Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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獣の面

 逆巻く赤雷の爆発は、そう長くは持たなかった。膨れ上がるかのように空間全体に広がったと思えば、針でも刺したかのように突然フッと消えた。見たままで言うのであれば、その程度でしかなかった。

 

 だが、その残滓だけはこの土地に色濃く残っていた。あれほど緑豊かに生い茂ってた丘の一部には、半径にして20メートル程に渡って、文字通り()()()()()()焼き尽くされた不毛の大地が形成されている。人っ子一人も居ない事もあって、さながら終末を思わせる光景を晒していた。

 

 ──―雨が降る。厚い入道雲が太陽を暗陰と光を覆い隠し、傷ついた地上を掻き消すかのように激しく濡らす。

 

「おっ、見つけた」

 

 どしゃ降りの雨の中で、万物が焼き焦げた不毛の大地に、榊は躊躇わずに足を踏みいれる。

 

「さて、と」

 

 そのまま燃えカスと泥でグシャグシャになった地面を踏み詰りながら、焼き焦げた大地の爆心地へと辿り着くと、そこにあった人の形をした何かを、粗雑に蹴り上げる。

 

「起きろや、セイバー」

 

 それは死んだように横たわるセイバーの身体だった。まるで邪魔だと言わんばかりに蹴りつけたというのに、反応の一つも返さずに、ただ自らが残した破壊の中心地で、無様にも俯せになって倒れている。

 

「死んでは……ねぇだろ。多分」

 

 生きていれば、罵倒の一つでも返ってきそうな所を見るに、そう訝しんでしまう。だが、辺り一帯が振りまいた赤雷で破壊しつくされたにも関わらず、セイバーの身体や鎧には傷どころか綻びすらも見当たらない。この全てが焼き尽くされた大地の中で、唯一完全体を保っている。

 

 試しに一度腰を下ろし、乱暴ではある物の、兜が脱げて野ざらしになった、セイバーの前髪を掴み上げて、そのご尊顔を覗き込む。

 

「おぉ良かった、シッカリと生きてる」

 

 目を閉じてはいる物の、僅かに開いた口からは漏れ出す微かな吐息を聞こえる。しかし、掴んだ髪を二、三度揺らしてみるも、返答どころか反応もすらもない。

 

「ありゃ……魔力使い果たして伸びてんのか」

 

 考えてもみれば、先程からセイバーと繋がる魔力のパスが、全く機能していない。だとすれば、重装鎧も付けずにこんな所に寝転がっているのも理解できる。きっと、意識すらも保てない程の魔力を使い果たして、こうやって暢気に寝ているのだろう。

 

「しゃあねぇな」

 

 榊の口元から、垂れる雨雫に混じって血が滴り落ちる。身体のどこかに不調があるのではない、自分で唇を噛み切ったからだ。

 

 血に濡れた唇に、僅からながらの火が灯るような痛みが走るも、榊はさして気にしない。そのままセイバーの寝ぼけた顔に向けて、自身の顔を合わせるように近づける。

 

「んっ」

 

 榊の血が、セイバーの口内へと流れていく。

 

 恋人同士が行うような優しい口づけではない。まるで獣が獣を喰らうかのような噛み付き。激しすぎるくらいに深く己の唇を刻み付けるような接吻だった。

 

 そして榊がようやく唇を離したのと、そこからセイバーの目が重苦しく開いたのは、ほぼ同時にだった。

 

「っ! 離れろ!!」

 

 開けた瞳に映る、視界一杯の榊の顔を見て、セイバーは直ぐに状況を理解したらしい。しかし、まだ碌に力が入らないのか、吊り上げられた顔面で獰猛に睨み付ける事しか出来ていない。

 

「落ち着けってセイバー、こうでもしねぇと魔力が供給されねぇんだよ。逆に感謝しやがれってんだ」

「そうじゃねぇ! 誰だテメェは!!」

 

 セイバーの眼光は最早、マスターに対して向けてではない。寧ろその逆で、新たに現れた強敵に警戒でもしているかのように、合わせる榊の瞳を鋭く突きさしている。

 

「流石はセイバー、俺のことを分かっていやがる。だが甘い、それだけじゃあ満点をあげるわけにはいかねぇ」

 

 だが榊は怯えるどころか、寧ろ一目見ただけで自分の正体を見破るとは、と感心すらしていた。流石は最優の騎士(セイバー)であり、自分が召喚した英霊だ。

 

