覇気使いの日記   作:パンツハキハキマン

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大抗争日記 IFルート

 

 ×月×日

 

 大抗争1日目。

 

 午前中は、いつも通りのメニュー。

 素振り1万回→剣舞→目隠し修行→同期と模擬戦の流れをこなす。

 

 模擬戦の結果は五分五分。あっちはあっちで魔法の使い方が前より上手くなってて普通にうざい。距離を詰めたと思ったら風を纏って消えるの、あれズルだろ。オレも一閃の踏み込みで何度か良い形を作れたし、内容としては悪くなかったと思うんだけどなー。

 

 修業明けから続けている流れだが、今日はいつもより少しだけ街の空気が硬い気がした。別に何かが見えたわけじゃない。ただ、うちの赤ちゃん見聞色が妙にざわついてた。

 

 ―――まぁ、気のせいか。

 と流して、午後は同期と買い物へ出た。

 

 メインは、前回の攻略で消費した状態異常対策の薬品と回復系のポーションの補充。細かいけど古くなってた包帯や止血キットも買い直し。

 

 同期は、魔力回復系のポーションをじっと見ていた。

 

 将来的に魔法剣士になるつもりらしい。

 

 ……いや、魔法剣士って、それは主人公じゃん。

 

 そんなことを考えながら露店通りを歩いていた時だった。

 

 

 

 街の奥で、爆発音がした。

 最初は、魔石製品の事故かと思った。

 

 でも、違う。

 

 次の瞬間、悲鳴が上がった。

 煙。火。逃げる人。転ぶ人。倒れた屋台。割れた瓶。石畳を転がる果物。その中を、黒ずくめの集団が走っていた。

 

 ――—闇派閥。

 

 そう理解した瞬間、オレたちは動いていた。

 風を纏った同期が屋根へ跳ぶ。人混みを避けるように高所へ上がり、そのまま黒ずくめの進路へ飛び込んだ。

 

 オレも正面へ走る。

 

 「逃げろ!」

 

 叫びながら、一番近くにいた黒ずくめを止めた。

 

 考えるより先に身体が動いていた。

 何が起きているのかは分からない。

 

 でも、市民が襲われている。

 

 なら、冒険者(オレら)が前に出る。

 

 黒ずくめの一人が火種を持って走る。腕を落とす。次の黒ずくめが路地から出てくる。蹴り飛ばす。屋根から降ってきた奴を同期が風で弾く。その下に逃げ遅れた子どもがいたから、襟首を掴んで後ろへ投げた。

 

 泣き声。

 怒号。

 爆発音。

 

 どこから何が来ているのか分からないくらい、街が一気に壊れていく。

 

 ただ、その場の敵を倒せば終わり、という感じじゃなかった。

 

 規模がおかしい。

 目の前でたまたま起きた事件じゃない。

 

 露店通りの奥でも煙が上がっている。別の通りからも悲鳴が聞こえる。建物の向こう側で、また爆発音がした。

 

 さらに遠く。

 

 もっと遠く。

 

 街のあちこちから、同じような音が聞こえてくる。

 

 ……これ、もしかして、都市全体が襲われてるのか。

 

 そう思った瞬間、背中が少し冷えた。

 

 ただ、足は止めない。

 止まったら、後ろの市民が死ぬ。

 

 黒ずくめを斬る。火種を蹴り飛ばす。倒れた屋台を飛び越える。転んだ女の人を引っ張り起こす。

 

 「中央へ走れ!」

 

 そう叫ぶが、みんながみんな動けるわけじゃない。

 

 腰を抜かしている人がいる。怪我をして立てない人がいる。子どもを探して逆走しようとする母親がいる。逃げる人の流れがぶつかって、道の真ん中で詰まり始める。

 

 ――—不味い。

 

 このままだと、敵に殺される前に人の波で潰れる。

 

 そう嫌なイメージがよぎった瞬間、同期が屋根の上から風を飛ばした。

 

 崩れた屋台が吹き飛び、道が開く。

 

 「そっちへ行け!」

 

 開いた道を指差す。

 

 その時、鎧を着た冒険者が人混みをかき分けながら叫んだ。

 

 「ロキ・ファミリアの団長からの命令があった! 市民を中央広場へ避難させろ!」

 

 中央広場。

 

 セントラルパーク。

 

 たしかに、あそこなら広い。避難民を集められる。ギルドからも近い。衛兵も冒険者も集まりやすい。

 

 方針が決まった。

 なら、もう迷うことはない。

 

 「聞こえたか! 中央広場(セントラルパーク)だ! 走れる奴は走れ! 怪我人は担げ!」

 

