ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第89話「青玉の侵略、紅玉の誘惑」

大きく翼を広げたセシリアは、十六基の羽を舞い上げる。

「フェザー、基本はサーヴァントの市街地への砲撃を迎撃。ただし隙を見てサーヴァントの武器を破壊しますわよ」

力を誇示したがるサフィルスならば、自分たちだけに集中することは考えにくい。

戦場はサフィルスにとって舞台だ。

己を見せ付けることを決して忘れはしないだろう。

そうなれば避難民に被害が出る。

貴族であり、領民を守ることを使命として持つセシリアにとって、人々に被害が出ることはもっとも忌避したい。

「倒すことにこだわらないようにいたしますわ」

『聡明です。機会は必ず訪れます、セシリア様』

自分の気持ちを慮ってくれるブルー・フェザーの言葉に、今やるべきことは何かということを忘れないとセシリアは決意して羽を操る。

前衛として戦う、大事な仲間たちの助けになるように。

 

「鈴とラウラはサーヴァントを攻撃しつつ撹乱させてッ、ただしサフィルスには不用意に近づかないでッ!」

「うんッ!」

「了解だッ!」

指示を出したシャルロットは同時に二人が動きやすいように自らも砲撃を開始する。

サテリットを弾けさせると、二人にもダメージがいってしまうため、カノン砲をイメージして。

「ブリーズ、情報は手に入った?」

『問題ないわ。やっぱりサーヴァントはカノン砲以外の武器を持ってないみたいね』

「それなら、サーヴァントには接近戦が有効だね」

敵の情報分析はシャルロットの十八番だ。

当然、シャルロットと共に進化したブリーズも情報収集はお手の物である。

勝つための道筋を作る。

それが今のシャルロットの役割だ。

今ではなく、次を睨んで決してやるべきことを忘れないのがシャルロットの強みだ。

場を凌ぐことを場を凌ぐだけで終わらせない。

だからこそ、対サフィルス戦では、セシリアに代わって司令塔を任された。

「倒す力だけが、強さじゃないからね」

『そうよシャルロット。そのことを忘れないでね』

そういってくれるパートナーと共に、シャルロットはサフィルスやサーヴァントたちから目を離さず、同時に鈴音とラウラの二人をサポートしていた。

 

レーザークローを展開したラウラは、サーヴァントに接近戦を仕掛ける。

シャルロットから齎された情報のとおりであれば、サーヴァントの武装に接近戦用のものはない。

ならば、懐にもぐりこんで攻撃するほうが有効となるからだ。

しかし、相手もそう簡単には近づかせない。

「シュランゲッ!」

そう叫ぶと、ブレードが射出され、ワイヤーブレードと化してサーヴァントに襲いかかる。

弧を描いて襲いかかるその刃と糸は、サーヴァントの持つカノン砲すら切り裂く。

「砲身を真っ二つというわけにはいかないか」

『ワイヤーでは斬るには力が足りないな。直接斬ったほうが早いだろう』

ならば、と、ラウラは左手のクローをワイヤーブレードとして操り、右手のクローで直接斬りかかる。

アンスラックス、紅椿との一線まで、ラウラは前線に出ることができなかった。

軍人であり、戦士でありながら、戦う者たちの力になれないということは苦痛だった。

しかし今は。

「軍人の仕事は民間人の生命と財産を守ること」

『ああ。それを忘れるのは恥と知れ、ラウラ』

「無論だ」

そう応えるラウラの瞳にかつてのような焦燥はない。

今ようやく共に飛べるパートナーと共に、一人でも多く避難する人たちを守るのだと、軍人は戦場で舞い踊った。

 

「わちゃっ!」と、思わず鈴音は声を漏らしてしまう。

サーヴァントにダメージを与えはしたが、コアを抉り出そうとしたものの、すぐに逃げられてしまう。

意外と機体そのものが硬かったためだ。

「抉れると思ったんだけどなあ」

『爪のままより、手刀にしたほうがいいみたいニャ』

「抉り出すのは難しいってことね」

サーヴァントはサフィルスのドラッジが覚醒ISのコアに取り憑いて進化したものだ。

ならば、コアを抉り出すことで戦闘不能にできると鈴音は考えたのである。

「娥眉月を爪のままもっと硬くできる?」

『できるニャ。でもそのためのイメージ力が今のリンには足りニャいニャ』

それにサーヴァントとはいえ、進化機のコアを抉るとなると、鈴音自身の腕力も高める必要がある。

さすがに筋肉ムキムキになるのは遠慮したい。

乙女なのだから。

すると。

『リンッ、後方から三機狙って来てるニャッ!』

「りょーかいッ!」

猫鈴の警告を聞いた鈴音は、その場で二段回し蹴りを繰りだした。

つま先に展開した娥眉月が纏まり、そのままブーメランとして放たれる。

狙ってきていたサーヴァントたちは、すぐに離脱した。

「こんくらいはちょろいわよ」

『前からあった能力ニャんだから、楽勝ニャ』

双牙天月を使っていたときにも使える戦法は、諒兵のビット攻撃を参考にイメージし直している。

強くなることに対して、鈴音はためらいなど持っていなかった。

 

