神をも殺す宿業有れかし   作:Skyer

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やる気が出たら書くと言った。その言葉に嘘はない、きっと。

割とこの話書きたいなと思ってたんですよ。やる気なかったから書けなかったんですけど。


天之河光輝の憧憬:地球編

 

 

天之河光輝という少年にとって、その憧れは鮮烈だった。

 

前提として、彼はお爺ちゃん子と言っても良いほどに祖父に懐いていた。

 

祖父が話してくれるお話が好きだったからだ。祖父は敏腕弁護士で、様々な人たちを法廷で弁護してきた。その話をよく光輝に聞かせてくれたのが始まりだった。

 

ヒーローとは、身近にいれば身近にいるほどに憧れは強くなっていくものだ。

 

どんな悪人の悪事を暴いてきたか、無実の人をどのように救ったか。

 

それを語る祖父の表情は、その仕事に誇りを持っているようにも見えて、自分もそうなりたいと思うようになるのは、ごく自然であったと言えるだろう。

 

だから、試した。悪を挫くヒーローみたいに。

すると恐ろしいほどに成功した。

光輝自身のスペックが高かったのか、下級生に手を出す上級生に喧嘩で勝ってしまったのだ。

 

光輝にとってそれは確実な成功体験だった。

強きを挫いて弱きを助ける経験というのは、光輝にとっては何にも変え難い嬉しさと自信に裏付けされていく。

 

本来なら、ここで光輝は次の助ける相手に雫を選ぶつもりだった。

最近雫の元気がないのはわかっていたから。

 

ただ、いざ行動に移そうとしたその時には状況が変わっていた。

 

少しずつではあったが、目に見えて雫が元気を取り戻していっているのだ。

 

最初は、強い雫のことだから乗り越えていってるんだろうと思っていた。

だが、それは間違いだったとその日の小学校の下校時に知った。

 

雫の迎えに来たという、一人の男性。

その男を見るや否や、雫は満面の笑みで男に走り寄っていたのだ。

 

話には聞いていた、最近雫の家が雇った若い男の鍛治職人だと。

幼いながらに“難しいことをやれる凄い人”だと思っていたのを覚えている。

 

光輝がその男、村正を強く意識したのはその日からだった。

 

 

 

________________________________

 

・光輝の村正観察記その1

 

 

某日某時

 

それは道場の稽古が終わった時の事。大人の部が始まるから子供の部の参加者は自由時間及び帰宅時間になった光輝は、今日は親が病床に伏せている祖父の見舞いに行っていることもあり、夜まで道場に預かりという形だったことを思い出した。

 

「あ、雫!…って早!?」

 

通っている道場の一人娘であり、仲の良い幼馴染の雫と遊ぼうと彼女を呼びかけたのだが、一早く私服に着替え終わっていた雫は既に道場の離れの部屋へと走って行っていた。

 

 

雫があんなになって走ることも珍しい。その先に何かあるのかと好奇心が湧くのも仕方のないこと。雫に気づかれないようにこっそり後をつけようと雫の走る方向に足を進めるが…

 

「ま、迷った」

 

雫の足は光輝よりも早く、加えて雫の家はかなり複雑な作りになっている。

雫を見失って数分、光輝は迷ってしまった。

 

あっちでもこっちでもない…と右往左往してみるものの、どこも似たような景色が続き、流石に不安が胸中に滲み出した時───

 

「よォ、こんな所でどうした?」

 

突然背後から声をかけられ振り返ってみれば、そこにいたのは最近雫の送迎とやらで校門で見かける青年、村正がそこにいた。

 

「え、あ、その…」

 

「ああ、大方迷ったんだろ。こんなとこに来るようなのなんざこの家の連中くらいしかいねェしな」

 

光輝が言葉を纏めきる前に、困ったような笑顔を浮かべる村正。

事実子供なのだが、子供扱いをされているようで少しムッとした顔をして言い返す。

 

「迷ってなんかいません、雫を追ったらここまで来ただけです 」

 

「ああ、雫なら儂の部屋にでもいるんじゃねェのか。全く、爺ィの部屋なんざ面白ェこともなかろうに 」

 

光輝の言葉を聞き流し、頭を掻きながら「ついてきな」と一言だけ言うと、村正は歩き出す。

紺色の着流しから垣間見える村正の鍛え抜かれた肉体に、どうやったらあんなにムキムキになるんだろう、と考えながら歩くこと数分。

 

一つの部屋の前に立った村正はその襖を開け、中に入る。

 

「まだ雫は来てねェか」

 

