鈴音は娥眉月をティンクルに突きつける。
「ティンクルだっけ。まだやるってんなら、本気で相手するわよ」
「じょーだん、ちょっと実力を見せただけよ。ちゃんとシャルやラウラにいってるわよ」
確かに、ちょっとというなら、十分なほど実力を見せてもらったし、まだ諒兵をIS学園まで届けられていない。
できるなら、ここで止めておきたいと鈴音も思っていたので、ティンクルにその気がないのはありがたかった。
とはいえ。
「ずいぶん馴れ馴れしいですわね」
「そうだね……」
「なんというか、コレまでの使徒とまったく印象が異なるな」
セシリア、シャルロット、ラウラはティンクルの態度に少しばかり呆れてしまう。
まるで、気のいい友人か、ライバルのような物言いだからだ。
「私もディアも簡単には倒されないわ。戦うなら、気合い入れてきなさいよね」
「いわれなくてもわかってるわよ。とはいっても、ディア、あんたこんなパートナーがいたのね」
『貴女と猫鈴と変わりありません。私は本来、パートナーと共にあるほうが実力を発揮できますので』
『……確かにニャ』
どこか苛立った様子でそう答える猫鈴に、鈴音は違和感を持つ。だが、今そのことを気にしている場合ではない。
とにかく諒兵をIS学園まで届けなければならないのだ。
話はとっとと終わりにしたいと鈴音は考える。
それでも、疑問点はあった。
今のティンクルとディアマンテの姿を考えると、他の独立進化でも、ある可能性が考えられるのだ。
その点については、シャルロットのほうが先に気づいていたようで、ディアマンテを問い質す。
『なるほど、オニキスやサフィルス、アンスラックスにもティンクルのような存在がいると考えられたのですか?』
「君の状況を見ると、十分に考えられるよね?」
『確かに、私たち使徒やASの本体は、本来は光の輪と鎧と翼になります。人形は仮の装着者として制作しているだけです』
しかし、その人形がティンクルのような人格を持っているのはディアマンテだけだという。
『他の方々にとっては、人形も本体のうちといえるでしょう。私の個性が少々特殊だったために、こうなっただけです。私は主の命を受けるほうが戦闘行動も実行しやすいので』
「本当に?」
「シャルってホントに疑り深いわねえ。あっ、そうだ♪」
なおも疑いの目を向けるシャルロットに呆れたのか、ティンクルはいきなり四人を指差し始める。
「ど・れ・に・し・よ・う・か・な♪」
そういって何かを選ぶように順番に指差していくティンクル。その指は、一人を指して止まった。
「へっ?」
「データ、ちょっと貰うわね♪」
そういうと、ティンクルとディアマンテの身体がいきなり光を放ち始めた。
進化か。
そう思った四人は、光が消えた後に表れたモノを見て絶句してしまう。
「なっ、なによそれえーッ!」
「データ貰うっていったでしょ。どお?」
「なっ、何でそんな姿に……」と、セシリアも呆然としてしまう。
四人と四機の目の前にいるのは、カナリヤを模した銀の鎧、すなわちディアマンテを纏う、鈴音そっくりの少女だったのだ。
「適当に選んだだけよ。あの透き通る身体もいいんだけど、こっちなら他の連中とごっちゃにならないでしょ?」
「あっ、でも……」と、鈴音そっくりになったティンクルは胸を押さえて微妙な表情を見せてくる。
「胸ちっちゃ。セシリアかシャルのほうがよかったかなあ?」
直後。
ティンクルは般若の形相で斬りかかる鈴音の娥眉月を光の手刀で必死に受け止めていた。
「勝手に人の姿借りといてその言い草は何よっ!」
「ゴメン、ゴメン。育たないのはどうしようもないわよね」
「殴ッ血KILLッ!!!!!!!!!」
そういって戦い始める鈴音とティンクル。
しかし、シャルロットとティンクルのときのようなシリアス感はまるでない。
その様子を三人は呆れた様子で眺めていた。
「でも、どうやって鈴の姿になったのかな」と、シャルロットが当然の疑問を呟く。
すると、鈴音とティンクルの戦いにそこまで興味がないのか、ディアマンテが答えてきた。
『貴女は真っ先に気づくはずです』
「えっ?」
