Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~   作:八坂 義景

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オデュッセイア編更新されたので初投稿です。サミー...年齢的には怪しい所ではあったけどもさ。猫好きには辛い冒頭だった...とかしんみりしてたら最後に色々ぶっ込んできやがった。ミナトが本当のアイランド艦長じゃない?

続きです。


File129.ET-34~贖罪と遺恨~

~『カタコンベ』~

side-"先生"

 

「"――セイア。何処まで進んだかな?"」

「――地図に従えば、半分は踏破したようだ」

 

―――私の問に、セイアは地図を見ながら答える。

 

「"半分...折り返し地点か。話に聞いていた、『カタコンベ』特有の不定形な構造変化に出会さないから、確実とはまだ言えないけど――今の所は、古文書の通りの安定したルートだね"」

「あぁ。だが、まだ安心は出来ない。拠点構築に向く空間も見付かっていないし、『アリウス』側に近付くにつれ、アリウス(向こう)が認(・)知(・)し(・)て(・)い(・)る(・)空(・)間(・)と(・)重(・)な(・)る(・)可能性も高まる」

「油断大敵ですね。...とは言え、皆さん見た所目に見えた疲労は見受けられませんが、大丈夫ですか?」

 

 セイアの言葉にナギサが頷き、そう尋ねて私達を見回す。古文書のルートを半分程まで踏破したとはいえ、歩いた距離に比べて経過した時間は少し長い様に感じている。警戒、クリアリングや調査を丁寧に進めながらということもあるけど、それでも体力や気力の消耗はある筈だ。

 かく言う私は、自分自身では大丈夫だとは思っているけど、こういう状況では自己評価の過信は危険だろう。

 

「――ナギサ様のご懸念に同意します。次の空間次第ですが、小休止を入れましょう。まだ道半ば、しかし道半ばまで来たのです。セイア様が仰られた『アリウス』の迎撃の可能性もあるならば、少しでも休んでコンディションを万全にすべきかと」

 

 "ソーサーナイツ"に混ざり、シールドを構えてナギサとセイアの直衛を行っていたミネがこちらに向いてそう意見を挙げる。

 

「確かにそうだね。私はまだ元気だが...念を押すに越したことはない。――もうすぐこの廊下を抜ける。そこが休めそうな部屋なら、そこで交代で小休止を取ろう」

「"分かった。――こちら調査指揮所(HQ)。次の空間の形状次第で小休止を取る方針を決定した。"RABBIT小隊"、"アリウススクワッド"は、次の空間のクリアリングと共に、空間の形状、状態を報告して"」

『"RABBIT1"、了解しました』

『"アリウススクワッド"、了解した』

 

 セイアの言葉に頷き、インカムに触れて先行しているミヤコ、サオリ達に指示を出す―――

 

~『カタコンベ』 庭園跡地~

sideーナギサ

 

「――ほう、これは...」

「――これは...」

 

―――先行部隊のクリアリングが終わり、テンシさん達に続いて空間に入ると、そこには不思議な空間が広がっていた。

 中央には見た事がない様式の、水がすっかり枯れた噴水と、それを囲むように据えられた石造のベンチ。

 空間の各所にベンチや、花壇らしき石造の箱も点在していて、空間を囲む壁には、私達が入ってきた出入口以外に三つのアーチ型の出入口が見える。

 

「見た所、庭園でしょうか...このような地下空間で草木が育つのか怪しい所ですが」

「『カタコンベ』特有の謎の光は差し込んでいるが、確かに草木に必要な陽光が差し込むようには見えない。確かに、謎だね」

 

 私の言葉にセイアさんが頷く。

 

「――空間検査が完了致しました。滞在には問題ありません。先程の提言通り、小休止を取りましょう」

「分かりました。――私達が入ってきた出入口を含め、四箇所に別空間へ繋がる出入口があります。そちらの警戒もお願いします」

「了解っす。"正義実現委員会"、"ソーサーナイツ"に警戒は任せて欲しいっす」

 

 検査を終えたミネ団長の意見に頷いた私の言葉にイチカさんが頷き、既に四箇所の出入口で警戒体制を構築しつつある面々の下に歩き出す。

 

「では、お茶を淹れましょう。シスターマリー、お手伝いを――」

「――サクラコ様もどうかお休みください。...いつ、サ(・)リ(・)エ(・)ル(・)様(・)に(・)出(・)会(・)し(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)のかが不安なのだと愚考しますが、それに備える為にも少しでも休んで平静を保つべきです」

