シャルロットが光に包まれ、球体になるのを見て、セドリックは思わず自動車を止めた。
「あれが、進化か……。シャルロット……」
そう呟いたセドリックの自動車の隣に、もう一台の自動車が止まる。
中から降りてきたのは……。
「無様に落とされるところを見たかったのに。嬉しいでしょう?愛娘が奇跡に至って」
睨みつけるような視線でセドリックを見るカサンドラだった。
弁解するべきだろうか。
いや、そんな気持ちこそが彼女を傷つけてきたのだとセドリックは理解していた。
ゆえに、正直な気持ちを伝える。
「ああ。私の、自慢の娘だ」
「そう……」
「そして、君こそが私の妻だ。カサンドラ」
「えっ……」
ぽかんとするカサンドラを真正面から見つめてセドリックは語る。
「浮気したなどとはいわない。私もあの当時は苦しんでいた。だが、それ以上に君が苦しんでいたことに気づかなかったこと。それこそが私の罪だと理解したよ」
「セドリック……」
「私は罪人だ。それでも、まだ私の妻でいてくれるというのなら、償わせてほしい」
そういって深く頭を下げる。
許される身ではない。
それでも、償う努力をしていくことが、今、彼女に対して唯一できることだ。
それすらもしないのでは、人として間違っているいわれても仕方がないのだとセドリックは考えていた。
「あの女のことは忘れたというの?」
「クリスはもう天に召されてしまった。生きている人間ができるのは、生きている人間に対することだけだろう。君はまだ、私の傍で生きていてくれているんだ」
クリスティーヌのことを忘れるはずがない。
それでも、今、自分の家族といえるのはカサンドラとシャルロットなのだ。
ゆえに、自分の人生は二人のためにある。
それが夫であり、父でもある自分にできることだ。
身勝手だとわかっていても、そう考えてしまう。
「勝手だわ……」
「わかっているよ」
そういって見つめると、カサンドラは目を背ける。
「……家に戻るわ。あなたには仕事があるんでしょう?」
「ああ」
「勝手に帰ってくればいいわ。たまには娘も連れて」
そういって、カサンドラは再び自動車に乗り込むと、そのまま走り去っていった。
「ありがとう、カサンドラ」
そういって、セドリックは再び頭を下げるのだった。
光の玉が弾け、中からシャルロットが現れる。
ヘッドセットには二本の角。
カモシカ、正確には羚羊の意匠を施した胸部と腹部装甲。
そして両手足を覆う装甲を身に纏い、背中には大きな翼。
ただし、右の翼には巨大な砲身がついており、左の翼にはグリップと引き金のみ普通だが、大きな拳銃がついていた。
そして腰の周りに衛星のように浮遊する直径十センチほどの四つの光の玉があった。
鎧に覆われた自分の両手を見ながら、シャルロットは呆然と呟く。
「これが、共生進化……」
『ええ。あなたが私と共に飛ぼうといってくれたから出来たのよ、シャルロット』
進化できたのは嬉しいが、このままというわけにはいかない。
まずは自分の状態を知るために、と、シャルロットはブリーズに尋ねかけた。
「えっと、武器は?」
『サテリット。腰の周囲の四つの衛星よ。あなたの意志で銃弾にも砲弾にもミサイルにも、そしてパイルにもなるわ。四つを一つにするとシールドにもなるのよ』
銃弾として使う場合は、一つの玉から数十発は同時に発射できるという。
砲弾やミサイルとして使う場合は、一つにつき四発。
パイルは一つにつき一発だとブリーズは説明してきた。
これまで自分が扱っていた武器が四つの球に集約されているということかとシャルロットは理解した。
ここまでシンプルにまとまった武器はないが、逆にイメージを間違えるととんでもないことになると理解する。
そこまで考えて、自分がなぜ両手を見ることができるのかと気づく。
「あれ?」
『どうしたの?』
「ブリューナクは?」
進化の拍子に落としてしまったというのなら、急いで拾いに行かなければならないと思うが、ブリーズはとんでもない答えを返してきた。
『ちょうどいいから進化に巻き込んだわ』
「は?」
『背中の翼よ。ブリューナクを取り込んだの』