『ティンクルが実行したのは、貴女の母の理論の応用です』
シャルロットの母、クリスティーヌが開発した量子転送。
転送時には有機体を量子データ化する必要がある。
つまり、鈴音の身体に関しては既に量子データが存在しているのだ。
これはセシリア、シャルロット、ラウラにもいえる。
ティンクルはその中で鈴音の身体のデータをコピーしたのである。
『その上で、人形の身体を再構成し、今の姿になったということです』
「それ、他の使徒でもできるの?」
『私は必要性を感じませんのでするつもりはありませんが、できなくはないでしょう』
つまり、今後はまるっきり人間のような見た目の使徒が現れる可能性があるということだ。
正直言って、あまり嬉しくはないとセシリア、シャルロット、ラウラは感じてしまう。
もっとも、鈴音ほどではないだろうが。
とはいえ、ディアマンテの態度には、ASたちも呆れているのか、オーステルンが声をかけてくる。
『ずいぶんとのんきだなディアマンテ』
『今の段階ではリンとティンクルの戦闘はただのじゃれあいにすぎないでしょう?』
『あなたってホントに敵っぽくないわ……』
『それらしい態度をとっていただきたいものですが』
強いということは、先のシャルロットとティンクルの戦いで理解できる。
そして、ティンクルが鈴音のような見た目になったとはいえ、本来その在り方は人類とは違うはずだ。
敵と馴れ合えば、攻撃する手が鈍ってしまう。
今後の戦いを案じ、三機のASは揃ってため息をついた。
いい加減、飽きたのか、鈴音が戻ってくる。
対して、ティンクルもいくらか距離をとりつつ、四人の近くまでやってきた。
「いっ、いがいとっ、やるじゃないっ……」
「鈴さんが肩で息をするとは……」
セシリアが驚くのも無理はない。
流星を難なく使えるようになった鈴音は、四人の中でもスタミナがあるほうだ。
そんな鈴音が肩で息をするほど疲労するということは、ティンクルは相当に強いということができるのだ。
「まあねー、悪いけど四対一でも負ける気はないわよ♪」
自信ありげに笑うティンクル。
だが、その自信を裏打ちするだけの実力があることを四人は感じ取る。
敵対したならば、ある意味では最悪の敵にもなりえると、今回のことで判明したのだ。
特にセシリアやシャルロットのような戦術家にとっては、厄介なジョーカーの誕生だということができる。
「できるなら、目的とか聞いておきたいけど……」
「やめておけ。どう見ても素直に答えるタイプじゃないぞ」
と、シャルロットのため息まじりのつぶやきに、ラウラが答える。
人をからかうのが好きというよりも、大事な部分は決して他の人がいるところでは打ち明けないタイプだと感じ取ったのだ。
ぶっちゃけツンデレである。
「まあ、今日のところは退いてあげるわ。そろそろ、そいつもキツいでしょ」
諒兵はいまだラウラの腕の中でぐったりしていたりする。
何気に酷い扱いである。
「うっ……、僕のせいかなあ……」
余計なこだわりを見せてしまったシャルロットが少しばかり落ち込んでしまう。
ラウラが諒兵を受け取った時点で転移していればよかったのだろうが、それでも、ティンクルの存在を知ることができたのはある意味では収穫なのだ。
『だから落ち込むな、シャルロット』と、オーステルンがフォローしてくる。
「そ。まあ、たまには遊んであげるから、気にしないでいいわよ」
「あんたがいうな」
ティンクルのどこかズレたフォローに鈴音がジト目で突っ込んでいた。
そして、けらけらと笑いながら、ティンクルは再びその姿を変える。
『少々長居してしまいました。申し訳ございません』
透き通る人形に戻ったのは、ディアマンテ自身が動いているということなのだろう。
ならば、戦う気がないということを示す上でもわかりやすい。
『此度の勝利は貴女方にわずかばかりの平穏を齎しましょう』
「どういうこと?」
『ISたちにとって、進化した者たちは強さの指標です』
その中で、ザクロとヘリオドールが死んだ。
強者が倒されたという事実は、少なからぬ衝撃を覚醒ISたちに与えたということができる。
しばらくは動けないだろうとディアマンテは説明した。
