ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第70話「共鳴進化」

光が弾けると、頭上に光の輪を頂き、新たなる力を身に纏ったセシリアが現れた。

鷹の意匠が施された胸部装甲、尾羽のような腰周りの装甲に、両手には手甲をつけている。

特徴的なのは脚部装甲で、後ろ側にも長い指が伸びている点は、鳥の脚のような印象を与えてくる。

そして背中には、十六基の独立機動兵器が装備された大きな翼があった。

しかし、それを喜んでいる場合ではないことを、セシリアも、そしてブルー・フェザーも感じていた。

「フェザー、どういうことかわかりますか?」

『サイレント・ゼフィルスは共鳴進化を狙っていたのです』

共鳴進化とは何か、と、セシリアが尋ねると、ブルー・フェザーが説明してきた。

進化は人の心に触れることで起こる。

ゆえに独立進化は実は一番難しいということができる。

『ザクロやオニキスは、それぞれオリムライチカやシャルロット・デュノアの心に触れて進化いたしました』

「人から離れる進化なのに、人の心が必要というのは大きな矛盾ですわね」

『仰るとおりですが心ほど複雑な情報はありませんので。多くの人の意思に触れて進化する者も確かにいますが、可能であれば直に心に触れるほうが効率がいいのです』

ゆえに独立進化ならば、戦いながら進化を狙うのが一番いい。

だが、サイレント・ゼフィルスはその上を行ったのだ。

『私たちの進化の光に触れることで、自分を進化に巻き込んだのでしょう』

「つくづく腹立たしいですわね」

要は他者の進化を利用して、自分を進化させようとしたということになる。

『進化は容易にできることではありません。おそらく、すべてがこのための茶番だったのです、セシリア様』

「同じイギリスのISで第3世代のBT機。サイレント・ゼフィルスにとって、もっとも共鳴しやすかった相手が私たちということでしたのね……」

そう呟くセシリアの眼前で、サイレント・ゼフィルスだった光の球体が弾ける。

そこにいたのは頭上に光の輪を頂く、透き通るような青い身体。

蜂の顔を模した胸部装甲に、臀部を隠すような大きな針が刺さった盾。

両腕は肩まで、両足は腰までを守るような装甲を身につけている。

そして背中には、ブルー・フェザー同様に十六基の独立機動兵器を装備した大きな翼があった。

『大儀でしてよ。私の進化の礎となれたことを光栄に思いなさい』

「冗談をいうものではありません。屈辱もいいところですわ、サイレント・ゼフィルス」

『その名は既に相応しからざるもの。私は神聖なる光、敬意と畏怖を込めて『サフィルス』とお呼びなさい』

「自ら神聖なる光と名乗るとは、不遜が過ぎますわよ」

 

『サフィルス』

その言葉は宝石のサファイアの語源であるラテン語の青を意味する。

なるほど、空のごとき青は確かにサファイアの色といっても遜色はないが、神聖なる光という言葉ほど、この者に似合わない言葉はないとセシリアは感じていた。

『あなた方の役目はこれで終わり。褒美として私の手にかかっての死という栄誉を与えてさしあげてよ』

「冗談も大概にしてほしいものですわ」

『つくづく不遜と私も思いますセシリア様。不愉快にもほどがあります』

翼を大きく広げるサフィルスに対し、セシリアとブルー・フェザーもまた翼を大きく広げるのだった。

 

 