 

 サクラコさんがお茶を提案すると、マリーさんが珍しく反対を表明した。―――サリエルさんについての疑惑がほぼ確実だと判明した時よりは改善されたとはいえ、私から見ても表情は固く、瞳にも明らかに不安そうな雰囲気が宿っている。

 この『カタコンベ』の何処かにサリエルさんが居る―――そう考えると不安を感じてしまうのだろう。

 

「マリーの言う通りだ。サリエルを見付けた時の為にも、君も休むべきだ。茶を淹れられる者は多い。無理に君がやる必要はない」

 

 セイアさんがマリーさんの言葉に頷き、休むように促すものの、サクラコさんは無(・)理(・)を(・)し(・)て(・)い(・)る(・)笑顔を浮かべる。

 

「...お気遣い、感謝致します。ですが...何か動いていないと、寧ろ不安になってしまうのです。

 サリエルが...トリニティ(学校)を脅かすような行動を取っていた。それも、恐らく入学当初から。――今も、完全には信じられないんです。その不安を、今は少しでも――」

「――ならば、尚更休むべきです。...幼馴染にして親友でもある、大切な関係を持つ人物ですから、こうして同道を認めましたが...本来ならば、医療従事者としては安静にしていて欲しいのです。

 実際、サリエルさんに直接対面したとしても、今の状態では彼女に言いたいことも満足に伝えられないでしょう」

 

 食い下がるサクラコさんに対し、ミネ団長が有無を言わせない様に瞳を細め、休むべきだと重ねて意見を挙げる。

 

「無限ではありませんが、時間はあります。この空間から、次は何処に向かうべきかも調べなければなりません。――サリエルさんとお(・)話(・)する際には、サクラコさんのお力も必要です。改めて、心に整理をつけるだけの時間を取りましょう」

 

 サクラコさんは、私の言葉を受けても尚断ろうと口を開きかけるものの、誰もサクラコさん側に立ちそうにない雰囲気を察したのか口を噤む。

 

「...分かりました。今は、少し休ませていただきます」

「では、お茶の用意は私が。このような環境ではテラスのような最上はお約束できませんが、手を尽くしましょう」

「分かりました。お願い致します、ミネ団長」

「私はこの空間を少し調べてみるとしよう。三つ出入口があるが、古文書が行先を示しているだろう」

 

 サクラコさんが小休止を受け入れ、ミネ団長の言葉に頷く横でセイアさんが鞄から古文書のコピーを取り出す。

 

「さて...先程まではこのページだったから――――」

「――ナギサ。とりあえずベンチの埃は払ったから、先に座っているといいわ」

「ありがとうございます、テンシさん」

「それから、サクラコも一緒に休むといいわ」

「...ありがとうございます、テンシ総長。お言葉に甘えさせていただきます」

 

 セイアさんが古文書を読み込み始めた所でテンシさんがやって来て、一角の花壇跡の傍のベンチを指し示す。その先ではイクさんが座面と背もたれに二人分のクッションを据えている様子が見える。

 謝意を示し、反論で口を開きかけたものの、先程反論を潰された事を思い出したのかそのまま素直に頭を下げたサクラコさんと共にベンチへ向かう。

 

「――ナギサ様、サクラコ様。どうぞこちらへ。間に合わせなので最上ではありませんが」

「ありがとうございます、イクさん」

「ありがとうございます...」

 

 イクさんが私達をカーテシーで迎え、謝意を伝えてサクラコさんと共にベンチに座る。確かに、テラスの椅子や、私邸の調度品と比べれば劣るものの、間違いなく硬いであろう石の座面そのままに座るよりは柔らかく、クッションがお尻と背中を受け止める。

 

「...ふぅ...」

 

 イクさんと、"ソーサーナイツ"の騎士四人が私達の空間を確保するように少し離れて周囲を囲む様子を見て一息吐く。

―――『アリウス』までの道程も半分まで来た。まだ油断出来ないものの、今の所は古文書の通りのルートで進めている。

 後半分を踏破すれば、『アリウス』を直接見られる。緊張と共に、不安も感じてしまう。

 

