知波単学園最強の軍師   作:Aa_おにぎり

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第一二五射

テントから試合開始地点までの道中、みほは轍の残る道を歩いていた。

するとエンジン音が聞こえ、振り返ると一台のボールが横を通過し、少し前で停車した。

 

「エリカさん?」

 

その時、ハッチを開けて後ろからエリカが困惑気味に顔を覗かせた。

 

「…なに?テントまで歩いて来たの?」

「あ…ううん。ゴリアテに乗って来たんだけど、私のは調子が悪かったから帰りは歩く事にしたの」

 

会議後、西と戻ると言った真澄を残してみほ、河嶋、角谷の三人はゴリアテに乗っていた。

無線操縦可能で、一〇〇キロまで積載可能なラジコンは実際に戦時中にアメリカ軍が乗り込んで遊ぶといった珍兵器になってしまっていた。

 

「考えも纏めたかったし」

 

みほは道中で壊れてしまったゴリアテを整備班に連絡してから、開始地点まで歩いていた事情を聞くと、エリカは呆れた。

 

「なにしてんの」

「え?」

 

するとエリカはみほに手招きをして操縦していた車両、クーゲルパンツァーに乗せる。

 

「早く乗んなさいよ、送るつってんの」

「あ…うん」

 

ややぶっきらぼうなエリカに、みほは少し余所余所しく乗り込んだ。

 

「顔」

「え?」

 

その道中、エリカはみほに話しかける。

 

「表情、険しいって言ってるの。『指揮官は苦しい状況でも顔に出さない』いつも言われてたでしょ。あなた、他の生徒の前でもいつもそんな顔してるの?」

 

エリカから指摘をされ、ようやくみほは自分は今どうなっているのかを理解した。

 

「あ…普段はもっと気を付けてるんだけど、お姉ちゃんや真澄さん、エリカさんのまえだとつい…。あっ、でも最近は優花里さんの前でもちょっとしちゃうかな」

 

そこで言っていて、みほはハッとなった。

 

「えっと優花里さんって言うのは…」

「あのモジャッ毛でしょ、知ってるわよ」

「え?」

 

驚くみほに、エリカはつらつらと並べていく。

 

「砲手は五十鈴華。操縦手は冷泉麻子。あと足がむっちりしてるのが武部沙織。一度負けた相手なんだから、次に備えて調べるのは当然でしょ」

「そっか…みんな大切な友達なんだ」

 

みほはエリカに納得した様子を見せると、彼女は声でもわかるみほの明るい声に色々と察せてしまう。

 

「楽しそうね、そっちに行ってから」

「あ…ゴメン…」

「別に謝る必要なんてないわよ。よかったんじゃないの」

 

エリカは黒森峰の頃よりも明るそうな雰囲気のみほに寂しさを覚えた。

 

「しっかりやんなさいよ。戦力は整えたんだから」

「うん。エリカさん、ありがとう」

 

そして開始地点に到着をすると、そこでみほは先に降りて先ほど言っていたあんこうチームの面々と合流をして、そこで笑顔を見せながら話す様子を見て、エリカは少し羨ましそうな表情を見せた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「西住みほさん…か」

 

観客席の前で、愛里寿はみほの写真に触れて名を呟いていた。

これから試合が始まるが、その前に母の千代に呼び出しを受けていた。

 

「お待たせしました」

「お母様、お呼びでしょうか?」

 

そして約束通り、観客席から千代がきて愛里寿は顔を見る。

 

「ええ、貴女に伝えておかなければならないことがあります。試合に付随することについてです」

 

千代はそう言うと、愛里寿にある事実を告げる。

 

 

 

「貴女達がこの試合で負けた場合、大洗女子学園の廃校は正式に撤回となります」

 

 

 

それを知った時、愛里寿は頭で鐘を鳴らされたような衝撃を受けた。

 

「…え?」

 

一瞬理解が追いつかず、唖然となる彼女に千代は言う。

 

「わざと負ければ、大洗を救うことができると言うことですね」

 

正直、齢十三の娘にするべき話ではないことは千代も重々承知していた。しかし、言わなければならないことでもあると分かっていた。

 

