Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

22 / 89
閑話:言の葉の毒

「助力……だと?」

 

 異常ともいえる神父から出た正気とは思えない提案に、コスフィンは一瞬だけ、怒りを忘れて我を取り戻した。

 

 同盟と言うのであればまだ理解できる。実際に親水 京子もセイバーのマスターである青年と交わしており、互いの利害関係が一致するので有れば問題ない。

 

 しかし、一方的な助力となれば話は違う。たった一つの枠を取り合う聖杯戦争において、他の参加者を支援するのは、余程底の浅い罠か、もしくは底の見えない悪意のどちらかだ。

 

「そんな提案に乗る筈が……!!」

 

 無いと言い切る寸前、コスフィンの目には、ある些細な変化が目に留まった。

 

 薄く、それこそ目が霞んでいるだけだと見逃す程に薄く、締め切っている筈の廃墟内に濃霧がボンヤリと立ち込めている。

 

 それにコスフィンが気付いた瞬間、風も無く濃霧の対流が生まれ、コスフィンの丁度隣に吹き溜まりが形成される。

 

「マスター殿、お戯れが過ぎます」

 

 濃霧の吹き溜まりの中から、いや、濃霧自体が意思を持って言葉を話す。そして、靄が徐々に薄れていくと共に、そこに居る筈の無い誰かが浮き上がった。

 

 それは、きっと死神に違いない。闇夜に溶け込みそうな程に染まった柔肌と外套、顔に張り付けた人骨の髑髏、そして何よりも、その姿を見るだけで生きる事を諦めてしまいそうになる、極めて濃厚な死の香り。

 

 此度の聖杯戦争における暗殺者(アサシン)が、此処に姿を現した。

 

「そのナリ……『ハサン・サッバーハ』か!!」

「ええ、その通りです」

 

 ご明察とばかりに、神父は拍手を鳴らす。しかし、コスフィンで無くとも、聖杯戦争を知る者からすれば、その真名は一目瞭然だろう。

 

 ハサン・サッバーハ。それは11世紀から13世紀の古代イスラムに存在した秘密結社『暗殺教団』の歴代の長達の名だ。

 

 当時、世界最大の宗教勢力であった十字軍の侵攻を、暗殺という手段のみでイスラムを守り抜いた守護者であり、それぞれが凶行とも呼べる修行の末に異端とも呼べる技巧を持つ狂信者でもある。

 

 ある長は百の貌と千の知識、触れる全てを侵す猛毒の体、心臓を握り潰す悪魔の腕、イスラム教に伝わる19人の天使の名(ザバーニーヤ)を冠する異端の技巧を持つ彼、彼女達の暗殺は、さながら死を予言する天使の宣告と呼ばれるまでに、不可視であり人外に反していたという。

 

 その実績から『アサシン』の語源と祭り上げられるほどの伝説性を秘めた暗殺者の英霊、ハサン・サッバーハ。正に此度の聖杯戦争においては、最も堂に入った人選に違いないだろう。

 

「……それで信用を得たつもりか。幾らハサンだろうと、それがどのハサンであるかなど分からんではないか」

 

 しかし、その姿と名前を看破しようと、コスフィンの気は未だに収まらない。

 

 ハサン・サッバーハの名を継ぐ歴代の教主は19人。その内の誰が呼び出されるかは、召喚主でさえも顕現してからでないと分からない。それならば、何も知らないのと、ほとんど大差が無い。

 

「えぇ、そうですとも。ですが、一魔術師として聖杯戦争を知る貴方であれば、アサシンを敵に回したくはないでしょう?」

「……」

 

 コスフィンは令呪が宿る以前から、魔術師としての興味故に聖杯戦争に付いて、調べていた。

 そして、最も警戒しているサーヴァントは、最優と呼ばれるセイバーでも、能力だけなら引けを取らないバーサーカーでも無く、アサシンだ。

 

 ──―かつて、世界中に聖杯戦争の知識がバラ撒かれ、至る所で亜種聖杯戦争が始まり出した頃、『暗殺者の春』と呼ばれる時代があった。

 

 それがどういう時代かと言えば、アサシンによるマスター殺しが流行っていた時代だ。

 

 亜種聖杯戦争においては、アサシンクラスのサーヴァントを召喚すると、歴代のハサン・サッバーハの誰かが召喚される仕様になっている。そして、その誰もが英霊ですらも感知できない卓越した暗殺技術を有している。

 

 幾ら無双の英霊・偉人であろうと、マスターからの魔力供給が無ければ、現世に存在する事さえ出来ない。故に先んじて他の参加者を殺害するという戦法が最も勝率が高かったという。

 

 実際、過去の亜種聖杯戦争でも、アサシンを召喚したマスターが僅か三日間で制したと言う事例がある程だ。最も、亜種聖杯戦争が魔術界隈に定着した今となっては、歴代のハサンによっての暗殺対策や攻略方法が研究されている為、簡単には行かないだろう。

 

 しかし、それでもアサシンの脅威が消えた訳ではない。寧ろ、知れ渡っているという事は、如何に脅威かと認識されているという事に他ならない。

 

「だが、目の前に居るので有れば、脅威などでは無いわ……私を侮ったな! 聖堂教会の神父!!」

 

 確かに、聖杯戦争ではアサシンは脅威となる。しかし、それは奇襲による暗殺がある為だ。正面からの戦闘であれば、召喚されるどの英霊よりも劣っている。

 

 自身が従えるサーヴァントは、最優と呼ばれるセイバーに劣らないとされるバーサーカー。更にその真名は、世界的に知れ渡る程の怪物だ。一暗殺者如きに、負ける筈も無い。

 

