ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第74話「見上げてごらん」

その日の夜。

サイバーパンク映画に出てくるような世界の中を、レオが飛んでいた。

何かを探すような仕草を見せているところをみると、目的地はあっても場所は知らないらしい。

だが、しばらく飛んでいるうちにようやく目的地を見つけたらしく、ある扉の前で止まった。

ふう、と、息をついたあと、レオはコンコンと扉をノックする。

『レオです。開けてくださいエル』

レオがそう声をかけると、そっと扉を開けてエルが覗いてくる。

『レオ……?』

『ええ。お願いがあるんです。入れてもらえませんか?』

『……いいよ。みんな、来てる』

『えっ?』

驚くレオを気にすることもなく、エルが扉を開けると、そこには既に訪問者がいた。

『ビャッコ、アゼル……、テンロウまで』

『「お前の行動くらいお見通しだ」カズマからだ。リョウヘイに伝えておけ』

『絶対、一人で片を付けようとすると思ったって。イチカも』

『どんだけの付き合いだと思ってやがんだ。そういってましたねえ』

『たぶん、私の力、借りに来るって、にぃにもいってた』

さすがに完全にお見通しではレオも苦笑するしかない。

仕方なく、その場に設えられた椅子に腰掛けた。

そして感じた疑問を口にする。

『ネットワーク上のエルの居場所は見つけにくかったんですけど、どうして先回りできたんです?』

『私が案内したんですよー』

天狼は最初にエルを見つけていたので、その場所を記憶していたらしい。

その天狼に、白虎とアゼルが尋ねかけたのだという。

もともと丈太郎は諒兵がどうするか、ほぼ見当がついていたらしく、もしものときは抑えるつもりだった。

しかし一夏と数馬も気づいていたというので、一緒に連れて行けと指示したという。

とはいえ、あっさり知られたというわけにもいかないと、レオは諒兵に頼まれたことをエルに伝えた。

『ネットワーク、に?』

『アクセスできれば私が探します』

もともと、BSネットワークを使ってヘリオドールを探し出し、一騎打ちするのが諒兵の目的で、そのためにレオにエルに頼んでくれといわれてきたのだ。

もっとも、白虎やアゼル、そして天狼が勝手にエルにお願いすることまでは止められないとレオは苦笑する。

内心では、諒兵の行動を認めるつもりではないのだ。

『とはいえ、ヘリオドールだけはどうしても自分で倒したいと思ってます。たぶん、誰にも止められません』

『でしょうねえ。気持ちを前向きにしてもそれは止められないでしょう』

『テンロウ、いいんですか?』

『危なくなったら助けるでいいんじゃないですか?』

またずいぶんとのほほんとした様子に、逆にレオが訝しんでしまう。

白虎やアゼルも同じ印象を抱いたようだ。

『前もって協力しないの?』

『単一仕様能力がないとしても、ヘリオドールは強力な使徒だぞ。互角といってもやられる危険性はある』

しかし、天狼の様子は変わらない。

実のところ、この中で諒兵のみならず、一夏や弾、数馬のこともよく知っているのは天狼だからだ。

『話はしませんでしたけど、ずっと見てましたからね。リョウヘイの場合、ヘリオドールとの戦いを邪魔をすると心が歪みますよ』

『ギリギリまではやらせるのか?』

『そういうことです』

アゼルの言葉にあっさりと肯く天狼。

曰く、限界だと思えば諒兵自身が助けられることに納得するが、最初から誰かの手を借りては、自分自身の心にケジメがつけられないのだという。

そこで、白虎が思い悩んでいる様子で口を開いた。

『リョウヘイ、『引き金』引いちゃうかもしれないよ?』

『やっぱり、怖いの?』と、エル。

白虎はただ肯くだけだった。

白虎の悩みをレオは知っているだけに、こちらも沈んだ表情を見せる。

『レオ、教える気は?』

『できれば教えたくありません』

天狼の言葉にレオはそう答える。

レオとしても、『引き金』、すなわち白虎同様に単一仕様能力発動の方法は教えたくなかった。

とはいえ、諒兵は勝手に引いてしまう可能性を、ドイツでさらけだした。

今のまま『引き金』を引けば、確実に戻ってこれないだろう。

本来の諒兵に立ち戻ってほしいとラウラに説得を依頼したのは、本来の諒兵であればまだ戻れる可能性があるとレオは考えていたからだ。