「...(何故、我が『トリニティ』を攻撃したのか。それを直接知る為にも、シンキ先生に直(・)接(・)会(・)う(・)。必ず『アリウス』に辿り着かねば...しかし...)」

 

 首元のペンダントに触れる。先(・)日(・)見(・)た(・)ア(・)レ(・)は、必(・)ず(・)シ(・)ン(・)キ(・)先(・)生(・)に(・)対(・)し(・)て(・)伝(・)え(・)ね(・)ば(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)。しかし、伝えた所でシンキ先生を止められるかは分からない。それでも、このペンダントに込(・)め(・)ら(・)れ(・)た(・)想(・)い(・)は必ず―――

 

「――ナギサ様。ふと思ったのですが、そちらのペンダントは、桐藤家(ナギサ様の御実家)伝来のアクセサリーですか?」

「...!えぇ、その通りです。我が桐藤家の先祖、桐藤イスラ様の肖像画を入れたものです」

 

 おもむろに声を掛けてきたサクラコさんの言葉に頷き、ペンダントのロックを外して中を開き、仕(・)掛(・)け(・)にうっかり触れないように注意しながら肖像画をサクラコさんに見せる。

 

「...小さいので詳しくは見えませんが、それでもナギサ様によく似ていらっしゃるのが分かりますね」

「桐藤家(実家)でもそれが分かった時は少し騒ぎになりました。『初代"ホストリーダー"の再来』だの、『桐藤家隆盛の祖が生まれ変わった』だの...『トリニティ』を成立させたイスラ様のように、私も大業を成し遂げることを期待されていました」

「大業...『エデン条約』の締結は、正にそれではありませんか?『アリウス』の襲撃により混乱が起き、その最中で無理矢理な形での文書調印と交換になりましたが――それでも、長く対立し続けてきた『ゲヘナ』と手を取り合う足掛かりを築いた。

 "ホストリーダー"はセイア様ですが、実務で積極的に動いたのは他ならぬナギサ様。それは揺るぎようのない事実です」

 

 私の言葉から大業について拾い、サクラコさんはそう意見を挙げる。

 

「...確かに、協議や校内の意思統一は私が主に行っていました。しかしそれは――」

「――セイア様が身(・)を(・)偽(・)っ(・)て(・)隠(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)から。とは言わないでください。普通なら、幼馴染の親友(気を許せる大切な人)が生死不明のままでは不安に苛まれて集中できないものです。

 その過程でミカ様のクーデターや、"補習授業部"のこともありましたが...それでも、ナギサ様は折れずに『エデン条約』締結まで推し進めた。それはナギサ様のお心が強かったことも理由の一つだと思います。...サリエルの裏(・)に気付けなかった私とは大違いです」

 

 サクラコさんは私の言葉を遮ってそう自論を挙げ、最後にそう付け加えて影が差した微笑みを浮かべる。

 

「...そうご自分を卑下しないでください、サクラコさん。自(・)ら(・)の(・)謀(・)略(・)を貴女に対して巧妙に隠し続けたことそのものは、サリエルさん自身の罪、責任です。その罪を貴女まで背負う必要はないのですよ。

――隠した理由や動機を知る為にも、やはり彼女を探さねば」

「...そうですね。直接、サリエルの口から聞かねばなりませんね」

 

 私の言葉に目を伏せ、改めて決意した様な強い光を瞳に宿したサクラコさんに頷く。

 

「――お茶の用意ができました。どうぞ」

「ありがとうございます、ミネ団長」

「ありがとうございます」

 

―――そこに、ティーセット一式を乗せたトレイを運ぶメディスンさんを従えたミネ団長がやって来て、ソーサーと共に差し出されたカップを受け取る。

 湯気と共に鼻をくすぐる香りは普段飲んでいるそれと比べれば幾らか劣るものの、それでも美味しさを充分に引き出す工夫を感じられる。

 

「...美味しいです」

「このような場所ですから、上手く淹れられたか少々不安でしたが...お口に合ったようですね」

 

 ミネ団長の微笑みの横で、噴水に向かうセイアさんの姿を視界に納める。"先生"やアヤさん達を連れ、噴水の中央にある彫像に近付いていく。

 

「...セイア様、何か見付けたのでしょうか」

「噴水に何かあるのでしょう。古文書では、"ユスティナ聖徒会"の印がルートを導くとされていますから」

 

「この彫像の何処かに印がある筈だが...」>

「――これでは?」>

「ふむ...確かにこれのようだ。古文書の内容と一致している」>

 

 アヤさんが何かを見付けて懐中電灯で照らし、セイアさんはそれと古文書を見比べて頷く。

 

「皆、少し離れてくれ。どんな仕掛けが動くか分からない」>

 

 セイアさんが噴水の周囲から人払いを行う。人が居なくなった事を確認すると、セイアさんは懐中電灯で照らした、彫像の一部に触れ―――レバーを下げる様に下へと動かす。

 

ズズズ...!