「なぜ、このタイミングで伝えたかわかりますか?貴女を動揺させるためです」

 

そこで二人の間のディスプレイには大洗女子学園と大学選抜チームの三〇対三〇の文字が浮かぶ。

 

「普通に戦えばこの試合、貴女はわけもなく勝利するでしょう。自身にとって何の糧とならずに」

 

千代は愛里寿が、持っていた資料を思わず手放しそうになるほどの衝撃を受けていることを把握する。

 

「人を成長させる要素とは?」

「大きな目標に良質の負荷」

「よくできました。つまりはそう言うことです」

 

彼女はそこで膝を曲げて顔を近づける。

 

「間違っても良質とは言えませんが、これからはこういった盤外での要素が絡む試合が多くなり、今まで静謐だった貴女の空間に雑音がどんどん混ざってきます」

 

大人になるとはそういうことである。

 

「ですがそれでも貴女は心を乱されることなく、常に冷静で皆の陣頭に立たなければならない。それが指揮官というものなのです」

 

上に立つ人間として、今後島田流の後継としての未来がほぼ確定している愛里寿だから千代はこの選択をした。

 

「知らされて気分のいいことでないでしょう。貴女のとった行動が、貴女の知らないところで物事を悪くさせるように影響を及ぼす。知らされていない方が良かったですか?」

 

千代はそこで唖然となる娘の目を見る。

 

「もう一度尋ねます。愛里寿」

 

彼女は自分の愛娘に対し、とても褒められたわけではない現実を突きつける。

 

「貴女がこの試合で勝つつもりなら、『大洗の息の根を止める』という決断をしなければならない」

 

これから行われる試合はそういうものであると、まざまざと言い放つ。

 

「できますか?」

 

その疑問に、愛里寿は冷や汗をかいてしまう。

 

「いいのですよ、立ち止まっても。貴女にはいつも多くのものを背負わせてしまいます」

 

彼女の頬を軽く撫でる千代に、愛里寿はその手を優しく両手で握ると、キリッとした鋭い視線を向ける。

 

「いいえお母様。やり遂げて見せます」

 

今までのみほの言動や雰囲気の理由が合致し、同時に覚悟しなければならないと理解した。

 

「では行ってきます」

「ご武運を」

 

愛里寿はそう言うと、試合開始地点まで向かった。

そして見送る千代は、そんな娘の後ろ姿を見ながら呟く。

 

「私たちが勝てば、大洗の処遇を悪くないものにと要求することが可能でしょう」

 

そして愛里寿はダッジWCに乗り込む。千代が今の話をしたことにはもう一つ理由があった。

 

「のちの選択を得る。勝者と敗者の違いはそこです」

 

そして向かったのを見送ると、そのまま観客席に戻っていく。

 

「戦うのを選んだのなら、勝ちなさい愛里寿。全てはそこからです」

 

ダッジWCの中で、それでもやはり難しい表情を浮かべてしまう愛里寿に千代はささやかな応援を送った。

 

 

 

「私が初めて戦車に乗ったのは、高一だったかしらね」

 

観客席の一つ。そこで日傘を開いて座る私服姿の一人の女性。

 

「意外です。もっと前に乗っていたのかと」

 

そこでその右斜め前に座っていたしほが反応する。

 

「そんなそんな。私の家は元々、戦車道をやらせない家だったし」

「…」

 

しほは観客席に座る黒田清子に初めて知った話を聞かされる。するとそんな二人に戻ってきた千代が話しかける。

 

「あぁ、これはこれは。お久しぶりです」

「決勝戦以来ね。千代ちゃん」

 

そこで軽く手を振る清子。戻ってきた千代はそのまま静かに席に座ると、ややつまらなさそうな顔をする。

 

「なんだ、もう『しぽりん』と『ちよきち』で呼ばないのね」

「…もう何歳だと思っているんですか」

「お互い、もうそう言うことを言える立場じゃありませんよ…先輩」

 

そう言って清子に呆れるしほと千代。三人はかつて、同じチームに所属していた。

 

「もう二人とも家元だものね。ヤダヤダ、年取ったって感じしちゃうわ」

 

清子はそう言うと、北海道の青空を見上げる。

 