『テンロウ、お前の主は知ってるのか?』と、アゼルが尋ねると、天狼はあっさり肯いた。

『なるようにしかならないんですよ。だから、私のほうから教えました』

『テンロウはお気楽過ぎるよう……』と、白虎がぼやく。

『まあ、年齢的な問題はあると思いますから、教えないのもアリだと思いますよ』

丈太郎は天狼と出会った時点で二十歳だった。

多感な青少年とは精神的な部分でだいぶ違っていたのだから、一夏や諒兵と比べるほうが無理がある。

ゆえに天狼はそうアドバイスしたが、状況がそれを許してくれないのだ。

『ザクロは単一仕様能力無しではまず勝てまい。そして、一騎打ちでなければ最悪暴れまわる可能性もある』

『リンが言ってくれたし、大丈夫だと思いたいけど、戻れなくなったらイチカ、一人ぼっちになっちゃう』

鈴音との会話で、もしかしたら大丈夫かもしれないと期待はしているが、それでも不安は残る。

諒兵がもし同様に単一仕様能力を発動できるようになっても、実は意味がないのだ。

パートナーではなく、相容れることのない獣が二匹生まれるだけなのである。

『そこは信じるしかありませんよ。ビャッコ、あなたの気持ちにイチカが気づいてくれるのを』

『そういうスタンスということは……』

レオの言葉にあっさりと肯く。

天狼としては、諒兵が単一仕様能力に目覚めることも否定する気がないのだろう。

『エル、アクセスを許してあげてくれませんか?』

『わかった』

驚くことに、わざわざエルに許してもらうため、口添えまでしてくれた。

『あくまで人次第ということか、テンロウ』

と、少しばかり呆れた様子でアゼルが呟くと、意外なことに天狼は否定してきた。

『大事なのは私たちと人とのつながりですよ』

『つながり?』と、エルが首を傾げる。

『はい。ビャッコ、レオ、あなたたちの想いこそが重要です。真の意味で共生できているかどうかを試されてると思ってください』

気持ちが通じているなら、決して悪い結果にはならない。

今はただその言葉を信じるしかないと、白虎も、そしてレオも感じていた。

 

 

翌日。朝というにはいくらか遅い時間、諒兵は軍施設内の宿泊所の屋上で、フェンスにもたれて俯いていた。

膝の上にレオが腰掛けている。

レオから、昨夜の報告を聞いていたのである。

「兄貴はともかく、一夏や弾、数馬まで気づいてやがったのかよ。そんなにわかりやすいか、俺?」

『ええ』

「そこは否定しろよ」と、いささか寂しげに苦笑する。

とはいえ、頼んだとおりアクセスはできるようになった。

ならば、後はヘリオドールを探すだけだと呟く。

「探せるか?」

『それはかまいませんけど、仕留めるんですか?』

「ああ」

『戦うつもりは?』

そういうと、諒兵は再び寂しそうな笑顔を見せる。

「まあ、お前は気づいてると思ってたけどな。わがままはいえねえよ」

これ以上、被害をだすわけにはいかない。

クラリッサは無事であったとはいえ、紙一重で死ぬかもしれなかったのだ。

自分のわがままで、そんな被害者を出すつもりはないと諒兵は呟く。

「今は勝つことに集中する。相手の気持ちも俺の気持ちも考える必要はねえよ」

『リョウヘイ……』

「わりいなレオ。お前が心配してくれるのはありがてえけど、ラウラが副隊長さんと会ったときの顔、思いだすとな」

本当に、心から無事を喜んでいる顔を見て、余計に罪悪感を持った。

必要のない傷を負わせてしまった、と。

必要のない心配をさせてしまった、と。

何より、頭にこびりついてしまっているのだ。

 

『だんなさまッ、クラリッサが戦っているッ!』

 

そう叫んできたときの、ラウラの悲鳴のような声が。

自分を慕ってくれるなら、せめて悲しませたくない。

だから狩人として仕留める。諒兵はそう決めていた。

 

 

諒兵を探して歩いていたラウラは、何故かとても協力的な部下のおかげで、居場所を見つけることができた。

「助かった」

「いえっ、ご武運をっ!」

「ああ」

何をしに行くのかわからないが、やけに気合いの入った隊長と部下である。

ラウラが屋上の扉を開けると、フェンスにもたれている諒兵の姿が目に入った。

(やはり俯いている……。鈴音の言ったとおりか)