そういわれて背中の翼を広げると、巨大な砲身と、引き金とグリップ以外はほぼ砲身と同じサイズの拳銃が左右それぞれの翼にくっついているのが見える。
『さすがにテンロウの主が作っただけあるわね。コンパクトにしてみたけど、これが精一杯よ』
発射するときは合体して撃つようになってるらしい。
それはすごいギミックだ。
と、思うよりも。
「なんてことするのーっ、あれ借り物だよぉーっ!」
そう叫び、シャルロットはブリーズが勝手にやってしまったことに頭を抱えてしまう。
『いいじゃない。ちょうど持ってたんだし』
「横領になっちゃうよぉーっ!」
わりといい加減というか、豪快なブリーズにかつての母の面影を見るシャルロットだった。
悪い意味でも似ているようだ。
「あー、気にすんない。おめぇの会社で作ったもんだしな」
と、丈太郎が笑い飛ばすが、さすがに気にならないわけがないと、必死に謝るシャルロット。
「ごめんなさいぃーっ!」
「謝るなら、そろそろ戦ってくれシャル。蛮兄の天狼がこっちに戻ってきてるぞ」
数馬が苦笑いしながら促してくるので、とりあえず量産機を撃退しようと、シャルロットは翼を広げる。
「ブリーズっ、後で一緒に謝ろうねっ!」
『別に気にしないでいいと思うわよ?』
「謝るのぉーっ!」
どうも使徒やASは、どこか人とはズレているような気がしないでもないシャルロットだった。
そんなシャルロットとブリーズの漫才を、上空で鈴音と猫鈴、そしてオニキスが眺めていた。
『アホ猫といい、馬鹿モシカといい、おめーらの進化は緊張感がねーな』
「いわないで、お願いだから……」
『リン、そこは怒るところニャ』
敵の言葉ながら涙してしまう鈴音に、猫鈴がマジメに突っ込みを入れる。
だが、言っていることはまともでも言葉遣いがアホっぽい猫鈴。
そして、まともな言葉遣いでも借り物を平然と取り込むようないい加減なブリーズでは泣きたくなると鈴音は愚痴をこぼす。
「数馬の声が聞こえてきたのも、ISの進化なんでしょ?」
『アゼルのことかニャ?』
『あいつは力より知恵にこだわる変わりもんだぜ』
「でも喋り方や言ってることはおかしくないじゃない」
また、一夏の白虎は素直で口調も言っていることも子どもっぽくはあるが、極端なほどではない。
諒兵のレオは温厚ながら少々嫉妬深いようだが、口調はまともで戦闘時のアドバイスなどは実に的確だ。
内気なエルはパートナーの弾のことを『にぃに』と呼ぶが、むしろ可愛らしいと鈴音は思う。
それに比べて……。
『まー、気にすんなよ。類友ってゆーだろ?』
「セシリアやラウラも同じ道を辿るのかしら……」
『敵と友情芽生えさせてどうするニャ……』
かつてディアマンテに鈴音が『ディア』と愛称をつけてしまっただけに、猫鈴の言葉にはやけに実感が篭もっていた。
一方、日本。IS学園モニター室。
すなわち指令室では。
「……すみません、博士」
「だから、気にすんな。ただ、ブリューナクの解析ぁブリーズに協力させろ。たぶん理解してらぁ」
「はい」と、千冬は深々と頭を下げる。
とはいえ、シャルロットが進化に至ったことは喜ばしい。
その場の勢いで強力な兵器まで取り込んでしまったのはご愛嬌というところだろう。
「形態のモチーフはカモシカですね」
「う~ん、羚羊っぽいけどね。ま、要するに牛とか山羊の仲間だね」
と、真耶と束が話し合っている。
最近、束はAS絡みのことであれば、誰とでも気軽に話すようになっていた。
「鹿ではないのですか?」と、ラウラが疑問を口にする。
日本語ではカモシカというだけに、誤解されやすい動物なのである。
「ああ。日本語だと勘違いしやすいが、カモシカはシカ科の動物ではないんだ。束のいうとおり、牛や山羊の仲間だ」
そういってラウラの疑問に千冬が答えた。
シカ科の獣とウシ科の獣の大きな違いは角である。
基本的に一本のままであるウシ科の獣に対し、シカ科は角が枝分かれする。
当然、カモシカがモチーフのブリーズのヘッドセットの角は一本のままだ。
「アンテロープはわかる?」と、束がラウラに問いかける。
「あ、はい」
「本来はそれが日本語の羚羊。「カモシカの足」っていうと、足が速い人を指したりするんだけどね」
