Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
「ッ……ハァ……」
一息に飲み干したスポーツドリンクが、葛藤に茹で上がっていた榊の頭から段々と熱を奪っていく。そして、空になったペットボトルから口を離した時には、ようやく胸の内で暴れ回っていた騒めきが大人しくなったような気がした。
「どうしろってんだよ……」
しかし、幾ら頭を冷やそうが、未だに京子の言葉が、榊の耳元でいつまでも反響したまま、呪言のようにこびりついている。
『人生において最も愚行であるのは、不正解を選択するのではなく、どちらも選択しないことでしてよ。でなければ、失うのは命だけでは済まないのでしてよ』
──あの言葉は、京子に取っては親切で忠告をしたつもりなのだろう。しかし、榊に取っては皮肉にしか聞こえない。何故なら、どちらも選択しない事が愚行だと言うのであれば。
それを選択した末に、全てを失った自分は、果たして一体何だというのか。
「何をボサッとしてやがんだ」
「ブベッ!!」
脳天からの鋭い衝撃に、暗い影を落としかけていた感情と諸共真っ二つにされる。人に向かって突然のチョップを仕掛ける野蛮人など、榊は一人しか思いつかない。振り返ってみれば案の定、そこには苛立ちげにこめかみを引くつかせるセイバーが立っていた。
「ジュース買いに行くとか言って、何分掛けてやがんだ」
「い、良いだろ。少しぐらい黄昏れさせろよ!!」
と言いつつも、榊がスマホの時計表示を見ると、買いに行くと言ってから既に5分も経っている。これでは、セイバーがイラつくのも当然かも知れない。なので、お詫びとばかりに、先程スポーツドリンクを買った自販機に、財布から取り出した500円玉を入れる。
「セイバー、お前何か飲む?」
「コーラ」
「あっそ、じゃあ俺ももう一本」
そのまま自販機のコーラ缶のボタンを2回押すと、取り出し口からガラガラとコーラが転がり落ち、お釣りも返却口から纏めて放出される。榊は先に小銭から回収してポケットに突っ込むと、今度は取り出し口を両手でまさぐった。
「ほらよ」
掴み取ったコーラ缶の一つを、セイバーに向かって軽く山なりに投げ渡たす。それをノールックでキャッチしたセイバーは、投げ渡したコーラ缶を見るや否、何やら不満げに唇を尖らせた。
「おい、オレが知ってるコーラじゃねぇぞ」
「あぁ、知らねぇのか? 『完全無欠のコーラ野郎!』で人気のジーニアスコーラだぞ」
「そうじゃなくてさぁ。コレ、瓶じゃなくて缶じゃねぇか」
「日本の自販機にアメリカンスタイルを求めてんじゃねぇ。我慢しろ」
「ちぇ」
とは文句を垂れながらも、セイバーは蓋を開けて飲んでいる。それに倣って榊は、取り出した方のコーラ缶のプルタブを立て、そのまま中身を煽った。
──染みるような冷たさと甘ったるい炭酸の感覚が、早速乾いていた喉を刺激する。きっと焼け付くような夏の熱気のせいだろう、飲み慣れた筈のコーラの味が、何時もよりもヤケに美味く感じる。
榊は一度、コーラ缶から口を離して遠くの景色を見つめる。
さっきまで居たドーナツカーの周辺は、昼のピークを過ぎたらしく、少しだけ人が減っているようだ。逆に反対側の芝生広場では昼ご飯を食べ終えて来たらしい子供達が増えて、今はワチャワチャとサッカーもどきのボールの取り合いで賑わっている。
──何時も通り、何時も通りだ。魔術も聖杯戦争も関係無い、唯の日常の景色だ。なのに、昨日まで見慣れていたこの景色が、今はヤケに遠く感じる。このまま、ずっと見つめていたかった。何もなかったかのように、過去の全てを忘れて生きていければ、どれほど良いのか。
「で、マスター。どっちを殺るのか?」
しかし、逃してくれない。榊の隣に並んで同じ景色を見ていても、セイバーが見ているのは現実だった。
「なぁ、セイバー。どうしてもやらなきゃなんねぇのか」