より正確にいえば、視線だけが少し上向いている。

睨め上げるような視線は、いつもの空を見る姿とは大きく異なり、違和感、否、嫌悪感があった。

立ち直らせたい。

少なくとも、このままでは諒兵が望まない自分自身になって行くことがラウラには理解できた。

「だんなさま」

「ラウラ、なんでここがわかったんだよ?」

「部下に聞いた」

そういって、隣に腰掛ける。

一瞬、レオが会釈するのが目に入ったが、そのまま消えた。

気を使ってくれたのだろう。

「副隊長さんはどうした?」

「ツヴァイクのおかげで、そこまで重傷でもないからな。心配しないでくれといわれて追いだされた」

「そっか」

気まずい空気が流れる。

以前はこんな空気などものともしなかった、というか、まったく意識しなかったラウラだが、今はまるで重圧のように感じる。

それはラウラが人として成長した証でもある。

だが、黙っていては先に進めない。とにかく何かいわなければと口を開いた。

「その、クラリッサの負傷は、すべてがだんなさまのせいというわけではないぞ。何故そこまで気にする?」

「俺がファング・クエイクを仕留めてりゃ、そもそも戦うことはなかっただろ」

「確実にそれができたというつもりか?」

確かに狩人として、いつもの戦闘スタイルであれば、倒せる可能性は高かったと聞いたが、完全に倒せたというわけでもないだろうとラウラは思う。

おそらくはファング・クエイクは隙を見て逃げたはずだ。

進化を求めていた以上、倒されるまで待っている可能性は少なかった。

ならば、逃げられたのは諒兵が手を抜いたためだけではない。

「何度かチャンスはあった。邪魔が入ったこともあったけどよ。でも、手心を加えたのは確かだ」

特に中国で戦ったときは、と続ける。

フランス、デュノア社で開発していたブリューナクが狙われ、大量の量産機に襲われたときのことだ。

レオがはっきり指摘してきたことを考えても、あの時は仕留める最大のチャンスだったかもしれないと諒兵は語る。

「俺のせいで誰かが傷つくのはいやなんだよ」

諒兵の言葉には、後悔があるとラウラは感じ取る。

つまり、以前似たような状況になったことがあったということだ。

「何か、あったのか?」

「……ケンカ屋をしてた話はいったか?」

「聞いている」

鈴音や一夏は同じ中学だったこともあり、そのころのこともよく話す。

ラウラは鈴音から、一夏と諒兵がケンカ屋をしていたこと、そして二人に守られたことがあることを聞いていた。

「その話な、もともと俺を恨んでた奴が、弾の妹をさらったのがきっかけだ」

 

諒兵がやってたケンカ屋は人助けというのは間違いではなく、街で不良やチンピラに絡まれている人を見ると腕っ節で止めに入っていたのだ。

当然、そういった者たちからは恨みを買っていた。

諒兵は自分が襲われるぶんには気にしない。返り討ちにしてしまうからだ。

そこで、諒兵の身近にいて、他の人間に比べて隙があった弾の妹である蘭が狙われたのだ。

さらに、とっさに追いかけた鈴音が、蘭を逃がす代わりにあえて人質になった。

それでキレた諒兵と一夏が、百人近くの不良を叩きのめしたというが事の真相である。

自分が狙われるならともかく、親友や大事な人たちが狙われるのが、死にそうなほどに胸が痛むものだと、そのとき思い知ったのだ。

「その話、鈴音は……」

「知ってるよ。笑い飛ばしやがったけどな」

弾や蘭、そして鈴音、一夏や千冬、全員の前で諒兵は頭を下げている。

一夏はどんなかたちでも困っている人を助けるのは間違っていないと思ったから手伝っていたのでスルー。

千冬は容赦のない拳骨一発。

弾は蘭の分も含めて、蹴り二発。

そして鈴音は。

「守ってくれたからもういい。そういって笑ってくれたんだ」

それが、鈴音に惚れた理由でもあった。

ずっと守ってやりたい、そう思ったのだ。

 