中の部屋は、今まで光輝が見てきたこの家の部屋の中でも一際異質だった。

部屋にずらりと立てかけられている刀に目を奪われる。

八重樫の道場は何も剣道だけではなく、抜刀術などの本物の日本刀を使う道があることは理解している。だから刀があること自体に違和感はなかったのだが、その数が数だ。部屋中に立てかけられているそれに、光輝の少年心は酷く擽られた。

 

「言わんでもわかると思うが、全部本物だから触んなよ 」

 

キョロキョロと視線を見回す光輝に村正は一言忠告し、棚の中にある白鞘の刀と拵えを取り出し、目の前に座りながら作業を進めていく。

 

白鞘から刃を抜けば、ギラリと輝く刀身が露わになる。素人目から見ても業物だとわかるその刀身に目を奪われながら村正の作業を気付けば食い入るように眺めていた。

 

目釘穴から金具を取り外して、柄も取り外す。そして一つ一つ行われる丁寧な作業を以て、刀の“着替え”が行われる様に光輝は我を忘れたように引き込まれる。

 

極められた職人技というのだろう。一つ一つの所作に無駄がない。

淡々と鮮やかに進められ、その美しい刀身が鞘に納められた音で初めて光輝は我に返った。

 

「ガキにゃあつまらん光景だと思うがね。ま、ここまで見てったンなら試し斬りにも付き合えよ 」

 

ガキ呼ばわりされた事は気にも留まらず、村正の後についていく。

 

入ってきた方向と逆の襖を開ければ、そこには少しだけ開けた中庭と、その中心には新品の藁人形が立てかけられていた。

 

そして、目の前に先程拵えた刀を腰に差した村正が立つ。

 

柄に手を掛けゆっくりと鞘から引き抜き、刀身が日の下に晒された。

 

ゆっくりと藁人形の前で、村正が刀を構える。

 

 

そして────────────

 

()ッ───────!!!」

 

光輝の目には、何も見えなかった。

わかったことは、ただ村正の掛け声と共に銀の軌跡が走ったと思えば、目の前の藁人形がバラバラに寸断されていたと言うことだけ。

 

振った瞬間も何も見えなかったが、ただ斬ったと言う事実だけが残る光景に改めて目を奪われていた。

 

稽古を教えてくれる雫の父親や祖父ですら、このような速さで刀を振ることはできないだろう。

 

それを容易く行なってのけた村正に、純粋に心を奪われた。

 

残心して尚輝くその刀にも。

 

「握り良し、振り良し。悪かねェ、佳い出来だ」

 

二度、三度軽く振りながら満足そうに呟く村正は刀を鞘に納め、光輝の方へと振り向く。

その琥珀色の眼光に射抜かれたような気分を覚えた光輝は、自然と姿勢を正す。

 

「満足したかい、小僧」

 

「は、はい!」

 

「そォかよ。なら態々慣れん武士の真似事をした甲斐があったってもんだ」

 

悪戯っ子のように笑っているのに、その言葉から放たれる貫禄はまるで慕う祖父を見ているようだったと、光輝はそう思った。

 

「あの───」

 

「村正さん!!」

 

とある言葉が喉から出掛けた時、凛とした声が耳朶に響く。

声の方向を振り向けば、そこには服を着替えた雫がいた。

光輝の隣まで走ってきた雫からは、石鹸の匂いがする。どうやら、稽古後の汗を流してきてから来たのだろう。

息を整えながら、雫は光輝がそこにいたことに初めて気づく。

 

「え、光輝、なんでここに…」

 

「お前さんに用があったんだとよ。どうせ儂ンところに来ると思った、先んじて部屋に招いて爺ィのつまらん手慰みに付き合ってもらっただけだ」

 

中庭から草履を脱いで通路に上がってきた村正の片手にある刀を見て、雫はあからさまに不機嫌そうな表情をした。

 

「…試し斬り、私だって見たことないのに」

 

「い、いや、俺も今来たから見ては──」

 

「がっつり拵えから魅入ってたもんでなァ。気が散るなんて三流臭ェことは言わんが、集中してみるもんでもなかろうによ」

 

「ちょっ…!」

 

「ずるい!」

 

ムスッとした表情で村正を睨む雫の表情は、普段の凛とした表情の雫しか見てこなかった光輝にとって新鮮で、その雫を優しく慰める村正の表情は優しそうで、まるで自分の入る隙がないように感じたのは一生の秘密だ。

 

これが、初めて祖父以外の大人の男性を心の底からかっこいいと思った一度目の瞬間だった。

 

________________________________

 

 

 

 

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・光輝の村正観察記その2

 

