Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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女帝からのオーダー

「お前ってもしかしてエスパーだったりするわけ?」

「何を言っているのでして? 書物の読みすぎでしてよ」

 

 そう言い終わるや否、京子は甘ったるそうにデコレートされたドーナツを一口頬張ると、どうやら口に合わなかったようで年相応に顔を歪める。

 

「だよな……お前なら出来そうだなって思っただけだ」

 

 流石に非現実すぎるか。そうは思いつつも、こんな偶然にはそんな事も思いたくもなる。

 

 京子からの電話で呼び出された先は、西区の南の一角に位置する『神宿緑地公園』。比較的背の低いビル郡に囲まれながらも、緑豊かに木々や芝生が生い茂り、モニュメントとして設置された噴水は色鮮やかな虹を演出する神宿市でも人気スポットだ。

 

 そして京子が今さっき食べていたドーナツは、魔法の域に達した独創的な甘さとデコレーションで人気のドーナツショップ『wizard』の看板メニューである『インフィニティ・スウィーツ』。つまり、京子との待ち合わせ場所は、丁度榊が探そうとしていたドーナツショップだった。

 

「どうしてお洒落なドーナツ屋に呼び出した? もっとこう……秘密の会議する場所くらいもっとあるだろ、喫茶店とか」

「喫茶店などの狭い空間より、外の方が目立たず、尚且つ敵も手を出しにくいのでしてよ。当然、盗聴などの危険性を考慮しているのでして」

 

 そう言われて、榊は周囲をチラリと流し見る。

 

 販売車前に特設されたカフェスペースには、ドーナツとイン◯タ映えを求めて来た客が、若年層を中心に多く屯っている。そうじゃなくとも、夏休みで暇している子供達が、今も向こうの芝生広場でキャッキャとはしゃぎ回っていて、今日の公園はいつも以上に騒々しい場所になっていた。

 

 確かに、こんな賑わう場所なら内緒話を一つや二つしても、たちまち喧噪に掻き消されるだろう。だがしかし。

 

「しかし、噂に聞くほど美味しくはないのでしてね。砂糖を煮詰めればくさやだろうと美味しいのかと思っているのでしてかね?」

 

 お洒落な空間の中で一際浮世離れした巫女服の少女(京子)と。

 

「このドーナツっての……ただ甘ったれたのかと思いきや、ガツンときやがる! マスター! おかわり!!」

 

 マヨ210個分の美味しさとカロリーが売りの『マヨon210』を、平然と10個も喰らい尽くす少女(セイバー)

 

 普通に目立たない筈がない。さてはこの巫女、ドーナツ食べたかっただけなのでは? と、思わずにはいられない。

 

 そこでふと、苦い顔をしていてもドーナツを食べ切ろうとする京子を見て、榊は何かが足りないような気がした。そして、その違和感の正体は直ぐに分かった。

 

「そういえば、今日はさな……ランサーは居ないのか?」

 

 ランサー(真田幸村)と言いかけるも、キッと睨み付ける京子の眼光を前に、慌てて言い直して再度尋ねる。思えば、京子は初めて会った時から、ずっとあの戦国武将が一緒だった。だとすると、今日も今この場の何処かに居るのだろうか。

 

「ハァ……」

 

 すると何故だか、京子はチビチビとドーナツを食べる口を止め、そして特大級の溜息を吐き出した。

 

「貴方はバカでしてか? 普通は緊急時以外には霊体化させておくものでして。無闇に見せびらかせれば、相手に情報をくれてやるようなものでしてよ」

「れい、たい、か? なにそれ?」

 

 そして、未知なる単語が出て来ると、榊は途端に考えるのを止めた。多分、魔術とかそういう感じのアレだ。考えても意味が無いと直感的に理解した。

 

「……セイバー、少しはこの阿呆に最低限の常識ぐらいは教えるのでして」

「あっ? 面倒くせぇだろ」

 

 頭が痛いと眉間を押さえる京子を尻目に、追加で買ってきていたマヨon210をセイバーは頬張る。

 

「……サーヴァントは言わば、魔力の塊が具現化した存在。その身に宿る魔力を薄めれば、実体を保てずに一種のエーテル体となるのでして。頭の悪い貴方にも分かりやすく言うと、幽霊のような状態になるのでしてよ」

 

 そして京子は何かを諦めたかのように、投げやりな溜息に乗せて、意外にも丁寧に説明をしてくれた。その目が明らかに人を見る目じゃなかったのは、榊の気のせいだろうか。

 

「成る程……ん? じゃあ、ずっとセイバーが霊体化? ってのをしてれば、飯も服もタダなんじゃ……」

「言っとくが、ゼッテェ霊体化なんかしねぇぞ。俺はこの足で歩くのが好きなんだ」

 

 榊としては一人分の生活費が浮く大チャンスだったのだが、セイバーによってあっさりと却下された。どうやら、暫くは貧乏生活は続くようだ。

 

「それよりも、まだ要件を言っていなかったでしてね」

 

 苦々しげにも甘ったるいドーナツを漸く食べ終えた京子が、袖に手を入れてまさぐると、クリップで止めた書類の束を取り出し、テーブルの上に一枚ずつ並べていく。

 

「一度、コレに目を通しておくのでして」

「何だこりゃ……」

 

 円形のプラスチックテーブルを埋める書類の内、榊は無造作に一枚を手に取る。そこにはクリップ止めされた盗撮と思しき人物写真と、それに関するであろう詳細なプロフィールが載っていた。

 

「それが今回の、参加者たちでして」

「こんなの、どうやって……」

「企業秘密、と言いたいでしてが、これくらいなら教えても構わないのでしてよ」

 

