ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第7話「青き雫と虎の牙」

セシリアの見事な逆転勝利に、会場が沸く。

そんな中、諒兵はセシリアに頭を下げた。

「どうなさいましたの?」

「いや、IS学園のことを『こんなところ』なんていって悪かった。すげえおもしれえとこだ。入ったからには俺もISバトルで強くなりてえと思ってよ」

「誠意を感じましたわ。私も男性を見下すようなことを言ったことを謝ります」

間違いなく、セシリアはこの戦いで自分が成長したことを実感している。

それだけの戦いをさせてくれた相手に敬意を表さないようなセシリアではない。

「今後も切磋琢磨する相手としてお互いに精進しましょう。日野諒兵さん」

「ああ」

「……それで、あの方は強いんですの?」

と、セシリアは一夏のほうへと視線を向ける。

そんな彼女を見て、諒兵は不敵に笑う。

「それは自分で確かめてみな。ただ、俺はあいつをライバルだと思ってる」

「それでは気を引き締めなくてはなりませんわね」

と、そういってセシリアもクスリと笑うのだった。

 

 

今から一時間のインターバルとなります。

用事などは今のうちに済ませておくようにしてください。

 

と、真耶は監視モニター室から生徒たちに指示を出した。

「結果を見ればオルコットの完勝というところか」

「途中、危機はありましたが、冷静さを取り戻してからは見事な戦いを見せてくれましたね」

千冬の言葉にそういって肯く真耶。

代表候補生の肩書きは伊達ではないということをセシリアは見事に証明してみせた。

だからといって、観客席に諒兵が弱いと思うような生徒はいないだろう。

「日野くんが本格的にISバトルを理解したときが、なんだか怖いですよ」

「元日本代表候補生の言葉ではないぞ、山田先生。追いつかせないくらいの気概を持ってほしいものだ」

「す、すみません」

謝る真耶に千冬は微笑みかける。

確かに、一夏と諒兵がISバトルを理解したときに、どれだけの強さを示すのか、千冬にも興味はあった。

「まだまだ未熟だ。だからこそこれからが楽しみでもあるな」

次はセシリアと一夏の対戦。

どんなものを見せてくれるのかと思うと、先ほどの不安など消し飛んでしまうように千冬は感じていた。

 

 

観客席に戻ってきた諒兵は、一夏の隣にどっかりと座り込んだ。

「負けたな、諒兵」

「ああ、負けちまった。強いぜあいつ」

と、顔を見合わせながら二人は笑いあう。そんな姿が箒はなんとなく気に入らなかった。

「パニックになったときは押し切れると思ったんだがよ。立ち直られてからは手が出なかったぜ」

「面白そうだ。でも、俺は負けたくないな」

へっ、と諒兵は笑いつつ、真剣な眼差しを見せる一夏にアドバイスをする。

「最初から全力で来るぜ、あいつ。気を引き締めるとかいってたからな」

「そうじゃなければ面白くないだろ。じゃ、いってくる」

そういって一夏は立ち上がり、準備に向かった。

なぜか箒も立ち上がって一夏の後をついていく。

「嫌われてんなあ」と、苦笑する諒兵に声がかけられた。

「へーくん、へーくん」

「あ?」

「隣いい?」と、そういって笑いかけてきているのは、布仏本音だった。

「待てよ、『へーくん』ってな俺のことか?」

「うん、諒兵の兵で『へーくん』だよ」

「におってきそうな呼び名はやめろ、のどぼとけ」

「え~」と、残念そうな顔を見せる本音に諒兵は続ける。

「だいたい一夏は何て呼んでんだよ」

「織斑だから『おりむー』だよ~」

「俺も苗字にしろよ。『へーくん』はナシだ」

いろんな意味で沽券に関わりそうな呼び名なので、内心諒兵は必死に修正したかったりする。

「じゃあ日野だから~、ひのあらし」

「任○堂にケンカ売る気かよ」

「日野の野から~、のーちらす」

「俺はイカじゃねえ」

「しょうがないから『ひーたん』で~」

「妥協点だな。いいぜ、隣座んな」

「ありがと~、ひーたん」

と、ずいぶんとマイペースな本音に諒兵は再び苦笑いを浮かべていた。

 

