Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

19 / 89
殺す覚悟はあるかと、問われるならば

「この男は恐らく、貴方を襲ったバーサーカーのマスターでして。魔術師としては中の下でしてが、サーヴァントが厄介でして。早い所始末しなければ面倒なことになるのでして。今すぐとは言わないでしてよ? 期限は3日、コスフィンが根城としている場所は、その資料に挟んであるのでして、確認しておくのでしてよ」

「おい待て、誰が受けるって言った!!」

 

 矢継ぎ早に命令を捲し立てる京子に、耐えきれずに並んだ書類を気にせず、榊は力のままに両手でテーブルを叩き付けた。

 

「落ち着くのでしてよ。目立ち過ぎるのは良くないのでしてよ」

「っ! どの口がっ!」

 

 だが、京子は何事も無かったかのように平然と微笑む。その態度が余計に腹立たしくて、怒りに身を任せて襟元を掴み上げようとするが、それは腕を掴むセイバーの手で止められてしまった。

 

「マスター、落ち着け」

 

 首を振って周りを見てみろとセイバーが促す。そこで榊は、あれほど談話に熱中して喧しかった周囲の目線が、何事かと一様に自分達へと向けられている事に気が付いた。

 

「悪目立ちは、返って寿命を縮めるのでして」

 

 窘める京子に腹立たしさを覚えるが、榊としても目立つのは本望でもない。故に湧き上がる怒りに拳が震えつつも、黙って座る他なかった。

 

 ──そうして膠着した状態が続くと、やがて何も起きないと誤解した周囲は、誰かの話し声を皮切りにして、また元の喧しい喧噪を取り戻す。それを切っ掛けに、話の続きを京子の方から切り出した。

 

「何が不満なのでしてか?」

「不満? んなの不満しかねぇに決まってるだろ……!! 人を殺せなんて巫山戯てんのか!」

「巫山戯ていないのでして。この提案には、どちらにも利点がある至極真っ当な取引でしてよ?」

 

 セイバーに諫められて、少しは冷静になれたとしても、言葉には抑えきれない怒気が孕んでしまう。それでも京子は微笑むのを止めずに、わざとらしく小首を傾げた。

 

「人を殺す取引が真っ当だって言えるかよ! 狂ってんのか……!!」

「例え、それが貴方の命を狙う敵だとしてもでしてか?」

「っ……それは……」

 

 ──言い返せる筈も無い。榊が巻き込まれた聖杯戦争の本質、それは願いを叶える為の殺し合いだ。だとすれば、京子が提案した取引も真っ当に違いない。

 

 あらゆる願望が叶う万能の器、それこそ人智では為し得ない超常を前に、人の命など一体どれほど軽い物だろうか。考えるまでも無く、掛けられた天秤は振り切れて壊れてしまうだろう。

 

 その答えを榊からは期待していないのか、京子の視線がスライドし、隣で真剣な表情のまま腕を組むセイバーを見据える。

 

「別に貴方が手を下すのではないのでしてよ。後処理はそこのセイバーにやらせれば良いのでして。かのサーヴァントでしたら、貴方がヘマをしない限りは大体の相手を屠れるのでしてね」

「当たり前だ。俺はそこらの三流サーヴァントと一緒にすんな。あんな牛頭野郎、次こそは叩き切ってやる。だが……」

 

 セイバーは誇らしげに鼻を鳴らしながら、そこまで言い終えると、未だ何も答えられない榊の襟首を掴み、まるで所有物だと言わんばかりにグイッと引き寄せた。

 

「命令されんのは好きじゃねぇ。やるならコイツの意思でやる。相手がお前だろうとな」

「仮にも同盟相手である私に刃を向けると? 随分と躾のなっていない凶暴な犬でしてね」

「あんだと?」

 

 間近に映るセイバーの横顔から、険しく歪む眉間が覗く。それがブチ切れる寸前だと直ぐに気が付いた。

 

「止めろセイバー!」

 

 爆発寸前の空気に耐え切れず、榊は襟首を掴み上げるセイバーの手を振り払う。すると、今度はその眼光が自分に向かって詰め寄ってきた。

 

「どういうつもりだマスター。コイツは敵だぞ? 今やらねぇと、必ずお前に牙を剥くぞ」

 

 セイバーは正気を疑っているような物言いだが、生憎と榊は正常である。正常ゆえに、この異常さに頭がおかしくなってしまいそうになる。

 

「お前らの匙加減でモノ話してんじゃねぇ……! そもそも殺す気がねぇって言ってんだよ! そのコスフィンって男も、気にくわねぇがお前もだ!」

 

