Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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閑話:サーヴァント:キャスター 召喚

 青年は外の世界を知らない。

 

 ずっと自分の世界は不透明な緑色で、動く事すら出来ない狭い筒の中だった。

 

 それでも不満はない。必要な魔術や知識は与えられているし、何より作られた理由があるということは、それ自体が幸福なことだった。

 

 ──不透明だった緑色の世界が、本来の光彩へと徐々に戻っていく。次いで全身を満たしていた浮遊感も抜けていく。

 

 そして扉も開き、青年を阻むすべてが一瞬の内に消え去った。

 

 その先で待ち構えるのは、自身の創造主。

 

「早く着替えるが良い、フィロ。直ぐに儀式へと移る」

 

 そう言って、創造主は乱雑に青年──フィロの着替えと靴を投げ捨てる。

 

 青年はそれを拾い、着替えようとするが実践に伴わない知識ゆえに、少々手間取いながらも終える。

 

「付いて来い」

 

 創造主は誘導もせず、後ろをついて来いとばかりに去っていく。

 

 それに続いて、フィロは筒の外へと一歩踏み出す。すると足の裏に固い靴の感触が伝わり、僅かに違和感が生じるが、また一歩踏み出し、覚束ない足取りながらも創造主の後ろ姿を追いかけて行く。

 

 長い廊下を渡り、無限とも思える螺旋の階段を降り、創造主とフィロが辿り着いた場所は狭い地下室だ。

 

 フィロは、一度地下室を見渡す。

 

 部屋を構成する六面は全て石で構成され、床にはチョークで描かれた魔法陣があり、その上には一見何処にでもあるような石の破片が置かれている。

 

「では、今からお前には召喚の儀をしてもらう。この石はかつての大錬金術師が書き残したとされる遺跡の一部だ。これなら間違いなくかの錬金術師を呼び寄せることができるだろう。期待しておるぞ」

「はい、創造主様」

 

 フィロは魔法陣に手を翳し、目を瞑る。

 するとどうだろう、自分の中にある無数の魔術回路が、瞼の裏に浮き上がってきた。

 

 後は、この魔術回路全てを駆使して、生命力を魔力に変換するだけだ。

 

 ゆっくりと息を整え、回路に生命力の流れを起こす。

 

 東洋で言えば『瞑想』に近い行動だが、理には適っている。魔力に変換するという事は同時に、身体を生命力で溢れさせるという事であり、その2つ両方を一度に出来るというのは魔術を行使するのには理想的な状態だ。

 

 漠然とした生命力から確固たる魔力へと変わっていくのを感じ、フィロは更に生命力を溢れされ、更に魔力を増幅する。その変換速度は凄まじく、既に幾つかの身体機能が失われつつある状態だった。

 

 それでもフィロは止めない、まだ何も、創造主に対して何もしていないのだ。

 

 創造主は自分を製造した父であり、生きる目的を与えてくれた師であり、そして最後まで使い潰してくれるマスターだ。

 

 フィロは彼の為なら持って数日の命など惜しくはない。この一瞬、たった1つの魔術の為に、生きられるのならそれでいいのだ。

 

 身体の内と外の境界が曖昧になっていき、意識が急激に遠のいていく。どうやら生命力が底をつき、五感さえ危うくなってしまったようだ。しかし、もう終わったのだから。

 

 後は、余りあるこの魔力を、あの魔法陣へ。

 

 手の感触も、腕の感触もない。そもそも動いているかすら怪しい。だがフィロは手を伸ばし続けようとする。

 

 ──繋がった。自身の魔力が魔法陣へと流れ込んでいくのだ。

 

 充分以上の魔力量を光として、視界を埋め尽くすほどに輝く魔法陣。

 

 それを見て、フィロは全身の力が抜けていくのを感じた。

 

 あぁ──コレで、叶う。

 

 ──創造主様の、願いが、ようやく、動き出す。

 

 直後、暗闇がフィロの意識を飲み込んだ。

 ────────────────────────────────────────────

 絹のように細やかに靡く銀の髪束に浅く焼けた肌と豊かな胸元を強調するような、学者とも魔術師と思えるロープの着こなし。

 

 眼鏡越しに映る双眸から、この世の全てを見てきたような知性が伺える女性──キャスターが呼び声に応じて現世に顕現した時には、既に異様な光景が待っていた。

 