 ──しかし、それと同時に失望もせざるを得ない。

 

「マスターから出て行け! じゃねぇとテメェを!!」

「はい残念、大不正解」

 

 吊り上げたセイバーの顔面を、焼き焦げて黒ずんだ地面に、容赦なく叩きつける。不正解を答える落伍者には罰が必要だからだ。

 

「甘ぇ、甘すぎんだよお前は。幾ら牙が抜けたフリしてようが、お前は俺と同じ飢えた獣だ。だったら、言葉より先にぶっ殺すのが正解だろうが」

 

 汚泥を擦り付けるように、決して忘れられない屈辱を与えるかのように、セイバーの頭を力任せにねじ伏せ、そしてなじりつける。自分が何故間違えているのかも分からない、その不出来な頭を調教するかのように、徹底的に。

 

「そもそもお前如きが彼の方の真似など烏滸がましいにも程があんだよ。俺たちは彼の方のように綺麗に生きられねぇ。誰かの為に戦うことなんかできねぇ。テメェのやりたいように暴れて勝手にくたばる阿呆だ。夢見てんじゃねぇぞ、クソガキ」

 

 冷たく一切の感情を捨て、淡々と思い知らしめる。彼の方に仕えた身であり、同じ世界を見ている筈のセイバーが、何も分かっていない事への苛立ちが、その顔を地面に捻じ伏せる腕に力をより込めさせる。

 

 だからこそ、榊はやらねばならない。セイバーという存在を否定するかのようにねじ伏せ、そして何度も、何度も何度も、何度も何度も何度も、何度も何度も何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 ──セイバーが吠える。ロクに動かない身体でありながらに、無様にも四肢をガムシャラにぶつけてくる。そのみっともない攻撃を、榊は敢えて受け入れて、黙って押し倒されてやる。

 

「おっ、ちょっとはマシな面になったな」

 

 見上げるセイバーの顔面は、汚らわしく泥と煤に塗れ、抑えようともしない涎と牙を剥き出しに晒す野獣そのもの。

 

 それこそが、榊の求めていたあるべき姿だ。

 

「グルゥゥゥ! グゥゥゥ!!」

 

 言葉にすらならない喉からの唸りが、まるで産声のように鼓膜を鮮明に震わせる。雨の匂いが漂う中でも、セイバーが流した鉄臭い血の匂いが、鼻腔を芳醇な香りのように刺激する。

 

 ──ようやく思い出した、いや、その片鱗を見せたというべきなのか。だとしたら、それこそが正解だ。

 

「そうだ、テメェにはその面が一番似合ってやがる。忘れそうになったら俺のニヤけた面を、テメェを汚した俺の顔を思い出せ。そうすりゃ、お前は獣(お前)のままで居られる」

 

 指を引きちぎられても構わないと、セイバーのその泥に濡れた唇を確かめるように指先でなぞる。

 

 それに対して、セイバーは抵抗しなかった。既に榊がマスターであることは忘れて、純粋な殺意のみで突き動かされている筈なのに、その牙を喉笛に突き立てようとしない。

 

 ──それもそうだろう。自分と同じ人間を否定できる程、セイバーは高潔でも馬鹿でもない。目の前に映る男こそが、己が落ちる最終地点だと分かっている故に、その動きが止まっている。

 

「……チッ」

 

 ──もう少しだけ、もう少しだけ、この獣の本性に触れていたい。そう願いはするも、その指先から感覚が次第に消えて行っている。

 

「次会う時までにゃ、もうちょいマシな面を見せろよな」

 

 どうやら限界が来たらしい、身体から力が抜けていき、なぞる指が落ちていく。そして、それに合わせて次第に重くなっていく瞼も閉じていく。

 

 底の深い暗闇に包まれようとする意識の中、最後まで獣が如く唸るセイバーの姿を、榊はこの瞳に焼き付けようと。

 

 ──―その姿こそ、俺達があるべき姿。

 

 英雄にも騎士にもなれない、半端な獣以下の姿だ。

 




嫌っているから、推しを辛い目に遭わせている訳じゃない……寧ろ大好きだからこそ、その艱難辛苦を乗り越えて強くなって欲しいんです……それこそが、愛ってモンじゃないですか……?

『追伸』
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