『今は翼を休めてくださると良いでしょう。ですが……』
遠からず、次なる敵が動き出す。
それはこれまでとは違った戦いへと向かうことになるだろうとディアマンテは語る。
『オニキスはともかく、サフィルスとアンスラックスは貴女方にとって別の脅威を生み出すはずです』
何より、進化を狙う機体はまだまだたくさんいる。
今後の戦いで最も重要な立場にいるのは、鈴音、セシリア、シャルロット、ラウラの四人。
この四人の在り方が、人類の今後を左右するのだ。
人の心の在り方がどう変わるかによって、味方が増えることもありうるし、逆に敵を作ることにもなる。
『貴女方の戦いがようやく始まることになりましょう。彼らが目を覚ますまでにより強くなることです』
「わかってるわよ。もう背中を見てるだけじゃない。あいつらの隣に立ってやるんだから」
そう、強い決意の表情で答える鈴音に、セシリア、シャルロット、ラウラも強く肯く。
『ならば、またお会いしましょう。それでは失礼いたします』
「じゃね、また遊んであげるわ♪」
そんな彼女たちを見ながら、どこか微笑んだような雰囲気を感じさせるディアマンテ、そして軽いノリで声をかけてくるティンクルは、一気に飛び去っていった。
IS学園に戻ってきた四人と四機はまず諒兵を一夏と同じように整備室に運び込む。
レオにエネルギーを注いでいくためだ。
あれだけ騒いで何の反応もないくらいなのだから、諒兵とレオは相当に衰弱しているといえる。
これは一夏と白虎にもいえることなのだが。
「やっぱり同じくらい時間かかる?」と、鈴音が呟くと、本音はあっさりと肯いた。
「機獣同化は白虎とレオのほうに負担かかるの~。だから~、おりむーとひーたんががんばらないとね~」
そう答えてきたことに、四人ともが首を傾げてしまう。
そこに答えたのはオーステルンだった。
『白虎とレオから力を引き出しつつ、負担をかけないようにするためには、一瞬で力を爆発させるほうがいいからな』
『長時間の同化はキツいのニャ。だから技として昇華する必要があるのニャ』
と、猫鈴が続けて答えると、四人は納得した。
それがまさしくASの単一仕様能力なのだろう。
どちらにしても、放てば確実に相手を倒す必殺技になるということだ。
「まだまだ完成には至っていないということだ。目を覚ましたら特訓だな」
「教官」と、ラウラがいったとおり、そこに千冬も現れた。
少しばかり目が赤いのが気になったが、突っ込むと絶対にシメられそうなので、触れないでおこうと誓う四人。
もっとも、千冬としては一番気になるのは、ようやく進化に至ったラウラとオーステルンらしい。
「ラウラの力になってくれて感謝する、オーステルン」
『これも運命だろう。だが今後もいろいろと迷惑をかけることになる。すまんなチフユ』
「気にするな。共に戦う仲間なのだからな」
どうにもこうにも、性格から口調、声まで似ているので、なんだか微妙な気分になる鈴音、セシリア、シャルロットの三人。
ただラウラだけは気にならないらしく、嬉しそうに微笑んでいる。
そこに。
『おくっ?』
突然現れた天狼を千冬が生身で鷲掴みにしていた。
「いいか、私の外見でバニーガールとかやったら貴様だけは本気でシメあげるぞ」
『おやおやー、見抜かれてしまいましたかー』
まったく悪びれる様子のない天狼である。
ちょっと見てみたいと全員が思ったが、そんなことをいえば間違いなく三途の川を渡らされる気がした。
『安心しろ。私としてもそんなのは趣味じゃない』
そういって、ラウラの肩の上に立つ軍服の大人びた女性。
銀のショートヘアで兎の耳と尻尾、そして眼帯を付けている。
オーステルンの会話用インターフェイスだが、外見はどう見ても鬼軍曹であった。
『まるっきり同じでは私も微妙な気持ちになるからな』
「ふむ。それなら安心だな」と、千冬が安堵の息をつく。
外見はラウラをベースに成長させた姿らしい。
ただし、隻眼とはいっても、ラウラとは眼帯の位置が逆なのだが。
いずれにしても、ずいぶんと良心的な性格のオーステルンである。