「ありゃりゃー、これはこれは……」

 

 キャスターは眩い光から目を覚まし、周囲を確認した後に、困ったように口をへの字に曲げた。

 

 先ず、此処はどう見てもエジプトではない。夏らしからぬ、柔肌に突き刺さるような底冷えする冷気が、それをキャスターに教えてくれている。

 

 おそらく北方──例えばロシアなどの寒冷地帯だろう。エジプトの出身である自分が、わざわざこんな真逆の場所に呼び出されると、キャスターは思いもしなかった。

 

 次に、マスターが居ない。

 

 人が居ない、という訳ではない。この地下には魔術師が2人居る。

 

 1人は老齢の男だ。術式を編み込んで作られた白ローブや、英霊の自分を相手に何ら物怖じしない姿勢を見るに、熟練の魔術師である事が伺える。

 

 一方、もう1人はかなり若い。年齢は17歳の青年ぐらいだろう、老齢の魔術師と同じ長い白髪であり、簡素な布服の隙間から覗く四肢は、まるで造られた人形のように脆く、そしてか細い。

 

 しかしキャスターから見れば、脆いなんてものじゃない。どうしてこうなったかと思う程に、メチャクチャだ。

 

 キャスターが見透かした青年の身体は『人間としての生命活動』を阻害する程、魔力を出力する事に最適化された造りとなっていた。

 

 もはや人間ではなく魔力を捻り出す為の機械──ただ魔術を行使する為に存在する部品のようだ。だが、この青年こそ自分を呼び出したマスターだと、キャスターはその手に刻まれた令呪で確信していた。

 

 しかしそうだとすると、自ずと或る疑問が、キャスターの頭に浮かび上がる。

 

 青年は、その生命活動を止めている。呼吸も鼓動もせずにキャスターの目の前で倒れ伏している。既に死んでいる状態で、マスターとしての責務を果たせる訳がない。

 

 そんな不可思議な状況にキャスターが柄に似合わず首を傾げていると、老齢の男が口を開いた。

 

「良くぞ来てくれました。儂の名前はユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンと申します。そして貴君をお呼びしたのは、ホムンクルスを創造した者でございます」

 

 老齢の男が悠然と自己紹介をしている辺り、この状況は想定通りと言った所だろう。だがそれよりも、気になる単語にキャスターは意識が引っかかった。

 

 ホムンクルス、それは魔術的に栽培された人間。かつてキャスターが錬金術を修める際に、幾度となく聞いた言葉だ。

 

「ふぅーん、なるほどねぇ」

 

 キャスターは老齢の男から目を向けると、自分を呼び出した石灰の魔法陣から悠然と抜け出す。

 

「アタシを呼び出す為にワザワザ専用のホムンクルス君を造っちゃうとは、さてはアンタ相当腕のある錬金術師?」

「如何にも。貴君ほどに魔術の腕はないですが、それなりには」

「だろうね。私だったら、こんな馬鹿な真似はしないから」

 

 そして、石床に倒れる青年の横脇に立つと、キャスターは現代でも高級品であろうローブが汚れるのにも構わず、その場に膝を付いて身を屈める。

 

「死んでる、ね。原因は魔力の過剰放出による、生命力の枯渇……って所かな?」

 

 ──やはり間近で見ても、そのホムンクルスは死んでいる。キャスターは試しに青年の投げ捨てられた腕に触り、脈を確かめてみるが、そこに血の巡りは全く感じられない。

 

 キャスターは掴んだ腕を傷付けないようソッと地に置くと、老齢の男には目を向けず、言葉のみで尋ねる。

 

「でさぁ、早速そのホムンクルス君が息してないんだけど? このままじゃ消滅しちゃうよ?」

 

 ──英霊は召喚者であるマスターから魔力の供給がなければ、一定の例外を除き、1時間と現世に留まることは出来ない。キャスターもこのままでは、直に消えてしまうだろう。そして、この老齢の男がそんな当たり前の事を分かっていないとは、とても思えない。

 

「えぇ、かのホムンクルスの肉体では、その魔術回路の魔力変換速度に耐え切れずに死んでしまいました。ですが貴方なら蘇らせる事は不可能では無い」

「あぁーね。だから触媒を使ってアタシを呼び出したと、もしかして落書きに使ってた石でも捧げた?」

 

