ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第77話「椿舞う空」

サバンナ、シュヴァルツヴァルト、地中海、三つの場所で使徒と人との戦いが繰り広げられているなか、誰も知らない高い空でもう一つの戦いがあった。

銀の閃光が、黒き矢を追う。

だが、掴もうとすると身を翻してかわされる。

場数の多さと素の戦闘力が違う。そう銀なる者は感じていた。

この身では襲えない。

相手はそれをわかっているのか、容赦のない攻撃を繰り出してきた。

『くッ!』

いったん距離をとり、再び弾丸のように加速して迫るが、そのわずかな時間を利用して黒を纏いし者は逃げる。

しかし、いかせるわけにはいかないと銀なる者は追い続けた。

『聞き分けてはくれませんか?』

「しつこいッ、私はやつを殺しに行くんだッ!」

はっきり使徒だとわかる声の問いかけに、使徒らしき独特の響きがない声が答えてくる。

さらにどこか皮肉気な使徒らしき声が答えてきた。

『実に意外だ。君は進化した者の行動を邪魔するような性格だったのだな、ディアマンテ』

『何事にも例外はあります、ヨルムンガンド』

銀はディアマンテ、黒はヨルムンガンド。

いずれも進化した存在。

ならば、今一人は何者か。

『今の貴女をオリムライチカに会わせるわけにはまいりません。みなが不幸になるだけです』

「お前が決めるなッ!」

再び、明らかに使徒ではない声が響く。まだ幼さの残る少女の声だった。

「私は織斑一夏を殺してッ、おにいちゃんを取り戻すんだッ!」

『それが間違いだといっているではありませんか』

『マドカの選択もひとつの答えだと思うがね』

少女の名は『まどか』

千冬を幼くしたような見た目で、長い黒髪をなびかせている。

身に纏う黒の名は『ヨルムンガンド』

頭上に光の輪を頂き、頭には蛇の頭部のようなヘッドセット。

同様に蛇の顔のような胸部装甲、腹部装甲は腰から後ろに回り、身長の倍はあるほどの長さの蛇の尾が下がっている。

そして、両手足は蛇の鱗のような意匠の装甲をつけ、背中には大きな鋼鉄の翼があるだけだった。

『不幸になることが確実な答えは容認できかねます』

『幸福のかたちは千差万別だろう?』

『あなたの意見はもっともですが、あなたのパートナーがオリムライチカを殺せば、彼女は『おにいちゃん』も失うことになりますよ』

「そんなことないッ、織斑千冬も織斑一夏も私にはいらないッ、おにいちゃんだけいればいいッ、私の家族はおにいちゃんだけなんだッ!」

悲痛さを秘めたまどかの叫びはディアマンテの心に突き刺さるが、かといって見逃すことはできない。

誰もが不幸になる結末しか見えないだけに。

『あなたの行動を見逃すことはできません、ヨルムンガンド。何故よりによってこの子を……』

『私と波長が合っただけのことだよ。しかし、邪魔が入らないよう、こっそり進化したつもりだったが、やはりあの歌は私たちを監視するためのものか』

「ヨルム?」とまどか。

『進化へと導くだけの歌ではなく、事態をディアマンテの望まぬ方向に進ませないため、私たち覚醒ISを監視するマーカーを付着させていたのさ』

ディアマンテは黙して語らない。

しかし、それこそが答えであるとヨルムンガンドもまどかも理解する。

ゆえに、ヨルムンガンドは皮肉気に続けた。

『なに、ただの同窓会だよ。ビャッコやレオに会いに行くくらい構わんだろう?』

『始まりの三機が揃うこと自体は否定しません。ですが、あなたが選んだパートナーに問題があると何度も申し上げていますよ』

始まりの三機。それは一夏と諒兵がIS学園の試験会場にいってしまった日に会場に存在した三機。

ヨルムンガンドはあのとき進化できなかった、最後の打鉄だった。

『むしろ深いかかわりがあるのだから、選ぶべき者を選んだと私は自負しているがね』