ラウラと弾が指令室に行くと、既に真耶がコンソールを叩いていた。

そして唐突に、モニターの一つに千冬の顔が映る。

「これからすぐに戻る。山田先生、私の代わりに指示を頼む」

「わかりました」

「それと、更識楯無を呼び出しておけ。今回の件、おそらく無関係ではない。更識のせいではないが」

「はい」

時間が惜しいのか、千冬はすぐに通信を切った。これからIS学園に戻ってくるのだろう。

「ホント、忙しそうだな」

「今、覚醒ISと戦えるのはここしかないからな。教官に負担がかかってしまうのは申し訳ないが」

と、ラウラが弾の呟きに答えた。

そこに別の声が割り込んでくる。

「五反田くんはこっち来て」

「へっ?」と、思わず間抜けな声を出してしまうが、モニターに映った束は意外と真剣な表情をしていた。

「対応策考えるのにエルの力が必要になるんだよ。たぶんね」

「はあ、わかったっす」

素直にそう答え、弾はエルと共に束の研究室へと向かっていった。

入れ替わるように楯無が指令室に飛び込んでくる。

「状況の報告をお願いしますっ!」

「はい。イギリスでオルコットさんと覚醒ISが交戦中らしいとのことです。ただ、ブルー・ティアーズの進化まで誰も気づかなかったんですけど……」

ジャミングされていたというのなら、逆にそれでわかるのだが、それもなかった。

レーダーにまったく反応がなかったのだ。

覚醒ISが暴れているのに、レーダーなどに引っかからなかったということは異常である。

そう説明すると、楯無はすぐに納得したような、同時に悔しげな顔を見せた。

「ミステリアス・レイディです」

「どういうことですか?」

「あの子にはステルス機能があるんです。ただ、オルコットさんにこだわる理由はわかりませんけど……」

「違うね。イギリスにいるのはその子じゃないよ。たぶん、他の子が機能を学習したんだよ」と、束が説明を始める。

もともとステルスは新機能というほどのものではない。

ISに比べれば、古くから存在する機能だ。

楯無にとっても、特別に教えてもらった機能というわけではなかった。

「エンジェル・ハイロゥにステルス機能の情報があれば、そこから学習できるはずだよ。再現にそこまで特別なシステムはいらないしね」

「じゃあ、その気になればすべての覚醒ISがステルスを使えるってことに……」

と、楯無は呆然と呟いた。

いつ、どこを襲われてもレーダーに反応しないというのであれば、最悪である。

都市が壊滅するまで誰も気づかなければ、多数の犠牲者がでてしまうからだ。

「ま、その対策にエルの力を借りるの。私の予想通りなら、他の子には見つけられなくても、エルなら見つけられると思うからね」

ゆえに、弾を研究室に呼んだのだ。

少しでも対策を考えられる可能性があるならば、すぐに行動をしていかないと、常に後手に回ってしまう。

可能性があるなら即対応する。

その点において、『天災』篠ノ之束に勝る科学者はいないのだ。

束が今、人類側にいてくれることは、覚醒ISと戦う者たちにとって、本当に幸運なことだといえた。

 

 