その日は、酷く雨が降っていたことを覚えている。

そして、なんの因果か村正と二人で買い物に行った日でもあった。

 

理由は単純。雫が風邪を引き、その見舞いにきた光輝が流れで雫の薬と軽食を買いに行く村正に付き添うことになったのだ。

 

「いやァ、悪いな小僧。儂じゃ雫の好みがわからなんだ。おまえさんなら知ってると思って、助かったぜ。あとでお前さんにも握り飯をやろう、そいつでロハにしちゃくれねェか」

 

「別に良いですよ。雫は俺の大切な幼馴染ですから」

 

出会った当初は村正の小僧呼びに一々反発していたが、この頃は既に反発することもなくその呼び名を受け入れていた。

光輝は否定するだろうが、相当懐いていたのだと思う。

それこそ、雫と村正の取り合いをして喧嘩をするくらいには。

 

その時に仲直りしたご褒美に村正に振舞って貰ったおにぎりがとても美味しく、それが貰えると思うと少し光輝の中にあった雨の中の憂鬱さも晴れる気がした。

 

そうして、薬局へと行き、スーパーで食事の材料を購入した帰り道の事だった。

 

「あれは─────小僧、これ持ってろ!」

 

帰り道にある橋の方向にふと目を向けた村正が急に顔色を変えて傘と持ち物を光輝に持たせて走り出したのだ。

 

一目散に川に飛び込んだ村正を制止する暇もなく、何事かと橋に目を向ければ、そこに橋の上から飛び降りる瞬間だった光輝と同じくらいの歳の女の子がいた。

 

雨により川の流れは激しく、人が入れば即座に流されていきそうなそんな川に村正は躊躇なく飛び込んだのだ。

 

無理だ、二人とも助けられない。

 

光輝の頭の冷静な部分がそう告げる中、光輝は足が竦んでその場に立ち止まることしかできなかった。

 

その数秒後──────

 

「救急車呼べ!!」

 

川の中から意識を失った女の子を背負った村正が出てきて、光輝に叫んだ。

 

その後の記憶を、光輝はよく覚えていない。

 

無意識に体は動いたのか、救急車を呼んで、救命活動をする村正をただ眺めていたのか。付き添いで病院に行くことになった村正に先に帰るように言われて、一人で無力感と不甲斐なさを感じながら帰ったことは覚えている。

 

その後の聞いた話によると、村正の救命活動のお陰で女の子は一命を取り留めたらしい。

 

その後、女の子の劣悪な家庭事情から引き離され、児童保護施設に保護されることになった女の子の事を気に掛けた村正は、毎日のように様子を見にきたと言うことを、その女の子──中村恵里に聞いた。

 

自分が何もできなかった不甲斐なさを噛み締めながらも、あの時一度も止まらず動いた村正の背中がとても大きく感じて。

無意識ながらにこの人には敵わないなと、光輝はそう思った。

 

 

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・光輝の村正観察記その3

 

祖父の急死というのは、光輝にとって強い人生の転換点である。

 

自分にとっての一番身近なヒーローとの別れは、光輝に深い心の傷を与えた。

そして同時に、光輝に遺された祖父の話が光輝の支えになっていた。

 

即ち、強きを挫いて弱きを助ける正義の精神、時には悪も許す寛大な心。

 

それらを自分に教えてくれた祖父は偉大だったが故に、光輝はその話を心の支えにし過ぎてしまった。

 

故に、それは生来の思い込みの激しさと噛み合い、危うさとなる。

 

その筈だったが──────

 

「よォ、光輝(・・)。飯でも食いに行こうぜ。手前(テメェ)の親に許可は貰ってるからよ」

 

「むらまさ、さん」

 

ある日、稽古の終わった後に、突然村正に声を掛けられた。

雫も行きたいと村正にせがんだが、珍しいことに村正は「男の話」と、雫を連れてこなかった。雫のそういう我儘はなんでも聞いていた村正が、だ。

 

その事に意外に思いながらも、憧れている人からの誘いを断るなんて選択肢は光輝にはなかった。

 

連れて来られたのは、一軒の中華料理屋。

祖父のお気に入りの店で、この店の炒飯を食べながら祖父の話を聞くのが光輝は好きだった。

 

村正と一緒に炒飯を頼み、最近の剣道の近況を話しながら届いた炒飯を二人で食べるだけの、そんな時間。

 

半分くらい食べ進めた所で、村正が口を開く。

 

「美味ェな。あの爺さんが教えてくれただけのことはある」

 

「…祖父さんのことを?」

 