 

「...!」

「噴水が...!」

 

―――すると、噴水そのものが震え始め、セイアさんが離れると噴水が私達から見て右へとずれていく。

 

「何か起きて――って、噴水が...?!」

 

 音に気付いたイチカさん達警戒部隊が駆け寄って来るなり、ひとりでに動いている噴水に驚いて動きを止める。

 

ガコン...

 

「...止まり、ましたね...」

「セイアさん!いきなり何をしているんですか!?」

 

 サクラコさんが呆然と動いた噴水を見ている横を抜け、カップを手に持ったまま、ツカツカとセイアさんの下に詰め寄る。

 

「何、古文書に従っただけさ。"ユスティナ聖徒会"の印があった所がレバーのように見えたから、何となく下げてみたら動いたんだ」

「それでも警戒がおざなり過ぎるでしょう!こちらを害するような罠だったらどうするのですか!」

「結果として、噴水の仕掛け自体は罠じゃないなら良かったじゃないか。...噴水の下はよく警戒しなかればならないが」

 私の言葉を何処吹く風と澄ました表情で流しながらセイアさんが目を向けた先を見ると、地下へ伸びる階段が見える。灯りが入らず、その先は闇に包まれている。

 

「"地下へ続く階段か...セイア、古文書には何か書いてあるかい?"」

「古文書の内容を信じるならば、この階段の先はしばらく道なりに進む長めの回廊らしい。これと、二つほど空間を抜ければ――『アリウス』自(・)治(・)区(・)付(・)近(・)に(・)到(・)れ(・)る(・)ようだ」

「...!」

 

 "先生"の問に対するセイアさんの言葉に、心臓が一瞬跳ねる感覚を覚える。―――いよいよ、『アリウス』に辿り着ける。その可能性を目の当たりにして、セイアさんへ叱責する気分も無くなってしまう。

 

「"なら、これまでのように先行偵察を行ってから前進しよう。それまでは引き続き小休止を。――ミヤコ、サオリ。行けるね?"」

「――了解しました。"RABBIT小隊"、"アリウススクワッド"と共に先行して偵察を開始します」

「――了解した。『アリウス』がより近付くなら、私達が知っている空間に出会すかもしれない。...そうなれば、アリウス(向こう)の防(・)衛(・)網(・)に引っ掛かる可能性もある。より警戒して行くぞ」

 

 "先生"の言葉にミヤコさん、サオリさん達が頷き、各々装備の確認を始める。

 

「――そういうことだ。ナギサ、その手のお茶も飲んでおきたまえ」

「...!だ、誰のせいで...!」

 

 私の右手に摘まれたカップを見てセイアさんがおやおやと言いたげな微笑みを浮かべ、湧いてきた怒りを抑えながらベンチに戻る。

 

「...ナギサ様、大丈夫ですか?」

「...平気です。えぇ、平気ですとも。――しかし、『アリウス』に更に近付けるようです。より気を引き締めねばなりませんね」

 

 戻ってきた私を気遣うサクラコさんにそう答え、カップに残っている紅茶を飲む。

 

「...そうですか。ならは、サリエルにも...」

「可能性はあります。――真(・)実(・)は近い。果たして『アリウス』と『トリニティ』には何が...」

 

 紅茶の水面を見下ろして言ちるサクラコさんにそう答え、ペンダントを見下ろす。まだ蓋が開かれていたままで、視線の先でイスラ様の肖像画が小さく揺れる―――

 


~『カタコンベ』 廃礼拝堂~

sideーミカ

 

「――贖罪?」

「そうだ。――我が『トリニティ』が、"トリニティ福音派"が数百年、何代、何世代に渡って秘匿し続けてきた、『トリニティ』成立時に起きた『アリウス』との確執。

 これを白日の元に晒し上げ、『トリニティ』を『アリウス』に対して犯した罪と向き合わせる。そうして初めて――『トリニティ』は真の意味で成立するのだ」

 