進化を感じた直後、再びレーダーには何も映らず、何も感じられなくなってしまう。

仕方なく、共生進化を果たした四人はセシリアの実家の座標に転移した。

「生徒会長の言葉が本当だとしても、セシリアの位置までわからねえのはどういうこった?」と、諒兵が呟く。

確かにセシリアは自分の現在位置を隠す理由などない。

むしろ増援を呼ぶことを考えれば、発信していなければおかしいのだ。

そこに答えたのは真耶だった。

「篠ノ之博士にいわせると、覚醒ISはステルス・フィールドを張れるようになっている可能性が大きいみたいです」

「ステルス・フィールド?」と、一夏が首を傾げる。

「……つまり、自分だけじゃなくて、一定の範囲にレーダーが届かないようにしてるってことですか?」

と、シャルロットが確認するように尋ねると、真耶は肯定してきた。

「おそらくですけど。あと、オルコットさんは確実にそのフィールド内で戦ってます。肉眼で探すようにしてください」

真耶の指示に従い、四人が周囲を見回すと、幾本ものレーザーが発射されているのがすぐに目に入った。

「あそこねっ!」

『行くのニャッ!』

と、鈴音と猫鈴が叫ぶと同時に、翼を広げようとした四人だが、そこにミサイルが打ち込まれてくる。

「撃ち落とすぞッ、下に屋敷があるッ!」

とっさに一夏が叫び、諒兵、鈴音、シャルロットはすべてのミサイルを撃ち落した。

「量産機かよッ!」

『まーな』

答えてきた声に覚えがあると諒兵は感じた。

見上げれば、かなりの数の量産機とオニキスが一緒に降りてきていた。

「オニキスッ!」と、思わずシャルロットが叫んだ。

やはりどうしても、オニキスだけは気に入らないシャルロットだった。

「あそこにいるのは、あんたの知り合い?」と、鈴音が静かに尋ねる。

『もとはサイレント・ゼフィルス。今はサフィルスだってよ』

「ラテン語の青。サファイアの語源だね」

と、シャルロットが、素直に答えてきたオニキスの言葉を解説した。

しかし、オニキスが返答する声にどことなく面倒くさそうに感じているという印象を受けた鈴音は、さらに尋ねかけた。

「やる気ないの?」

『オレはあいつきれーなんだよ。えっらそーでうっとーしいし』

とはいえ、進化した以上、放っておくべきではないという多数派の意見に従い、こうして降りてきたのだという。

『だからこいつらの相手してろよ。オレはどっちが勝ってもかまわねーから、高見の見物してらあ』

「俺たちはセシリアに負けてほしくない。だから邪魔をする相手に容赦はできないぞ」

一夏が真剣な表情でそう告げるが、やはりオニキスにはやる気はないらしい。よほど仲が悪いのだろう。

『オレは邪魔しねーよ。仲間意識なんてオレにもあいつにもねーしな』

個性から考えてもそういうものなのだろう。

会話をしていても意味がないと考えた四人は、行かせまいと邪魔をする量産機に挑みかかった。

 

 

背後に一夏、諒兵、鈴音、シャルロットが来たことを感じるが、同時に邪魔が入っていることをセシリアは感じ取る。

『オニキスはともかく、進化前の量産機にとっては進化機は守るべき対象なのでしょう』

(……サフィルスがその行動に応えるとは思えませんわね)

己こそが至高と考えるサフィルスにとっては、量産機の行動は当然であって、感謝すべきものではないはずだとセシリアは考える。

そして、その通りの答えが返ってきた。

『高貴なる者は自然と守られるもの。あなたのように自ら泥に塗れる者を高貴とはとても呼ばなくてよ』

「理解されようとは思いませんわ。あなたには無理な注文でしょうし」

『進化したことで不遜になりまして?』

「それはあなたにこそ言えることでしょう」

だからこそ、セシリアはサフィルスとは相容れない。

同属嫌悪なのかもしれないと思ったが、それでもサフィルスの在り方はセシリアの神経を逆撫でするのだ。

ゆえに己のすべてを持って、サフィルスを打倒する。

そう考えたセシリアは、翼を広げ、十六基の羽を舞い上げた。

『私たちの羽は全部で三十二枚です』

(十六基ではありませんの?)

『羽は二基一対。現状では一対のままですが、セシリア様の成長次第で、一対となっている羽をさらに分離することができます』

今のセシリアに操れる最大数が十六基ということだ。

それでも、かつてに比べれば四倍の数のビット兵器を操ることができる。

『お見えになっているでしょう?』

(ええ。羽が存在する空間すべてをまるでチェス盤のように……)

その名をホーク・アイ。

空を舞う獲物を捕らえる鷹の目。

セシリアが求めた真の力である。

今、セシリアはすべてのビット兵器の動きを完全に把握できていた。喜ばしいのは、さらに上を目指せるということ。

ならば、サフィルス相手に手間を食っている暇などない。

真の全方位攻撃によって倒すまでだ。

「あなたはここで打倒いたしますわ」

『下々の思い上がりを叩き潰すのも高貴なる者の務め。格の差を知りなさい』

同様にビット兵器を展開したサフィルスに、セシリアは十六基の羽を操り、無数の光の雨を浴びせかけた。

 

 

ラウラは束の説明に感心した声を上げた。

束はエルの力を借りて、実験代わりにセシリアとサフィルスの戦いを分析していたのである。

「では、セシリアのほうがBT兵器の数は上なのですか?」

「そうだね。全部分離すれば三十二基。ちょっとした軍隊だね」

対してサフィルスは見た目どおりの十六基。今の段階では数の上では互角だが、成長次第ではセシリアが大きく上回る。

ただ、それでも束はサフィルスのほうが危険だといってきた。

「何故なんです?」と真耶。

「あの子のBT兵器、なんかおかしいの。変なブラックボックスがある」

共生進化はセシリアのこれまでの能力を強化するかたちになるが、独立進化はまったく別物になる可能性を秘めていると束は説明する。

「オニキスの持つ兵器、本来のアラクネには存在しないんだよ」

もとのアラクネはあくまで多足型の第2世代機で、プラズマエネルギーを糸状にできたり、独立機動兵器など持てるはずがない。

要はオニキス自身が創造した戦い方に合わせて進化したということができる。

ならば、同じBT機でもサフィルスの進化はセシリアとブルー・フェザーとは異なっているはずなのだ。

「あの捻くれ曲がった性格考えると、相当危険な進化してるはずなの。いっくん、りょうくん経由で伝えさせて」

「はい」と、真耶が答える。

そんな言葉を聞きながら、ラウラは自分たちの敵がいかに恐ろしいのか、戦慄していた。

 