 声を張る。

 自分が子どもだとか、レベル3だとか、そんなことを気にしている余裕はなかった。

 

 今この場で動ける冒険者なら、指示を飛ばすしかない。

 

 同期が前方の黒ずくめを蹴散らす。

 

 オレは後ろから迫る敵を止める。

 

 逃げる市民の流れを切らせない。流れが止まれば、そこを狙われる。だから必死に流れを作る。

 

 とにかく中央へ。

 中央広場(セントラルパーク)へ。

 そこまで運べば、誰かが守れる。

 

 そう思っていた。

 ……が、流石に闇派閥の数が多すぎた。

 

 右を止めれば、左で火がつく。前を開けば、後ろから黒ずくめが出てくる。

 

 同期が風で道を作っても、その道に別方向から敵が飛び込んでくる。

 

 斬れる。

 止められる。

 倒せる。

 

 なのに、手が足りない。

 

 「邪魔だ」

 

 口から声が漏れた。自分でも驚くくらい、低い声だった。

 

 

 

 

 

 

 黒ずくめが子どもの方へ走っていた。

 間に合う。多分、間に合う。でも、その横からも別の黒ずくめが出てくる。屋根にもいる。路地にもいる。

 

 まだ来る。

 まだ邪魔をする。

 まだ奪おうとする。

 

 ―――させない。

 

 「止まれ」

 

 その瞬間、胸の奥から何かが漏れた。

 

 武装色じゃない。

 見聞色でもない。

 魔力でもない。

 

 もっと奥。もっとデカい。

 自分の中にある何かを、そのまま外に叩きつけたような感覚。

 

 黒ずくめたちが倒れた。

 

 一人。

 

 二人。

 

 三人。

 

 走っていた奴が、急に糸の切れた人形みたいに崩れる。火種を持っていた手が緩む。剣を構えていた腕が落ちる。斬っていない。殴っていない。なのに、倒れた。

 

 その後ろで、市民の何人かも膝をついていた。衛兵の一人が武器を落とし、近くの子どもが母親の腕の中で気を失っている。

 

 同期だけは倒れていなかった。

 ただ、風を纏ったまま、じっとこっちを見ていた。

 

 何が起きたのか、一瞬分からなかったがすぐに気付いた。

 

 すぐに分かった。

 

 いや、分かってしまった。

 

 ――—覇王色だ。

 

 そう理解した瞬間、胸の奥が熱くなる。

 

 怖いとか、気持ち悪いとか、そういう感覚はなかった。

 

 ただ、嬉しかった。

 

 武装色だけじゃない。見聞色だけでもない。オレには、三つ目もあったんだ。

 

 前世で画面越しに見ていた、あの怪物たちの領域。四皇とか、海賊王とか、そういう天井みたいな場所へ続いているかもしれない力。

 

 もちろん、今のオレはまだ弱い。

 レベル3だし、覇王色だって漏れただけ。狙って出せるかも分からない。

 

 ――—でも、可能性がある。

 

 そこまで行けるかもしれない道が、自分の中にもあった。

 

 その事実だけで、少し笑いそうになった。

 

 同期が、こっちを見ていた。

 何が起きたのか分からない顔。

 

 でも、倒れていない。

 

 それを見て、少しだけ口元が上がる。

 

 あぁ、やっぱりこいつも普通じゃない。

 

 だったら、オレも負けてられねぇ。

 

 その後、少しだけ周囲の動きが変わった。

 闇派閥の何人かが倒れたことで、逃げ道が開いた。衛兵と冒険者が市民を中央広場(セントラルパーク)へ流し始める。動ける大人が怪我人を担ぎ、泣いている子どもを別の誰かが抱え上げる。

 

 オレと同期もそのまま避難誘導に回った。

 

 中央広場(セントラルパーク)へ向かう道を塞ぐ敵を倒す。

 

 路地から出てくる奴を潰す。火をつけられた荷車をどかす。怪我人を運ぶ列が止まりそうになったら、同期の風で瓦礫を飛ばす。

 

 中央へ。

 

 中央へ。

 

 中央へ。

 

 その言葉だけが、頭の中に残っていた。

 

 途中で何度も爆発音が聞こえた。遠くの空に煙が上がっている。露店通りだけじゃない。工業地区の方も、商業区の方も、別の場所も燃えている。

 

 やっぱり、都市全体が狙われている。

 

 意味が分からない。

 

 何でここまで大きく動ける。どれだけの数を仕込んでいた。どれだけ前から準備していた。

 

 考えても答えは出ない。

 

 だから、今は目の前の人を中央へ運ぶ。

 

 それだけだった。

 