 サリエルは真剣な表情を浮かべてそう答える。やり方は兎も角、『トリニティ』が『アリウス』に犯した罪を明らかにするべきだとは私でも思う。でも、そんな事をしたら―――

 

「...サリエル自身は兎も角、トリニティ福音派(貴女の派閥)はそれでいいの?」

「――無論、トリニティ福音派(我が派閥)諸(・)共(・)然(・)る(・)べ(・)き(・)裁(・)き(・)は(・)受(・)け(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)す(・)る(・)。その為に、首長(ホスト)となってから仕(・)込(・)み(・)を進めてきたからね」

「仕込み...?」

 「『アリウス』への秘密裏の攻撃に協力している者達は皆、トリニティが犯した罪を贖うことよりも、自(・)分(・)の(・)復(・)権(・)や(・)影(・)響(・)力(・)拡(・)大(・)を(・)優(・)先(・)す(・)る(・)か、罪(・)な(・)ど(・)と(・)微(・)塵(・)に(・)も(・)思(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)者ばかりだ。『トリニティ』が『アリウス』に対して何をしたか知った上でね。

 仕(・)上(・)げ(・)が終われば、私が仕込んだ情(・)報(・)の(・)爆(・)弾(・)が起爆されるようにしている。OGも、生徒も...罪を秘匿してきたことを罪とも思わぬ者共は一切逃がさない。

 『トリニティ』内の派閥や政治バランスも多少荒れるだろう。――この政治的要素において、聖園ミカ。君に提案したいことがある」

 

 サリエルは自身の目論見についてそう答え、真実について話し始めた時に言っていた提(・)案(・)について話し始める。

 

「そもそも、君をこうして呼び寄せたのは、単に『トリニティ』が隠してきた罪について知って欲しかっただけではない。ここまでの話を聞いて思い知ったはずだ――」

 

 

 

 

「――今、君の目の前には、その罪の秘匿と、世間にバレる前の抹消を目論んでいた者達の長(・)が居る」

「...貴女を、私(・)に(・)倒(・)し(・)て(・)捕(・)ま(・)え(・)て(・)欲(・)し(・)い(・)って言いたいの?それで"ティーパーティー"に貴女を突き出して、謀略を明らかにした功績にして私のクーデターの罪を軽減しようって言いたいの?

――余計なお世話だし、貴(・)女(・)が(・)勝(・)手(・)に(・)自(・)首(・)す(・)れ(・)ば(・)そ(・)れ(・)で(・)済(・)む(・)話(・)じゃん」

 

 サリエルの言わんとすることを察し、しかし意図が分からず確認する様に聞き返す。―――自分から"ティーパーティー"に明かし、裁いてもらう様に求めればそれで済む。なのに、サリエルは私(・)が(・)捕(・)ま(・)え(・)る(・)事を求めている。

―――私が犯した罪は、退(・)学(・)も充分有り得る重罪だ。ナギちゃんやセイアちゃんと会えなくなるのは辛いけど、セイアちゃんが自分でやった事とは言え、自分の勘違いもクーデターの動機の一つ。

 『アリウス』と接触して、事情を聞いた上で私自身でクーデターを起こして"ホストリーダー"の座を得ると決めた。だから、罪に対する罰は抵抗せず受け止めるつもりでいた。

 

「察しが良くて助かるよ。――君の疑念、反感は最もだ。校則(法)に則り、然るべき裁きを受けるのは当然であるし、贖罪の仕上げとして、"トリニティ福音派"首長(ホスト)たるこの私もまた裁かれねばならない。それについては、なるほど私が自首して洗いざらい吐き出せば済む。私も、当(・)初(・)は(・)そ(・)う(・)す(・)る(・)つ(・)も(・)り(・)だ(・)っ(・)た(・)」

「...つもりだった?」

 

 私の疑念に頷いたサリエルの言葉尻に付いた過去形が気になって聞き返す。

 