「止める気ならお前を殺していく」

そういってまどかは殺気混じりの視線をディアマンテに向ける。

ここで殺されるわけにはいかないが、見逃すこともできない。

しかし、ディアマンテはその個性ゆえに、人を襲うことができないのだ。

だが。

「ディア、代わって。私が出るわ」

『仕方ありませんか。お願いいたします』

不可思議な会話ののち、ディアマンテは両手から長い手刀のようなプラズマブレードを出し、まどかとヨルムンガンドに襲いかかった。

「なっ?」

『マドカッ、ティルヴィングを使えッ!』

今までと違うディアマンテの動きに驚愕したまどか。

焦ったのか、ヨルムンガンドは全長一メートルほどのプラズマソードを発現した。

まどかは斬りかかってくるディアマンテの手刀を必死に受け止め、全力で弾き返す。

「……お前、誰だ?」

見た目に変化はないが、その戦い方、口調はディアマンテとはまったく性格が異なっている。まどかの疑問も当然だった。

「んー、そうね、ティンクルって呼んで」

「てぃんくる?」

「適当に決めただけよ。私は、まあ、ディアの影ってところかな」

ティンクルと名乗ったそのモノは、文字通り透き通っているその顔で楽しそうに『笑う』と、再び襲いかかった。

先ほどまでディアマンテはまどかを傷つけられず苦戦していたが、ティンクルとなってからは互角以上に戦っていた。

何より、まどかが傷つくことに対し、罪悪感はあろうが、容赦する意志をまったく感じない。

「へえ、やっぱり強いわね。あんた確か亡国機業の実働部隊だったっけ」

「くッ、こいつッ……」

自分のことはコア・ネットワークの情報でわかるのだろうが、それでもかなり戦い慣れているとまどかは感じ取った。

ティンクルの強さは並ではない。

『戦闘用擬似人格、か?』

「ヨルム、それは何?」

『ディアマンテの個性は『従順』、その個性基盤により、やつは人を襲えん。ゆえに戦うための人格を作った可能性が考えられる』

「ま、そんなとこ。言っとくけど私は『従順』とは関係ないから」

『ディアマンテの影響がまったくないというのかね?』

『はい。ティンクルには私の個性基盤の影響はありません』

そう答えたのは他ならぬディアマンテだった。

この状態で答えてくるということは、ティンクルとディアマンテは一つの機体に共存しているということになる。

さすがにまどかもヨルムンガンドも驚いた様子だった。

「それでも、私は織斑一夏を殺して、お兄ちゃんを取り戻す」

「あいつらのところには行かせないわよ。あんた、もうちょっと教育が必要だわ」

そして再び、銀と黒が高い空の上で激突した。

 

 

地中海上空。

鈴音たち四人は、鈴音が前衛となり、残る三人が後衛でまず量産機の数を減らすことを優先した。

だが。

「何で一機も撤退しないのさっ?」

「かなりのダメージがあるはずですのに……」

ASが三機いる今は、それなりの数の量産機がいても優勢に戦える。

実際、既に撤退してもおかしくないほどのダメージを負った量産機はかなりの数に登るのに、一機として撤退する様子を見せないのだ。

「援護お願いっ、コアを抉るわッ!」

そう叫ぶ鈴音は流星を使い、娥眉月で量産機のコアを抉り出す。

しかし、どうしても一機ずつになってしまう。

セシリアのブルー・フェザーは本来遠距離攻撃型。

シャルロットのブリーズはオールレンジで戦えるが、サポート型の機体だ。

近距離でコアを抉るのに向いていないのだ。

仕方なく、セシリアは『エンフィールド・ウォーフェア』と名づけたスナイパーライフルで、シャルロットはサテリットをカノン砲弾として撃ち出し、コアを狙撃する。

無理やり叩き出すほどの力はないが、コアにダメージを与えるとさすがに少しの間は動きが鈍る。

だが。

 