 しばらくして、衛兵と冒険者の列が形になってきた。

 

 中央広場(セントラルパーク)へ続く流れができる。

 そこまで来て、ようやく一帯の戦闘が少し落ち着いた。

 

 その頃には、街のあちこちに煙が残っていた。

 

 怒号も悲鳴も、まだ消えていない。人は多すぎるくらい倒れている。

 

 でも、生きている人も多い。

 なら、動いた意味はあった。

 

 

 

 その後、合流したリヴェリア様から話を聞いた。

 

 ロキ・ファミリアとアストレア・ファミリアの主力は、闇派閥の拠点襲撃に向かっていたらしい。だから最初の街には、すぐに動ける大戦力が少なかった。

 

 さらに、アーディさんが死んだことも聞いた。

 

 拠点襲撃の中で、急に現れた子どもを説得しようと近づいたところで爆発。その威力で亡骸も残らなかったらしい。

 

 それを聞いた時、胸の奥が少しだけ重くなった。

 

 でも、足は止めない。

 止まっても、死んだ人は戻ってこない。今止まれば、まだ生きている人が死ぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が暮れる頃、中央広場(セントラルパーク)には避難してきた市民が溢れていた。

 

 怪我人の治療。

 行方不明者の確認。

 食料と水の配布。

 

 ギルド職員も衛兵も冒険者も、全員が動き続けている。オレと同期も、最後まで運べるものを運んだ。

 

 今日は、色々ありすぎた。

 

 闇派閥によるオラリオ襲撃。

 アーディさんの死。

 覇王色の覚醒。

 

 正直、色々ありすぎて頭が回りそうだけど、でも今日で終わりじゃない。

 

 まだ、闇派閥がオラリオ全体を囲んでる。

 中央広場(セントラルパーク)へ避難できた人もいれば出来なかった人もいる。物資の量も人も場所も何もかもが足りない。

 

 ここまで計算された動きを見せてる闇派閥がここで止まるはずがない。

 

 明日から、より本格的にアイツらも動くはずだ。

 

 

 なら、ここで成長するしかない。

 

 今日、芽吹いた覇王色は、まだ制御はできない。

 

 敵だけじゃなく味方も少し巻き込んだ。

 

 正直、めちゃくちゃ嬉しい。

 けど、喜んで終わるだけじゃ意味がない。

 

 アイツら闇派閥を倒すためにも、オラリオっていう故郷を守るためにも悠長に足踏みしてる暇はない。

 

 

 

 あぁ、明日から楽しみだ。

 

 

 オレの中には、まだ見えていない力があった。

 

 武装色。

 見聞色。

 そして、覇王色。

 

 今日は、それが分かった日だった。

 

 

 ×月×日

 

 大抗争2日目。

 

 こんな状況の中でも、オレたちは子どもっていう理由で眠る時間を与えられた。

 

 寝たには寝た。

 

 ただ、目を閉じるたびに昨日の感覚を思い出した。

 

 胸の奥から何かが漏れる感覚。

 自分の意志が、そのまま外へ落ちる感覚。

 

 あれが覇王色。

 そう思うと、胸が熱くなって普通に寝つけなかった。

 

 いや、遠足前の小学生かよ。

 

 

 

 

 

 朝、団長から指示が飛んできた。

 

 対人戦特化装備へ変更。

 リヴェリア様、同期、オレの三人で中央広場(セントラルパーク)に入りきらなかった市民達の防衛を行う。

 

 装備はダンジョン用ではない。動きやすさ優先。防具は最低限。武器の取り回し重視。昨日と違って、最初から人と戦うための準備をした。

 

 装備を整えてから、リヴェリア様と合流。

 そこで、昨日のことについて説明を求められた。どうやら、同期で話がいったみたいだった。

 

 まぁ、そりゃそう。

 斬っていない敵が倒れて、市民や衛兵まで一部巻き込まれた原因不明の現象。そんな中なにかを確信したような顔で少し口角が上がるオレ。

 

 傍から見ても犯人オレです。

 どう考えても説明案件すぎます。

 

 だから、オレは今まで曖昧にしていた覇気について話すことにした。

 

 

 

 

 

 「オレのスキルは、たぶん魔力とは別の力を使っています」

 

 リヴェリア様の目が細くなった。

 

 「別の力?」

 

 「はい。魔法みたいに詠唱するわけでもないし、魔力を流している感覚とも違います。もっと精神とか、意志とか、そういう内側の力に近いです」

 

 「続けろ」

 

 「この力には、三つの性質があります」

 

 そう言って、指を一本立てる。

 