ちなみに、オーステルンの待機形態はドッグタグのついた黒い首輪だった。
ただ。
「いいなあ、性格も口調もマトモで」
「おかしいですわ。ASですのに」
「ラウラの裏切り者……」
鈴音、セシリア、シャルロットの類友三人娘が悲しそうにたそがれていた。
かぽーん。
という擬音が聞こえてきそうな、桃源郷のような光景が広がっている。
鈴音たち四人を含め、ティナ、本音も一緒に大浴場でのんびり入浴しているのだ。
「まずは汗を流してこい」という、千冬の温情により、全員で風呂に入ることにしたのである。
真昼間から入浴するというのは、なかなかの贅沢であった。
「にしてもティンクルにはムカつくわ」
「鈴そっくりってのが災難ねー」
鈴音の愚痴にティナが笑う。
鈴音としては笑いごとではないが、コレに関しては同じ悩みを持つ者が他にいないので仕方ない。
「しかし、実力は高い。舐められる相手ではないな」
ラウラの言葉に全員が肯く。
しかし、何故そこまで強いのか、疑問にも思える。
ディアマンテは本来は第3世代機。紅椿、今はアンスラックスを名乗る第4世代機とはスペックの点で劣るはずだからだ。
その点に関して、本音が説明してくる。
「集まってくる戦闘情報は~、何も機体に限った話じゃないからね~」
「えっ?」
「そういえば、以前諒兵がいってたね。覚醒ISが自分の戦い方に対応してるって」
不思議そうな顔をする鈴音に対し、シャルロットが納得したように話す。
要は、エンジェル・ハイロゥに集まってくるIS操縦者の戦闘情報を学んでいる可能性があるということだ。
「機体に依存しない戦い方なら、世代は関係ありませんものね」
「だとしたら鈴たちの戦い方をヴァージョン・アップさせてるのかしらね」とティナが感想をいってくる。
無論のこと、鈴音たちに限った話ではなく、これまでのIS操縦者。
すなわち千冬から始まる全てのIS操縦者のいいとこ取りをしている可能性もあるのだ。
「厄介だなあ」と、シャルロットがぼやく。
今後敵として出てきた場合、戦い方を予測しづらいからだ。
いわば究極の万能キャラクターといえるだろう。
「それだけではありませんわ。あの『銀の鐘』はかなり厄介な第3世代兵器ですし」
「あの追尾能力は脅威だったよホントに」
と、セシリアの意見に対し、実際に喰らう羽目になったシャルロットがため息をつく。
そこで、ふと思いついた鈴音が口を開いた。
「ティナは知ってたの?」
「さすがに軍用機の機密まで知ってるわけないでしょー?」
「当たり前の話だな」
ティナの回答もラウラの言葉も当然である。
シルバリオ・ゴスペルは第3世代機というより、軍用機の側面のほうが強い。
当然、学生や候補生でも情報を教えられるわけがない。
ただ、あの厄介さでは公開したがらないのも無理はないとその場にいた全員が納得した。
「明らかに戦争か、対テロ目的で作られてるね~」
「……ディアの性格には合わない気がするわね」
本音の言葉に鈴音がポツリと呟く。
これまで、ISはコアの個性など関係なく、制作されてきた。
当然、個性に合わない性能を持つISがいる。
『従順』のディアマンテが、戦争や対テロを目的に戦う上で、向いているかといわれると疑問を持たざるを得ない。
そういう意味では、ティンクルが好戦的でも外道といえるような性格でなかったことは救いがあるといってもいいだろう。
「ツヴァィクも戦力増強の目的があるとはいえ、個性を考えた上で再開発されているし、今後は個性は無視しないだろう」
「性格とか考えてあげるといいんだけどね」
そういって笑う鈴音を見ながら、セシリアはふと思う。
(一夏さんや諒兵さんに心が近いせいか、鈴さんもISコア全員にどこか優しすぎますわね……)
それは決して悪いことではないのだが、サフィルスに思うところがある自分や、オニキスを嫌悪するシャルロットとは気持ちにズレが生じるかもしれないとセシリアは考えていた。
IS学園、指令室。
「却下だ」と、千冬は冷徹な眼差しでモニターに映る女性将校に答える。
後ろに控える真耶も厳しい表情をしていた。
[何故です?ドイツ軍では新たにISを開発しているのでしょう?]