「――君が起こし、失敗したクーデターで状況が変わったのだよ。まさか、私と福音派(我が派閥)以外にも『アリウス』に接触していたものが居たと知った時は驚いたよ。

――同時に、"パテル分派"の首長(ホスト)自らが『アリウス』の協力者を率いてクーデターを起こしたという事実も厄介だと察した」

「...厄介?」

「嘗て独立校の生徒会であった、現"ティーパーティー"の構成諸分派。『トリニティ』成立以来、平(・)等(・)な(・)茶(・)会(・)を謳いながら、その実長く主導権を握ってきたのは"フィリウス"、"パテル"、"サンクトゥス"の三派閥だ。

――その一角が聖園ミカ(分派の長)のクーデター失敗と共に崩れ、しかも"パテル"にはまともに引き継げる後継が居ない。それは君も自覚しているだろう」

 

 サリエルの言葉に口を噤む。―――"ティーパーティー"の人間として、それなりの政治は出来る自負はある。でも、ナギちゃんとセイアちゃんが私よりも政治面で優秀だった事と、"パテル分派"が実力至上主義を極めた組織風土だから、私と互せる娘を後継に...なんて漠然な将来を考えていた。

 クーデターを決行した時に、私の勘違いや想定外が連続したお陰で計画は何もかもご破算となり、"パテル分派"は三頭政治の一角から一気に転げ落ちてしまった。

 

―――今思い返しても、そもそも"パテル分派"の権力や影響力の維持や拡大の為の将来設計が雑過ぎた自分の首長(ホスト)としての振る舞いが恥ずかしくなる。

 

「――さて、"ティーパーティー"の主導権に食い込めるチャンスが降って湧いた。三頭政治の各派閥に追従し、お零れを得て派閥の維持や影響力拡大に勤しんでいた雑多な弱小派閥共からすれば、これを逃す道理はないが――この派閥争いは放置すれば泥沼になる。確実にね。唐突過ぎるが故に、誰も彼もまるで備えられなかったからだ。

――ようやく『アリウス』について知り始め、『エデン条約』も締結できたというのに、派閥(身内)争いにかまける訳にもいかない」

 サリエルは目を伏せる―――

 

 

「――裁きは受けるべきだ。だが、『トリニティ』のこれからを考えれば...聖園ミカ。君(・)が(・)ト(・)リ(・)ニ(・)テ(・)ィ(・)か(・)ら(・)居(・)な(・)く(・)な(・)る(・)こ(・)と(・)は(・)実(・)に(・)不(・)都(・)合(・)だ。

 故に――君にはこの私を倒し、『アリウス』に、そして"ティーパーティー"に元(・)凶(・)として突き出して貰わねばならない。

 『アリウス』への攻撃の企図、『トリニティ』内での数々の秘匿。双方に混乱や疑念を齎した元凶を捕らえた。――クーデターの失敗から反省し、贖罪としての功績として実に相応しいだろう?」

 

 サリエルは両腕を広げて締め括る。―――言わんとすることは分かった。サリエルは自らの目的を果たせるし、私もそれに協力する事でクーデター未遂に対する贖罪として、処罰が変わる材料になり得る。

 なるほどお互いに利がある提案だ。ただ、気になるのは―――

 

「――貴女はそれでいいの?サクラコちゃんとか、キクリちゃん...自(・)分(・)に(・)近(・)し(・)い(・)人(・)と(・)の(・)関(・)係(・)が(・)壊(・)れ(・)る(・)かもしれないんだよ?」

「...何を言うかと思えば。――サクラコやキクリ達と築き上げた関係の破綻などと(・)っ(・)く(・)に(・)覚(・)悟(・)の(・)上(・)だ(・)。その関係が偽りだと言うつもりもないが」

 

 サリエルは私の問に対し、普段の表情とまるで違う、嘘偽りを一切感じられない真剣な表情でそう答える。

 

「『トリニティ』で秘匿された罪の贖罪。その為に全て捧げて来た。その備えとして、私(・)と(・)連(・)座(・)な(・)ど(・)し(・)な(・)い(・)よ(・)う(・)に(・)、親(・)し(・)く(・)し(・)た(・)者(・)達(・)は(・)徹(・)底(・)的(・)に(・)我(・)が(・)謀(・)略(・)か(・)ら(・)遠(・)ざ(・)け(・)て(・)き(・)た(・)。

――これは、絵に描いた大団円で幕引きなどできない。誰(・)か(・)が(・)石(・)を(・)投(・)げ(・)ら(・)れ(・)る(・)罪(・)人(・)に(・)な(・)ら(・)ね(・)ば(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)のだ。そして、その罪人は一(・)人(・)だ(・)け(・)で(・)い(・)い(・)」