 「一つ目は、武装色の覇気。身体とか武器に纏わせることで、防御力や破壊力を上げる性質です。今までオレが刀に乗せていたのは、ほとんどこれです」

 

 次に、二本目。

 

 「二つ目は、見聞色の覇気。周りを探るセンサーみたいな使い方ができます。気配察知とか、相手の動きの予測とか、そういう方向に伸びる力だと思います」

 

 最後に、三本目。

 

 「三つ目が、覇王色の覇気」

 

 そこで少しだけ言葉に迷った。

 

 昨日出たアレを、どう説明すればいいのか。

 

 「たぶん、感情とか意志を外に出して、周りを威圧する性質です。昨日、敵が倒れたのはこれだと思います」

 

 「意志を外に放つ、か」

 

 リヴェリア様は、すぐには否定しなかった。

 

 ただ、考えるように顎へ手を添える。

 

 「魔力ではない。詠唱もない。発動の媒介もない。だが、実際に周囲へ影響を与えた」

 

 「はい」

 

 「問題は、制御できていないことだな」

 

 「はい、そうです」

 

 思わず頷いた。

 

 「武装色は、ある程度使えます。見聞色も、赤ちゃんレベルですけど使えます。でも覇王色は、昨日初めて出ました。出そうと思って出したというより、怒ったら漏れた感じです」

 

 「感情に引きずられて発動した、ということか」

 

 「多分」

 

 「ならば、お前が最初に覚えるべきことは出力ではない」

 

 リヴェリア様の声が少し低くなる。

 

 「―――境界だ」

 

 「……境界?」

 

 「どこまで届かせるのか。誰に向けるのか。どれほど強く放つのか。それを定められなければ、その力は味方も巻き込む」

 

 その言葉で、昨日倒れた市民と衛兵の姿が頭をよぎった。便利な力ではある。けど、便利なだけじゃない。

 

 「理解は、してます」

 

 「ならばいい」

 

 リヴェリア様は頷く。

 

 「お前の言う覇気は、魔法ではなく、意志による外界干渉に近い。武装色は肉体と武器への干渉。見聞色は外界情報の受信。覇王色は、意志の放射」

 

 「意志の放射」

 

 「そう考えれば、見聞色についても説明がつく」

 

 リヴェリア様がこちらを見る。

 

 「お前は今まで、気配を探していたのだろう」

 

 「はい。大体ここらへんにいるな、くらいですけど」

 

 「だから甘い」

 

 バッサリだった。

 

 「探すということは、自分から対象を絞るということだ。範囲も方向も、無意識に狭めている」

 

 「なるほど」

 

 「探すな。受け取れ」

 

 その言葉で、胸の奥にあった歯車が一つ噛み合った気がした。

 

 探すんじゃない。

 受け取る。

 

 目で見るんじゃない。

 耳で聞くんじゃない。

 そこにあるものを、そのまま拾う。

 

 そう考えた瞬間、周囲の気配が少しだけ変わった。

 

 足音。

 呼吸。

 視線。

 迷い。

 敵意。

 

 音じゃない。でも、分かる。

 

 「……あ」

 

 リヴェリア様が目を細めた。

 

 「掴んだか」

 

 「多分」

 

 「ならば忘れるな。お前の見聞色は、今ようやく目を開けた」

 

 ㊗どうやら、赤ちゃん見聞色卒業です。

 でも、調子に乗る前にリヴェリア様から追加の座学が始まりました。

 

 ――—賢者って、すごいや。

 

 そのまま中央広場(セントラルパーク)へ向かう。

 広場の中は、朝からぐちゃぐちゃだった。

 

 怪我人のうめき声。

 

 子どもの泣き声。

 

 大人の怒鳴り声。

 

 眠れていない顔。虚ろな目。汚れた服。血の跡。簡易の寝床。毛布の奪い合い。

 

 ギルド職員も衛兵も冒険者も、誰も余裕がない。

 

 昨日までなら、ここで見聞色を使うだけで頭が痛くなっていたと思う。

 

 でも、今日は少し違った。

 

 探さない。

 受け取る。

 

 全部を掴もうとしない。流れてくるものの中から、必要なものだけを拾う。

 

 怒り。

 恐怖。

 焦り。

 不信。

 

 その中に混じる、明らかに違うもの。

 

 ―――殺気。

 

 「右の路地、二人」

 

 言った瞬間、同期が動いた。

 

 「片方は囮。奥が火種持ち」

 

 風が走る。

 同期が囮を抜ける。オレは奥へ踏み込む。

 

 擦れ違いざまに一閃。

 火種持ちの腕を落として終わり。

 

 見聞色、便利。

 

 何でもっと早くリヴェリア様に相談しなかったんだろう。

 