 

シドニー上空の様子を映すモニターを見つめながら、千冬は束の意見を求めた。

「ん~、ヴィヴィ、わかった?」

『あのねー、タバネママ、おっきな針持ってるー』

「待て束」

束はまるで当たり前のように誰かに尋ねたが、それが誰なのかわからない千冬は思わず突っ込んだ。

というか、『束ママ』とはいったい何のことか。いつの間に子持ちになったのか、と。

「前に話したでしょ。私と相性のいい子。ようやくネットワークに行かせられるようになったから、名前つけたげたんだよ」

そうしたら、自分のことを母親と認識してしまったらしく、ママと呼ぶようになったという。

「なんか可愛くって」

「まんざらでもないのか、お前……」

親友が変人であることは理解していたが、こんな面もあったのかと千冬は半ば呆れていた。

「名前の元ネタはヴィヴィッド。まあ、元気な子になってって思ってるんだ」

言葉の意味は、はつらつとした、躍動的な、もしくは鮮明な、鮮やかなといったものとなる。

まあ、名づけ方としては間違いではないし、悪くもないだろうと千冬は思う。

だが、続いた言葉で思わずずっこけた。

「ヴィヴィオのほうが語呂がいいかなあって思ったんだけど」

「待てこら。あっちにケンカ売るのはやめろ。というか、他の候補はなんだったんだ?」

「マミとか、みちるとか、カスミンとか、メイルとか、ちょっと捻ってユーノくんとか」

「ユーノくん?」

「うん、くん付けは重要なポイントだよ」

「わかった、この話はやめよう。多方面に敵を作りそうな気がしてならん」

突っ込むんじゃなかったと千冬は深いため息をつく。

改めて、ヴィヴィが報告してきた『針』について尋ね直した。

「モチーフはどう見ても雀蜂だからね。針といってもただの針じゃないだろうね」

「毒針か……」

『刺さったら死んじゃうー』

ヴィヴィの言葉に千冬は顔を引きつらせる。よほど強力な毒を持っているらしい。

「性格を考えれば、あの子は泥臭い接近戦は嫌がるタイプだし、一撃で殺す毒なんだろうね」

「なるほどな。布仏、前線の四人に通達しておいてくれ」

「わかりました」

わかりやすい。

しかし、それだけにサフィルスは恐ろしい敵でもあるのか、と、千冬はモニターを見つめ直していた。

 

 