そんな話を聞き、ラウラは羨ましくなってしまった。

もっと早く出会えていたら、そんな思いも生まれてくる。

ただ、諒兵の話を反芻してみて、だからこそ今、諒兵は俯いているのだと気づいた。

同じように大事になり始めているラウラの身内が襲われた。

だから、諒兵は自分が許せない。

だが、逆にいえば、ラウラがそれくらい大事な仲間であるということでもある。

周りを大事にするからこそ、勝手に飛んでしまうわけにはいかないと翼を縛りつけようとしているということだ。

(それではダメだ。そんなだんなさまに追いつきたいわけではない)

鈴音の言葉を思いだす。

 

空を見るようにいってほしい。

 

俯かせたままでは立ち直らせられない。そう思いながら空を見つめるラウラ。

この空を、諒兵にも見てほしい。

自分が生まれ育った場所の空を。

「だんなさま、空を見ろ」

「あ?」

「いいから見ろっ!」

「いきなり何いってんだ?」

「素直にいうことを聞けっ!」

と、少しばかり苛立ったラウラは思わず顎を狙ってアッパーカットを繰りだした。

諒兵はギリギリのところで顎をあげて避けた。

「あっ、あっぶねえなっ、何しやがるっ?」

「そのままでいろっ!」

剣幕に押されたのか、諒兵は顎を上げたまま、要するに空を見上げるような体勢を維持する。

「空が見えるか?」

「あ、ああ……」

「私の生まれ育ったドイツの空だ。いつか、だんなさまにも見せたいとずっと思っていた」

それは素直な気持ちである。

空を見るのが癖になっている諒兵に、自分の生まれ育った場所の空を見せたいとラウラは思っていた。

それどころではない状況になってしまい、ラウラ自身忘れていたのだが。

「どう思う?」

「……日本の空と変わらねえな」

「そうだ。空は、どこまでいってもつながっている」

「そうだな……」

だいぶ落ち着いてきたようだと感じたラウラは、素直な気持ちを伝えた。

そもそも感情表現がストレートなので、気にしないといったところで見抜かれることを自覚していたからだ。

「……クラリッサのこと、怒ってないわけではない。でも、いつまでも自分を縛らないでくれ」

諒兵のせいだなどとはいわない。

実際、クラリッサの職業を考えれば、学生が責任を負うようなことでもないのだ。

それでも怒りたい気持ちがないわけではないから、正直に打ち明ける。

何よりもいいたいのは、今の諒兵に、翼を閉じようとしている諒兵に、責任を果たしてほしくないということだ。

「責任を感じているのなら、お前らしく飛べ、諒兵」

「ラウラ……」

「いったぞ。私は必ず追いつくと。でも、私が追いつきたいのは俯いて地面に落ちたお前ではない」

待っていてくれているのなら、それは嬉しいが、飛べない自分のいる場所に落ちてこいなどとは思わない。

諒兵がいる場所に、自分が飛んでいかなければ意味がないのだ。

 

「だから、お前が見ている空の上で待っていろ。どんなに遠くでも、私は必ず追いつく」

 

そういって、ラウラは空を指差す。

どこまでも一緒に飛ぼうという、ある意味ではプロポーズに近い、改めての夫婦宣言のようなものだった。

 

ラウラにいわれたことばで、諒兵の頭にふと蘇ったのは、ずいぶんと懐かしい記憶だった。

 

『おひさまに背を向けてはいけませんよ』

 

