ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第85話余話「腐っても天使」

一夏と諒兵がザクロとヘリオドールと決闘してから三日後。

そう、たった三日である。

にもかかわらず。

 

「我がドイツの科学力は世界一ぃぃぃぃぃぃっ♪」

 

シュヴァルツェ・ハーゼの面々が全員(アンネリーゼを除く)吠えていた。

驚くことに、今ドイツにいる(変態)科学者たちはたった三日でシュヴァルツェア・ツヴァイクの再開発を終わらせてしまったのだ。今日がPSのシュヴァルツェアシリーズも含めた、初テストなのである。

あわよくば進化に至ろうとみんなが考えているので、テンションは上がりまくりである。

「まあ、戦力増強は必須だし……」

一人だけローテンションなアンネリーゼだった。

それはともかく。

「おねえさまっ!」

「ええ」と、言葉少なに答えると、クラリッサは新たなシュヴァルツェア・ツヴァイクを展開した。

現在のスペックは以前とは異なる。

実はAICは外していた。スペック的にもかなり重く、使いづらいからだ。

そのかわり、現在のシュヴァルツェ・ハーゼの隊員数にあわせ、全13個の分離可能な独立の武装を搭載。

量子変換による収納ではなく、機体に搭載しているのである。

それぞれ、

 

接近戦用の実体剣、1。

スナイパーライフル、2。

ヘビーマシンガン、2。

ガトリングカノン、2。

ミサイルランチャー、2。

レールカノン、2。

シールド付きパイルバンカー、2。

 

ほとんど飛ぶ火薬庫の勢いである。

他に類を見ない変態武装のISと化していた。

「かっこいいですっ、おねえさまっ!」

「ありがとう、みんな」

砲身だらけのこれをカッコいいと思うシュヴァルツェ・ハーゼの隊員の未来が心配である。

「まずは武装の分離機能を確認するわ。全員、PSを起動して」

「はいっ!」と、このときばかりはアンネリーゼも素直に従った。

シュヴァルツェア・ツヴァイク、そしてPS共に問題はなく、今後前線に出て戦うことを覚悟し、全員の顔が引き締まる。

「それでは……」

「はいっ!」

その場が厳かな雰囲気に包まれる。

いよいよ、シュヴァルツェア・ツヴァイクと語ろうというのだから、当然のことではあるが。

 

「ツヴァイク、力を貸して。私たちは隊長の力になりたいのよ」

 

数分の間、全員が沈黙して待つが、一向に『声』が聞こえてくる気配がない。

話し方を間違えただろうかとクラリッサは首を捻る。

「隊長がいうには、必死の叫びに応えるんですよね?」と隊員の一人が意見を出す。

「そのはずなんだけれど……。あと、空がどうとか」

実際、鈴音に始まる女性のIS操縦者の進化では、大半が必死に叫ばなければならない状況にあった。

そう考えるならば、必死の思いを伝えることは間違いではないはずだとクラリッサたちは考える。

しかし、何度呼びかけてもシュヴァルツェア・ツヴァイクは応えない。

「お願いツヴァイクッ、力を貸してッ!」

さすがにクラリッサも必死になる。

このまま何の力にもなれないのでは、戦っている者たちに対して申し訳ないからだ。

「お願いですッ、ツヴァイクッ!」

隊員たちも必死に懇願する。それほどにラウラの、そして戦っている者たちの力になりたいと全員が思っていた。

だが、なにより。

 

「「「隊長と一緒に飛んで間近で萌えたいのよッ!」」」

 

「おいちょっと待て」と、思わずアンネリーゼが突っ込んでいた。

 

その言葉が聞きたかった

 

「えっ?」と、思うアンネリーゼだが、さらに『声』は続ける。

 

貴女たちの想い、確かに受け止めたわ

 

「ツヴァイク?」と、クラリッサが語りかけると、『声』は肯定してきた。

 

飾った言葉なんていらない。一緒に萌えましょうね

 

「えー、やだー、なんでASまでこんななのー……」

わりと本気で泣きたくなったアンネリーゼである。

だが、他の隊員たちはシュヴァルツェア・ツヴァイクが応えてくれたことに素直に喜んでいた。

「ありがとう、ツヴァイク」

そういって微笑むクラリッサに、シュヴァルツェア・ツヴァイクは続けてくる。

 

ただし……

 

「ただし?」

 

私はイチ×ダン派です。そこんとこヨロシク

 

腐ってた。どうしようもないほどにシュヴァルツェア・ツヴァイクは腐ってた。

もう泣いていいよねと虚ろな目で空を見上げるアンネリーゼに対し、隊員たちは喝采を上げる。

「あえて受けっぽいイチを攻めに据えるとは、やるわねツヴァイク」

 

ヘタレ攻めこそ至高よ

 

ウス異本が厚くなりそうな会話で盛り上がる一同。

シュヴァルツェア・ツヴァイクは進化してはいけないんじゃないかとアンネリーゼは思う。

というか、こんな性格のISと進化などしたくなかった。

しかし、そうは問屋が卸さない。

「みんなで萌えましょう。あなたの名は『ワルキューレ』よ」

 

ええ、飛べれば間近で萌え放題だものね

 

北欧神話。

戦士の魂を天上の地ヴァルハラへと導く戦乙女の総称ヴァルキリー、そのドイツ語読みである。

とはいえ、こんな性格のASの名前に使われることが心から申し訳ないアンネリーゼだった。

 

そんなこんなで、シュヴァルツェア・ツヴァイクと共に光に包まれたクラリッサは、新たなる姿を見せる。

その際、弾けた光がシュヴァルツェ・ハーゼ全員のPSに吸い込まれた。

そして現れたのはハウンド、すなわち猟犬をモチーフに、犬耳のヘッドセットに猟犬のシルエットの胸部装甲。

両腕、両足の装甲ははそれぞれ二の腕、太ももまでを覆う。

腰にはひときわ特徴的な鞘付きの大剣。

そして背中の大きな二枚の翼には、片方に六個ずつ、計十二個の武装が搭載されていた。

「ワルキューレ、さっきの光は?」

『私たちの力をその鎧に少しだけ分けたの。いくらかスペックが上がってるはずよ』

「おおーっ!」と、歓声が上がる。

進化するほどとはいかなくても、現状よりスペックが上がっているのなら心強い。

やっていることは実にマトモなワルキューレである。

『私を纏った者は腰の剣で戦うことになるわ』

「やっぱり他の子でも纏えるのね?」

『その点はレオがいっていたとおりよ。ここにいる全員が私と一緒に戦える』

翼の武器は分離可能で、シュヴァルツェ・ハーゼの隊員ならば使うことができるという。

やってることは非常に助けになるだけに、性格さえまともだったらとアンネリーゼは頭を抱えていた。

とはいえ、やはり類は友を呼ぶということだろう。

 

「私はっ、類でもなければ友でもないっ……」

 

涙ながらに空に訴えるアンネリーゼだった。

 

 

 

 


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