最近疎遠だったデカイ幼馴染と小さい俺の話。
身長の話かもしれないし、そうでないのかもしれない。
最初に書きたかったシーンは男女が逆だったのに、気づけば男が縮んでしまった。なぜだろうか…
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大きな彼女に憧れて

そろそろ半袖が必要な時期になってきた。しかし太陽が隠れていると少し肌寒く感じる時期でもある。

今日の朝は特に気温が低いからか、長袖を着た生徒が多い。

そんな中騒がしい声が気になって顔を上げると、出どころは目立つ容姿からか、クラスの中心になっている女子たちのようだ。

登校してからHRが始まるまでの短い時間で、よくもまぁ毎日毎日話すことがあるものだ。

時折聞こえてくる内容から、桜月を囲んで話をしているようだと分かる。

桜月は俺の幼馴染だ。小さい頃の記憶を思い出すと、常に桜月の顔も並んで出てくる程度には長い付き合いで、

家も隣なこともあり,家族ぐるみの付き合いをしていた。今もこうして同じ学校、同じクラスと、腐れ縁が続いている。

だが、俺はあいつを見ているだけで少し複雑な気持ちになる。

原因は分かっている、長身だ。悲しいかな俺の身長は小さな頃から一度もあいつのそれを超えたことがない。

よく似合うポニーテールと、花が咲いたような笑顔を振り回す姿は、記憶の中の印象とは違う。

ただ同年代の中で頭一つ抜けた長身だけは、昔と変わらない。

はたして今は何cmあるのだろうか。コンプレックスであるものをわざわざ聞く気にはならない。

こうして眺めていることは多いものの、話すこともめっきり減ってしまった今、その機会もないのだが。

そんな事を考えていると、教師が教室へ入ってきた。それを見て皆、自分の席に戻り出す。

また今日も、退屈な授業を受けなければならないと思うと、それだけで気が滅入る。

 

そんな俺の気持ちに空が共感したのか、昼には雨が降り出し、放課後となった今もなお降り続けている。

部活にも入っていないし、友人も用があると言い残し、急ぎ足で何処かへ行ってしまった。しょうがない、早く家に帰るとしよう。

そう思い昇降口で靴を履き替え、念の為にと持ってきた傘を手に取ろうと思った矢先、軒下に目立つ長身とポニーテールが見えた。

見間違えようがない、桜月だ。手持ち無沙汰に空を見上げている様子から、傘を持ってないのは明らかだ。

天気予報でも雨が降る確率が高かったように思うが、確認していなかったのだろうか。

そういう抜けたところは、記憶の中のままだ。傘を手に取り軒下で開くと、その音に反応した桜月が結んだ髪をなびかせ振り向く。

振り向いた桜月と眺めていた俺、当然のように目が合ってしまう。

「あ、ケンちゃんだ、もしかして今から帰るところ?」

「おう」

「つまりは傘を持っているってことだよね?」

「…そうだな」

「ちょうどいいし入れてよ。どうせ同じところまでだし」

「っておいお前、返事聞く前に勝手に入るなコラ」

「いいのいいの」

結局強引に傘の下に入られてしまった。こんなところを見られると恥ずかしい。見られる前に早く帰ろうと、少し早足で歩き出した。

「なんか傘が低い気がする…」

「嫌なら出ていけ」

人の傘に入っておいていきなりなんだコイツは。

「なんか久々に話すような気がするね」

「そうか?」

「そうだよ。でも久々に並んでも身長は変わってないね」

「やっぱ出ていけお前」

久々に話したのは事実だが、この距離感は変わらないままだ。

懐かしい気持ちになったせいだろうか、先程まで少し緊張していた心が落ち着いたように思う。

「なんか距離おかれてた気がするんだけど、私なにかした?」

「いや…別に」

避けていた自覚はある。小さい時、男女で遊んでいるとからかわれるなんてよくあることだ。

それが嫌で男子グループで遊ぶようになった。そのせいで桜月の誘いを断るようになり、そのまま距離が空いてしまった。それだけだ。

結局男子グループには上手く馴染めなくて、あまり友人は増えなかったのだが。

「そういうお前こそ何かあったのか?昔そんなキャラだったか?」

「ふふっ、そういうわけじゃないんだけどね。恥ずかしいから言いたくないけど、傘に入れてくれたし、特別に教えてあげる。

昔一緒に遊んでてからかわれた時あったよね?あの時は言い返せなかったけど、すごい内心では怒っててね、

別にいいじゃん!って、言い返したかったなって。今度は言えるようにって、そう思ってたらこうなったのかな…それだけだよ」

正面を向いているせいで顔は見えないが、本人が言うように恥ずかしいのだろう、頬が赤く染まっている。

だがよかった。俺も見せられない顔をしているだろうから。

俺はただ、逃げただけだった。逆に桜月は向き合って、何かあった時に言い返せる自分になったということであろう。

今の桜月を見ても分からないが、昔は内弁慶だったはずだ。いつも俺の後ろをドコドコと着いて来て、たまになにもないところでコケていた。

服を汚た事で後々怒られることを考えて、泣きそうな顔をしている桜月を構う時間が好きだったと。そんな余計なことまで思い出す。

「それだけ…か」

俺とは違って、今の桜月にとっては本当にそれだけのことなのだろう。

そうやって変わった桜月と比べると、身長なんて事でコンプレックスを抱いていた自分を、恥ずかしく感じる。

桜月の横顔を見上げる。俺が傘を持っているせいで、その大きな身を小さく縮こまらせて、無理やり傘に収まっている。

狭い場所にかくれんぼで無理やり隠れていた昔の姿を、なんとなく思い出した。

やはり記憶の中には桜月とのことばかりだ。桜月のことばかり考えている自分がおかしくて、思わず笑ってしまった。

「何が面白いの?」

「いや別に。何度見ても大きいなって思っただけだ」

「ケンちゃんが小さいだけじゃないの?」

「出てけ。せめてお前が傘持てよ」

「いやだよ」

「なら縮め。今すぐ縮め。本当にお前は…大きいな」

「169cmあるからね!」

「俺もこれから大きくなるからな」

「昔からずっと言ってるよね。変わらないけど」

これからも身長は変わらないかもしれない。でもそれだけのことだ

大きくなれるのはそれだけではないのだと、分かったのだから。気づけば雨はもう止んでいたが、傘は開いたままでいようと思う。

桜月を縮こまらせないよう、思いっきり傘を持つ手と背筋を伸ばし、速度を落として歩き出した。




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