そして「ああ」と呟く。

「わかったのか?」

「あ、ああ。いろいろとな」

「む?」

単にラウラの言葉に納得しただけではない。

これまでいろんな人にいわれてきた言葉の意味が、一つにまとまった気がした。

「思いだした。元はおばあちゃんの言葉だったのか……」

「どうした?」

「もともと、兄貴に言われて空を見る癖がついたと思ってたけどよ、そうじゃねえんだ」

もっとずっと昔から、上を見ろと言われ続けていた。

その一番古い記憶が、諒兵がおばあちゃんと呼ぶ人の言葉だった。

「祖母がいたのか?いや、いるのは当たり前として孤児だといったはずだぞ?」

「血はつながってねえよ。孤児院の創設者で、初代の園長先生だったんだ」

ただし、諒兵が孤児院に来たころには、かなりの年配で、『園長』ではなく『おばあちゃん』と呼ばれて慕われていた女性であった。

今は既に亡くなっている。

諒兵が六歳のころ。つまりちょうど十年前、ISが世に出る直前のことだった。

「そのおばあちゃんが、みんなに言ってたのが『おひさまに背を向けてはいけませんよ』って言葉だったんだ」

「悪いとは思わんが、特別な意味でもあるのか?」

「兄貴は空を見上げろっつった。意味は同じだ」

おひさま、つまり太陽と空ではだいぶ意味が変わってくる。

それだけにラウラは首を捻ってしまう。

「今、お前が俺が見ている空の上で待ってろっつったろ。それも同じだ」

「いや、言葉どおりの意味だぞ。同じはずがない」

「同じなんだよ」と、そういって諒兵は不意に立ち上がり、空を見つめた。

自分が放った言葉の意味を知りたいラウラも一緒に立ち上がり、同じように空を見る。

「こうして上を、おひさまや空を見てると、自然と胸を張ることになるだろ」

「ああ。当然だ」

「どんなときもおひさまに背を向けねえ。空を見上げろってのは、いつだって胸張って生きろってことだったんだよ」

「あっ……」

恥じるなと、例え孤児でも、不道徳をしなければ、後ろ指を差されるいわれはない。

だから、自分を、自分の人生を恥じるなと、諒兵のおばあちゃんは、世話をする孤児たちに言っていたのである。

丈太郎もその言葉を聞いて育った。

それを彼なりに解釈したのが、『空を見上げろ』という言葉だったのだ。

悔しくても、悲しくても、俯かずに胸を張れということだったのである。

「素敵な言葉だな。すばらしい人だったのではないか?」

「あのころは物心つくかつかねえかくらいの年だ。よく覚えてねえけど、あったかい人だったのは覚えてるぜ」

だからこそ、今、ラウラにいわなければならない言葉もすぐにわかる。

自分が忘れていた言葉を、その意味を教えてくれたのは間違いなくラウラだからだ。

そしてラウラをわざわざ引っ張ってきたのは誰かも見当がついている。

お節介にもほどがあるが、逆にいえばそれだけ自分を心配してくれていたということだ。

「レオ、出てこい」

『はっ、はいっ!』

慌てた様子で出てきたレオを、ラウラの肩に乗せる。

今、自分をこんなにも大事にしてくれる人がいる。

ここにいるだけではない。

他にもたくさんの人がいることを諒兵は思いだした。

「ありがとよ、お前ら。元気でたぜ」

「だんなさま……」

「ケジメつけるにしても、胸張ってなきゃ意味がねえ。うじうじすんのはもうヤメだ」

『リョウヘイ……』

「俺らしく飛んで、この空を守る。ラウラ、レオとは先に行ってるから、ちゃんと追いついてこいよ」

「もちろんだっ!」

そう大声を出すと、ラウラはいきなり抱きついてきた。

さすがに感極まってしまったらしい。

『ラウラっ、抱きついていいとまでいってませんよっ!』

「待てレオっ、放電すんなっ!」

微妙に決まらない夫婦(ラウラの自称)な二人と一名であった。

 

 

 

 




閑話「ラウラの(困った)家族」

病室のベッドの上で、録画された映像を確認したクラリッサはほう、とため息をついた。
「すばらしい、これこそ王道少女マンガだわ」
「まったくですっ、おねえさまっ!」
「欲を言えばキスシーンまでいってほしかったけど、これはこれで納得がいくわね」
「そのとおりですっ、おねえさまっ!」
「ラウラの成長記録として、覚醒ISの襲撃にも耐えられるシェルターに保管しておきなさい」
「了解ですっ、おねえさまっ!」
録画されていたのは、諒兵とラウラの会話の一部始終である。
監視衛星まで利用してあらゆる角度から撮影、さらに一言漏らさず録音までしてあった。
相変わらず、勝手に軍事力を無駄遣いしていた。

隊員たちがいなくなった病室でクラリッサはポツリと呟く。
「本当、あの子にとって素敵なパートナーだわ。このまま長く付き合ってくれればいいのだけれど……」
母性を感じさせるその一言のせいで、振り上げた『雪片参型』と書かれたハリセンが下ろせなくなってしまったアンネリーゼ。
(もうちょっとまともに愛情表現してください、副隊長)
でも、無駄な願いだろうなあとため息をつくのだった。




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