とっ、とにかくここから出ないとっ!」
そう呟きながら必死に走る。周り中みんな男だらけなんて何の拷問だと考えるが、一夏と諒兵も同じ気持ちだったのかなあと思うと、申し訳ない気持ちになった。
「きゃっ!」「ぐっ?!」
そんなことを考えていたためか、誰かとぶつかってしまう。
「ごっ、ごめんなさいっ!」
「……凰か。一夏もよくこんな落ち着きのない女や日野のような不良と仲良くしていられるな」
「……どちら様で?」
「物覚えも悪いのか。篠ノ之法規と名乗っただろう」
名前の響きは一緒だった。
ポニーテールも一緒だった。
でも、嫉妬するほど大きくて柔らかいはずだった胸は、異様なほど引き締まっていて硬かった。
というか、間違いなく男だった。
「それといい加減に離れろ。虫唾が走る。俺が女嫌いなのは、最初に会ったときに散々説明したはずだ」
「あっ、ごめんなさいっ!」
「ふんっ!」と、鼻を鳴らして自称『法規』は歩き去っていった。
この世界でもあまり仲良くはなれていないらしい。
それはともかく、これ以上、似て非なる同級生に会いまくるのは精神衛生上マズいと鈴音は思う。
とにかくいったんここから離れよう、そう思った鈴音は玄関まで突っ走る。
しかし。
「廊下を走るなッ!」
「ひゃいっ!」と、いきなり厳しい叱責をかけられ、鈴音はピタッと立ち止まった。
「元気なのはいいが、規則は守れ、凰」
「…………もしかして、織斑先生ですか?」
「もしかしなくても織斑冬樹だが?」
目の前にいたのは、鬼教官という言葉がぴったりはまり過ぎて、まず外れそうにない鋭い目つきが怖すぎる背の高い男性だった。
「冬樹?」
「いきなり名前を呼び捨てにするな。一夏に嫉妬されても困る」
「一夏のお兄さん?」
「今さら確認することでもないだろう」
「……ここはどこですか、マジで」
「全寮制の男子校、AS学園の男子寮だが?」
「私は誰ですか?」
「世界で唯一ASを動かした女性の凰鈴音だろう」
大丈夫かと、本当に心配そうに見つめてくる自称『織斑冬樹』の顔を見ながら、鈴音は叫んだ。
「なによこれえええぇぇえぇえぇぇぇっ?!」
ガバッと鈴音は再び起き上がる。
「ちょっと、どうしたの鈴?」
「ティナっ?!」
目の前には、いつもの、ちょっと嫉妬してしまいそうな胸を持つ、でも大切なルームメイトのティナがいる。
「いったいどうしたのよ、怖い夢でも見たっての?」
「あ、そっか。夢か……あはは」
とりあえず安心した鈴音だが、翌日からしばらく、AS学園の夢を見続けることになる。
んで。
「困ってることがあったら何でも言ってね。力になるから」
「どうしたんだ、鈴?」
「そんなに気にしねえでも、うまくやれてるけどな」
現実(?)の一夏と諒兵にやたら気遣う鈴音の姿が見られるようになるのだった。