Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
「この男は恐らく、貴方を襲ったバーサーカーのマスターでして。魔術師としては中の下でしてが、サーヴァントが厄介でして。早い所始末しなければ面倒なことになるのでして。今すぐとは言わないでしてよ? 期限は3日、コスフィンが根城としている場所は、その資料に挟んであるのでして、確認しておくのでしてよ」
「おい待て、誰が受けるって言った!!」
矢継ぎ早に命令を捲し立てる京子に、耐えきれずに並んだ書類を気にせず、榊は力のままに両手でテーブルを叩き付けた。
「落ち着くのでしてよ。目立ち過ぎるのは良くないのでしてよ」
「っ! どの口がっ!」
だが、京子は何事も無かったかのように平然と微笑む。その態度が余計に腹立たしくて、怒りに身を任せて襟元を掴み上げようとするが、それは腕を掴むセイバーの手で止められてしまった。
「マスター、落ち着け」
首を振って周りを見てみろとセイバーが促す。そこで榊は、あれほど談話に熱中して喧しかった周囲の目線が、何事かと一様に自分達へと向けられている事に気が付いた。
「悪目立ちは、返って寿命を縮めるのでして」
窘める京子に腹立たしさを覚えるが、榊としても目立つのは本望でもない。故に湧き上がる怒りに拳が震えつつも、黙って座る他なかった。
──そうして膠着した状態が続くと、やがて何も起きないと誤解した周囲は、誰かの話し声を皮切りにして、また元の喧しい喧噪を取り戻す。それを切っ掛けに、話の続きを京子の方から切り出した。
「何が不満なのでしてか?」
「不満? んなの不満しかねぇに決まってるだろ……!! 人を殺せなんて巫山戯てんのか!」
「巫山戯ていないのでして。この提案には、どちらにも利点がある至極真っ当な取引でしてよ?」
セイバーに諫められて、少しは冷静になれたとしても、言葉には抑えきれない怒気が孕んでしまう。それでも京子は微笑むのを止めずに、わざとらしく小首を傾げた。
「人を殺す取引が真っ当だって言えるかよ! 狂ってんのか……!!」
「例え、それが貴方の命を狙う敵だとしてもでしてか?」
「っ……それは……」
──言い返せる筈も無い。榊が巻き込まれた聖杯戦争の本質、それは願いを叶える為の殺し合いだ。だとすれば、京子が提案した取引も真っ当に違いない。
あらゆる願望が叶う万能の器、それこそ人智では為し得ない超常を前に、人の命など一体どれほど軽い物だろうか。考えるまでも無く、掛けられた天秤は振り切れて壊れてしまうだろう。
その答えを榊からは期待していないのか、京子の視線がスライドし、隣で真剣な表情のまま腕を組むセイバーを見据える。
「別に貴方が手を下すのではないのでしてよ。後処理はそこのセイバーにやらせれば良いのでして。かのサーヴァントでしたら、貴方がヘマをしない限りは大体の相手を屠れるのでしてね」
「当たり前だ。俺はそこらの三流サーヴァントと一緒にすんな。あんな牛頭野郎、次こそは叩き切ってやる。だが……」
セイバーは誇らしげに鼻を鳴らしながら、そこまで言い終えると、未だ何も答えられない榊の襟首を掴み、まるで所有物だと言わんばかりにグイッと引き寄せた。
「命令されんのは好きじゃねぇ。やるならコイツの意思でやる。相手がお前だろうとな」
「仮にも同盟相手である私に刃を向けると? 随分と躾のなっていない凶暴な犬でしてね」
「あんだと?」
間近に映るセイバーの横顔から、険しく歪む眉間が覗く。それがブチ切れる寸前だと直ぐに気が付いた。
「止めろセイバー!」
爆発寸前の空気に耐え切れず、榊は襟首を掴み上げるセイバーの手を振り払う。すると、今度はその眼光が自分に向かって詰め寄ってきた。
「どういうつもりだマスター。コイツは敵だぞ? 今やらねぇと、必ずお前に牙を剥くぞ」
セイバーは正気を疑っているような物言いだが、生憎と榊は正常である。正常ゆえに、この異常さに頭がおかしくなってしまいそうになる。