 

そして一時間後。

再びアリーナに浮かぶ青の機体の前に、今度は一夏が立つ。

だが、セシリアの瞳の変化に気づいた一夏は疑問を感じて問いかけた。

「前は俺たちのこと睨んでたけど、今は違うんだな」

「敬意に値する方を睨みはしませんわ」

正確には敬意に値する方がライバルと呼ぶ方ですが、とセシリアは続ける。

「本気で来てくれるって聞いた。嬉しいよ」

「私に勝つ自信がおありですの?」

「負ける気で剣を握ったことは一度もない」

そういって切っ先をセシリアに向け、一夏はレーザーブレードを構える。

その名を『白虎徹(しろこてつ)』

自分の機体、白虎の色と実在の名刀『虎徹』から名をとった一夏にとってのもう一つの相棒だ。

「ならば、あなたも躍らせてみせますわ。私とブルー・ティアーズが奏でる美しいワルツで」

不敵に笑うセシリアは、青き雫を開放し、一夏に襲いかかった。

 

 

「ねーねー」と、本音が声をかけてくるので、諒兵は視線をアリーナの一夏とセシリアから離すことなく「あ?」と、返事を返す。

すると本音が尋ねてきた。

「どっちが勝つと思う?」

「相性で考えりゃ、一夏が優勢だな」

「なんで?」

「あいつは近寄って斬る。それしかしねえんだよ。スナイパーのオルコットにとっちゃやりにくい相手だ」

一夏は剣を使う。

ケンカをしているときはたいてい竹刀だったが、ISでもその戦い方は基本的に同じだ。

敵に向かって突撃し、死角に回って一気に叩き斬るのである。

「一夏の突撃を止めるのは至難の業だぜ。オルコットがビットをうまく使えるかどうかが鍵を握ってる」

「じゃあ、おりむーの勝ち?」

「どうかな。戦ってみてわかったが、オルコットは強いぜ。接近を許した程度で終わるタイプじゃねえよ」

とりあえず見てようぜと諒兵がいうと、本音も素直にアリーナに目を向けた。

 

 

襲いかかるブルー・ティアーズの放つレーザーを一夏はほとんど受け止めていた。

自在に白虎徹を操り、レーザーを刃で受け止める姿は、武士か侍といったイメージがあるとセシリアは感じる。

もっとも諒兵とともにケンカ屋をしていた一夏は、浪人というのが一番近いのだが。

(動いてかわす日野さんとは、だいぶ違いますわね)という感想をセシリアは抱いた。

レーザーの間隙を突いて、一気に間合いを詰めてこようとするので、すぐに軌道を切り替えていかないと、ビットを振り切られてしまう。

自在にスタイルを切り替え、敵を翻弄する諒兵は己自身を変化させる糧とするため、観察するような目をしていた。

対して、近寄って斬るというたった一つのことを突き詰める一夏は一度捉えた獲物は逃がさないとでもいいたげな目を向けてきている。

(こちらの動きやビットに惑わされない。私にとって苦手なタイプですわ)

諒兵のおかげで戦闘中での冷静さを欠くことの恐ろしさを実感したセシリアは、一夏の目に恐怖を感じてはならないとわずかに息をついた。

 

対して一夏はなかなか間合いを詰められないことに、驚きを感じていた。

動き回るだけのビットなら無視すればいい。

だが、ビットから放たれる無数のレーザーは弾幕と化して一夏の足を止めようとしてきているのだ。

邪魔だ。

そう感じた一夏は呟いてしまう。

「受け止めてちゃダメだ。流すんだ」

 

うんっ、わかったっ!