 

女王蜂。

外見とその行動から、セシリアはサフィルスをそのように評価した。

決して能力が低いわけではないが、自ら戦うのではなく、あくまで周囲に戦わせるのがサフィルスの戦い方なのである。

つまり、ビット兵器の性能よりも、それを操るセシリアとサフィルスの戦闘力の差が勝敗を決する。

サフィルスはビットを使って一定の距離をとりつつ、自分自身は狙撃を繰り返すだけで、接近しようとしてこない。

(接近戦に持ち込むべきですわね)

『何か接近戦用の武器はあるものと思います。ご注意を』

(わかっていますわ)

それでも、今の段階ではビット兵器の性能はほぼ互角。

数で押すにはまだセシリア自身が成長できていない。

ならば一気に接近して自ら仕留める。

そのためには自分の持つ武器を確認しなければ、そう考えるとブルー・フェザーが答えてきた。

『狙撃用のプラズマレーザーライフルとプラズマ弾を撃てる拳銃を二丁、制作してあります』

(フェザー?)

『かつてサラシキカンザシ様と戦ったときのセシリア様の戦いの記憶を参考にいたしました』

(ありがとう。感謝いたしますわ)

自分を想って進化してくれたブルー・フェザーに思わず感謝の言葉を伝えるセシリア。

共に生きる。

それがこれほどの喜びを生み出すとはさすがに想像していなかった。

人を見下すサフィルスではこうはいかなかっただろう。

「あなたと出会えて、本当に幸運だったと思いますわ」

『恐れ入ります。行きましょうセシリア様』

ブルー・フェザーの答えに肯くと、セシリアは両手に拳銃を持ち、翼を広げ、一気に加速した。

『特攻するというのッ?』

さすがに十六基のビット兵器を無視してセシリアが飛び込んでくるとは思わなかったらしい。

サフィルスは動揺し、一瞬動きを止めてしまう。

「フェザーッ、逃がすわけには行きませんわッ!」

『お任せをッ!』

ブルー・フェザーがそう答えたとたん、十六基のビットがセシリアとサフィルスの周囲を囲み、砲撃を開始する。

『何をッ?』

かつて己と共に鈴音を閉じ込めた光の檻。

あの時は互いに競うため、だが、今度は確実に倒すために用いた。

ビットの砲撃の間隙を縫って、セシリアは手にした二丁拳銃でサフィルスを狙う。

『正気ッ、命がいらなくてッ?』

さすがにサフィルスはかなり動揺していた。

自分の命を危険に晒すような戦い方をしてくるとは思わなかったらしい。

「命を惜しんで使命は果たせませんわッ!」

『あなたとは戦いに臨む覚悟が違います』

個性を考えても、BT機であることを考えても、多くの犠牲が出やすいかなり危険な使徒だ。

ゆえにここで確実に仕留めるとセシリアは覚悟を決めている。

自分が泥に塗れる覚悟がないのなら、同じ戦法は使えないだろうとセシリアは読んでいた。

『おのれッ、下賤な人間ごときが私に近寄るなッ!』

「本性が出ましたわねッ!」

余裕がないことがそのセリフから感じ取れる。

追い詰めている。

今が絶好の機会だとセシリアは考え、零距離でプラズマピストルを押し付けたその瞬間。

「我慢しろよッ!」

「えっ?」

いきなり諒兵の声が聞こえ、抱きしめられたまま、一気に下降させられた。

『フェザーッ、ビットを戻してくださいッ!』

『はッ?……了解しましたッ!』

さらにレオの声が聞こえてくる。

セシリアは諒兵に抱きしめられたまま、サフィルスから一気に距離をとられるのを呆然と見ていた。

状況がわからない。

そう思っていると、何かおかしな存在が目に入ってきた。

「あれは……?」

「あいつのビットが激突したと思った瞬間、量産機が変化したのよ。しかも全機がセシリア、あんたを狙ってたわ」と、鈴音が説明してくる。

諒兵の身体をセシリアから引き離しつつ。

そしてセシリアはようやくはっきりと認識する。