 いや、相談したら絶対に根掘り葉掘り聞かれるからです。そして実際、根掘り葉掘り聞かれました。

 

 ―――うん。賢者って、すごいね。

 

 その後も、防衛任務は続いた。

 敵の数は昨日ほどではないが、散発的に襲撃が起こる。闇派閥は正面から勝つ気がない。市民の隙を狙い、不安を煽り、火種を投げ込む。

 

 だからこそ、見聞色の修行には最悪で最高だった。

 

 人が多い。

 感情が多い。

 足音も多い。

 匂いも音も視線もぐちゃぐちゃ。

 ノイズだらけ。

 

 つまり、ここで拾えたらどこでも拾える。

 今日一日で、見聞色の使い方がかなり変わったと思う。

 

 武装色は纏う。

 見聞色は受け取る。

 覇王色は放つ。

 

 言葉にすると簡単だけど、実際は全然簡単じゃない。

 

 でも、昨日までズレていた歯車が、少し噛み合った気がする。

 

 覇気、やっぱり奥が深いな。

 

 

 

 

 

 

 最高。

 

 

 

 ×月×日

 

 大抗争3日目。

 

 今日も中央広場(セントラルパーク)の外に残っている避難民の防衛任務。

 

 街は荒れている。市民は疲れ切っている。衛兵も冒険者も休めていない。闇派閥はまだどこかに潜んでいて、少しでも隙があれば火をつけようとしてくる。

 

 でも、見聞色の修行場としては最高だった。

 

 人が多い。

 感情が多い。

 敵意も混じる。

 恐怖も焦りも怒りもある。

 

 ノイズだらけの場所で、必要な気配だけを拾う。これが出来るなら、ダンジョンでもかなり変わると思う。

 

 リヴェリア様は指揮と分析、同期は前線。オレは見聞色で敵意を拾い、武装色で隙間を埋める。

 

 役割がかなりはっきりしてきた。

 

 「正面、三人」

 

 小さく呟く。

 

 「右屋根、一人」

 

 同期が動く。

 

 「左の瓦礫裏、火種持ち」

 

 自分で言ってから、少し笑いそうになった。昨日までは、大体いる、くらいだった。

 

 今は違う。

 

 敵意の濃さが違う。

 呼吸の浅さが違う。

 死ぬ気で突っ込む奴と、逃げ道を探している奴の気配が違う。

 

 見聞色、急に便利になった。

 

 「アイズ、上に――—」

 

 言い切る前に、同期が跳んだ。

 風を纏った身体が屋根へ上がり、黒ずくめを蹴り落とす。

 

 その落下地点にオレが入る。

 

 鞘打ち。気絶。

 うん、今のはかなり綺麗だった。

 

 たぶんリヴェリア様も褒めてくれる。

 

 そう思ったら、後ろから普通に怒られた。

 

 「気を抜くな」

 

 ……はい。

 

 午前の終わり頃、リヴェリア様から覇王色についての指導が入った。

 

 「放つな。まず抑えろ」

 

 「出す練習じゃなくてですか?」

 

 「制御できない力を出す練習から始める馬鹿がいるか」

 

 ……正論パンチすぎる。

 ということで、覇王色を出す練習ではなく、昨日から胸の奥に残っている感覚に触れる練習をした。

 

 武装色は纏う場所がある。刀とか、腕とか、身体とか。

 

 見聞色は広げる感覚がある。周りに触れる感じ。

 

 でも覇王色は違う。

 

 もっと奥。

 もっと芯。

 自分の中にある一番硬いものに、手をかける感じがする。

 

 ただ、そこに触ろうとすると、するっと逃げる。出そうとすると出ない。抑えようとすると、そもそもどこを抑えればいいのか分からない。

 

 めちゃくちゃ難しい。

 武装色の方は分かりやすかった。

 

 いや、最初に木を殴って指を折った奴が言うことじゃないかもしれないけど。

 

 

 

 

 

 午後、また襲撃があった。

 闇派閥の残党が、怪我人を運ぶ列へ紛れ込もうとしていた。

 

 見聞色に、妙な引っかかりがあった。

 

 恐怖じゃない。

 焦りでもない。

 覚悟に近い敵意。

 死ぬつもりの気配。

 

 「止まれ」

 

 声を落とした。

 昨日みたいに、周囲をまとめて沈めるほどじゃない。でも、その一人の足が一瞬だけ止まった。

 

 ほんの一瞬。それで十分だった。

 

 同期の風が届く。

 黒ずくめが壁に叩きつけられた。

 

 「今の」

 

 リヴェリア様が言った。

 