「お前らの匙加減でモノ話してんじゃねぇ……! そもそも殺す気がねぇって言ってんだよ! そのコスフィンって男も、気にくわねぇがお前もだ!」
──誰かを殺す。それは子供でも知っている、超えてはならない一線である。だと言うのに、この二人はまるでそれを忘れたかのように、さしも当たり前に喋っている。そんな壊れた倫理観に触れてしまえば、否が応でも頭がどうにかなってしまう。
「あらあら、随分と優しい殿方でしてね」
すると、そんな人として当たり前の心情を見透かしているかのように、京子が柔らかげな微笑を更に深める。それが気に食わなくて、榊は苛立ちで震えていた拳を爪が食い込む程に握り締めて、腹の奥に湧き上がる怒りを押し込んだ。
「……勘違いすんじゃねぇ、お前らの土俵に立つつもりはねぇってだけだ」
「そうでしてか」
京子は興味をなくしたように、今までの微笑を止めて吐き捨てると、長く真っ直ぐな黒髪をフワリと掻き上げる。
「今日の所は未だ答えなくとも良いでしてよ。でしてか、いずれは必要となる選択でして。むしろ遅いぐらいでしてよ」
「俺はそんな選択をするつもりはねぇ……したくねぇんだ」
それは当たり前のことだ。誰が好きで人を殺す奴が居る。そんなのは
「どこまでも甘い男でしてね、それが命を奪われる寸前でも同じことが言えるのでしてか?」
「それは……」
──そう言えないことを、榊は昨日に知ってしまった。文字通りの怪物と対峙し、死の恐怖を覚えてしまったからこそ、言葉に詰まってしまう。
だが、それは命を奪われるという極限状態の場合であればこそだ。自分から進んで殺しをするほど、この二人のように狂っていない。
──いや本当に、そうなのか。
何故なら、既にその極限状態に身を置かれされている。昨日の出来事を思い返せば、明らかに命を狙われている事は疑いようもない。そして、この先もきっと同じような事が続くはずだ。
それだけならば未だ諦めが付くかもしれない。だが自分には、相手を殺せるだけの
──己の命を狙っている敵を前にして、対抗できる力があるにも関わらず、榊は引き金を引かないという選択肢をできるのだろうか。
例え、同じ間違いを繰り返すと分かっていても、身体が勝手に動かない保証はあるのだろうか。
「迷うくらいでしたら、どちらかに選ぶべきでしてよ」
「っ……!!」
その迷いが顔に出てしまったらしい。京子にズバリと言い当てられてしまい、榊は慌てて情けなく弛緩した表情を引き締める。
「人生において最も愚行であるのは、不正解を選択するのではなく、どちらも選択しないことでしてよ。でなければ、失うのは命だけでは済まないのでしてよ」
嫌に含蓄のある助言が、どちらにも振り切れずに迷い続ける頭に突き刺さる。それの意味を榊が真に理解するのを待たず、京子は緩やかにプラスチックの椅子から立ち上がる。
「良い返答を期待しているのでしてよ。出来れば、貴方の敵になりたくはないのでして」
最後にそんなリップサービスだけを言い残すと、まるで榊の事など気にせずに、背中を見せて立ち去っていく。
「良いのかよ。マスター」
その背中をただ見つめているだけの榊に、セイバーが面白くなさそうに口をへの字に曲げて尋ねる。
「……あぁ」
それに対し、榊は短く答える。例え、今から京子がもう一度帰って来ようとも、榊はどうしようも出来ない。敵対する事も従う事も出来ない中途半端なままでは、あの少女は相手にすらしないだろう。
榊には答えを出すことができない。きっと、それはこれから先もずっと同じに違いない。
誰かを殺さねば、生き残れないとしたら……それは死を実感した人間であればこそ、綺麗事では答えられない物だと思います。
因みに、皆さんは死を実感した体験はありますか?私は修学旅行のスキー体験で、ブレーキが出来なくてリフトの支柱に激突仕掛けた事です。
『追伸』
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