獣としてのカモシカは現在ではヤギ亜科なので、本来の羚羊であるアンテロープとは異なる。
アンテロープの仲間はトムソンガゼルやインパラといった獣だ。
広い草原などで走る動物としては、実はチーターに次ぐというかなりのスピードを持つ。
「要は、逃げ足が速い獣だよ」と、束がいうとその場が静まり返る。
「えっ、どしたの?」と、束が首を傾げると、ラウラ、真耶、千冬が微妙な顔を見せる。
「いや、その……」
「言い得て妙というか……」
「まあ、戦闘力がないわけではないからいいだろう……」
なんとなくシャルロットのイメージに合っていると思ってしまったことは内緒にしておこうと誓った三人だった。
とりあえず今は量産機の撃退だと意識を切り替えたシャルロットは、四つのサテリットのうちの二つに手を触れ、無数の銃弾をイメージする。
すると光の玉が弾け、無数の閃光が量産機に襲いかかった。
「すごい。マシンガンの比じゃない」
『あの程度と一緒にされちゃ困るわよ』
とはいえ、狙いもシャルロットの意思次第なので、すべて命中というわけにはいかなかった。
『エネルギーは無限ではないわ。特に進化直後だからそんなに長くは戦えないわよ』
「わかった」
つまり無駄弾は撃てないということだ。
ならば、威力の高い武器のほうがいいと、シャルロットは砲弾をイメージして撃ち放つ。
一機、かなりのダメージを与えることができたことに、これまでとは違う確かな感触を得た。
「まだ二十機近くいるのか。倒しきれるかな」
『ブリューナクを使えばかなりいけるだろうけど、今の状態ならおそらく一発よ。あれのエネルギー消費量は凄まじいわ』
「そっか。決めきれないとこっちが飛べなくなるんだね」
『そういうこと』
それでも、これまでのように機体やブリューナクに振り回されているような感覚はない。
本当に自分が空を飛んでいるように思えるのだ。
「これが、一夏や諒兵、それに鈴が見てた空なんだ……」
『素敵でしょう?』
「うん」
まさに鳥になったような気分だとシャルロットは思う。
例えこの場が戦場でも、格別といっていい気持ちだ。
それだけに、かつて一夏が「空を飛ぶのに殺気を持つな」といった気持ちも理解できる。
「終わらせなきゃ」
『そうね』
そういったブリーズが微笑んでいるようにシャルロットは感じていた。
遠くロシアの空にて。
一夏はネットワークを通じて、シャルロットの進化を感じ取った。
「わかるんだな」
『つながってるからねっ!』
白虎と共生進化した一夏は、コア・ネットワークは当然のこととして、エンジェル・ハイロゥ本体のつながりもあり、互いに進化を感じ取れる。
それは剣を合わせるザクロも同じであったようだ。
『新たなる進化を感じて候』
「ああ。俺たちの仲間だ」
『貴殿の覇気が上がって御座るな』
確かに、一夏の戦意は上がっている。シャルロットが進化したことで、負けられない相手が増えたと感じたからだ。
「味方と競うことは間違いじゃない」
『然り。敵も味方も、己を高める相手でなければ無意味』
こういう点では、ザクロは確かにもとは千冬のISであり、理解できる相手だと感じる。
ならば、一夏にとってザクロという敵は、互いを高め合うという意味で、決して欠かせない存在だということだ。
「行くぞ」
『うんっ!』
『来るがよい。拙者と同じくさぶらいし者よ』
そういって構えるザクロに向かい、一夏を白虎徹を突き入れるように突進したのだった。
中国にて。
相手の拳を避け、獅子吼を操り捕まえようとする。
しかし、一度喰らっただけに警戒されているのか、ファング・クエイクは大きく避けた。
機体の大きさがやはりネックになっているようだと諒兵は考える。
人が乗ることを前提に設計されているだけに、人が乗らない状態では自分自身が振り回されてしまうのだろう。
いつまでも時間をかけるべきではないと思いつつも、進化したファング・クエイクはどう戦うのかという興味を、諒兵は抑えられなかった。
『できるだけ早く倒しておくべきですよ』
「わかってんだけどな」
そんな諒兵の思いを汲み取ったのか、レオが忠告してくる。
確かに進化されれば、かなり強力な存在になるだろうと感じられるのだから、倒せるときに倒しておくべきだ。