 「範囲は狭い。出力も弱い。だが、昨日よりは狙いがあった」

 

 「つまり?」

 

 「一歩目だ」

 

 一歩目。その言葉が嬉しかった。覇王色は、まだ全然分からない。でも、分からないなりに触れた。

 

 武装色は纏う。

 見聞色は受け取る。

 覇王色は放つ。

 

 なら次は、誰に、どこまで、どれくらい放つのか。

 

 リヴェリア様は、それを境界と言った。

 今日、少しだけその意味が分かった気がする。いや、分かったと言うにはまだ早いけども。

 

 でも、楽しい。

 やっぱり修行は、成長が見える瞬間が一番楽しい。

 

 その日の終わり、同期と少しだけ模擬戦をした。

 こんな状況で何をしているんだと思われるかもしれない。でも、身体を動かしていた方が落ち着く。

 

 それに、今の見聞色がどれくらい戦闘で使えるのか試したかった。

 

 結果は、ボコボコです。

 いや、前よりは見える。見えるんだけど、同期が普通に速い。

 

 こいつ、風を纏った動きがかなり鋭くなってる。見えても身体が追いつかないことがある。

 

 見聞色だけで倒すのはやっぱり無理。

 武装色も、身体能力も、剣の腕も全部必要。

 

 当たり前だけど、覇気は万能じゃない。

 

 ――—でも、それがいいんだよね。

 

 伸ばすところがまだ山ほどある。

 

 明日も頑張ろう。

 

 

 

 ×月×日

 

 大抗争4日目。

 

 今日は、朝から空気が違った。

 昨日までの散発的な襲撃とは違う。街全体が騒がしいのに、どこか音が沈んでいる。悲鳴や怒号があるのに、その奥に変な静けさがある。

 

 何か大きいものが動く前の、嫌な静けさ。見聞色がそれを拾っていた。

 

 探さない。

 受け取る。

 

 そう意識してから、街の気配が少しずつ分かるようになっている。

 

 中央広場(セントラルパーク)には、昨日よりも多くの市民が集まっていた。怪我人。子ども。老人。毛布に包まったまま動けない人。家族を探して泣いている人。衛兵も冒険者も、限界に近い顔をしながら動き続けている。

 

 でも、今日はそれだけじゃなかった。

 広場の外。そのもっと遠くの方、廃墟区画から妙な気配が流れてきていた。

 

 怒り。

 恐怖。

 殺気。

 

 それに混じって、火種を抱えた奴ら特有の、変な覚悟みたいなもの。昨日と同じ。いや、昨日より濃い気配を感じる。

 

 闇派閥がまた動いている。

 そう思ったタイミングで、伝令が飛び込んできた。

 

 血まみれの衛兵だった。

 鎧はひしゃげ、息は荒い。それでも倒れずに、中央広場(セントラルパーク)へ向かって叫んだ。

 

 「廃墟区画、外縁キャンプが襲撃されています! 敵多数! 自爆持ち混在!」

 

 空気が一段、重くなる。

 

 外縁キャンプ。

 中央広場(セントラルパーク)に入りきらなかった市民たちが集められている場所の一つだ。廃墟の海の中、奇跡的に原形をとどめている古い教会。その周辺に避難民を置いていたらしい。

 

 そこが襲われた。しかも、自爆持ち混在。

 状況が悪すぎる。

 

 闇派閥は、真正面から冒険者と戦うつもりがない。逃げる市民を狙う。助けに入った冒険者を巻き込んで爆ぜる。守る側が守ろうとすればするほど、傷が広がるやり方。

 

 一日目の再来。

 ただし、今回は偶発的な初動じゃない。明確に、守る場所を狙われている。

 

 団長からの指示はすぐに来た。

 

 中央広場の防衛線は維持。

 動ける戦力の一部を廃墟区画へ回す。

 リヴェリア様、同期、オレは増援として外縁キャンプへ。

 

 目的は三つ。

 

 市民の後退路を確保すること。

 闇派閥の大部隊を押し返すこと。

 そして、可能なら敵の中核を止めること。

 

 指示を聞いたリヴェリア様は、短く頷いただけだった。同期も何も言わない。オレも刀の柄に手を置く。

 

 焦りはなかった。

 ただ、身体の中の温度が少し上がる。

 

 昨日までの防衛任務は、火の粉を払う戦いだった。今日は違う。火そのものが、また街を焼きに来ている。

 

 廃墟区画へ向かう途中、何度も爆発音が聞こえた。

 近づくほど、煙の匂いが濃くなる。石の焼ける匂い。血の匂い。薬品の匂い。昨日からずっと嗅いでいる、嫌な街の匂い。

 

