Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
──おい、ふざけんな。
刃をその喉に突き立てる直前、誰かが榊を呼び起こした。それは幻聴にしては、嫌にハッキリと聞こえてきて、胸の奥底からヤケに激しく打ち叩いてくる。
──勝手に楽になろうとしてんじゃねぇ。
もう良いだろ、もう充分だ。これ以外にアイツの為にしてやれる事なんてない。生きてれば、きっと救われるなんて、そんな世迷言はもう沢山だ。
俺は、もう
──ー誰が救われるなんて言った?
「ァ!!」
瞬時、心臓を誰かに鷲掴まれる感触に、榊は息が出来なくなる。
──良いか、どうしようもねぇテメェが救われる事なんて死んでもねぇ。テメェの苦しみは、罪は消えねぇ。
「ァ、ァァ……!!」
握り潰されそうな心臓から全身に、身を焦がすような膨大な熱が伝播していく。身体は供給過多なエネルギーで既に爆発する寸前のようで、視界は火花を散らして真っ赤に染まっていく。
──唯一テメェが出来る事は、そんな風にした運命をぶっ壊す事だ。それが出来ねぇって言うんなら。
「アァ……アァ……!!」
本能が敵を殺せ、戦えと騒めいている。理性が焼き切れそうだ。止まれとブレーキを踏み続けても堕ちてしまいそうな程、どうしようもなく頭がイカレた思考に塗り替えられていく。
こんな事は、望んでいない。ただずっと続く苦しみから救われたいだけだ。
だから、戦いたくなんて無い。戦えば、またきっと苦しんでしまう。きっと、何処かでどうしようもない過ちを起こしてしまう。だから、榊は安易な救いを求めようとしたのに。
でも、本当は。
「アッ……」
自分が救われる筈が無いと分かっていたんじゃないのか?
「──俺がやる」
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榊が、自分に向かって突き立てようとした刃が止まる。それはアーノルドに取って予想外の事だった。
アーノルドの見立てでは、この哀れな青年は過去の罪に耐え切れず、そのナイフを喉元に突き刺す想定だった。それは調べ上げた限りの榊 浩一という人物像と、異端狩りとしての経験から、まず間違いないとまで断言して良いほどに。
しかし、現に榊は止まっている。突き立てようとしたナイフの切っ先を落とし、まるで電源が切れたかのように、ダラリと俯いている。
──死の恐怖と罪悪感に耐え切れず精神が壊れたのか、それともよっぽどアサシンの宝具が効いたのか。いずれにしろ、大した支障はない。
榊が罪を清算出来ないのであれば、自らが手を裁くまでだ。白手袋を外し、アーノルドは手刀を構える。たかだか人の脊椎ぐらい折る事なんて訳ない。
「それでは、貴方が神に許されますように」
かくして、榊 浩一という罪人は裁かれる。それがきっと、救いになると信じて、アーノルドは無慈悲に手刀を頸椎目掛けて振るう。
「おい」
だが、断罪は止まる。
「誰に刃向けてんだテメェ」
振るわれた腕を掴み、
「テメェがアイツをそそのかしたのか?」
次の瞬間、アーノルドの腕は菓子を潰すかのように握り潰される。そして間髪入れず、流れるようにナイフで肘から先を切り落とされた。
「おや」
腕を切り落とされた痛みに悲鳴を上げる事無く、アーノルドはバックステップで距離を取る。そして、突然に様相が変わった青年を見据えた。
「まぁ良いや。どっちにしろ、テメェが何しようが関係ねぇ」
榊は切り落とした腕を無造作に投げ捨てると、刃渡り数cmしかないナイフを器用に手の上で弄び、最後にその切っ先を、届く筈も無いアーノルドのドタマに突き付ける。
「テメェは俺を馬鹿にした。だからぶっ殺す」
──―今まで、アーノルドは聖堂教会が定める教理に背く、多くの異端者をその手で刈り取っている。その中には、千年生きた吸血鬼、禁忌に触れた大魔術師、それこそ英霊に準ずる強さも持った存在も居た。
故に、敬遠なる信徒であると共に、歴戦の異端狩りであるアーノルドは、目ではなく向けられる殺意で感じる。
今、目の前に立つ青年は最早、榊 浩一という人間ではない。