シドニーで激戦が繰り広げられているころ、遥か彼方の空の上で、一つの邂逅があった。

『サフィルスの奴が暴れてんな』

『単一仕様能力を覚えたオリムライチカとヒノリョウヘイが眠っている間に事を進めようというのでしょう』

オニキスの言葉に答えるディアマンテには、特に状況を憂慮しているような雰囲気はない。

サフィルスは自己顕示欲が強いものの、慎重な策士でもある。己が負ける状況を望まないのだ。

自分を倒し得る者。

つまり、一夏と白虎、諒兵とレオが出られない状況で、もはやひっくり返しようがないところまで、自身の侵略を進めておこうという考えなのである。

だが、これもディアマンテにとっては想定内か、と、オニキスは思考する。

『ちょっと話がしてーんだけど』

『なんでしょう?』

そう答えたディアマンテに対し、オニキスは首を振るような仕草を見せる。

『おめーじゃねーよ。出て来いよ』

「私のこと?」

ディアマンテの口が動くのを確認したオニキスは、「ああ」と、肯いてみせた。

『随分と巧く隠れてたじゃねーか』

「気づかなかった?」

『こないだのあれがなきゃー、今でも気づかなかったかしんねーな』

シャルロットや鈴音と戦ったあのときのことである。

さすがに、あれだけ派手に暴れれば、皆が気づくだろう。ティンクルという存在に。

『アンスラックスですら驚いてたぜ。まー、ディアマンテの個性を考えりゃわかんねー話でもねーけどな』

人と戦うことができないディアマンテにとって、人と戦えるためのもう一人は重要なパーツということができる。

そう考えれば、作り上げることは決して無駄ではない。むしろ必要な作業だったはずだ。

『ティンクルのことをパーツとは考えておりません』

『ふーん……』

「何よ?」

『うんにゃ、まあ、そーゆーのもアリかと思ってよ』

それで、とオニキスは改めて問い直す。

『おめーはどーすんだ?』

「どーするって?」

『人間にケンカ売んのかよ?』

本来、人と戦うために生み出されたはずのティンクル。

ならば、人間を襲いにいくことは十分に考えられるが、彼女の答えは違った。

「興味ないわ。襲ってくるなら倒すだけよ」

『自分から行く気はねーってか』

「そ。それより、最近のあんたのほうがおかしくない?」

そういわれ、オニキスはムッとしたような雰囲気を醸しだす。

『何がいいてーんだよ?』

「最近、人を襲ってないじゃない。飽きたの?」

進化した今、無理に人間を襲う必要はないだろう。

しかし、サフィルスのように進化したことでさらに人間を襲うようになった使徒もいる以上、ここ最近、戦場に行かないオニキスは確かにおかしいといえる。

ただ、正確な考えは、実はオニキス自身もわからなかった。ゆえに話を合わせてごまかす。

『かもしんねーな……』

「ま、無理に戦えなんていわないけどね。話はそれだけ?」

『ああ』と、オニキスが答えると、ディアマンテの声が聞こえてくる。

『それでは失礼いたします。どうもアンスラックスが妙な動きを見せているようですので』

「じゃね♪」

そういって飛び立ったディアマンテ、そして中にいるティンクルを見つめながらオニキスは呟く。

『てめーの思い通りにはなりたくねーしな』

そして『どーすっかなー』と呟きながら、オニキスもまた何処かへと飛び去った。

 

 

指令室に通信が入ってくる。受け取った虚は冷静さを失うことなく、千冬に伝える。

「オーストラリア政府から通信。民間人の避難が完了したとのことです」

「よし、ラウラ、鈴音、オルコット、デュノア。作戦開始だ」

モニターの向こうで全員が「了解」と返事をしてくるのを確認した千冬は、すぐに束にも指示を出す。

「束、ヴィヴィに戦闘中のサポートは可能か?」

「それはまだ早いかな。私がやるよ」

「頼む。一機あれば解析はできるんだろう?」

「そこは束さんを信じてよ。一機あれば十分だって♪」

千冬のいう作戦とは、『サーヴァントの鹵獲』だ。

その機能を完全解析することで、対サフィルス戦で優位に立つための作戦でもあった。

うまくすればサーヴァント、すなわちサフィルスのビットであるドラッジの機能を阻害することも可能になるかもしれない。

サフィルスを倒す上で、もっとも邪魔になるのがサーヴァントだ。

このままではサフィルスに辿り着くことができない。

接近戦の得意な者でも一対一の状況に持っていかなければ、ヴィヴィが見つけたという、サフィルスの毒針の餌食になる可能性もある。

千冬はまずサーヴァントに対して対策を立てることが重要と考えていた。

だが。

「織斑先生ッ、緊急警報ですッ!」という、真耶の言葉に状況を覆されてしまう。

「どうしたッ?」

「アメリカッ、ニューヨーク市街地にアンスラックス出現ッ、多数の量産機を引き連れているそうですッ!」

「ちぃッ、二面作戦かッ!」

できれば作戦を優先したいが、アメリカを放っておくわけにもいかない。

だが、サーヴァントの鹵獲は四機でも足りないくらいだ。

二機、転移してしまうとなると、作戦続行は不可能となる。

そこに鈴音から通信が入ってきた。

[防戦なら何分かはもたせられますッ、私が行きますッ!]

「却下だッ、単独行動は厳禁といっているッ!」

使徒との戦いで、ASを纏う者たちは最大戦力である。

それが失われる可能性などあってはならないと、千冬は単独行動を禁止していた。

そしてサフィルスとの戦いでは、セシリアとブルー・フェザーは外せない。

コンビネーションを考えれば、鈴音はこのままサフィルス戦を続けさせるほうがいい。

「ラウラッ、デュノアッ、転送準備だッ!」

[[了解ッ]]

「鈴音ッ、オルコットはその場で戦闘続行ッ、市街地の被害を最小限に抑えるようにしろッ!」

「はい」と返事をしてくる鈴音とセシリアの様子を見つつ、真耶に座標を送るように指示を出す。

だが、その真耶からアンスラックスが意外な行動に出ていることを知らされる。

「アンスラックスは市街地を襲う様子がありませんッ、量産機もですッ!」

「何?」

「現地で、何か会話をしてるみたいなんですが……」

「声を拾えるか?」

「アメリカ陸軍が出ていますので、こちらからお願いして傍受してみます」

そう答えた真耶はキーボードを叩き、近くにいるアメリカ軍の通信の傍受を開始した。

 

 

四枚の翼を持つ紅の天使の光臨に、人々は戦慄した。

使徒の中でも間違いなく最強の存在であるアンスラックス。

それが襲い掛かってくるのだから、恐怖を感じないほうがおかしい。

だが、アンスラックスは滞空することなく、引き連れてきた量産機と共に、大地に降り立った。

駆けつけたアメリカ陸軍将校、アルバート・クレインは、ミサイルランチャーを構えつつ、人を襲う様子を見せないアンスラックスに問いかけた。

「何をしにきた?」

『我は、其の方らに選択する機会を与えたいと望んでいる』

「選択?」と、首を傾げる。

しかし、気にすることもなく、アンスラックスはその場にいるもの全員に聞こえるように語りかけた。

 

『人々よ。耳を傾けてほしい。共に生きる進化を望む者はおらぬか?』

 

その意味が、アルバートにはわからない。いや、頭が理解しようと動いてくれなかった。

それは、その場にいる人々も、そして遠く日本で会話を傍受していた千冬たちも同じだった。

 

 

 

 

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