Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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赤雷の騎士 推参

 榊はその瞬間、赤雷を見た。

 

 いや、赤雷ではなく、赤雷の如き騎士を目撃していた。

 

 その騎士が榊の前に現れた瞬間、赤い雷鳴が空間一杯に迸り、それに撃たれた異形の蟲達は忽ちに灰燼へと帰してしまう。

 

 そして蟲の残骸が舞い落ちていく工事現場の中で、その騎士はただ悠然と榊を前に佇んでいた。

 

「んだよ……これぇ」

 

 まるで自分もその雷に打たれたような衝撃が全身を駆け巡り、榊は思わずその場で尻もちを突く。唖然と開いた口は戻らないが、視線だけは外れずに騎士を見据えていた。

 

 全身を堅牢に守る重鎧と悪魔のような角が付いた兜、未だ赤雷を纏う白銀の剣──正しく小説の中に登場する騎士そのものだ。

 

 だが、そこに立つだけで場を荒々しさ湧き出す修羅の空気に一変させる、獰猛性とも呼べる圧倒的な存在感。とても騎士の威厳によるとは思えない。寧ろ血に飢えた獣が放つ威風に近いだろうか。

 

 ──身に纏う重鎧の内側に獣心と凶暴性を封じ込めた騎士。突如として赤雷と共に現れたそのアンバランスな存在に、榊は何故だか目を離すことが出来なかった。

 

 そんな釘付けの視線を鎧越しに感じたらしい。その騎士は白銀の剣を自分の足元に突き刺すと、兜越しに翡翠の眼光を榊の見開かれた瞳に傾ける。

 

 そして意外にも高い声色を兜の内側で響かせて、毅然としてこう尋ねて来た。

 

「問おう、テメェがオレのマスターか」

「ます、たー?」

 

 マスター。そう呼ばれる事に心当たりが無く、ただ茫然と榊は言葉を繰り返す。すると、騎士は兜頭を斜めに傾かせた後、惚けている榊の額に、堅い人差し指をグリグリと押し付けた。

 

「だぁかぁらぁ、テメェがオレを呼んだんだろ! 惚けた顔すんじゃねぇよ」

「俺が、呼んだ?」

 

 ──そう考えると、榊には心当たりが無いわけじゃない。鉄パイプを引き抜いた時、内なる声が呼べと言っていた。

 

 だとすれば、その相手こそが目の前に居る騎士だと言うのだろうか。頭の中で必死に探し求めようとするも、老人の焦ったようなガナリ声が邪魔をする。

 

「馬鹿な!! 何故サーヴァントを!! しかも召喚陣も無しにだと!! 有り得ぬ!! 有り得ぬぅぅ!!」

 

 先程までの嘲笑とは打って変わり、金切り声にも近い絶叫で禿げ上がった頭部を振り乱し、枯れ木のような細い腕を麻痺したように震わせる。

 

 その金切り声に、騎士はようやく老人を認知したらしい。兜を重々しげに横に回転させると、その先で夜闇で隠れていても露骨に狼狽えている老人を見つけた。

 

「コイツは何もしてねぇよ、オレが勝手に来ただけだ……さてと」

 

 騎士は踵の矛先を榊から老人の居る方角へと向き替える。そして肩に掛けていた剣で真っ直ぐ敵を指し示す。

 

「どうやらお前がマスターではなさそうだな」

 

 そこから騎士は半歩前に片足を踏み出し、両手で剣を肩口やや上に構えた。

 

「よし、ぶっ殺すか」

 

 ──ーまるで、ガキの悪口みたいな言いぐさだ。しかし、途端に騎士の背中から溢れ返る威圧は、明らかに本物と言わざるを得ない。

 

「待てっ! セイバーの英霊よ!!」

 

 それに充てられた老人は、先程まで榊に見せていた余裕ぶりもスッカリ消え失せる。代わりにその騎士へ縋るように請い始めた。

 

「貴様も聖杯に召喚されたのであれば、叶えるべき望みがある筈じゃ! であれば、そこの坊主では無く儂に付け!! 儂であれば望みが叶う!!」

 

 老人が宣う事が何を言っているのかは分からない──ーだが、騎士が向けていた剣先が少しだけ下がったのは見えていた。

 