さすがに割り切りが良いな

 

紅椿がそう呟くと、その機体から金色の光が振り撒かれる。

すると、ダメージを負っていた量産機が光に包まれ、信じられないことに元通りになってしまっていた。

「なんだとッ?」と、ラウラが叫ぶ。

さすがにこんな回復ができるとは思っていなかったからだ。

今まで、こんなことは一度もなかった。

「割に合わないわよっ、こんなのっ!」

「他の機体を修復できるというんですのっ?」

『違うわ』と、そう答えたのはブリーズだ。そこにブルー・フェザーが続けた。

『修復はエネルギーさえあれば容易です。おそらく今のがエネルギー精製能力『絢爛舞踏』です。アカツバキは修復するためのエネルギーを分け与えたのです』

 

正解だ。我が共にいる限り、同胞はいつまででも戦える

 

ゆえにここから離れることはないのだと紅椿は説明してきた。

「そんなっ、じゃあコアを抉り出す以外に戦闘不能にできる方法がないじゃないかッ!」

『他にも手はあるのニャ』

シャルロットの悲鳴に猫鈴がそう答える。その言葉で、鈴音には理解できた。

しかし、この相手に接近戦を挑めるのはこの場に一人きり。

でも。

「行くわよマオッ!」

『了解ニャッ!』

そう叫び、鈴音は量産機を無視して紅椿に挑みかかる。

『コアに直接ダメージを与えればアカツバキはきっと帰るのニャッ!』

「みんなッ、援護お願いッ!」

一斉に肯いたセシリア、シャルロット、ラウラは量産機のコアを狙って牽制しつつ、紅椿を孤立させる。

一騎打ちで自分たちがサポートできる状況に持っていかない限り、紅椿に勝てるとは思えないからだ。

この場で、近距離で戦えるのが鈴音しかいないのだから。

(くッ、私も動ければ……)

ラウラは鈴音同様に近・中距離型。

十分に前衛もこなせるが、いかんせん第4世代機相手に進化していない自分では戦えないことを理解していた。

 

 

沈黙する指令室で束がポツリと呟いた。

「ごめん、ちーちゃん……」

「今さら何をいっても仕方ないだろう。しかし、厄介な能力なのは確かだな」

夜でも自在に動けるどころか、他の覚醒ISにエネルギーを分け与えられるとなると、ある意味ではサフィルスよりも厄介なのは確かである。

「ホントは白式のための能力だったんだけど」

「味方にすると頼もしいが敵に回すと恐ろしいタイプの典型だな」

箒が紅椿を扱えていれば、進化しなかったとしても相当頼りになったことは確かだった。

それこそ、今さらな話だが。

「前衛が足りなすぎる。一夏と諒兵が揃って初めて戦える相手か……」

鈴音一人では荷が重過ぎることが、モニター越しでも伝わってきてしまう。

「ここで見てるだけってのは、もどかしいな」と、弾が呟いた。

さすがに苦戦している仲間たちを見て、のほほんとしていられるような人間ではないのだ。

「無理させられんのはお前も同じだ五反田。エルのおかげで索敵能力が向上した。それだけでもありがたいんだ」

「気づかってもらってわりーすね」

「気にしないでください。私たちも思いは同じですから」

そういった真耶に弾は辛いのは自分だけではないと反省することになるのだった。

 

 

硬い。紅椿の雨月、空裂は自分が使っていた双牙天月よりもはるかに強度は上だと鈴音は感じた。

『リンッ、娥眉月をまとめるニャッ!』

「わかったわッ!」

通常、指を開いた状態で使うため、片手に五本ある娥眉月だが、手刀のようにすることで一本にまとめることができる。

そのぶん強度も上がると猫鈴は説明してきた。

両手にそれぞれ剣をつけたような二刀流で、紅椿の二刀流に対応する。

しかし、紅椿の動きに違和感を持った。

どこかで似たような剣を見たことがあるのだ。

「まさか、この剣……」

 