 老齢の男の思惑を理解こそすれど、合理的だと納得する反面、僅かな間で芽生えていた嫌悪感を益々募らせる。最初からこうするつもりだと考えていたのなら、猶更だ。

 

「貴方って実はやり手? 英霊相手に交渉するってね。アタシがそのホムンクルス君を助けなきゃ、消えてしまうとでも言いたいの?」

「正しく、その為のホムンクルスでありますから」

 

 キャスターの嫌悪感が、より激しく胸の内で存在を主張し始める。

 

 ──同じ錬金術を学んだ身であれど、医術を修める者として、生命を簡単に使い捨てる老齢の男を許す事が出来ない。しかし、だからと言って男の思惑に乗らないという選択肢はキャスターには無かった。

 

 自分の為に使い潰された生命を見捨てる事もまた、キャスターは許す事ができない。

 

「はぁ……もう、しょうがないなぁ。ほんっとうに癪だけど、今回は貴方の言う通りにやってあげるよ」

 

 溜め息一つ挟み、キャスターはローブの首元から腕を差し込むと、胸元をゴソゴソと弄った後に、そこから抜き出した手から、一粒の石を取り出す。

 

 それは不可思議であり、この世の物とは思えない石だった。

 

 その石は、歴史上全ての宝石や財宝、黄金よりも遥かに輝く至高の一物。まるで、天から産み落とされた神の雫のようなそれは、そこにあるだけで万物を超えた異彩を放っている。

 

「コレって一応、アタシの『宝具』なんだけどなー」

 

 キャスターは手の内で、その不可思議な石を転がす。価値を知る者からすれば、余りの不用心さに言葉を失うだろう。

 

 その摩訶不思議な石の正体は『宝具』──英霊たちが生涯の中で築き上げた伝説、武具、技が具現化した、言わば英霊達のみが持つ事を許される最終兵器。

 

 それをまるで隠すことも無く、当たり前のように取り出す事は、さしもの英霊であっても考えられない行為。だがキャスターはそれを躊躇うことなく、曝け出してみせた。

 

「さぁて、それじゃあ生き返らせようか」

 

 キャスターは石を今一度握り直すと、青年の背中へ優しく押し当てる。

 

 すると不思議な事に溶けていく。まるで水に角砂糖を落とし込むように、青年の背中へと、その石が段々と入り込んでいった。

 

 ──そして、ついに石が完全にキャスターの掌から消えた瞬間、青年の皮膚を透かして目が眩むような淡い光が灯り始める。

 

 その光は青年の全身を内から照らし、淡い色の帳が和らげに包み込んでいるような暖かさすらも覚えてしまう。やがて、光はその明るさを失い始め、そして完全に消えてしまうのと同時に、青年の瞼が開いた。

 

「……生き返ったのか」

 

 生き返った青年──フィロは直ぐに状況を理解したらしい。上体を軽く起こすと、自分の左掌を見つめると、生きている事を確かめるように指を開閉させる。

 

「生きるのに、理由はいらないさ」

 

 そしてキャスターは生の証明として、その左掌を握り、自分の温もりを伝える。

 

「貴方が、キャスターか」

 

 振り向いたフィロの顔と、キャスターと目が合う。その目はまだ何も知らない子供のように無垢に透き通っていた。

 

 その目を見た時、キャスターは自然と掛けるべき言葉が決まってしまう。それはフィロという生命が、今此処に生きている事への最大級の賛辞だった。

 

「やぁおはようマスター。今日が君にとって二度目の誕生だ」

 

 生まれてまもない、何も知らない無垢な生命に、キャスターは和らげな笑顔を傾ける。

 

 だが、その意図を理解出来ないフィロは、ただ茫然とキャスターの笑顔を見つめるばかりだった。

 




第三弾は、宝具を埋め込まれたホムンクルスの『フィロ』と、キャスターです。

今回の英霊も、ランサーと同様にオリジナルサーヴァントとなっています。ヒントにつきましては、本話の中に散りばめておりますので、興味のある方は是非、考察してみてください。

余談ですが、どのオリジナルサーヴァントの設定も、作成するのにかなりの苦戦を強いられました……果たして、私はこのサーヴァントを上手く扱えるのでしょうか!!

『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。

https://x.com/8f8qdLIQID34426

作品の高評価や感想は何時でも待っています!!

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