 もしや、その切っ先が今度は自分に向けられるやも、そう一瞬だけ考えて、全身から血の気が引いてしまうが、それは榊の思い違いだったらしい。

 

「ハァ……分かってねぇな。お前」

 

 騎士はため息交じりに、呆れたように垂れる頭を片手で抱える。そして一度は少し下げた剣を、先程よりも強く、そして愚直に握り直して構える。

 

「テメェみてぇな薄汚ねぇ外道の為に、振るう剣なんざ持っちゃいねぇよ。分かったら黙って死にやがれ。老いぼれが」

「なっ!?」

 

 交渉決裂というよりは、一方的に断ったというのが正しいだろう。端から騎士は老人の事など、眼中にすら無かったらしい。だからこそ、その醜い命乞いをバッサリと切り捨てた。

 

「ワシが……」

 

 最早、老人に生きる道は無い。唯一の希望(命乞い)を断たれ、騎士からの一方的な死の宣告をされて、ワナワナと震えている始末だ。

 

「ワシが……どれだけ待った事かぁ……!!」

 

 だが、それは恐怖に怯えてではなく、内に溜め込んだ何かが爆発しかけているような震え方だった。

 

「小童どもに大聖杯を奪われ……老いさらばえるだけの身体で、それでも生き続け、機会を待ち続けて、どれだけぇ……どれだけの年月が経った事かぁ……!!」

 

 俯いていた老人の顔が上げられる。そして暗闇の向こうからでも形相が浮かぶ。

 

 ──ー榊は、その老人の事は何も知らない。どんな理由や経緯で自分に襲って来たのか、そしてブツブツと呟く言葉にどんな意味があるのか。

 

「それがこんな所で終わるじゃと……ふざけるな……!!」

 

 だが、深淵の底から憤怒が込み上げたような形相は、熟成された醜い妄執によって彩られている事は唯一分かった。それ故に、常人では理解できない狂気が、その枯れ木のような身体から溢れ出ている。

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 爆せるような老人の咆哮が轟いた瞬間、その全身の穴という穴から、大量の蟲が吹き出した。

 

 それはまるで老人の細胞一つ一つが異形に変換されたようだった。千を超えそうな程の蟲が、止む事なく溢れ出し続け、遂には老人の姿さえも蟲の群れとなって飛んでいく。

 

 やがて、全てを出し尽くされた蟲の群れは、一斉に吹き抜けの空へと舞い上がると、空を覆いつくして月明かりすらも蝕み喰らい尽くす闇へと化す。

 

「令呪さえ奪えばぁ! 令呪さえは奪えばワシの聖杯がぁぁ!!」

 

 異形へと変わり果てた老人の怨念が、塞がれた空から羽音となって、四方八方に反響する。そして次の瞬間、夜空を食らい尽くす程の闇が地上へと降り注ぐ。

 

 無数の異形がたった2人を飲み込まんと迫る様は、世界の終わりすらも連想させる。榊が取り囲まれた時よりも遥か何倍もの蟲の大行進に、情けなくも腰が抜けて、呆然と押し迫る闇を見つめるばかりだった。

 

 

 

 だがしかし、その黒い絶望を前に、セイバーは極めて不快そうに吐き捨てた。

 

 

 

「老いぼれが、ウルセェんだよ」

 

 ──赤雷が灯る。それは豪炎のように激しく剣を燃え盛らせ、纏うかのように騎士の鎧を伝播していく。

 

 そして剣を高く掲げる。直後、天地を揺れ起こす雷鳴が鳴り響いた。

 

「っ!!」

 

 質量を持った雷鳴が全身を激しく打ち付け、榊は思わず瞼を一度閉じてしまう。そして再び開くと、その目を疑った。

 

 ──セイバーの剣から極光が噴き出し、それが刀身を天に届かんばかりに伸びている。それはまるで、剣が赤雷を纏うのではなく、赤雷が剣と化したかのような現象だ。

 

 夜闇を満遍なく照らし出す極光に、兜の奥に隠れた愉快げな笑みが晒される。

 

「それじゃあ蹂躙するか!」

 

 剣が振り下ろされる。同時に赤雷が天から地へと堕ちる。その瞬間、襲い掛かる闇を打ち砕く、極光の爆発と衝撃が世界を壊した。

 

「──!!」

 