ただ、ファング・クエイクの進化を誰よりも望んでいるのは、ファング・クエイク自身だ。
そして。
『お前では無理か』
「なんだよ?」
『お前は戦場では冷静になる。狩人の本質ゆえに仕方がないことではあるが』
互いに高めあうというより、相手を観察し、本領を発揮させないようにするのが『今の』諒兵の戦い方だ。
当然、感情は抑えられ、戦術を思考することに没頭する。
ストレートにいえば機械になっていくのだ。
『倒したい相手が、進化させる相手とは限らんということだ。ならばこれ以上の戦闘は意味がない』
そういって、ファング・クエイクはリボルバーイグニッションブースト、すなわち連続瞬時加速を使って一気に離脱していく。
「おいッ、待ちやがれッ!」と、諒兵が叫ぶものの、ファング・クエイクは一気に上昇し、そして消えた。
『……のんびりしすぎてるからですよ』
「あー、悪かったよ、レオ……」
明らかに不満があるとわかるレオの声。
失態を素直に認め、頭を掻く諒兵だった。
そして再びフランス。
『クルトの糸車』から吐き出される糸をかわしつつ、鈴音はオニキスに斬りかかる。
しかしさすがに見事に避けられ、逆にワイヤーブレードが襲いかかってくる。
プラズマエネルギーの糸は鈴音の娥眉月なら切れるとはいえ、まともに食らえばかなりのダメージを負うだろう。
間違いなく、糸車の糸と同じように電撃を放ってくるとわかるからだ。
『クソがッ、さすがに『ラケシスの糸』は避けるかッ!』
「喰らうわけないでしょッ!」
なかなかセンスのいい名前をつけるなと鈴音は感心するが、同時に理解できることがあった。
口に出さないように猫鈴に問いかける。
(確か三姉妹よね、あいつの言ってんの)
『そうニャ。クロートー、ラケシス、そしてアトロポスだニャ』
(どんなんだっけ?)
『紡ぎ手、描き手、切り手ニャ』
ギリシャ神話の女神の中で、運命を司る三姉妹の女神がいる。
その名をモイライ。
それぞれ運命の糸を紡ぐクロートー。
その糸に運命を描き、割り当てるラケシス。
そして運命の長さ、つまり寿命を決め、その糸を切るアトロポス。
それぞれに役割がある。
つまり。
『たぶんオニキスはハサミを持ってるはずニャ』
(それが決めの武装ね、きっと)
糸にも攻撃力があるとはいえ、そこに名づけた意味を考えれば、必ず別の武装がある。
それは相手の運命を断ち切る、つまり一撃必殺であろう斬る武装のはずだと鈴音は判断する。
それをまだ見せないことを考えると、底を見せていないということになる。
(無理には倒せないか)
『シャルが量産機を倒せば、きっと帰るはずニャ。あいつもエネルギーはそう多くニャいはずニャ』
ならば持久戦しかない。
無理に倒そうとしてこちらが倒されてしまうと、一気に戦力が減ってしまう。
死なないこと。
それが今、千冬が自分たちに求めている戦略なのだと鈴音は理解していた。
だからこそ、誰でもいいから援軍が欲しいと思う。
例え進化したとしても、数押しされればエネルギーの少ないシャルロットは落ちる可能性があるからだ。
かといってオニキスの相手をしている現状では、鈴音は量産機の相手までしていられない。
ゆえに、早く一夏か諒兵に来てほしいと鈴音は考えていた。
そして。
二十機近い覚醒ISをマトモに相手していては、こちらのエネルギーが持たない。
そう考えたシャルロットはふと上を見て、鈴音がオニキスを抑えているのを確認する。
ちゃんと戦っているようだ。ただし、やはり苦戦しているが。
「さっき雑談してた気がするけど」
『気にすることはないわ。あの子、ある意味ではISと仲が良くなりやすいみたいだし』
「……『悪辣』とまで仲良くなってどうするのさ」
ディアマンテはシャルロットも好感を持っているので、仲良くなっても仕方ないと思うが、オニキスの個性は普通に考えると敵対するべきだろうとシャルロットは愚痴をこぼしてしまう。
とはいえ、進化直後でブリーズに慣れていないシャルロットではオニキスの相手は難しい。
直感でも戦える鈴音とは違うからだ。
ならば、シャルロットがするべきは、量産機の完全な撃退、もしくは破壊。