 

ふとそんな声を感じ取った一夏は不敵に笑う。

白虎徹は一本にまとまっている分、諒兵の獅子吼よりも硬くできている。

そのためたいていの攻撃は受け止めてしまう。

だが、邪魔なものを排除するためには、ブルー・ティアーズのレーザーを利用する必要がある。

現時点では、一夏の白虎には遠距離攻撃用の武器などないからだ。

そんな一夏の考えを理解したのか、白虎徹はより日本刀にに近い曲線的な刃へと変貌する。

そして、カッと上空のビットより放たれたレーザーは一夏の白虎徹によって逸らされ、下に回りこんでいたもう一機の脇を掠めた。

その様を見て、より真剣な眼差しを向けてきたセシリアに一夏は再び不敵な笑顔を見せた。

 

 

監視モニター室にて。

一夏の武器、白虎徹のわずかな変化を千冬は理解した。

ゆえに、今の攻撃がどういうものかも理解できる。

「狙った?」

「レーザーを逸らし、別のBT兵器を狙ったんだろうさ」

「そ、それ、とんでもない技術じゃないですかっ!」

ブルー・ティアーズのレーザー攻撃を逸らして、別のビットを狙う。

反射するわけでもなく、光であるレーザーをそのまま曲げる。射線を完璧に計算しなければできない芸当である上、人が撃ったレーザーを任意の方向に曲げるなど、普通ならできることではない。ただし、現時点で理論上は曲がるレーザー、偏光制御射撃という技術理論は存在する。

一夏の白虎徹はそれができる武器だということになる。

「日野のときもいったが、あいつらのISなら何ができても驚かん。あと、織斑と日野は多対二のケンカばかりしてきたのは話したな」

「はい、とてもそうは思えないほどいい子たちですけど」

「そう思ってくれるのは嬉しいが事実だ。そのとき、織斑は相手が投げてくる石つぶてを利用したことがよくあった」

アレはその応用だろうと千冬は続ける。

さすがに投げナイフは危険なので叩き落すだけだったが、石つぶてに関しては打ち返して別の敵にぶつけるくらいはしてきていた。

「日野の攻撃は多彩に変化するから敵は翻弄される。だが織斑は竹刀で叩くだけだったからな。敵の攻撃を利用することに長けるようになったんだ」

さらに一撃で倒せるように、常に死角に回り込む。

そのようにして積み重ねてきた実戦が今の一夏の剣を形作っている。

箒が邪剣というのは、確かにあっていた。

敵を倒すための剣になっているのだ。

「完全に否定することはできん。競技としての剣道とはかけ離れてしまったが、ISバトルにおいては有効な剣といえるからな」

強い剣とは何か。

その問いに正しい答えなどない。

ただ、一夏の剣はその答えの一つにはなりうるだろうと千冬は語った。

 

 

自分のビットのレーザーがわずかながら曲げられてしまったことを見て、セシリアは驚愕した。

しかも、それは間違いなく、一夏が別のビットを狙ってやったことだと彼の顔で理解できた。

(日野さんのビットといい、びっくり箱ですわね、あの方々のISは)

レーザーを曲げる。

フレキシブル、偏光制御射撃と呼ばれる技術は、実のところ、ブルー・ティアーズに搭載されている思念制御装置を使った攻撃の一つだ。

射撃武器を持たない一夏は、セシリアのビットのレーザーを利用して曲げて見せたが、それは本来自分が修得すべき技術だ。

いまだ修得できない自分に、苛立たしく思うも、わずかながら完成形を見せてもらったことにセシリアは感謝する。

ならばこの場で修得してみせる。

そう決意したセシリアだが、その一瞬の隙を突いて、一夏が翼を広げるのを見た。

(瞬時加速ッ、やはりこの方もッ!)

そう思った瞬間、目の前に迫ってきた一夏は、すぐにセシリアの認識外へと消えた。

(まさかッ、全方位を認識できるハイパーセンサーの死角に回りこめるなんてッ!)