 

 サリエルは背負っていた[IWI Dan(スナイパーライフル)]を下ろして右に提げる。

 

「――さて、君の答えを聞こう。尤も、提案を断ったところで、私(・)の(・)下(・)に(・)追(・)い(・)つ(・)い(・)た(・)追(・)跡(・)者(・)を(・)迎(・)撃(・)す(・)る(・)体で私は君を攻撃する。

 私の誘いに乗った時点で、銃火を交えないという選択肢はないぞ。――そして、わざと捕まる為だとかでこちらも手加減するつもりもない。元より君は『トリニティ』内でもトップクラスの実力の持ち主。手加減する余裕などないからね」

 

 サリエルは不敵に笑って私を見つめる。―――『トリニティ』が『アリウス』に対して犯した罪とその秘匿を明かした上で、その贖罪の仕上げ、且つ私の罰を軽減する為に私がサリエルを捕らえる。それが私を呼び寄せた目的。

 自分自身の目的だけではなく、私がもし退学処分で裁かれた時の『トリニティ』への悪影響を予測して、私が『トリニティ』に留まれる様な配慮まで掛ける。

 本音を言えば『トリニティ』に居たい。ナギちゃんやセイアちゃん、テンちゃん達と離れ離れになりたくない。それでも―――

 

「――分かった。貴女が望むなら、倒して捕まえてあげる」

「...その表情を見るに、それだけではあるまい?」

 

 私の決断を見透かしたような眼差しに少し不機嫌な気分を感じるけど、抑えてサリエルを見つめる―――

 

 

「――私が受ける罰の軽減は要らない。貴女を捕まえた上で、私がサリエルに呼び寄せられて脱獄したことも、貴女から提案されたことも...全(・)部(・)ナ(・)ギ(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)達(・)に(・)話(・)す(・)」

「――親しい者達と会えなくなったとしても構わないと?」

「そんなのお互い様じゃんね。...然るべき罰を受けなかったせいで突き上げられて、ナギちゃん達に余計な迷惑をかける方が嫌だもん」

 

 サリエルの問にそう答え、自嘲を込めて笑う。―――変に配慮されて留まり、それを周りからネチネチ突き上げられて苦労させるよりは、潔く罰を受けて退学(学校を去る)方が後腐れが無い。

 ナギちゃん達は悲しむだろうけど、半端な罰で留まる罪人のせいで余計な迷惑を掛けるよりはマシだ。

 

「...そうか。君はその選択を取るか。――君の意思は理解した。私を降して捕らえた時の扱いは君に任せよう」

 

 サリエルはフッと息を小さく吐いて笑い、背中の三対の翼が揺れる―――

 

 

 

 

「――数百年に渡り隠されてきた罪が裁かれる時が来た。愚かな罪人を捕らえてみせろ!パテルの乙女よ!」

 

 サリエルは翼をはためかせて浮かび上がり、私を見下ろして[IWI Dan(スナイパーライフル)]を構える―――

 


~『カタコンベ』 『アリウス』自治区付近~

side-ミヤコ

 

「...ここは...墓所でしょうか」

「そう見えるな。壁にくり抜かれた窪みにあるのは...石棺ってヤツだよな」

「棺...な、中身とかないよね...?」

「中(・)身(・)があるならその臭いがする筈だよ。そんな臭いはしないから大丈夫じゃない?」

 

―――回廊を抜けた先は墓所らしき空間で、クリアリングを終えてサキと共に空間を見回す。

 

「...サッちゃん」

「あぁ。――気を付けろ、"RABBIT小隊"。この空間は『アリウス』で見(・)た(・)こ(・)と(・)が(・)あ(・)る(・)」

「...!」

 

 そして、私達に続いて空間に入ってきた"アリウススクワッド"の四人が空間を見回し、サオリさんが私達に警戒を促す言葉を掛けてきた事でその真意を察する。

 

「確か、この墓所は...ヒヨリ」

「ちょっと待ってくださいね...確か...えーと...」

 

 ミサキさんがヒヨリさんに顔を向けると、彼女は壁の窪みの一つに近付き、石棺の上蓋をずらして何かを探り始める。

 

「――ありました。アリウススクワッド(私達)の隠(・)し(・)物(・)資(・)の残りです」

 

