Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
「どういうつもりだ、テメェ」
セイバーの目線と殺気の矛先は変わらず、榊を捉えつつも、意識の僅かな断片が、その声に向く。
誰がとは考えない。何故なら、その幼さが残る生意気な声を聞くだけで、それが自分の敵だと分かっていた。
「どう言うつもりも、此処まででしてよ」
それは先ほどのように空の上からでは無く、セイバーの背後からだった。
良く研ぎ澄まされた白銀の刃に、自らが使役するランサーを伴い、住宅街の路地奥の闇から浮かぶ親水 京子の姿が写っていた。
「さてはて、予想以上の物が釣れてしまったのでしてね」
そう言いながら、京子は依然として、袴の内側に隠れた足取りを止めない。だが、ある程度の距離──セイバーの射程範囲に届く寸前に、その進路に朱い槍柄が立ち阻った。
「親方様、お下がりを。此処は俺が」
「それでは誠意が示せないのでして」
「ですが、それは……!!」
「ランサー、貴方は私の従者でしてよ。いつから意見を出来るようになったのでして?」
「クッ……!」
喉を締め付けられるようなランサーの呻きの後、口惜しげに震える朱い槍柄が退いていく。そして何事も無かったかのように、また京子は歩を進め始めた。
歩き、進み、通り、まるで一人だけが別世界に生きているかのように、英霊同士の戦場を前にしても、何ら変わること無く、自らの姿を貫く。そうして、主役の一人であるセイバーすらも追い越し、ふと足が止まったその時には、京子は既に中心となって躍り出ていた。
「では、交渉を始めるのでしてよ。本来ならば座敷に茶を用意したい所でしてが、何分急な事でしてからお許しいたして欲しいのでしてよ」
さも気心が知れた友人に話しかけるようだった。安穏とした声色に、そこはかとなく余裕が零れ落ちている広角。それは猛り立つ二人の視線に晒される中、明らかに不釣り合いの表情をしている。
「私はランサーのマスター、親水 京子と申すのでして、以後お見知りおきを。早速でしてか、私と貴方は敵対関係にあるのは明白。そしてあの凶暴なセイバーも同じ事でして。今の状況でいえば第三……いや、第四勢力でして」
──そもそも、京子は誰に話しかけているのだろうか。その薄く開かれた瞳は、セイバーでも、況してや怪物でも無く、虚空のその先を見つめている。それはまるで、人では無く見えない何かを相手にしているようだ。
「でしてか、日本には「敵の敵は味方」という便利な言葉があるのでして。まぁ、表と裏だけで語ろうとする日本人特有の諺であるのでしてか、これほど有能な言葉はないのでして」
それでも流れるように捲したて、誰にも主導権を渡さない。敢えて回りくどい言い方で、場の空気をかき乱して煙に巻いている。
「敵か味方かだけで語れるほど、世の中の衝突はそう簡単に出来ていないのでして。実際には様々な要素、思惑、そして策略が巡りに巡っているのでして。そして、この衝突は些か私に取っては、少し予想外でもあり、都合が悪いのでして」
その言葉や一挙手一投に、時にわざとらしく、時に自然な真意や虚構が折り混ざり、さながら少女の姿を希代のカリスマ、はたまた詐欺師のようにも惑わせる。
「そう言うわけで、私は敵の敵の味方をするのでして。宜しくなのでしてよ、セイバー」
だが、目的だけは嘘偽り無く、極めて真っ直ぐ答えた。
「テメェ、何のつもりだ……」
「何のつもりも、言葉の通りでしてよ」
状況だけを見れば、それは場を好転させる契機。従えているランサーと二人がかりであれば、怪物あるいは榊を差し押さえる事が出来るやも知れない。しかしセイバーはそれを素直に信じる事など出来ない。
つい数時間前まで、自分と榊を狙っていた敵。それが今になって味方として参戦するなど、余りにも都合が良すぎる。だがそれ以上に、セイバーは京子という狡猾さを隠そうともしないその性根が信用できなかった。
「さてはて、コレでは2対1。そこで殺気立つ阿呆を含めれば、2対1対1となるのでしてか。幾らご自慢のサーヴァントであろうと、些か厳しいのでは?」
だが信じるも信じないも、京子は構わずに前提を定義し、再び虚空へと目線を傾ける。その口ぶりから、誰に話しかけているのか、セイバーは漸くその輪郭を掴んだ。
『下がれ! バーサーカー!!』
怪物──バーサーカーが言葉を発した、ように思えた。だが、セイバーが良く目を凝らせば、その巨体の影から浮かび上がる、目玉に羽が付いた奇怪な生物からだった。
『この女の言う通り、例え貴様でも不利な状況だ!! 完全を期すために一度引くが良い!!』
「う゛ぅ……!!」
