Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
──神宿緑地公園から東におよそ1km離れた場所に、『天野川』という川に架かる橋がある。
元々、江戸時代には日本海まで伸びる天野川に架けられた唯一の陸路であったが、時代の変化と交通の開発に置き去りにされ、いつしか地元の住民でさえも忘れ去られてしまった古い木造の橋だ。
そんな天野川の橋を、暗い真夜中に渡る男が居る。
「全く……嘆かわしい」
──昔から橋を渡るという行為には狭間を超える、つまりは生と死の境界を越えるという意味合いがある。洒落染みた日本特有のこじ付けにも似た言い伝えだが、男を見た者が居ればそれが嘘ではないと思うだろう。
その男は胴が裂けていた。身体を真っ二つにする肉を抉り取られたような傷跡を抱え、そこからはみ出した臓器か固まった血か分からない、粘り気のある赤黒い塊を垂れ流している。
「
最早、生きている死体。満身創痍と呼ぶには手遅れが過ぎる男が、傷だらけの身体を引きずるように板橋を渡っている。そして丁度、夜の暗闇から対岸越しが覗ける所で、足が止まった。
「おや、貴方は」
男の目が、同じく対岸から橋を渡る青年を捉える。その青く透明な瞳はいっそ無機質なまでに男を映し、機械動作のように一定の足取りは、此方に向かって止まる事無く続いている。
男はその青年を知っている。それは
「私に何の御用か……いや、言わずとも一つしかないでしょう。アインツベルンのホムンクルス」
「御託は良い、アーノルド=シュルト」
アインツベルンの申し子──フィロが身に着けた白手袋を外す。そこには聖杯戦争の参加者の印、令呪が宿っている。
「戦いを始めよう。僕はそのために作られた」
そして
「えぇ、そうですね」
だが、フィロが何かアクションを起こすよりも先に、アーノルドが先手を取った。
満身創痍とは思えない速さで距離を詰めると、それと同時に槍よりも鋭い突きが、その右胸に向かって猛進する。
常人の目には捉えられぬほどの速さ、唯の突きであろうと、鉄ですら容易く貫通する威力。その一撃を持って、アーノルドは。
「やはりダメですか」
──やはりといったように、溜息を零した。
フィロの右胸に穴など開いていない。そもそも届いてすらもいない。挟まるように突如現れた青白い輝きを放つ光球の前に、アーノルドの突き出した指先は、空で止まっていた。
「流石はホムンクルス。一筋縄ではいきませんね」
「『精製』」
フィロが指先を曲げると、何も無かった筈のアーノルドの背に、まるで最初からそこにあったように光球が生まれる。
「おや?」
「『分散』」
前兆すらも無い現象に、アーノルドの反応が僅かに遅れる。そして振り向こうとするよりも前に、飛散するように弾けた無数の光球の欠片が、その背中を貫くように突き刺さった。
バックステップで距離を取ると同時に、フィロが指を鳴らして宣言する。
「『解放』」
その直後、パチッと電源ケーブルがショートしたような音を合図に、アーノルドに突き刺さった無数の欠片が、夜の静寂を轟音と光彩で掻き消した。
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──光球の欠片一つ一つが生み出した眩い程の爆発は、ダイナマイトに相当する程の熱量を持っている。それが人体の内から弾けるとすれば、肉塊どころか骨すらも残らない。
「成程、妖精の精製が貴方の術式というわけですか」
だが爆発の余波で飛び散る噴煙の向こうで、光球の爆発に身を引き裂かれてなお、人としての原型を残すアーノルドが、そこに平然と立っていた。
「大気中の元素に対し、仮初の実体を与える事で、
「僕に揺さぶりも挑発も通じない」
一度行使しただけで、その種を見破られようとも、フィロの思考には何ら変わりはない。
確かにフィロがアインツベルンより与えられた秘蔵の術式『
錬金術の基礎は、ありふれた物質を価値ある金へ変える事。そういう意味では錬金術師らしいと言われても仕方がない。そして、その種が原理を暴かれようとも、そう簡単に防ぐ事など出来る筈が無い。
「術式さえ分かってしまえば、魔術師でもホムンクルスであっても、正に裸同然。殺す事など実に容易い」
「何故なんだ?」
しかし、アーノルドはアインツベルン秘蔵の魔術を、容易いと言って退ける。それに僅かながらも侮辱を覚えると、フィロはその理由を問いただしてしまう。
「例えば」
瞬時、余計な感情に気を取られた隙を狙って、ほとんど予備動作も無く蹴り上げられた小石が、フィロの視界を遮る。それが当たる直前に振り払った時には、既にアーノルドの手刀は、首筋をしかと捉えて振るわれていた。
「術を発動される前に首を切断される、か」
光球による防御も間に合わない剥き出しの首筋に、撫でるだけでも肉を抉り刻む凶刃が、遂に届く。
「僕の身体は、特別製だ」
──しかし、斬れない。いや、斬る事が出来ない。アーノルドの手刀は、何てことの無い首の筋肉に阻まれ、傷つける事すらなく阻まれる。
「創造主様により造られたこの身体は如何なる刃も魔術も通さない。そのように設計されている」
──ホムンクルスは人に比べて明らかに脆い。たかだか2.3年程の寿命しかない使い捨ての生命体に対し、体の頑丈さなど求める理由がないからだ。
だが、フィロは違う。聖杯戦争と言うシステムを構築した御三家の1人、ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンが唯一として作り上げた、
常人がコップ一杯だとすれば、フィロが蓄えられる魔力の総量は、正に大海の如く。全身を毛細血管の如く駆け巡る魔術回路は、その有り余る魔力で、絶えず身体能力と五感を、強化術式で何十倍にも跳ね上げている。
「そして、僕には欠陥など無い」
無論、欠点はある。数秒で原子力炉並みの魔力を消費する人体構造は、生命力を産み出す速度より、生命力を魔力に変換する速度の方が圧倒的に上回る。例え、産まれたとしても、たった数分ほどしか生きられないだろう。
だがフィロというホムンクルスは、その欠点を克服している。キャスターの宝具をその身に埋め込む事で、尽きる事のない無限の生命力を得ている。
無限とも思える魔力リソース、超人的な肉体と五感、そして錬金術を修める高度な知識、正に生物として限界を超えた至高の生命体。それがフィロと言うホムンクルスの神髄だった。
「僕の身体は創造主様が願いを叶える為に造られた。故に、僕は願いを叶えなければならない」
首筋でアーノルドの腕を、フィロは逆に掴み上げる。そしてまるで粘土細工のように容易く捻じ曲げ、一息に握り潰す。そして余った片方の掌を、呆気に取られているアーノルドの顔へと向ける。
その掌中には、今まで以上に巨大で、決壊寸前の光球が浮かんでいた。
「故に、僕は貴方を殺す」
ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンが作りし、願いを叶える為に産まれた
そして、夜明けと見紛う程の白光が燦然と溢れ返った後、置き去りにしていた爆発音と衝撃波が、零距離で響き渡った。
アインツベルン製の『僕が考えた最強のホムンクルス』が、フィロと言う個体になります。予備動作ほぼ無しの範囲攻撃+バフモリモリとか、普通にサーヴァントの英霊よりも強そう……流石は、アインツベルンですね。
『追伸』
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