直感から振り向いたセシリアにできたのは、一夏が胴薙ぎを繰り出しているの見ることだけだった。

 

 

「ハイパーセンサーの死角ですか?」と、真耶は千冬に問いかける。

「ISは人間には過ぎた技術だと私は思う。だからどうしても人間の力に引きずられてしまう面があるんだ」

ISにハイパーセンサーと呼ばれる機能が搭載されている。

大脳に直接全方位の画像や音声情報を送り込むものだ。

しかし、その情報に人間が対応できるだろうか。

答えは否である。

どうしても、入ってくる情報すべてに対応することはできないのだ。

「それが『意識の死角』だ。本来なら、今の織斑の攻撃にオルコットは振り向く必要はない」

「そうですね。見えてるはずですから」

「しかし意識はそこになかった。だから振り向いてしまうんだ」

一夏の優れている点は、意識の死角を探りだし、そこに回り込むことができることだ。

これは諒兵にはできない技術で、一夏の力の一つということができる。

「見えていても知覚できない場所がある。織斑は攻撃方法が一つに凝縮されている分、攻撃するべき場所を察知する技術に長けているんだ」

「織斑くんも日野くんも本当にすごいです……」

千冬の解説を聞いていた真耶にできるのは、感心することだけだった。

 

 

胴を掠めたその剣の威力にセシリアは驚愕してしまう。

(三分の一もシールドエネルギーを持っていかれたッ?)

ISにはシールドバリアーというエネルギー障壁が存在する。

それはすべてのISが搭乗者の生命を守るために持っている機能である。

競技としてのISバトルは、そのシールドのエネルギーをゼロにするかどうかで勝敗を決めるように定められていた。

つまり、あと二回、一夏の剣が掠れば自分が負ける。

もしまともに喰らったら一回でゼロになる可能性とてあった。

これ以上の接近を許してはならないと、セシリアは瞬時加速を使って一気に離脱する。

やることがシンプルなだけに、こちらの策を叩き潰すような戦い方をする一夏に対しては、諒兵以上に近づかせてはならないと理解したからだ。

 

逆に一夏は今の一撃がかわされたことに内心驚愕していた。

「アレをかわすのか。確かに強いな」

同年代で死角から攻撃する一夏の剣をかわせる者はこれまで諒兵以外にいなかった。

その諒兵も、どちらかといえば防ぐ、つまり腕などで防御するタイプであり、掠ったとはいえ、かわされたのはセシリアが初めてである。

「瞬時加速を使っても間合いを詰めきれないのはちょっと痛いな」

 

大丈夫っ、イチカが信じれば届くよっ!

 

届く。次は必ず刃が届く。誰かがそういって自分を励ましてくれている。

そう確信した一夏は、再び白虎徹を構えた。

 

単なる足止めでは一夏は止まらない。信じがたいほどの突撃能力だとセシリアは感心していた。

攻撃方法が斬撃しかないために、それを生かす技術を体得しているのだ。

しかも、その攻撃は一撃必殺といえるほどの力を秘めている。

(まさにガンナー殺しですわね。でも、だからこそ倒さなければ)

ブリュンヒルデと呼ばれる千冬が、かつてはまさにその形で戦っていた。

もっとも正面から叩き斬る千冬に対して、相手を一撃で倒せる場所を探り当てる一夏という違いはあるが。

だからこそ、倒す。

セシリアは今、明確に世界最強への道が見えてきていることを実感していた。

そして千冬がなぜ自分に『負けることは許さない』と命じたかの理由もわかる。

(この戦いは彼らに敗北を経験させて成長させるためではなく、私に逆境でも勝てる強い意志を持たせるためのもの……)

感謝しなければ、これほどの戦いなどそうは経験できない。

ゆえに勝つ。

限界を超え、不可能を可能にして。

セシリアは一夏を見据え、『六』基のブルー・ティアーズに命令を下した。

 

ビットが六基に増えたところで、一夏がやることは決まっている。

「駆け抜けるッ!」

 

うんッ!

 

再び翼を広げた一夏は、降り注ぐ光の雨とミサイルの中を瞬時加速を使って一気に突破した。

そして迎え撃とうとするセシリアに向け、白虎徹で思い切り胴薙ぎを繰り出す。

「届きませんわッ!」

「届かせてみせるッ!」

 

絶対にッ!

 

叫びとともに振られた白虎徹はアリーナを両断するような巨大な刃と化した。

 

 

ガタッと千冬は思わず椅子を倒して立ち上がった。

(一夏の頭上が光っただとッ?)

