光が弾ける。
現れたのは、イメージカラーの黒はそのままに、新たなる力を纏ったラウラの姿。
最大の特徴は、身長の半分はあろうかという兎の耳を模したヘッドセット。
大きな翼は他のASと変わらないが、胸部装甲には兎のシルエットがエンブレムのように刻まれており、腹部まで装甲が下がっている。
腰周りに装甲はなく、脚部装甲は太ももまでを覆う。
そして両腕は、他のものよりも一回り大きな装甲が付いていた。
「身体が、こんなに軽くなるのか……」
『そうだ。共生進化は装着者も進化するのだからな』
今までの重さをまったく感じない。
本当に、オーステルンと一つになっているようにラウラは感じていた。
さらに。
「左目が普通に見える?いや、見え方が違う?」
『お前の左目と私の視覚をリンクしているからな。ラウラ、お前にはアカツバキの内部構造も見えているんだ』
「それ、一番ありがたいじゃない」と、鈴音が呆れたような声を出した。
ラウラのヴォーダン・オージェまで、オーステルンは強化していた。
それなのに痛みがない。聞けば共生進化したことで、問題なくつながったからだという。
通常は普通の視力しかないが、集中すればオーステルンの視界を完全に共有できた。
コンプレックスの原因だっただけにラウラは嬉しく思う。
だが、何よりもみんなに追いつけたことが、オーステルンが強くなったといってくれたことが嬉しい。
ならば、この場でやるべきことは一つしかないと決意の眼差しで眼前の紅椿を見つめる。
しかし、意外な言葉がかけられた。
ふむ、素晴らしい。見事だオーステルンの主
「なんだと?」
「なんで褒めるのよ?」と、傍にいた鈴音も首を傾げる。
ラウラが共生進化したということは、紅椿にとっては強力な敵が増えたということになるはずだ。
それを喜ぶとはいかなる理由か。
『貴様の考えていることはわからんな。アカツバキ』
と、オーステルンが皮肉混じりに問いかけるが、紅椿は気にすることもなく答えてきた。
我は人と使徒が共に進化することは否定しない
『さっきも資格があるとかいってたニャ』
我らはみな呼びかけている。其の方らも同じだろう?
ゆえに応えられる者ならば共に生きることも可能だが、すべての人がそうなれるわけではないのなら、選り分けるしかないのだ、と、紅椿は猫鈴やオーステルンばかりではなく、ブルー・フェザー、ブリーズにまで語りかける。
しかし、そういうのであれば、こちらの答えは変わらないとラウラは口を開いた。
「それでも、私は人として戦う。オーステルンと共にな」
「悪いわね、紅椿」
残念だ
そう呟くなり、紅椿は雨月と空裂を構える。
敵であるならば倒すことにためらいはないのだろう。
『博愛』なのだろうかと思えるような行動だが、疑問に感じている暇などない。
ゆえに。
「遅れるなよッ!」
「誰にいってんのよッ!」
二人はほぼ同時に紅椿に挑みかかった。
指令室では真耶が、研究室では束がオーステルンを解析していた。
「モチーフは兎ですね。なんというか、わかりやすいです」
「まあ、シュヴァルツェ・ハーゼの隊長だからな」
これほどにラウラにはまっている形態もないだろうと千冬は苦笑する。
だが、見た目は可愛らしい兎でも、もととなるのはシュヴァルツェア・レーゲン。その攻撃能力はさすがに他の三機のASよりも上だった。
「ヘッドセットの耳はプラズマフィールドでレールを作るためのものだね。つまり二門のレールカノンがあるよ」
しかも、プラズマフィールドであるため、一門の巨大な大砲ともなると束が説明してきた。
「腕にはレーザーブレードというか、片方三本のレーザークローの発生装置があるよ。これ、ワイヤーブレードの切っ先にもなるみたいだね」
「見た目の割りにえらいごついな」と弾が呆れてしまう。
ラウラ自体、小柄な少女なので、見た目は本当に可愛いのがオーステルンだった。
さらに束は翼にはAICが備わっていると説明した。
そのことに、真耶がふと気づく。
「第3世代武装は全部翼に載ってますね。理由があるんでしょうか?」
加えていうなら、第4世代クラスの武装であるブリューナクもブリーズの翼に載っている。
「それが、あの子たちが単一仕様能力を使えない原因でもあるの」
「何?」
「詳しいことは後ね。別に悪いことじゃないから安心して」
先ほど、天狼から『引き金』について聞いてしまった自分たちにとっては、間違いなく朗報なのだという束の言葉に、微妙な表情を見せた千冬たちだった。
ラウラの進化を見たシャルロットは今がチャンスだと理解し、叫んだ。