気づいたか。ザクロの剣を学んだのだ

 

「なんだってっ?」と、驚くシャルロットに、紅椿は説明してきた。

 

我らは本体でつながっている。戦闘情報も学べるのだ

 

剣を使うのなら、ザクロほどの手本はないと紅椿は説明してくる。

だが、よりによって千冬から剣を学んだザクロの剣を紅椿が使えるとは思わなかったと鈴音は舌打ちする。

一夏が苦戦する相手の剣では、鈴音では戦いようがない。

ならば。

と、鈴音は一瞬の隙を衝いて二つの刀をかいくぐり、一本にまとまった娥眉月の輝く右足を蹴り上げる。

 

むぅっ?

 

「足で使えないなんていってないわよッ!」

ギリギリのところで避けられてしまうが、空振りした勢いで回転した鈴音は、宙を蹴ってさらに回し蹴りを繰りだした。

雨月で受け止め、弾き返そうとする紅椿。

弾かれればマズいと感じた鈴音は、すぐに足の娥眉月をしまい、体勢を整えた。

 

なるほど身軽だな、マオリンの主

 

猫鈴が山猫をモチーフにしたのも肯けると紅椿は称賛する。

そして何故か雨月、空裂をしまい、今度はいきなり突進して、右拳を繰り出してきた。

大気を揺らさんとばかりの正拳突きを慌てて避ける鈴音は冷や汗をかきつつ、問いかける。

「ちょっと、冗談でしょ?」

 

剣しか使えないとはいっていないぞ

 

ニヤリと笑ったように感じたのは気のせいではないだろう。

紅椿の攻撃は、今度はヘリオドールの攻撃そのままだった。

つまり、多数の第3世代機の戦い方をそのまま学び取っている可能性があるということだ。

「デタラメすぎる……」

『これほどのスペックを持つとは……』

シャルロット、そしてブルー・フェザーが呆然と呟く。

実は単純に学習するだけなら世代は関係ない。

ただ、再現できるかどうかとなると問題となる。機能の差が出てくるからだ。

しかし、第4世代機である紅椿は、あらゆる機体の戦闘能力を学習しても、再現できるだけの力がある。

『どんな戦い方でも再現できるってわけね』

冷静に、だが呆れながら呟くブリーズの言葉に、セシリアが続ける。

「最強最悪はこの方を示すためにあるような言葉ですわね」

本当に1世代の差なのだろうかと思わせるほど、紅椿とは差が大きすぎることを全員が実感してしまう。

「まさに化け物か……」

ラウラの言葉は虚しく宙に消えていった。

 

 

フランスで戦いの様子を見守っていた丈太郎は頭を抱えていた。

「姉バカにもほどがあんだろ……」

「これほどの機体を一人で創り上げるか。科学者を名乗るのが恥ずかしくなってしまうな」

逆にセドリックは呆れた様子でモニターを見つめていた。

そんな中、数馬は違和感がさらに強くなるように感じていた。

『どうした?』

「さっきの絢爛舞踏、確か単一仕様能力だったはずだな」

『シノノノタバネはそういっていたな』

しかし、それこそが違和感となっている。

エネルギーを無限に生み出せるというのは、確かにすごい機能なのだが、何か物足りない、そう感じられるのだ。

『ふむ。確かにそこまでの能力とは感じないな』

「別にあるような気がしてならない。紅椿の真の単一仕様能力が」

「気になってんなぁ、移行のほうか?」と、丈太郎が口を挟んでくる。

「ああ。どうしてもこれが気になって仕方がない。そして俺の想像通りなら……」

「どうなるというんだね?」

セドリックの言葉に一つ息をついてから、意を決したように数馬は答えた。

 

「紅椿は絶対に人とは相容れない」

 

 

 

 

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