「お、織斑先生っ?」

「い、いや、まさかあれほど巨大化するとは思わなかった。それだけだ」

驚く真耶にそう答えたのは、千冬自身、自分が見たものが信じられなかったためだ。

先の対戦時の諒兵に感じた違和感の正体も同じだろう。

一夏と諒兵が至ってしまったISコアの深淵。

それは自分などでは想像もつかない、とてつもなく遠いものであるかのように今の千冬には感じられていた。

 

 

迫る巨大な光の刃。

あれを喰らえば、確実に自分が負ける。

そう直感したセシリアだが、既に逃げ場がない。確実に自分の脇腹を狙ってきているのも理解できた。

「ならばッ!」

視線を向けた一基のブルー・ティアーズに望みを託す。

己に牙を突き立てよと。

「なッ?」と、そう叫んだのは一夏だった。

セシリアはビットのレーザーを自分の脚部装甲にぶち当てたのだ。

その衝撃で、セシリアの身体は一夏の刃をかわすかのように一回転する。その途中、彼女はあらぬ方向にライフルのレーザーを撃ち放った。

「誤射かッ!」

ならばこの隙に近寄ってもう一撃。

「ぐあッ?」

そう思い、翼を広げた瞬間に、背中に強い衝撃を感じた。

ビットが追いついたかと思い振り向いた一夏だが、背後にはビットがない。

直後、一夏は光の雨に翻弄されてしまう。

そして。

 

「隙あり、ですわね」

 

眉間に銃口を突きつけられていた。

「あなたが弱いなどとは思いませんわ、織斑一夏さん。ですが、ここは降参していただけませんこと?」

「一つ聞いていいか?」

「なんでしょう?」

「俺の背中に当たったレーザーはいったい……?」

今セシリアがやってのけたものこそ、本当の意味でのフレキシブル・ショット、偏光制御射撃である。

レーザーを思いどおりに曲げる。

第3世代機ならではの攻撃方法であった。

「今、この場で修得しなければ、きっと私が負けていました。あなたと戦えたことに感謝していますわ」

慈母のような優しい瞳で、セシリアはそう告げてくる。

確かにこれでは負けを認めざるを得ない。

諒兵が負けたのも肯けると一夏は思った。

「ごめん、白虎」と一夏は呟く。

 

ううんっ、これからもっともっと強くなろっ!

 

そんな声を感じ取り、フッと笑った一夏ははっきりと口にした。

「降参。強いんだな、オルコットさん」

そうして、セシリアの見事な二連勝が確定した。

 

 

 

 

 




閑話「1年1組のクラス代表」

「へっ?」と、一夏と諒兵は揃って間抜けな顔を晒してしまった。
「勝ったのはオルコットだぜ?」
「何で俺たちがクラス代表なんだよ、千冬ね、じゃなくて織斑先生」
そういって問いかける二人に、答えたのは千冬ではなくセシリアだった。
「織斑先生は私に「見極めろ」とおっしゃいましたわ。つまりお二人がクラス代表にふさわしいかどうかを判断せよということであって、勝った者がクラス代表になれといったわけではありませんわ」
「そういうことだ。そしてオルコットにいわせれば、貴様らのどちらでも十分代表は務まるとのことだ」
「それで、どちらが代表を務める?」と、千冬が問いかけると二人は揃ってこういった。

「「こいつを推薦しますッ!」」

お互いを指差しているあたり、要するに面倒なのでやりたくないという意思表示である。
「では貴様らで決めろ。手段は何でも構わん」

「「ジャンケンッ、ポンッ!」」

「よっしゃあッ、任せたぜ一夏ッ!」
「くっ、どうして俺はグーを、グーを出してしまったんだ……」
そして諒兵はガッツポーズを決め、一夏は机に突っ伏す。
そんな二人を見ながら、真耶が苦笑いを浮かべつつクラス代表の名前を黒板に書いた。
「では、クラス代表は織斑くんですね。1年1組の一夏くんでちょうどいいですよ、きっと」
「嬉しくない……」
「ちなみに日野。貴様は副代表だ。職務の協力を厳命しておく」
「げっ!」
「オルコット、補佐してやれ。馬鹿を晒したままではクラスの恥になる」
「承知しましたわ」
そんなのんきな1年1組のホームルームの一コマであった。




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