どこから言葉を発しているのか、その奇怪な生物は高圧的な態度で指示を出す。すると驚くことに、暴走寸前まで膨れ上がっていたバーサーカーの殺気が徐々に収まっていった。
『お話が通じる方で大変良かったのでして。賢明な判断でしてよ』
『親水 京子、そこのクソガキ……貴様らの顔、覚えたぞ!!』
『えぇ、貴方に私が討てるというのなら、存分に焼き付けておくと良いのでして』
『ふん……その減らず口も今に叩き潰してやる……!!』
その捨て台詞を最後に、脈絡も無く目玉と羽だけの生物が、灰となって消滅する。そして、怪物も同じように、灰では無く光の粒子を散らしながら、やがてこの場からその姿形を消した。
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京子がバーサーカーが消え去るのを最後まで見届けると、直ぐさま控えていたランサーが、主の元へと飛び出し、その御前で膝を付き、深々と頭を下げた。
「親方様、今後はこのような無茶はお控えを」
「あら、いつ私が無茶をしたのでして?」
そう惚けたように答えると、ランサーは途端に眉間に皺を寄せ、やがて脱力したように溜息を吐く。
「あの状況では、少なくとも俺達の方が不利であったでしょう」
「そうでしてか? 少なくとも私には有利に見えたのでして」
勿論、京子ほどの魔術師がその力量を推し量れないわけがない。寧ろ、英霊という人外を理解している分、誰よりもその脅威を理解していた。実際、あの中でその脅威を理解していたのは、間違いなく自分であったと言えるだろう。
それでも自らが場に立ち、交渉に打って出るのは、端から想定通りだった。そうでもしないと、英霊同士の戦いなど、収まる筈がない。
──最も、それは万が一に榊という人間が、拾い上げるだけの真価を発揮した時の想定。そして少々の予定外もありつつ、それを実行したと言う事は、京子のお眼鏡に叶ったと言う事。
後ろを振り返り、見事に試験を合格した掘り出し物へと目を向ける。
「さて、それよりも私達の目的を果たさねばでしてよ。そうでなければ骨折り損でして」
そこには当然、未だに殺気と構えを解く様子のないセイバーと、獲物を逃されて不機嫌そうに歯を鳴らす榊。そんな2人に対して、京子は自分から手を伸ばした。
「同盟を組みませんでして? 命を助けたのでしてから、これくらいの我が儘は当然、聞いてもらえるのでしてよね」
「寝言言ってんじゃねぇ。テメェが仕向けたんだろ」
まるで確たる証拠があるかのように、セイバーは強い声色で断ずる。それを京子は何も知らないように小首を傾げて、平然と問い返す。
「あら、根拠はあるのでして?」
「知るか、直感だ」
直感。そんな曖昧な確証を前にして、京子は言い逃れできないと悟った。英霊の中には、第六感とも呼ぶべき『直感』を持つ者が何人か居るという。恐らく、セイバーもその部類であると、京子もまた、その堂々たる言い振る舞いに自ずと理解する。
「それがどうしたのでして? 貴方のマスターを殺そうが生かそうが、私の勝手でしてよ」
だからこそ。京子はいっそ悪びれることはなく、真実のみを口にする事にした。
「でしてか、私が行ったのは、あくまで貴方とその阿呆の繋がりを阻害したのみ。こと怪物に関しては、私の与り知らぬ事でしてよ。それに、私が何もしなくとも、英霊も連れないマスターなど格好の的でして。それを助けた私に感謝の一つも無いのでして?」
建前などで上塗りなどせずに、飾り立てない腹の内側を京子は曝け出す。すると、セイバーの構える剣筋が少しだけ下を向いた。
「チッ……!!」
──どうやら正解だったらしい。こういう嘘が通じない方には夢見心地の嘘より、現実的な真実の方が効果的だ。それが大英霊が相手であろうと、それが同じ人間であれば、京子は言葉一つで簡単に捻じ伏せられる。
「おいおい、そんなんじゃ納得しねぇなぁ」
だが、榊は納得しなかった。
「……何が納得しないのでして?」
京子は僅かばかりの無言を挟んだ後、探るように問いを返す。後ろに控えているランサーもまた、一歩半だけ前に踏み出した。
──何を答えれば、この男を説き伏せられるのか。目の前で釈然としない様子で頭を掻く榊に、自然と京子の喉に唾が流れる。教祖の巫女として、上流に蔓延る魑魅魍魎を見てきた京子でさえ、目の前の榊の本性を掴めない。
一見すると、セイバーと同じ直感に従う者にも見えるが、その気だるげな瞳の内に潜む黒眼の揺らめきは、何も捉える事が出来ない。だが、それでも京子には伝わる。いや、京子だからこそ、その内側に潜む何かの末端を、辛うじて感じ取れる。
それは、大凡人には理解できない──理解してはいけない、底なしの狂気だ。
「いやな、納得はしてんだよ。お前が俺を試したのも、そんで手を組みてぇっていうのもな。でもなぁ」