 何も特別な事は無いと平然とした顔で椅子に座り直すと、京子は巫女服の胸元から、首にかけていた日の本印のお守りを見せつける。

 

「私、いや私が属する日平和教は日本のありとあらゆる機関や企業にコネがあるのでして。来日してきた魔術師を探すなど造作もないことでして、お望みなら貴方の生涯を紙に纏めて差し上げるのでしてよ?」

「怖いから辞めろよな……てか、それでも魔術師がどれだけいるか知らぇけど、よく絞り込めたな」

「それも簡単な事でして。魔術師には良くも悪くも目的があるのでして。逆に目的なく来日したと言う事は、聖杯戦争に参加する為に違いないのでして」

 

 さらりと振りかざす権力に底知れなさを感じつつも、榊はテーブル一面に並べられた情報を流し読みで頭に叩き入れる。

 

 ──魔術師、呪術師、神父、ホムンクルス? 。中には理解できない単語が幾つか混ざっていたが、それでも字面から伝わる異質な経歴を持つ人間達を前に、いずれ対峙するやもと思えば、鳥肌が自然と立ってしまう。

 

「おい、クソ巫女。一枚足りねぇぞ」

 

 その時、同様にテーブル上の書類を興味なさそうに眺めていたセイバーが、京子を強い眼光で睨み付けた。

 

 何の事だと思い、書類の一枚一枚を確認してみると、榊は直ぐに並べられた参加者のプロフィールが4枚しか無い。

 

 ──自分と京子の分を除いても、聖杯戦争の参加者数となる7人には、一人分が足りない。そんな事を見逃す少女では無いだろう。榊もまた、セイバーと同じく目線を寄せると、京子は観念したように口を開く。

 

「最後の1人は残念ながら確認されていないのでして。機関すら欺くほど周到に潜入する手練れか、それとも貴方のような魔術師ではない人間なのか、いずれにしろ警戒しておくのでしてよ」

「分かった……」

 

 それを疑ろうと、確かめる術はない。そう自分を納得させると、榊は手に持った書類をテーブルの上に戻し、いつの間にか丸まっていた姿勢を真っ直ぐ伸ばす。

 

 ──流石に気がつかない訳がない。その違和感を確かめようと、榊は探るように視線を京子に突き刺す。

 

「どうして俺にこんなのを渡すんだよ。何が目的だ」

「はて、同盟関係なのでしてから当たり前でしてよ」

「そんな優しい女じゃねぇ事ぐらい俺でも分かるわ」

 

 この巫女服姿の少女が、損得抜きで動く筈がない。それは榊じゃなくても誰だって勘付く。だがしかし、それがどれくらい深く込められているのかまでは推し量れない。

 

「一体、何が目的だ。巫女ガキが」

 

 だからこそ榊は敢えて自分から踏み込む。この少女に利用されたら最後、磨り潰されるまでこき使われる末路は目に見えているからこそ、その打算まみれの真意を確かめる。

 

 すると、その意気や好しと言うのだろうか、少女とは思えない妖艶な笑みが、京子の顔からホロリと零れ落ちる。

 

「使える駒というのは従順でも賢脳ではなく、やはり理解する者でして」

 

 そして、零れ落ちた笑みの仮面から覗くのは、人の顔をした何かだった。

 

「っ……!?」

 

 ──今、誰と対峙しているのだろうか。一見すると人間のように見えながらも、榊はそれを人間とは認識できない。

 

 敢えて言うのなら、それは人智の及ばない超常的な概念と言うのだろうか。得体の知れない未知への恐怖と、魅入られてしまうような神秘性を併せ持ち、生まれながらにして崇めるべきと定められた存在。

 

 それに心が奪われてしまえば最後、二度とこちらに戻って来れない。それを分かっていながらも榊は捧げるように意識が徐々に吸い込まれていく。だが、薄れゆく視界の中で、セイバーの首根っこを掴んで引き戻す衝撃で、途端に目が覚めた。

 

「飲まれるな、コイツはオレ達のような生まれながらの化け物じゃねぇ。修羅場と経験から積み上げられた化け物じみた人間だ」

「セイバー……」

 

 先ほどよりも真剣味が増したセイバーの言葉に、榊は安心感よりも底知れない恐怖が過った。

 

 僅かに見せた京子の素顔は、セイバーとは領域が違えど、人ならざる領域の風格を持っていた。それを英霊という超常的存在としてでは無く、人間のままに得たとしたら、一体どんな経験をしてきたのか、榊は想像する事すらも出来ない。

 

「何が、目的なんだ……」

 

 今度は真意を探るためでは無い。身を守るような恐怖心から、榊は反射的に京子に恐る恐る問いかける。そうすると、京子の顔にはいつも通りのほくそ笑みが、また素顔を覆い隠した。

 

「そう大した者ではないのでしてよ。素人とは言え、サーヴァントを所有する都合の良い貴方()には生き残って欲しいのが本心でして。でしてか、その為には貴方に一つ乗り越えなければならない障害があるのでしてよ」

 

 テーブルに並べられた書類の一つ、丁度榊の手前にある写真を、京子は指を指す。

 

「この男を、殺してきてくれないのでして?」

 

 そして下される指名は殺害命令。その標的は京子と同じ魔術師であり、何処となくやつれた印象を持つ中年の男、ザー・コスフィンだ。




流石は日平和教の巫女様。正真正銘の怪物です。無論、そうでなければ巫女など務まりませんが。

『追伸』
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https://x.com/8f8qdLIQID34426

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