 眼に焼き切れんばかりの灼熱が忽ちに灯り、鼓膜が爆音に耐えきれず、劈く高音のみを残して聴覚を失う。そして、五感が纏めて吹っ飛んだのをキッカケに、榊は意識を一瞬の内に手放してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、榊が再び意識を取り戻した時、それは全てが終わった後だった。

 

「あぁー、スッキリしたー」

 

 満足げに首を鳴らし、使い終わった剣を再び肩に戻す騎士。

 

「ハハッ……んだよ、コレ。現実、か?」

 

 ──最早、夢であって欲しかった。そうじゃないと、目の前の事実に頭がおかしくなりそうだ。

 

 榊は、呆然と後に残った世界を見る。そして乾いた笑いをするしかなかった。

 

「夢じゃなきゃ、こんなの観れねぇよな……」

 

 ──それは傷跡だ。それも世界を二分しかねない程のとてつもなく巨大な傷跡。

 

 地平線まで一直線に抉り焦がされた工事現場の硬い地面。その先にある悉く真っ二つにされた鉄骨の外枠や資材の山、戦車のように巨大な重機達。そして、月明かりを取り戻した空からは、雨霰のように降り注ぐ、燃え尽きて塵となった蟲の残骸。

 

 まさに大地を割り、全てを焼き切る赤雷の一撃。そんなまるでゲームの必殺技みたいな冗談じみた一撃が、あの無尽蔵の蟲達全てを焼き払ったなど、そう簡単に受け入れられる筈が無い。

 

「さて」

 

 騎士が重々しげに振り向くと、鎧に煽られて、榊の頬を風が撫でる。同時に焦げ臭く不快な匂いが鼻をくすぐる。

 

 7月にしては妙に涼しく、だが何処となく熱気を帯びた風は、此処が現実だと榊に教え込むようだ。

 

 騎士が未だに呆然として動けない榊を見下ろした後、兜が蒸気機関のような駆動音を鳴らして剥がれていく。

 

 やがて、騎士の頭が全て外気に晒された時。

 

「我が名は最優の騎士『セイバー』にして瓶逆の騎士。召喚に応じ、参上した」

 

 金色の髪をした少女の顔があった。

 

 ──その日、榊は運命に縛られる。セイバーと自称する少女に出会ったその瞬間から。

 

「さぁマスター、聖杯をぶんどりに行くぞ」

 


 何処かで神父は呟いた。

 

「7騎の召喚を確認しました。少々予定外の召喚がありましたが。特に問題はありませんね」

 

 神父は隣にいるフードを被った女性に問いかける。

 

「貴方はどう思いますか?」

「特に何も思いません。何が起きようとも私の理想は揺らぎませんとも」

 

 芯のある、迷いのない凛とした声だった。その答えに神父は安らぎの笑みを浮かべ、空を仰ぐ。

 

 空には夏の星達が煌めき、強い輝きを放つ。それは綺麗であるが、永遠ではない。いつしか星は崩れ、光は堕ち、そして消える。

 

「消えない星……僕達はそういう物を求めているのでしょうかね」

 

 それは風の音1つで掻き消されそうな小さい独り言、だが女性は確かに聞き取って、こう返した。

 

「えぇ、掴めますとも。貴方と私でなら」

 

 星は綺麗に輝く。それはいつか訪れる終焉があるからこそ美しい。

 

 永遠の星には、一体何に美しさを見出すのだろうか。


 かくして、聖杯は復活した。

 

 聖杯を掴み、願いを叶える者はいずこや。

 

 何も知らぬ青年と赤雷纏う騎士か。

 薄幸の少女と戦士を捨てた英雄か。

 使命背負う巫女と歴戦の武人か。

 狂った呪術師と無法の海賊か。

 異端の聖職者と神盲の暗殺者か。

 人造の生命と慧眼の錬金術師か。

 栄誉求む魔術師と神代の怪物か。

 

 それとも、まだ見ぬ誰かが掴むのか。あるいは誰の願いも叶わぬのか。

 

 答えは、未だ分からぬ。

 

 全ては、星の導きのままに。




これが主人公とセイバーの出会いです。基本的にこの二人を軸に、聖杯戦争が進んで行きます。果たして、どんな物語を辿るのか……


『追伸』
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