俯いて下を向いていた黒眼が、京子を訝しげに見据える。その目が合うだけで、京子の服の内側は、氷点下のような不可視の冷気が充満する。
──その不満げに尖らせた口から、自分に何を問いかけるのか。考え得る想定を全て張り巡らせても尚、読むことの出来ない答えを京子は探し求める。
「お前、何で勝ちたいんだ?」
「……何を言っているのでして?」
だが、その問いかけに、頭の中に詰め込んだ京子の答えは、全て消し飛んでしまった。
──そんなの、勝ちたいに決まっている。そうしなければ日平和教の願いは叶わない。自分がこの聖杯戦争に勝利する事を
「願いを叶える為に、決まっているのでして」
「そうか、だったら……」
今一度、己の宿命を思い返し、京子は答えを捻り出す。それに対し、榊は更に問いを重ねようとするが。
「あっ……もう、持たねぇ……か」
突如、前触れもなく、その身体が膝から崩れ落ちた。
「おい、マスター!」
膝が地面を着き、上体が前に倒れ落ちる直前、その直前に駆け寄って来たセイバーが、榊の胸元に腕を差し込んで支える。
「起きろ! 起きろつってんだ!! ったくどうなってやがんだ!!」
セイバーが激しく揺らそうとも、その閉じきった眼は微塵も動く気配が無い。その様子を見るに、榊の意識が完全に途絶えているのは明白だった。
──終わった。アレ程までに目の前の男から発せられた未知の圧がパタリと消えた瞬間、無数に張り巡らせていた思考が、ようやく整理され始めたのを京子は感じる。
『どう致しますか。親方様』
だが落ち着きに息を吐く間もなく、念話を通してランサーの指示を仰ぐ声が耳に入る。何を求めているのかは、言われなくとも、冷静さを取り戻した思考なら、直ぐに答えが分かる。
「……退くのでして」
しかし、敢えて京子は答えない。その判断を下すには、榊という異常分子を未だ図り損ねる。
果たして、榊という存在が敵となるか、駒となるか。そして、この先──聖杯戦争において、どのような波紋を呼ぶのか。今はまだ分からない。だが、どの未来においても京子は、必ず勝利を掴み取る。それだけの覚悟を持っているからこそ、安易な選択肢を選ぶことは無い。
「セイバー、その阿呆を此処へ運ぶのでして」
袖の内から一枚のメモ用紙を抜き出し、それをセイバーに向けて投げ捨てると、足早に踵を返す。
「それでは、失礼するのでして」
「っ! 待ちやが」
「良いのでしてか? その阿呆が巻き込んでも」
「……チィ! いつかゼッテェぶっ殺す」
唸るような歯ぎしりと睨み付ける眼光をしているが、榊を腕に抱えたまま、セイバーは膝を上げようとはしない。幾ら好戦的であっても、気絶したマスターを背に戦う愚行など、この英霊は馬鹿では無いだろう。
それを見越していた京子は、セイバーには目もくれず、最後に未だ目を覚まさない榊を一瞥する。
その顔には英霊を圧倒するほどの覇気も、底が見えない狂気も微塵も存在しない、何処にでも居るような有象無象の阿呆の面。果たして、どちらが本当の姿なのか、分からなくなってしまう。
だが、どちらであろうと、どうなろうと構わない。それさえも京子は手中に収めてみせる。それぐらいの事さえ出来なければ、魔術師同士の争いに勝てる訳がない。
「それでは、またお会いする事を願うのでして」
榊とセイバー、此度の聖杯戦争で波乱を起こすであろう二人に、京子は期待を込める。
──どうか、私の掌の上で踊る愚者であって欲しいのでして。
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「しかしてランサー、一つ訪ねたいことがあるのでして」
「ハッ、何でしょうか。親方様」
「貴方、あの怪物に勝てるのでして?」
「……正直な所、あの男が真の実力を発揮すれば、五分──いや、判りかねます」
「あら、戦国随一の武将にしては、弱気な発言でしてね」
「俺が生きていた時代には、様々な人間がいました。一騎当千の武を持つ勇士。神策鬼謀の軍師、国を治める君主──ですが、あのような人間を、俺は知りません」
ようやく序盤から一区切りが付きました。これからは徐々に話が展開していきます。主人公の榊について、色々と謎が残りますが、こんな主人公だとしても、やる時はやると信じて、書いていきます!!
『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。
https://x.com/8f8qdLIQID34426
作品の高評価や感想は何時でも待っています!!
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