「悪く思わないでよ」と、思わず呟いてしまう。
だが、意外な言葉が返ってきた。
『気にすることはないわ』
「えっ?」
『お互いの立場の違いで戦ってるのだから、恨むのは筋違いよ』
ブリーズは意外なほど戦闘を割り切っていた。
個性基盤が『慈愛』とは思えないとシャルロットは驚いてしまう。
『敵味方ではなく、庇護する対象を慈しむ愛情が『慈愛』なのよ。あなたの考えじゃ『博愛』よ』
似ているようで違うのだ。
ブリーズはシャルロットは娘のように想っているが、同胞は別にそこまで想っていない。
何よりシャルロットの敵に回るのなら、ブリーズにとっては倒すべき対象となるのだ。
そんな気持ちが嬉しくてシャルロットは想いを口に出してしまう。
「ありがとう」
『どういたしまして』
そういってブリーズが笑ったように感じたシャルロットは、自分を守ってくれることに感謝し、一気にケリをつけようと、サテリットを弾けさせる。
銃弾は八方に飛び、量産機を密集させた。
そして。
「ブリューナク起動ッ!」
『了解したわ』
ブリーズはその翼を大きく広げ、ブリューナクを起動させる。
右の翼の砲身が、左の翼のグリップと合体し、シャルロットの前に巨大な大砲が現れた。
『対閃光防御』と、ブリーズが淡々と告げると、シャルロットの目の前にサングラスのような偏光シールドが現れる。
間近で撃つために目を守る必要があるのだろうが、そうせねばならないことにシャルロットは改めて驚いた。
丈太郎が作ったものより強化されているのだろう。
『プラズマエネルギー充填率、七十パーセント。発射可能レベルと確認』
その声を聞いたシャルロットは引き金を引いて叫んだ。
「発射ッ!」
ズギュウゥゥゥンッ、という轟音とともに、閃光の槍が量産機めがけて発射される。
だが。
「なっ?」
『そんなっ!』
シャルロットとブリーズはほぼ同時に叫んでしまった。
命中するよりも早く、量産機が一斉に消えてしまったのだ。
そして、上空から声が聞こえてくる。
『やはりテンロウの主が制作なされただけはあります。脅威を感じました』
「ディアマンテッ!」
『何をしに来たのよッ?』
驚愕するシャルロット。そして声を荒げるブリーズの近くに鈴音が近寄ってくる。
各個撃破されるわけにはいかないと感じたのだろう。
「オニキスも消えたわ。ディア、あんた何かしたのね?」
『……量子転送だニャ。あちしらと同じニャ』
猫鈴の解説に、ディアマンテは首肯した。
つまり正しいということだろう。
オニキスや量産機をまとめて、おそらくはエンジェル・ハイロゥに転送したのだ。
『貴方がたにできることは私にも可能です』
『私の質問には答えてくれないのかしら?』
ブリーズが敵意を剥き出しにして問いかける。
意外といえば意外だが、シャルロットにとっては恐ろしい敵になるので、当然の態度でもあった。
『呼ばれたので来たまでです』
「……オニキス、じゃないね。危機感を持った量産機ってところかな」
『詳細をお伝えする必要性を感じませんので、明確な回答はいたしかねます』
シャルロットの言葉を肯定も否定もしないが、逆にその態度でおそらくは正解だろうとシャルロットも鈴音も思う。
『仲間』の呼び声を聞きつけ、駆けつけたということなのだろう。
「君自身は戦うつもりはないの?」
『それが貴方がたの意であるならば、私は粛々と従いましょう』
シャルロットの言葉にディアマンテはいつものように答える。
正直なところ、ブリーズはエネルギーが切れる寸前まで来ているので、シャルロットとしてはここでディアマンテと戦闘はしたくない。
そう思っていると鈴音が口を開いた。
「なら、ここは退いてちょうだい」
『良いでしょう。貴女の言葉に従いましょう、リン』
シャルロット、正確にはブリーズの状態を理解している鈴音がそういうと、ディアマンテはあっさりと飛び上がる。
ただ。
『新たなる同胞に一つ忠告しておきましょう』
『何かしら?』
『貴方の第4世代武装は強力すぎます。お気をつけください』
いわれなくてもわかっているとブリーズが答えると、ディアマンテは一つ肯き、空の彼方へと消えていったのだった。