アレは自分の領域とする怪物だと。
「どうやら、貴方には救いが必要の様だ」
片腕を失った身であれど、然したる支障はない。半歩に構えて残った左腕で、榊の芯を捉える。その型は東洋で言う所の、八極拳の構えに近いだろう。
──―最早、アレは異形の者達と同じく、存在するだけで罪だ。人の輪から外れた怪物は、世界の神秘を脅かす。故に、そこから地を割るばかりの踏み込みで間合いを詰め、確かに貫き通す殺意を持って、アーノルドは手刀を突き出した。
「んなの要らねぇよ。バァカ」
しかし、それは榊には至らない。数々の異形の心臓を刺し貫いた無窮の手刀が、何の変哲もないナイフを相手に、微塵も退く事も無く拮抗する。
「ほれほれ、俺の心臓まで後少しだぞ? 頑張れよ」
「そう、させてもらいましょうか」
言われずとも、既にやっている。しかし、鋼すら突き穿つ膂力を持ってしても、たかが薄い鉄を前に、アーノルドの手刀は、それ以上先へは動かない。
──力比べでは分が悪い。ならば、数で押し潰すまで。
「フンッ!!」
手刀を拳に切り替え、関節を曲げた時の余波で、アーノルドはナイフを強引に押し弾く。そこから流れるように連脚の嵐を繰り出した。
軽機関銃さながらに繰り出される無数の足技は、縦横無尽の軌道を描いて避ける余地を残さない。正しく手数で押し潰すような激しい連撃。
「中々やるじゃねぇか。
だがそれをも、榊には至らない。
「だがな、それだけだ」
数で圧し潰す連脚を前にして、榊は回避する処か、その場から動こうともしない。デタラメに振るわれるナイフの軌道の一つ一つが、無数の足技をかくも簡単に受け流し、空白地帯を強引にこじ開けている。
「やはり、やはりか! 貴方は救われるべき存在だ!! これ程の実力を唯の人間が持っていて良い筈がない!!」
人の領域から外れた異形を刈る異形、それをたかが片手1つで容易に圧倒する存在なぞ、やはり
ならばこそ、必ず此処で仕留める。少しでも早く、少しでも鋭利に、この怪物の心臓に届くように、四肢が千切れる事さえも覚悟を決めて、残像や影すら残さぬ程に、振り上げる足技を研ぎ澄していく。
それこそ例え、此処で
「はい、終わり」
──だが、冷ややかな刃の冷たさが、首筋の薄皮一枚を浅めに裂き、その終わりを告げる。目の前には棒立ちになって対峙する榊の仏頂面。
「おや」
そこでアーノルドは悟る。それは榊と言う皮を被った異形への、圧倒的なまでの敗北。歴戦の異形刈りを推してもなお、歯牙にさえ掛けられない圧倒的強者の存在。
即ち、死と言う結末が、この異形に定められたという事に。
「何か言い残す事は?」
「貴方は救われるべき存在だ。貴方の罪はきっと」
「あっそ」
つまらなさそうに振るわれたナイフが、言葉を待たずしてアーノルドの身体を深く切り裂いた。
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「ったく、ツマンねぇ奴に時間食っちまったな。そんじゃあ、アイツの所にでも行くか」
ナイフに滴る鮮血を一払いし、榊は濃霧に覆われた視界をグルリと見渡す。当然、目的の人物が見当たる筈も無い。
この瞬間が何時までも持つ訳ではない。持って数分、いやもっと短いかもしれない。見えないタイムリミットを感じながら、榊はそれでも目を泳がせて探し回る。
その時、濃霧に閉ざされた暗隠の彼方で、赤い煌めきが一際輝く。そして次の瞬間には、身を吹き飛ばすような暴風が、重く漂っていた濃霧を纏めて吹き飛ばした。
「アソコか」
吹き荒れる暴風に乗り、肌をひり付かせる雷に榊は胸を躍らせる。コレは間違いなくアイツの雷だ。だとすれば、そこに間違いなく居る。
榊は赤い煌めきがあった場所に向かって迷わず飛び出した。
聖堂教会の異端狩りすらも、容易く勝利を収める謎の存在。間違いなく人ならざる領域に足を踏み入れた人間でしょう……その正体は、徐々に分かっていくと思います。逆に分かったという人は、是非ご連絡をお待ちしております。
『追伸』
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