 でも、足は止めない。

 道の途中にも、市民が逃げていた。中央広場(セントラルパーク)へ向かう流れが、途中で何度も詰まりかけている。

 

 「みんな……どいて」

 

 同期が風を纏って前に出た。

 瓦礫が飛ぶ。横転した荷車や瓦礫が道の端へ弾かれる。

 

 オレはその隙間から出てきた黒ずくめを斬り伏せる。

 

 火種を持っている奴は、腕ごと落とす。逃げ道に飛び込もうとした奴は、足を払う。

 

 斬る。

 止める。

 流す。

 

 見聞色が、敵意の濃さを拾う。

 

 ただ逃げている市民。

 混乱して逆走しそうな市民。

 それに紛れている黒ずくめ。

 死ぬつもりで突っ込んでくる自爆役。

 

 全部じゃない。でも、昨日より分かる。

 

 

 

 教会近く廃墟区画の奥の方。外縁キャンプの中心から、まだ少し離れた場所。そこに、妙に静かな空白があった。周りはこれだけ燃えているのに、その一点だけ音が沈んでいる。

 

 見聞色が、そこを拾う。

 

 重い。

 静か。

 冷たい。

 

 まるで、災害が人の形をして歩いているみたいな気配。

 

 へラ・ファミリアの元幹部。

 神時代最強と謳われたファミリアの一つ。その中で十代半ばにしてレベル7まで上り詰めたという才能の権化にして才禍の化物。この世界で誰よりも『才能』に愛された存在。

 

 ―――【静寂(せいじゃく)】アルフィア。

 

 

 ソレを理解した時には、リヴェリア様も同じ方向を見ていた。

 

 リヴェリア様の表情が変わる。

 いつもの説教顔でも、指揮官の顔でもない。強敵を前にした冒険者の顔だった。

 

 「行かせるな」

 

 短い一言。

 それだけで十分だった。

 

 アルフィアは、戦場のさらに奥へ進もうとしている。その先には、多分リューさんがいる。

 

 何が起きているのか、全部は分からない。でも、分かることが一つある。

 

 アルフィアを行かせたら駄目だ。

 

 リヴェリア様が前に出る。同期が風を纏う。オレも刀を握り直す。

 

 背後では、まだ市民が逃げている。

 ヘルメス・ファミリアの冒険者たちが叫んでいる。

 

 闇派閥の大部隊は、今もキャンプを壊そうとしている。

 

 一日目の再来みたいな戦場。

 その奥に、一日目以上の絶望が立っている。

 

 でも、焦りはなかった。

 

 やることは決まっている。

 市民を逃がす。闇派閥を止める。アルフィアを行かせない。

 

 リヴェリア様、同期、オレ。

 三人で、アルフィアの前に立つ。

 

 普通に考えれば無茶である。

 

 相手は化け物。

 こっちはレベル3の子ども二人と、リヴェリア様。いや、リヴェリア様がいる時点でかなり心強いけど、それでも相手が悪すぎる。

 

 でも、不思議と足は震えなかった。

 

 見聞色を開く。

 武装色を刀に纏わせる。

 胸の奥にある覇王色の感覚にも、軽く触れる。

 

 アルフィアは化け物だった。

 

 速く。重く。そして、静かだった。

 

 動きの全部が、こっちより上。でも、見えないわけじゃない。昨日までなら、ただの災害にしか見えなかったと思う。ただ、今は違う。

 

 呼吸。

 重心。

 視線。

 次に踏む場所。

 

 全部は無理。

 でも、一つなら拾える。

 

 「アイズ、右!」

 

 言うより先に、動く。風が走る。アルフィアの手が、その軌道を潰す。その一瞬に、オレは踏み込んだ。

 

 武装色一閃。

 刃が届く。だが、浅い。アルフィアは、軽く腕を動かしただけだった。それだけで、身体ごと弾かれる。地面を転がりながらも、笑いそうになった。

 

 見えた。今、見えた。

 

 届かなかったけど、見えた。

 やっぱり、見聞色が一段上がってる。

 

 「戦闘中に笑うな!」

 

 リヴェリア様に怒られた。

 

 ――—すみません。

 でも、これはちょっと楽しいです。

 

 リヴェリア様の詠唱が響く。同期が風で斬り込む。オレが見聞色で拾った一瞬を口に出す。

 

 完全に通じているわけじゃない。

 アルフィアには、ほとんど届いていない。それでも、一方的に潰されるだけではなかった。

 

 ほんの少し。本当に少しだけ。

 戦闘として成立している。

 それが分かるだけで、身体の奥が熱くなった。

 