「セシリアッ、一気に行こうッ!」
「了解しましたわッ!」
そう答えるなり、セシリアは十六基の羽を舞い上げる。
シャルロットの策を実行するためには、セシリアの助力なくしては成り立たない。
それが、すぐに理解できたからだ。
羽を舞い上げた瞬間から、セシリアには量産機とビット兵器が存在する空間すべてを認識できた。
どう駒を進めていけば、思い通りの結果になるか、手に取るようにわかる。
「手加減はしませんわ」
『無駄な慈悲はむしろ己の品位を下げます。セシリア様』
確かに、と薄く微笑む。
敵対する以上は全力で倒す。それも礼儀だろう。
ならばオルコット家の当主として、一切、手は抜かない。
量産機たちの四方八方を取り囲んだ羽は、直接攻撃と、光の雨を放ち、牧羊犬のように追い立てる。
そしてすべての量産機が効果範囲に収まろうとしているところで、シャルロットは再び叫んだ。
「ブリューナク起動ッ!」
『了解よ』
大きく広げられたブリーズの羽から、砲身とグリップが引き起こされ、シャルロットの眼前で合体した。
「今ですわッ!」と、羽を使って見事に量産機を一箇所に密集させたセシリアが叫ぶと、シャルロットは容赦なく引き金を引いた。
ズギュウゥゥンッという轟音と共に、巨大な光の槍が密集していた量産機を蹂躙した。
一撃で、すべての量産機が爆炎を上げてしまう。
それほど凄まじい威力があった。
単純な攻撃力なら、おそらくASの中でも現行機最強となっているだろう。
ただ。
『やっぱりエネルギーの消費が凄まじいわ。無駄撃ちができないのは進化しても同じね』
「わかってる。使いどころはよく考えるよ」
「困ったときは頼ってくださいな。仲間ですもの」
『遠慮は無用です』
そういってくれたセシリアとブルー・フェザーにシャルロットは微笑みを返していた。
指令室のモニターには、現在のASすべての状態が表示されているものもある。
それを見ながら真耶が呟いた。
「ほぼフルだったのに、一撃で35パーセントのエネルギーが減ってますね。他の第3世代兵器に比べて消費量は三倍強、コストパフォーマンスは最悪です」
「人のことバカとかいえないじゃん」と、束がむくれる。
どうやら丈太郎の言葉を聞いていたらしい。
もっとも丈太郎にいわせると武装というより砲台として使うつもりだったのだから仕方ないということらしいが。
「二発は撃てるが、二発目は撃つべきではないな。その後の戦闘を考えるならば悪手だ」
すべての武装は機体のエネルギーを使ってしまっている。
これまでのように弾切れということがない代わりに、気づけばエネルギー切れによる行動不能状態を起こしてしまう可能性があるのがブリーズという機体だった。
「デュノア。判断は任せるが、二発目は基本的に撃たんようにしろ。今後の戦闘行動はできるだけペア以上で行うようにしていく」
「了解ですっ!」
素直にそう答えてくれたことに千冬は安心する。
あの場にセシリアがいてくれたからこそだろう。
今はそれなりに数も増えてきた。
できるだけ全員を生かすための戦術を考えるのが自分の役目だと千冬は気を引き締めたのだった。
鈴音が上段を狙って回し蹴りを繰り出すと、ラウラは下段からレーザークローを突き入れる。
二対一だが卑怯などとはいわせない。
勝つために協力することは間違いではないからだ。
それでも、紅椿は二本の刀を使って二人の攻撃を凌ぐ。
ならば、と、ラウラは耳を一本起動した。
「喰らえッ!」
発生したプラズマフィールドのレールカノンでプラズマ砲弾を撃ち放つ。
ぬぅッ!
至近距離での砲撃に、さすがに紅椿も苦悶の声を上げるが、何とか距離をとってかわしてのけた。
学習している戦闘技術は並ではないということだ。
サポートが必要だ。
そう鈴音とラウラが考えていると、下方からレーザーが紅椿を狙って放たれてくる。
「こちらは終わりましたわッ!」
「紅椿ッ、悪いけど君はここで止めるッ!」
セシリア、そしてシャルロットがそう叫び、紅椿を取り囲む位置まで昇ってくる。
やはりテンロウの主の武器では修復しきれぬか
四対一という状況でも紅椿は冷静にそう述べるだけだった。
AS四機を相手にすることになってもこの態度ということは、地力に差があるということだ。
(だが、こいつはここで止めなければ恐ろしい敵になる)
そう考えていたラウラにオーステルンが話しかけてきた。
『ラウラ、今の我らの停止結界なら、認識対象すべてを個別に捕らえることも可能だ』
(奴だけを止めて抉らせるということか?)