「ツヴァイクはもともとシュヴァルツェ・ハーゼのハルフォーフ大尉が抑えていたという経緯がある。ゆえに新たに開発しても離反の可能性が少ない。だから許可したまでだ」
さらにレオの意見から、共生進化の可能性を示唆されたことも理由の一つだと千冬は説明した。
「アメリカだけではない。イギリス、フランスなどの他国でもISの再開発は認めていない」
[ですが、現有の戦力はあまりに低いのです。我が国アメリカを守るためにもISは必要です]
通信相手はアメリカ軍の上級将校だった。
現状、IS委員会ではなく、IS学園がISに関してすべてのことを決定しているので、わざわざ通信してきたのである。
ISを再び開発するためにコアの凍結を解除してほしい、と。
「敵になる可能性がゼロではないんだ。無謀な賭けはできんといっている」
[ですが凍結したISコアの大半は人類に協力的だと聞いています。ならば戦力増強の可能性もありますよ。リスクに怯えるだけでは戦争には勝てません]
千冬が即決で却下したにもかかわらず、女性将校は食い下がる。
なんとしても戦力増強したいのだろう。
千冬としても、その気持ちはわからないではない。
一夏を含め、現在、最前線に出ているのは全員学生だ。
以前、一夏と諒兵が苦しんだことを考えても、精神が幼すぎてまた心が折れそうになるかもしれない。
ならば、軍人が使えるISを開発することは、大きな助けになる可能性はある。
それでも。
「今は確実な方法で防衛していくほうが良い。一発逆転を狙うようなギャンブルをするべきではない」
「既に絶対的に不利な状況にあります。大きく賭けることも必要なはずですが」
そんなかたちで平行線を辿る二人の会話に、別の声が割り込んでくる。
「凍結解除できなくて困ってるから、なんとかしてくれって素直にいえば?」
「束?」と、千冬が訝しげな顔を見せたとおり、口を挟んできたのは束だった。
「がっちり固めたから、私以外だとあいつしか無理だもんね。あっちには聞いたの?」
[……博士にも凍結解除に関しては反対されました。その代わりとしてPSのデータは無償で譲っていただきましたが]
PSとして開発されたラファール・リヴァイブも何機かアメリカに渡っているし、まったく助けていないわけではないのだ。
「ならばそれで我慢してくれ。今は耐えるときだ。まだ戦力は少ない。一つ一つ勝利を掴んでいくしかないんだ」
「ちーちゃん、こいつはそんなこと考えてないよ」
[どういう意味です、ドクター篠ノ之?]
「今のあの子たちなら自分にも進化の可能性がある。力が欲しいんでしょ。国じゃなくて自分のために」
図星を指されたのか、女性将校の顔が引きつっていた。
現在、力を失っている女性は、再び往時の力を取り戻したいと願っている。
しかも、今は男性でも進化の可能性を持つのだ。
力を失った女性ばかりではなく、男性も力を望んでいることに変わりはない。
圧倒的な力を持つ一夏と諒兵の単一仕様能力。
世界は、二人が決闘で見せた新たな力を自分のものにしたいと渇望していた。
「そんな理由であの子たちを戦わせないで。あの子たちは人間のオモチャじゃないッ!」
[もともと戦えるように開発した上にッ、あの白騎士事件を起こしたのはあなたでしょうッ!]
シルバリオ・ゴスペルの一件に関しても、一枚噛んでいることは既にわかっていると女性将校は怒鳴る。
「罪は償うよ。でもね、ディアマンテには感謝してる。あの子たちがようやく自分の意志で生きられるようにしてくれたからね」
でも、だからこそ、人間の勝手にされたくないと束は悲しそうに語る。
ISコアたちがようやく自分の意志で生きられるようになったということは、ようやく本来の目的である宇宙開発にも使うことができるということでもあるのだ。
空の果てまで飛んでいく。
それこそが、ISを作った本当の目的で、その目的であるならば、きっとISコアたちも応えてくれると束は理解していた。
「だから、何をいわれても今は凍結解除しない。寝てる子たちは自分の意志で眠ってくれたの。叩き起こすようなまねをしたら容赦しないからね」
「くッ!」と、そういって女性将校は通信を切る。これ以上の問答は無意味と悟ったのだろう。
その場に静寂が訪れる。
「束……」
「なんだろうね。最近、身体重いんだ」
物理的にではない。ただ、いつも重圧を感じていると束は呟く。
「……それが当たり前なんだ。嬉しいよ束」
「えっ?」
「お前も成長しているということだからな」
世界を変えてしまった重圧を、今の束は一身に受けてしまっている。
その辛さを分かち合えるほど強くはないが、それでも少しでも助けになりたいと千冬は思う。
「私たちは幼馴染みで親友だろう?」
「ありがと、ちーちゃん……」
そんな暖かな会話を、真耶が微笑みながら見つめていた。