 アルフィアがリューさんの方へ足を向ける。

 

 その一歩で、空気が変わる。

 

 ―――行かせたら駄目だ。

 

 理屈じゃなく分かった。

 リヴェリア様の詠唱が強くなる。同期が風を纏って、オレは刀に武装色を纏わせ前に出る。

 

 それでも、アルフィアは歩こうとする。

 まるで、オレたちをもう障害物として見ていないみたいに。

 

 その背中を見た瞬間、胸の奥が熱くなった。

 

 違う。

 

 ここにいる。

 

 オレたちは、まだここにいる。

 

 無視して進めると思うな。

 

 「行かせねぇ」

 

 声が落ちた。

 その瞬間、空気が沈む。

 

 昨日と同じ感覚。胸の奥から、何かが漏れる。

 

 覇王色の覇気。

 周囲に残っていた闇派閥の雑兵が、ばたばたと倒れた。

 

 遠くの衛兵が膝をつく。

 

 リヴェリア様の詠唱が、一瞬だけ揺れた。

 

 そして、アルフィアが足を止めた。

 

 ゆっくり、こちらを見る。

 初めて、ちゃんと見られた気がした。

 

 「……面白い」

 

 アルフィアが笑った。

 怖いくらい綺麗な笑みだった。

 

 「その年で、その圧か」

 

 リヴェリア様が息を呑む気配がした。

 

 「未熟。粗雑。だが、濁ってはいない」

 

 アルフィアの意識が、リューさんからこちらへ向く。

 

 背筋が震えた。これは恐怖じゃない。

 

 興奮だった。

 

 「見せてみろ」

 

 アルフィアが言う。

 

 「お前の力を」

 

 その言葉で、笑った。

 

 「上等」

 

 刀を構える。武装色を纏う。見聞色を開く。

 まだ胸の奥に、覇王色の熱が残っている。

 

 三色。

 まだ全部、完成にはほど遠い。

 

 武装色も甘い。

 

 見聞色も拾えるだけ。

 

 覇王色なんて、漏れているだけ。

 

 でも、揃った。

 なら、やるしかない。

 

 

 

 

 「覇気使いの第一歩、見せてやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 そこから先は、何度も弾かれた。

 何度も転がった。

 何度も、次の一手を潰された。

 

 アルフィアには届かない。

 技術も、速さも、重さも、何もかもが足りない。

 

 でも、見えていた。

 全部じゃない。一つだけ。一瞬だけ。

 

 それでも、見える。

 

 同期が風で斬り込む。リヴェリア様の魔法が空間を潰す。オレがアルフィアの動きの端を拾って、そこに刀を差し込む。

 

 勝てない。でも、止める。

 

 今のオレたちに必要なのは、アルフィアを倒すことじゃない。

 

 リューさんの方へ行かせないこと。

 アルフィアの視線を、こちらに縫い止めること。

 

 なら、やれる。

 

 オレたちは、まだここにいる。

 

 結局、アルフィアには届かなかった。何度も地面を転がったし、身体中が痛い。

 

 でも、リューさんへ向かっていた足を止めて、こっちを向いた。それだけで十分だった、なんて言うつもりはない。

 

 ただ、それでも、今のオレにできる最大の仕事はできたと思う。

 

 武装色。

 見聞色。

 覇王色。

 

 三つ揃った。

 

 まだ弱い。まだ粗い。まだ届かない。でも、道は見えた。

 

 

 覇気使いとしての第一歩。

 

 

 今日、踏み出したんだ。

 

 

 




実は、今回のアストレア・レコード編は、かなり展開を悩んでいました。
主人公の成長をダンまち的な曲線にするか、それともONEPIECE的な曲線にするか。自分が凄い欲張りなのでどっちも取れる案が無いか凄い悩みに悩んで、気付いたら1年以上が経過してました。

そんな時に、アストレア・レコードを読み直し「ダンまちおもれー」の気持ちが勝ち、日記④と日記⑤の流れが出来ました。

ただ投稿してみて感想で反応を見た時に、自分がこの話を最初に書こうと思った「ONEPIECEめちゃくちゃおもれぇ」が再燃してしまい、どっちのルートで進むか死ぬほど悩んでます。もしこのまま自分でルートを選ぼうと思ったら、また1年以上経過しそうなので、この小説を読んでくれている皆さんに選んでほしいです!

アンケートを乗せるので、どのルートを正史にするか意見欲しいです。
どちらに転んでも一旦アストレア・レコード編は、どちらのルートも綺麗に締めたいと思ってます。

どのルートが見たい?

  • 日記④~⑤ルート
  • IFルート
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