身長2m28cmの大男、平成元年の日本に転生する   作:はるあき 007

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17歳-35 練習

バスケ部に加入し、慌ただしい日々が過ぎ、最初の週末を迎えた。

平日は講義もある。バスケに100%を注ぐことはできないが、今日は別だ。

一日中バスケが出来る。

 

パイセンたちは朝から練習試合の遠征で、今日は一年だけの練習の日になった。

 

いつもの体育館なのに、空気が少し違う。

ジーカクス監督の怒鳴り声もなければ、妙に重たいプレッシャーもない。

その代わり、全員どこか落ち着かない。広いコートの中で、自分たちだけが取り残されたみたいな感覚だ。

 

基礎練がひと通り終わったあと、スキルコーチのマーティンに呼ばれた。

 

「ダイ、ちょっと来てくれ!」

 

俺はボールを抱えたまま、サイドの椅子が並んでいる場所まで歩いていった。

マーティンはノートパソコンを片手に持ちながら、ホワイトボードに何かを書きなぐっている。

 

「座ってくれ」

 

「OK」

 

俺がパイプ椅子に座ると、マーティンは少し離れた位置に立ったままノートパソコンを操作した。

画面には、昨日の練習映像が映っている。

 

俺のポストアップ。

ターン。

フェイダウェイ。

フック。

リバウンド。

ブロック。

そして、ディフェンスを弾き飛ばしながらダンクを決めている場面。

 

「まず結論から言う」

 

マーティンが言った。

 

「お前は既に大学ナンバーワンプレイヤーだ。だが、NBAでもナンバーワンになれるほどではない」

 

少しだけ眉を上げる。

 

「NBAのスターになりたいなら、方向性を絞る必要がある」

 

「・・・どういうことだ?」

 

マーティンは、いくつかの動画を流しながら、説明を続けた。

 

「ダイはでかい。上手い。シュートも打てる。パスも見える。ハンドルも平均以上だ。だが逆に言えば、まだ何の怪物かが定まり切ってない」

 

ノートパソコンの映像が切り替わる。

 

俺がトップでボールを持って、一度ドライブを狙ってトラップにかけられて、そこから苦しい体勢でピポットを踏み、強引にダンクに行く場面。

次に、ローポストからダブルチームを受け、パスコースを塞がれて停滞し、強引に背面ダンクをする場面。

 

「ドライブの時もポストプレイの時も、どちらも一度失敗している。そこから、その類い稀なる身体能力でダンクに行くのは流石の一言だが、これは相手が大学レベルだからだ。NBAのトップスター相手では通用しない。

これから、大きく分けて二つ、伸ばすべきことがある」

 

マーティンは、指を一本立てた。

 

「一つ目。スキル面」

 

今度はホワイトボードに歩いていき、ペンを取る。

 

「ダイには今後、徹底的にセンターとしてのスキルを伸ばしてもらう。

 ショートロールの判断、エルボー起点の1対1、ハイポストからのポストプレイだ」

 

「ガードやフォワードとしてのスキルは良いのか?」

 

「ダイはもう、その辺りのスキルは十分すぎるほどだ。普通お前くらいの体格があれば、インサイド特化の人間になるはずだが・・・ダイはなぜか、ハンドラーとしての能力があるからな」

 

・・・それはまあ、前世で20年以上もガードとフォワードをやり続けてたからな。

 

「逆にセンターとしてのスキルはまだまだだ・・・今までどんな環境で練習してきたんだ?」

 

「ハッハッハ・・」

 

・・・平均身長210cmオーバーの異常なチーム、ラバリアに所属してたからな。

センターよりガードやってる時間の方が長かったし。

なぜかあのチーム、スキルコーチも居なかったしな。

 

小中時代は、インサイドじゃリバウンド押し込んでりゃ勝てたしなぁ。

 

「・・・まあいい。あれだけドライブやユーロステップが上手いんだ。少し練習すれば、インサイドでのステップもマスターできるはずだ。

伸ばすべき二つ目は、身体能力だ」

 

今度は、俺のリバウンド後の走り出しの映像が映る。

一歩目、少し出遅れる。

でも、その後の加速でガード陣を追い抜いている。

 

「ダイは身長の割に速い。だが、もっと速くなれば、誰もお前を止められなくなる」

 

「瞬発系か」

 

「そう。特に最初の二歩だ。

 直線のスピードじゃない。切り返しと再加速。

 今のお前は、最高速に乗る前にプレーが終わることが多い」

 

それは、自分でも分かっていた。

 

ワールドカップでも、スペインでも、大学でも。俺はでかいのに動けると良く言われる。

だが逆に、身長関係なくNBAの全選手と比較した時、スピードは並だとも言える。

 

「これが一つの方向性、高層ビルみたいなサイズで、ウイングみたいに方向転換できる身体だ」

 

・・・なかなか無茶な人体改造になりそうだ。

だが、嫌いじゃない。

 

「もう一つの方向性は、体重を増やしてインサイドを蹂躙するプレイヤーになる事だ」

 

マーティンは一つの動画を流した。

そこには、ディフェンスを吹き飛ばしながらダンクを決める俺の姿が映っていた。

 

「ダイの好みはこっちかもしれんな。何故かお前は人のいる方に突っ込もうとする癖があるからな」

 

・・・そうだったか?