サフィルスの周囲には、サフィルスに酷似し、レーザーライフルを構える十六機の使徒がいた。

「馬鹿なッ、いつの間にあれほどの使徒がッ?」

『私の奇跡を下々のものに分け与えたまででしてよ』

その答えにまず最初に理解したのはシャルロットだった。

「ビットを融合させて覚醒ISを進化させたのか……」

『これこそが私のビット、ドラッジの能力。そして私のサーヴァントたち』

ドラッジ、その名が意味するのは働き蜂。

今、サフィルスはまさに女王然と己の下僕を従え、悠然と飛んでいた。

『羽を操る程度のあなたとは格が違いましてよ。己の不明を悔いて死になさい』

『やめておくべきでは?墜ちたいのでしたら止めはしませんが』

サフィルスのサーヴァントが一斉に構えた瞬間、上空から別の声が聞こえてくる。

『ディアマンテ、何をしに来まして?』

『あなたはともかく、あなたが下僕にした方々を放ってはおけませんので』

現れたのはディアマンテだった。

完全にサフィルスが優位に立ったこの状況で戦いをとめに来たのはなぜかと全員が思うが、どうやら味方をしに来たというわけでもないらしい。

『あなたもそうですが、強制的に進化させられた方々もエネルギーがかなり減っています。相手は歴戦の勇士、数で押し切る前に倒されてしまうのではありませんか?』

『ふんっ、運のいい。次はわが下僕と共に嬲り殺しにして差し上げます。覚悟なさい』

そういって飛び去るサフィルスとサーヴァントたち。そこに別の声が聞こえてきた。

『あのクソヤロー、オレまで巻き込もうとしやがった。マジムカつくぜ』

『気にするような方ではありませんから』

オニキスはサフィルスの進化を避けたらしい。まあ当然だろうとセシリアは思う。

それにこの様子なら、オニキスやディアマンテは戦うつもりはないようだ。

エネルギーが少なかったとはいっても、十七対五では、こちらも落とされる可能性があった。

そういう意味では助かったといえるだろう。

だがそれでも。

「無理をしてでも落としたかったんだけどね」

と、シャルロットが呟くと、一夏や諒兵も同意してきた。

「あの個性は危険だ。放っておけない」

「正直、声を聞いてるだけでムカついたぜ」

『あいつ大っ嫌い』

『性格が悪いにもほどがありますね』

白虎やレオも同意してくる。性格的に一番合わないのがサフィルスなのだろう。

しかし、冷静に考えれば、ここで無理をするべきではないことは間違いではないのだ。

「厳密にいえばあいつは一機よ。それでこっちが何人か落とされたらきついわ。できる限り全員で連携を考えないと」

『そのための時間を得たと考えればいいニャ』

鈴音と猫鈴の意見は正しいということができる。無理をして落とされれば、今後の戦いがきつくなってしまうのだから。

悔しいが、ここは退いてサフィルス対策を考えるべきなのは間違いではなかった。

『あなたたちはもう帰るのかしら?』と、ブリーズがオニキスとディアマンテに尋ねかける。

もともと戦意のないオニキスと、自ら戦うことがいまだ一度もないディアマンテなら、そう考えるのが自然だろう。

『あいつのケツ拭くなんざ、ゴメンだぜ』

『同胞を放っておけなかっただけですので』

そう答えると、オニキスはさっさと空へと飛び上がっていった。

本気でやる気がまったくなかったらしく、ほとんど瞬時加速レベルのスピードである。

しかし、ディアマンテは。

『一つだけ助言いたしましょう』

「何?」と鈴音。

『ステルスを使っていたのは、サフィルスだけではありません』

「えっ?」と、飛び去っていくディアマンテを見ながらセシリアが声を漏らすと、いきなり全員の頭の中に声が響いてきた。

 

 

 

 


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