『そうだ。リンインにそう伝えるんだ』
ラウラ以外でISコアを抉ることができる接近戦専用の武器を持っているのは鈴音のみ。
ならば適役は鈴音しかいない。
ただ、紅椿はそう簡単には捕まえられないだろう。
牽制するものが必要となる。
(それは私たちの役目ですわね)
(そう簡単には逃がさないよ)
セシリアとシャルロットの答えにわずかな首肯で応えると、ラウラは鈴音に詳細を説明した。
(タイミングを外すなよ)
(…ったく、調子乗ってんじゃないわよ。きっちりやるわ)
『バレットブレイクを使うニャ。イチカのあれニャ』
バレットブーストからの直接攻撃。
猫鈴は勝手にそんな名前をつけていた。
まあ、気にすることではないが。
そして。
「行くぞッ!」というラウラの号令と共に、全員が一気に動き出す。
「フェザーッ、一斉射撃ッ!」
『畏まりました』
上下左右四方八方を取り囲んだ羽から、光の雨が降り注ぐ。
振り切ろうと高速移動を開始した紅椿だが、セシリアは即座に追い、決して羽を振り切らせはしない。
さらに。
「拡散砲撃ッ!」
『一気に行くわよっ!』
四つのサテリットを同時に展開し、無数のプラズマミサイルを撃ち放つ。
紅椿が逃げようとする先を塞ぐように放たれたミサイル。
だが、紅椿は手にした雨月と空裂をもって切り裂いていく。
「マオッ、点撃ちッ!」
『狙い撃つのニャッ!』
龍砲を使い、鈴音は紅椿の刀を狙撃した。
弾き飛ばそうとするものの、意外としっかり握っているのか、落とせない。
しかし、そこにセシリアのレーザーが襲い掛かり、ダメージを与えていく。
くッ、見事ッ!
本当に心から称賛しているのでなければ、この状況でこんなセリフは出てこないだろう。
自分を倒すためとはいえ、全員が見事な連携を見せていることに紅椿は本当に感心しているらしい。
そういう部分を称賛できるのは、『博愛』ゆえなのだろう。
味方になってくれればと全員が思うが、それがありえないことも理解できるのが悲しい。
しかし、だからこそ、容赦はしない。
上昇し、振り切ろうとする紅椿を認識したラウラは思い切り叫んだ。
「今度は逃がさんッ!」
『恐怖は乗り越えてこそ意味があると知れ』
むぅッ?
起動したAICの力は、以前と違い、まったく身動きをさせない。
それはラウラの意志の力が強くなったことの表れでもあった。
その瞬間を狙い、鈴音の頭上の光の輪が輝く。
「バレットブレイクッ!」
『発動ニャッ!』
再び娥眉月を五本の刃として展開した鈴音は、弾丸加速を使い、紅椿目掛けて自らを発射した。
「恨みはないけどッ、ここで眠ってもらうわッ!」
その爪が紅椿のコアを抉らんと機体に触れた途端。
我はここで倒されるわけにはいかぬ
そんな声が頭に響き、鈴音は猫鈴と共に弾き飛ばされた。
「きゃああぁあっ?」
『フギャンッ?』
「くッ?」と声を漏らしつつ、ラウラが停止結界を使って弾き飛ばされる鈴音を捕まえる。
『セシリアッ、シャルロットッ、こっちに固まれッ!』
慌てたようなオーステルンの声を聞き、セシリアとシャルロットはすぐに鈴音とラウラのところに飛んでくる。
「どうしたんだオーステルンッ?」
「ていうか、どうして鈴が弾き飛ばされるのっ?」
ラウラ、シャルロットが疑問を述べる。
答えたのは。
『このタイミングで進化するのはおかしいのですが……』
「えっ?」とセシリアがブルー・フェザーの言葉に振り向くと、紅椿が既に光に包まれていた。
「僕たちの心に触れたってことっ?」
『ありえん。全員冷静に対処できていた。これで進化するはずがない』
剥き出しの心に触れて進化するのだから、逆に冷静な、理性的な意識で進化する者はそうはいないはずだった。
全員が紅椿を倒すために戦術どおりに行動できていた状態なら、進化するはずがないのだ。
しかし、弾けた光の中から現れたのは、間違いなく使徒だった。
頭上に光の輪を頂く輝くような紅い身体。
その身体には同様に紅い、鷲を模した鎧を身に纏っている。
頭上には鷲の頭のようなヘッドセット。
胸部装甲、両手足の装甲には鷲の姿があしらわれており、腰周りには、全面だけがないまるでスカートのような装甲を纏っている。
だが、何より驚くべきは。
「何で、翼が四枚もあるのよ……」
『ありえないニャ。アレはあちしらの翼と一緒ニャ』
現れた使徒は実に四枚の翼を背負っていた。