 探り終えたヒヨリさんの手には、かなり年季が入った、少(・)し(・)膨(・)ら(・)ん(・)で(・)い(・)る(・)様に見える缶詰らしきものが握られている。ラベルがすっかり擦り切れていて、中身が何かは外観からは読み取れない。

 ただ、上蓋には『ヒヨリ』とナイフの刃先か何かで刻まれた文字が見える。

 

「あぁ、確かにそうだな。――この缶詰は、見ての通り中身が何かまるで分からないから、いつかまた物資の隠し場所として使えるようにヒヨリが目印として残していたんだ」

「えへへ...最初は、どうしてもお腹が空いた時に食べる用で隠してたんですけどね。"お母さん"のおかげでこれに頼ることはありませんでした」

「明らかに膨らんでいるから、もう捨てないとだね。今回は『カタコンベ』の現在位置確認で助かったけど」

 

 サオリさん、ヒヨリさんの説明にアツコさんが頷く。

 

「では、"先生"達に伝えましょう。『アリウス』自治区が近いと――」

 

キラッ...

「――スナイパーッ!!」

 

―――インカムに触れながら、何気なく墓所の奥をライトで照らした一瞬。最奥にレ(・)ン(・)ズ(・)の(・)反(・)射(・)光(・)が光った瞬間を視界に納め、声を張り上げて皆で一斉に咄嗟に傍の横道に飛び込む。

 

チュイン...!

ッターーン...!

 

「っぶな...!ミヤコの共有がなかったら、誰かしらが狙撃をモロに食らってたよ...!」

「狙撃...まさかルイズか...!」

「音が遠いので確実ではないですけど、多分ルイズ姉さんのです!」

 

 モエの言葉に続いて、サオリさん達がそう言葉を漏らす。どうやら見知った人物の狙撃らしい。

 

「マズイな...ルイズが居るなら、"アナテマスクワッド"が自治区を出てここまで防衛に出て来ていることになる」

「...その"アナテマスクワッド"は精鋭なのか?」

「――私達"アリウススクワッド"が攻撃型なら、"アナテマスクワッド"は防衛型。"アリウス生徒会"直属で、普段は本校舎を直接守る精鋭部隊だよ」

 

 サキの問にアツコさんが答える。どうやら『アリウス』を守る精鋭部隊の様だ。

 

「――狙撃したということは、調査部隊の接近にアリウス(向こう)は既(・)に(・)気(・)付(・)い(・)て(・)い(・)る(・)ことの意(・)思(・)表(・)示(・)だ。

 私達も、"母さん"に育てられた精鋭の自負はあるが、"アナテマスクワッド"も同様の薫陶を受けた四人だ。――先行偵察が目的の私達だけでは対処できない」

「...では、本隊を呼んで正面突破を?」

「この墓所はさっきの回廊みたいな縦長の空間だ。正に狙撃向けの場所。

――だが、少し迂回すれば大規模部隊を動かせるだけの広い空間がある。

 私達の接近は既にバレている。そして、この辺りの空間で防衛線はほぼ確実に築かれている。ならば、開き直って最適な場所から正面突破を狙うべきだ」

「――分かりました。しかし、それを伝える前にその場所を偵察すべきかと」

 

 サオリさんの意見に頷き、その前に偵察する事を提案する。―――防衛線が築かれているなら、無策で動くのは危険だ。本隊を動かす前に、出来る限り情報を集めたい。

 

「...確かにそうだな。では、先に偵察しよう。私達が先導する。...だが、道中で網(・)が(・)張(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)可能性もある。その時は諦めるしかない」

「了解しました。――"先生"達に伝えます」

 

 サオリさんの懸念に頷き、方針を伝えるべくインカムに触れる―――

 

ターン...>

ズゥン...>

 

「...ん?」

 

 ふと、耳が何処か遠くからの微かな音を捉える。距離、その間を隔てる空間や壁で小さくなっていて判別出来ないものの、まるで誰(・)か(・)が(・)交(・)戦(・)し(・)て(・)い(・)る(・)様な―――

 

「...ミヤコ、どうしたんだ?」

「...いえ、なんでもありません。――こちら"RABBIT1"」

 

 サキの言葉で我に返り、インカムに触れる―――

 

―――To be Continued―――

 




ということで、交戦開始です。

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