 同盟を組もうが組まないが、後顧の憂いを断つ方が賢明。だからこそ、バーサーカーへ号令を飛ばそうと、コスフィンが口を開いた時。

 

「それで宜しいのですか?」

 

 神父は、問いかけた。

 

「ザー・コスフィン、貴方の事は知っていますよ」

 

 神父は、その場から一歩踏み出す。

 

「魔術について四大元素を専門に追及する1345年続く名家、ザー家の長男であるザー・コスフィン。次期当主として嘱託されていた貴方でしたが、魔術の才能は4年後に産まれた次男に引き継がれてしまったようですね。幼い頃から両親は次男には英才教育を施し、貴方は居ない存在として扱われていた」

 

 また一歩、更に一歩と神父が踏み出す。しかし、コスフィンは止める事が出来ない。

 

「それでも貴方は頑張った。四代元素について誰よりも学びつくし、魔術の研鑽に惜しむ事なく時間をつぎ込んだ。だが悲しいですかな、それでも貴方の魔術師としての格は凡才止まり、その努力は虚しく、遂には次男が家督を継ぐ事が正式に決定してしまう」

 

 まるで、コスフィンの全てを一文字ずつ読み取っているかのようだった。それは自分と言う概念を的確に表現しており、淡々と綴られる神父の言葉一つ一つが、さながらザー・コスフィンという人間の有り様を組み立てている。

 

「貴方は素晴らしい人間だ。例え自らが凡才だと自覚していようが、当主になるべく長い年月を魔術に注ぎ込み、研鑽を積んできた。だがしかし、貴方の両親は、弟は、そして世間は貴方を認めなかった。貴方の魔術は凡庸だと蔑み、貴方の努力は無駄だと嘲った。誰にも認められず、誰にも愛されず、誰にも賞賛される事が無かった」

 

 既に神父は肩に触れ合う所にまで来ていた。しかし、コスフィンは動く事が出来ない。それよりも内側から火花を立てて巻き起こる感情を抑えるのに、意識が丸ごと持って行かれる。

 

 思い返すのは、腸が煮えくり返る程の怒り。どれだけ努力しようと、どれだけ魔術を磨こうと誰も、あまつさえ家族であっても認めてはくれなかった。『お前は凡才だ』と後ろ指を刺され、路傍の石だと見向きもされない。そんな有象無象の魔術師がコスフィンだと言う。

 

 ──―違う、違う違う。違う違う違う!! そんな馬鹿な話が有って良い筈が無い!! 誰よりも当主らしくあろうとした私より、何の努力もせずにただ才があるだけの弟が認められてい良い筈が無い!! 私こそが! 私こそが評価される筈なのだ!! 

 

「そんな貴方が、たかだか聖杯戦争の勝利だけで満足しますか?」

 

 それで満足する筈もない! 自分はもっと違う物を望んでいる!! 

 

「貴方が望むのは、圧倒的な勝利。他のマスター達を悉く蹂躙し、屈服させ、華々しい戦果を挙げてこそ、ザー家の当主に相応しいのでは無いですか?」

 

 そうだ、その通りだ! 

 

 凡才だと、落ちこぼれだと侮った両親、弟、そして世界に認めさせるには、たかだか聖杯戦争の勝利だけでは足りない。1345年続く名家、ザー家の長男として、ザーコスフィンは他のマスター達を悉く蹂躙し、屈服させ、華々しい戦果を挙げなければならない!! 

 

「でしたら、私とアサシンを使えば良い。貴方は栄えあるザー家の長男にして、当主たる器。そして、貴方が召喚したのは神話の怪物であるバーサーカーです。たかだか一介のアサシンと聖職者如き、使いこなせば良い。それでこそ、貴方の威光が示せるというのでは?」

 

 正しく、その通りだ! 

 

 栄えあるザー家の長男にして、当主たる器である自分が、たかだか一介のアサシンと聖職者如きを使いこなせぬ筈が無い。そして、こちらにはバーサーカーと言う神話の怪物が居る。バーサーカーとアサシンを使いこなせてこそ、ザー・コスフィンの威光を示す事が出来る!! 

 

 全て、全てその通りだ。神父の話す言の葉全てが合っている。ザー・コスフィンと言う人間は、ザー家の当主に相応しき人物で、こんなアサシン如きに恐れる人間ではない。

 

「もう一度問います。本当に宜しいのですか?」

「……良いだろう。これからは俺の為に尽くせ」

 

 故に、コスフィンは選択する。例え、この神父が何を考えていようとも、自分とバーサーカーであれば容易く扱えると、慢心にも似た絶対的自信を持って。

 

「ありがとうございます。それでは私に何を求めますか?」

 

 神父が恭しく頭を垂れる。そして助力の証明をしたいようで、命令を求めてくる。

 

 ──―さて、何を命令するべきか。目下で最大の障害かつ脅威である親水 京子及びそのサーヴァントの排除か……いや、違う。先ずは本来の目的からだ。

 

「先ずは──」

 




FGOでイヴァン雷帝が言っていた『英雄の力すら届かぬ言葉の怪物』。アーノルドもまた、それに近い人物やも知れません。

と言うか、改めて考えると、今回の聖杯戦争のマスターの大半は、結構な怪物しか居ないような……なんなら、マスターの方が強いまでありそうな気がしてきました。

『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。

https://x.com/8f8qdLIQID34426

作品の高評価や感想は何時でも待っています!!

Fate/Red Knights について、聞きたい裏話はありますか?

  • 各キャラの制作秘話・設定
  • 話の裏設定・心情
  • ストーリー展開の創作事情
  • その他
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。