セバスチャン監督の最後の教えが、悪い方向に作用しているのかもしれん。

まあ、ユーロリーグのタフな選手たちと比べて、まだ体のできてない大学生は簡単に吹っ飛んでくれるから楽しいというのもあるが。

 

「クイックネスを身に着けて史上最大のウィングになるか、体重を増やして史上最強のインサイドプレイヤーになるか。この二択だ。どちらを選んでも支配的なプレイヤーになれると思うぞ」

 

なるほどね。

クイックネスと、重さか。

・・・うん?

 

「どちらも伸ばすってのは、だめなのか?」

 

俺の発言に、眉をひそめるマーティン。

 

「それは地獄への入口だ。数多くの高身長プレイヤーが筋力とクイックネスをどちらも伸ばそうとして、関節や靭帯を壊し、表舞台から消えていった」

 

・・・なるほどね。

じゃあ大丈夫だ。

健康スキルあるしな。

 

「問題ない。どちらも伸ばす方針でいこう」

 

俺の発言に頭を抑えるマーティン。

 

「・・・話聞いてたか?人間の体の構造上、どっちも伸ばすのは不可能なんだよ。」

 

「不可能を可能にする、それが俺という男だからな」

 

「理屈が通ってないんだよ!そんな抽象的な理由で危ない橋を渡れるか!」

 

「大丈夫だ。俺は靭帯と関節が強い」

 

「聞いたことねえよ!なんだそのふわふわした評価軸は!」

 

 

それから数分間、俺とマーティンは終わらない議論を続けることになった。

俺の体の特殊性を知らないマーティンと、健康スキルの存在を知ってはいるもののその理屈を説明できない俺。

議論は平行線のまま続いていった。

 

最終的には、偶然通りかかったエリザベスさんからのアドバイスがあり、後日マーティンに俺の人体構造の説明をしてもらうことで話は落ち着いたが。

 

全く・・・やれやれだ(たぶん俺が悪い)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、午前の練習は滞りなく終わった。

待ちに待った飯の時間だ。

 

学食は食べ飽きたので、ジョージと一緒に街に繰り出すことにした。

 

「この辺にジョージお勧めの店があるんだっけ?」

 

隣にいる、やけに上機嫌な様子の男に話しかけた。

 

「ああ、味は滅茶苦茶上手いし、何より日本食だ。ダイも絶対に気に入ると思うぜ!」

 

そう言ってサムズアップしてきたジョージ。

信頼できるジョージの言う事だからな。

味は間違いないと見ていいだろう。

 

そう思ってジョージの後をついていくこと数分、古民家のような見た目の店にたどり着いた。

 

店の前には、

【めちゃく茶屋】

という大きな看板が掲げられている。

 

・・・帰りたくなってきたな。

 

「日本語は殆ど読めないんだけどよ、茶屋ってのは分かるぜ。コーヒーショップって意味だろ?その前はなんて書いてあるんだ?」

 

「うーん・・英語だとCrazyが近いかなぁ?」

 

なんか、ニュアンスが違う気もするが。

ダジャレにもなってないし。

 

「Crazy Coffee Shopか。カッコいいじゃねぇか!」

 

・・・絶対に間違って伝わってるな。

一ミリもカッコ良くないぞ、めちゃく茶屋。

 

上機嫌なジョージとテンションが下がった俺が店内に入ると、そこには木のテーブルと小さいソファが幾つか置かれており、まさに日本の純喫茶という様相だった。

金髪の店員に案内されて、窓際の席に座る。

 

「この店の看板メニューの【Japanese Katsudon】が最高に美味いんだよ。ダイも食べてみて、ぜひ本場日本人としての感想を聞かせてくれよ」

 

「へぇ・・・カツ丼あるのか」

 

アメリカ来てから、食べてないな。

 

サクッと揚げられたカツに、出汁で煮込まれた卵と玉ねぎがふわりと乗っかる、まさに日本の繊細な味わいが詰まった逸品だ。

・・・思い出したら食いたくなってきた。

 

俺とジョージは迷わず、カツ丼を二つ頼んだ。

 

そして10分後、俺たちの前にはカツ丼・・・いや、Japanese Katsudonが届いていた。

 

「これだよコレ!ガーリックライスの上にFried Pork、そしてびしゃびしゃにかけられたグレイビーソース!アクセントのパクチーも最高なんだよなぁ!」

 

嬉しそうな表情で、Japanese Katsudonを食べ始めるジョージ。

当然、箸なんてものはないので、スプーンで掻き込んでいる。

 

「いや・・・まあいいけどね」

 

店名からして嫌な予感はしてたしな。

俺達もミラノ風ドリアとか台湾まぜそばとか、国とほぼ関係ない料理作ってたりするし。

ここで店員に怒るのもお門違いというやつだ。

 

というか、怒ったら逆に煽られそうな気すらしてきたな。

「え、滅茶苦茶や!って店名で言ってるじゃないですか。名前の通り滅茶苦茶やってるだけですよ、言いがかりやめてくださいよ」

みたいな。

 

しょうがないので、黙って食べることにした。

 

サクサクのカツ、噛むたびにあふれる肉汁とそれに交わるグレイビーソース、そしてそれをまとめるガーリックライス。

 

・・・いや、美味いのかよ!

 

「どうよダイ?アメリカの日本食も捨てたもんじゃないだろう?」

 

「・・・ああ、そうだな。これは最高の日本食だ!(大嘘)」

 

 







今年のNBAファイナルは最高でしたね。
オフシーズンも衝撃トレード多くて楽しいし、来シーズンが待ちきれない。
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