「手前のお袋に言われてな。一度会ってくれって頼まれた。良い男だったぜ 」

 

「 そう、です。祖父さんは凄くて、俺はあの人みたいになりたくて───── 」

 

「 “正義の味方”になりたいって? 」

 

「 ッ……はい 」

 

村正という男は、ふとした時に光輝の心の核心をつく。

決意や感情という壁を容易く無視して光輝の心に入ってくることがたまにあった。

 

「…あの、一つ、お願いがあるんです」

 

「俺を、貴方の…」

 

「ああ、待て」

 

あの時言えなかった言葉。

『弟子にしてください』という言葉が放たれる前に、村正に遮られる。

 

「大方予想は付く。その上で儂にゃそれは荷が重い」

 

「どうしてですか、村正さんは俺よりも早く、俺が助けられなかった人を簡単に助けてる。俺もそうなりたいんです!」

 

恵里の事も雫の事も、光輝が気づくより早く気づいて助けたヒーロー。それが光輝の中での村正という男だ。

自分が目標にすべき人物だと本気で思っているからこそ、村正の元で学びたいのだ。

 

「ああ、勘違いすんな。別に儂のようになりてェって想いは、まぁ、気恥ずかしいがガキの憧れってことで大人しく受け入れてやらあ」

 

「だが、手前の目指す“正義の味方”をやるには儂も荷が重いってんだよ」

 

「どういう、ことですか」

 

「そうさな、まず儂は目に映るもの全てを助けるだとか、みんな幸せにとかそういった大層な思想は持っちゃいない。儂がやってんのは『誰を助けたいか』って話なんだよ」

 

「誰を助けたいか…?」

 

「ああ。まずは雫、次に儂を受け入れた八重樫の連中、その次に手前ら、最後に見知らぬ赤の他人ってな。動機なんざそんなもんだ、目の前で泣かれちゃ飯が不味くなるとか、後悔するとか。自分の為って言えばいいかね」

 

「兎に角、全員助ける人間になりたいってお前さんの考えとは別なのさ」

 

「その上で聞くぜ。光輝。手前は誰の正義の味方になる」

 

「正義ってのは流転する、手前にとって正しいことが他の奴にとっては間違いな事にもなるんだ。その時、お前はどっちを取る」

 

「その答えが出せた時、改めて儂の元に来るがいいさ。納得いく答えが出せたら、手前にも一振り鍛ってやるよ。それが儂の弟子の証だ」

 

その時は上手く言葉が出ず、ただ考え続ける光輝の頭をひたすら撫でて、夜になるまで自分に付き添ってくれたのを光輝は忘れることはない。

 

まるで村正がどういうものを助けたいのか、教えてくれるように。

 

これが、天之河光輝という少年の転換期だった。

 

 

 

________________________________

 

 

 

 

「……き、…うき、光輝!」

 

「……雫?」

 

「いつまで寝てるのよ、今日は演武の日でしょ。うちから道具を取りに行かないといけないんだから早く準備しなさい!」

 

「あぁ、ごめん。すぐ用意するよ」

 

「珍しいわね。あんたが私が来るまで起きないなんて」

 

「少し、な。懐かしい夢を見ていたんだ」

 

「…?そう、まあ良いわ。あ、村正さんが朝に食べる用にって」

 

「本当か!?助かるな、このお握りだけでやる気が凄く湧いて来るよ。母さんの朝食よりも好きかもしれない」

 

「美耶さんに聞かれたら殺されるわよ。ほら、さっさと準備しなさい」

 

あの日の問いから数年後のとある日の朝。

 

高校生になった光輝は未だ迷い続けながらも前に進んでいる。

 

「…いってきます」

 

祖父の遺影の前で手を合わせて目を閉じる。

 

毎日欠かさないように、自分の心と向き合うために忘れるなと言われたから。

 

「光輝ー!置いてくわよ!」

 

「ああ!今行く!」

 

天之河光輝、17歳の朝。

 

彼は今日も歩く。『自分が助けたい人たち』の為に。

 

その背中には、“白い意匠の入った太刀”が背負われていた。

 

 

 

 

 

某日に起こった、集団神隠し事件早朝の出来事である。

 

 

 





勇者をどうにかして勇者にしたい。

ならば村正に脳を焼いてもらおう!

と言うわけで今作は勇者もちゃんとしてます。迷いながら進む子供から大人になる最中です。

彼の成長を見守ってあげてください。

ヒロインメインの倍以上の文量を書いている。私は勇者を愛していたのか…!?


次回は主人公回です。それが書けたら本編に入っていこうかな。
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