「あぁ、バーサーカーのマスターを殺るか、あのクソ巫女を殺るか。どっちにしろ、死にたくなきゃ、やるしかねぇな」
「……俺は、誰も殺したくねぇ」
自分でも思うより、悲痛に歪んだ声が口から出てしまう。紛らわせようと、もう一度榊はコーラを喉に流し込む。それに合わせてセイバーも缶を一呷りした。
「気にすんな、マスター。殺るのは俺だ」
「そう言う事を言ってんじゃねぇ! 俺はただ……」
だが瞬時に沸騰するような怒りに任せて、思わず飲みかけていた缶を握り潰してしまう。しかし自分が何を言い出そうとしたのか、それに気が付いてしまうと、怒りも忘れて呼吸を止めてしまう。
「悪い、何でもない……忘れてくれ」
──それは言ってはいけない。言ってしまえば、きっと自分は二度と立ち直れない。今更だとしても、直視してしまえば、耐え切れずに壊れてしまうから、硬く口を紡ぐ。
すると、セイバーは特に追及する様子も無く、飲み干した缶をノールックでゴミ箱のど真ん中に投げ捨てると、準備運動でもするように肩をゆっくりと回して調子を確かめ始めた。
「まっ、マスターに何が合ったのかなんて知らねぇよ。でもオレは騎士だ。むざむざと自分の主を死なせるくれぇなら、オレは勝手にやるぞ」
「待てよ! それは……!!」
「あのなぁ」
自らの元から去ろうとするセイバーの背中を、榊が手を伸ばして止めようとすると、突然に振り返って胸倉を掴み上げられる。そして、引き寄せられた視界目いっぱいに、セイバーの顔を占領する。
「甘ったれた事言ってんじゃねぇぞ。テメェがオレのマスターである以上、もう逃げられねぇ。死ぬか全員ぶっ殺すしかねぇっていい加減理解しろ」
「ッ!!」
身震いするほど冷え切った翡翠色の瞳は、榊を逃して離さない。お前にもう逃げ道は無いと、向き合う他ないと暗に訴えかけて来る。
──セイバーは正しい。イラつく程に正論だ。榊が何を思い、喚こうが、
戦う以外に、選択肢など初めから無い。それでも────そう分かっていても、榊は到底受け入れられない。だって、そうだとすれば。
運命は、榊に同じ間違いを繰り返せと言うのか。
「ふっ、ざけんな! 勝手に出て来て、誰かを殺せとか言いやがって……」
──そんなの納得出来る筈が無い。自分の意思ではなく、ただそれしか道が無いと突き付けられて、はいそうですかと従える筈が無い。そんな事が許されるのであれば、榊は未だに苦しんでなどいない。
それしか道が無いと分かっていても、この身に受けた傷跡は、深く心を抉り取ったトラウマは残る。その痛みや苦しみが、『しょうがない、それしかなかった』とさしも簡単に片づけられる筈も無い。
「俺は……俺は!!」
「おい」
再び込み上げる激情が頭を支配しようとしたその時、またもや突然に、掴まれていた胸倉を突き飛ばされる。何すんだと怒鳴ろうとするが、いつの間にか重装鎧をその身に纏い、嬉しそうに牙を剥くセイバーを見て、榊は言葉を失ってしまった。
「来るぞ」
「来る、って」
「言ったろ、死にたくなきゃ、やるしかねぇって」
その言葉のみで、これから先に何が起きようとしているのか。榊は直ぐに理解した。
「まさか……」
「あぁ」
──目を逸らしたい、何も無かったと認めたい。切にそう願ってしまう榊を尻目に、仕上げとばかりにセイバーが兜を被ると、スリット越しの瞳を試すかのように横目で合わせる。
「敵のお出ましだ。サッサと腹括れ、マスター」
直後、爆発するように吹き抜ける濃霧の滂沱が、セイバーの姿を視界ごと飲み込んだ。
果たして、榊の過去に一体何があったのか、それは今後に語られると思います。そして、それは榊と言う人間に大きな傷跡を残しています。
因みに、私のトラウマは放置した三角コーナーを移動させたとき、大量の子虫が一斉に舞い上がった事です。未だに夢に見ます。
『追伸』
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