「…まだ高校生は『守られる側』だったから良かったわね」

「「…」」

 

懐かしむように呟いたその日ことに、しほと千代は沈黙する。

 

「高校から一足出ればわかるけど、純粋なままの戦車道ができるのは高校生までね。大学からはもう…外的要因があまりにも増えてしまう。まともな戦車道なんて、できなくなるわね」

 

彼女はそう言うと、そこでふと思いついたように視線を二人に合わせて提案する。

 

「…終わったら蝶野と菊代を呼んで飲むか」

「「えっ!?」」

 

その提案に思わず二人とも驚愕した顔で清子を見あげてしまった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「おーい、準備終わったのか?」

 

みほ達が試合開始の準備を進める中、大学選抜も同様に準備を進めていた。

 

「お疲れルミ。ごめん、まだ」

「無駄話してないで早く済ませろよな」

 

先ほど、愛里寿を送り届けたルミは他の搭乗員達に聞いた。しかし彼女達の表情は暗いままである。

 

「いやー、そうなんだけどさ…」

「ルミ先輩、この試合どう思います?」

 

いきなり聞かれたので、ルミもややアバウトな返答をしてしまう。

 

「どうって…まあちょっと変な感じはしてる」

 

少なくとも彼女や他の乗員達も今までの試合前の展開から、この試合の違和感について色々と感じていた。

 

「だろー、結果的に大洗が車輌数を合わせてきたけど、当初の三〇対九での殲滅戦って、もう試合じゃないじゃん」

「参戦車両もCV-33って、どう考えても戦力にはなりませんよね」

 

真澄がサラダボウルと表現した大洗の今の陣営。

 

「生存要員なんでしょうか?時間制限ないんだから逃げ回ってればそれで負けにはならないし」

「うっわ…最後まで残したくない…」

 

殲滅戦のルールを鑑み、一番嫌な事をされそうなことに思わず顔を顰める。

 

「急遽決まった試合って言うのもあるけどさ、そもそも大学選抜の相手が全国優勝したとはいえ一高校ってどうなのよ」

 

彼女達は文科省から大まかな話聞かされず、大洗側が抱える問題はつゆ知らずであった。

 

「廃校前にせめてもの思い出作りみたいな配慮なんだろ」

「にしてはおかしいとは思うだろう、こっちは()()まで持ち出して?」

 

単純な高校生との試合で、正直やりすぎな気がしていると彼女達は違和感を覚える。

 

「う〜〜ん…いや気乗りしないのも分かるけどさ、今は相手より自分たちの事だろ?くろがね戦も前半ボロボロだったじゃないか」

 

ルミはそこで、話を大洗から自分たちの問題に切り替えさせる。

 

「中隊単位での練度は高まってきてますけど、個別で動くと綻びがヒドいですね…」

 

彼女達も選ばれるだけの実力はあり、そこでこのチームの問題点を理解できる。

 

「選抜が結成されて日も浅いからな、でも原因はそこじゃない」

「なにさ?」

 

そこで彼女は戦車に乗り込む準備をする愛里寿を見る。

 

「わかってるだろ、島田流の技を目の当たりにしてるとさ。全国から集まったエリートが練習でこてんぱんにされてるからな」

「みんな自信を無くしてるんだ。だから自分の立ち位置を見失ってる」

「いや〜〜、なんなんですかね。あの強さ…今までの戦車道観は粉々に砕かれましたよ」

「…笑うしかないよな」

 

今までの練習もそうだが、島田愛里寿という飛び抜けた才能を見てしまった彼女達は、優れたアニメーターの絵に消しゴムをかけられないのと同様、彼女に対し尻込みをしてしまっていた。

 

「あ、悪い。愚痴ってる訳じゃないんだ」

「わかってるよ」

 

そこでルミが聞いていたことにハッとなったが、彼女はそれほど気にしていない様な口調で答えた。

 

「今日もしっかりやります!あ、それとおやつのみかんどうぞ」

 

そこで搭乗員はルミに解凍されたみかんを投げ渡すと、そのまま自分たちの戦車の準備にかかる。

 

「…マズいな〜〜〜」

 

その様子を見て、ルミは苦笑気味に今の部隊の士気低下を危惧した。

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