 ──誰かを殺す。それは子供でも知っている、超えてはならない一線である。だと言うのに、この二人はまるでそれを忘れたかのように、さしも当たり前に喋っている。そんな壊れた倫理観に触れてしまえば、否が応でも頭がどうにかなってしまう。

 

「あらあら、随分と優しい殿方でしてね」

 

 すると、そんな人として当たり前の心情を見透かしているかのように、京子が柔らかげな微笑を更に深める。それが気に食わなくて、榊は苛立ちで震えていた拳を爪が食い込む程に握り締めて、腹の奥に湧き上がる怒りを押し込んだ。

 

「……勘違いすんじゃねぇ、お前らの土俵に立つつもりはねぇってだけだ」

「そうでしてか」

 

 京子は興味をなくしたように、今までの微笑を止めて吐き捨てると、長く真っ直ぐな黒髪をフワリと掻き上げる。

 

「今日の所は未だ答えなくとも良いでしてよ。でしてか、いずれは必要となる選択でして。むしろ遅いぐらいでしてよ」

「俺はそんな選択をするつもりはねぇ……したくねぇんだ」

 

 それは当たり前のことだ。誰が好きで人を殺す奴が居る。そんなのは()()()()()()()()()()()()()()人間だけだ。だというのに、それが可笑しいと責めるように、京子の眼差しが真摯に榊を見つめる。

 

「どこまでも甘い男でしてね、それが命を奪われる寸前でも同じことが言えるのでしてか?」

「それは……」

 

 ──そう言えないことを、榊は昨日に知ってしまった。文字通りの怪物と対峙し、死の恐怖を覚えてしまったからこそ、言葉に詰まってしまう。

 

 だが、それは命を奪われるという極限状態の場合であればこそだ。自分から進んで殺しをするほど、この二人のように狂っていない。

 

 ──いや本当に、そうなのか。

 

 何故なら、既にその極限状態に身を置かれされている。昨日の出来事を思い返せば、明らかに命を狙われている事は疑いようもない。そして、この先もきっと同じような事が続くはずだ。

 

 それだけならば未だ諦めが付くかもしれない。だが自分には、相手を殺せるだけの武力(セイバー)が居る。

 

 ──己の命を狙っている敵を前にして、対抗できる力があるにも関わらず、榊は引き金を引かないという選択肢をできるのだろうか。

 

 例え、同じ間違いを繰り返すと分かっていても、身体が勝手に動かない保証はあるのだろうか。

 

「迷うくらいでしたら、どちらかに選ぶべきでしてよ」

「っ……!!」

 

 その迷いが顔に出てしまったらしい。京子にズバリと言い当てられてしまい、榊は慌てて情けなく弛緩した表情を引き締める。

 

「人生において最も愚行であるのは、不正解を選択するのではなく、どちらも選択しないことでしてよ。でなければ、失うのは命だけでは済まないのでしてよ」

 

 嫌に含蓄のある助言が、どちらにも振り切れずに迷い続ける頭に突き刺さる。それの意味を榊が真に理解するのを待たず、京子は緩やかにプラスチックの椅子から立ち上がる。

 

「良い返答を期待しているのでしてよ。出来れば、貴方の敵になりたくはないのでして」

 

 最後にそんなリップサービスだけを言い残すと、まるで榊の事など気にせずに、背中を見せて立ち去っていく。

 

「良いのかよ。マスター」

 

 その背中をただ見つめているだけの榊に、セイバーが面白くなさそうに口をへの字に曲げて尋ねる。

 

「……あぁ」

 

 それに対し、榊は短く答える。例え、今から京子がもう一度帰って来ようとも、榊はどうしようも出来ない。敵対する事も従う事も出来ない中途半端なままでは、あの少女は相手にすらしないだろう。

 

 榊には答えを出すことができない。きっと、それはこれから先もずっと同じに違いない。

 




誰かを殺さねば、生き残れないとしたら……それは死を実感した人間であればこそ、綺麗事では答えられない物だと思います。

因みに、皆さんは死を実感した体験はありますか?私は修学旅行のスキー体験で、ブレーキが出来なくてリフトの支柱に激突仕掛けた事です。

『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。

https://x.com/8f8qdLIQID34426

作品の高評価や感想は何時でも待っています!!

Fate/Red Knights について、聞きたい裏話はありますか?

  • 各キャラの制作秘話・設定
  • 話の裏設定・心情
  • ストーリー展開の創作事情
  • その他
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。