Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
「分かっておるな」
「はい」
天から降り注ぐ年老いた声──ーユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンに、神父姿の青年が、膝を付いて頭を垂れる。
「魔術協会、聖堂教会との調整も滞りなく完了し、大聖杯には魔力は充填されました。後は起動さえすれば、直に貴方の望み通り聖杯戦争が始まる事でしょう」
「ならば良し」
何処からともなく聞こえるアインツベルンの声は、満足気に息を漏らしているだった。どうやら、その段取りの良さをお気に召したらしい。この老人の経歴を考えれば、無理もないだろう。
天からの声が、忌々しいと言いたげに低く歪む。
「──百年余り、大聖杯が消えてからというもの、世界は狂ってしまった」
青年は無言で首を縦に振り、賛同の意を示す。確かに、青年としても、今の世界は狂ったと言わざるを得ない。
なにせ、今の世界は紛い物の聖杯で溢れ返っている。
「その通りです」
──始まりは百数年前、表の歴史で言えば丁度、第二次世界大戦の真っ只中。
その儀式の名は聖杯戦争──ー『大聖杯』によって執り行われる、声の主であるアインツベルンを含めた三大魔術家が作り出しとされる、あらゆる願望を叶える事が出来るとされた、言わば魔術師による殺し合いだった。
当時、魔術を兵器として運用を目指していたナチスドイツが、その土地の魔術師達との凄惨な争いの末、その大聖杯を強奪したとされるが、直後にある魔術師の策略により、その姿を消している。
そうして聖杯戦争は、大聖杯の消失により、この世界から消えた。そして代わりに現れたのは、紛い物の儀式──亜種聖杯戦争だった。
聖杯戦争を真似たその紛い物の儀式は、突如世界中に拡散され、やがて願望持つ者達の間で爆発的に広がりを見せた。最も、100回やって、せいぜい1つが不完全ながらに成功すれば良いぐらいの、お粗末な程度ではあるが。
それが青年の知る世界。今や、世界中では願望が叶う
そして、そんな自らが作り出した大聖杯の紛い物が溢れた世界など、アインツベルンからすれば、正に世紀末と呼ぶほかないだろう。
「だが、それも此度の聖杯戦争で一変する」
しかし、アインツベルンが言う通り、その狂った世界も直に終わる。
今、聖杯戦争は復活した。新たなる聖杯の誕生により、その真の意味を取り戻した。
──敬う為に垂れていた頭を上げ、青年は前を向く。そこには並々と魔力を注がれた巨大な金の盃がある。
これこそが、大聖杯。かつてナチスドイツが奪い取った物でも、20年前に空飛ぶ邪竜が持ち去った物でも無い、新たな聖杯戦争の火種。
「えぇ、この大聖杯さえあれば、貴方の望む真の聖杯を手に入れる事が出来るでしょう」
「ならば良し、必ずや成し遂げて見せよ──」
それを最後に、アインツベルンの声が聞こえなくなる。同時に青年が微かながらに感じていた人の残滓も、綺麗サッパリと消えてなくなった。
「成し遂げて見せますとも」
青年は立ち上がると、大聖杯の縁をなぞる。冷たい感触に合わせて、溜め込まれた膨大な魔力が、ほんの少し触れた指先を伝って、全身を張り裂けかねない程に流れ込む。
──これならば、先ず間違いなく大聖杯は起動する。後は、その引き金を自ら引くだけだ。
青年はこの時を待っていた。待っていたからこそ聖杯戦争の監督役として自ら躍り出て、剰えこのシステムを作り出したアインツベルンとこうして密約を交わす仲となっている。
全ては青年の思い通りと言った所だろうか──ーしかし、その先は例え自らが進行する神であったとしても、読み解く事が出来ないだろう。
「一度は失われた大聖杯──ー果たして、今回は誰の願いを叶えるのでしょうか?」
大聖杯は何も答えない。だが、それで良い。分からずとも、大聖杯は勝者のみの願いを叶える。
それが例え、どのような人間であったとしても──。
その時、カツッ、カツッと誰かの足音がする。それが誰だか分かっている青年は、返事も待たずに入ってくる来客に向けて、振り向きざまにこう告げる。
「さぁ始まりますよ。あの日に行われる筈だった、その続き──ー真の聖杯戦争が」
そこは一見すると只の教会だった。
外見は街角で稀に見かける程度には然したる目新しさもなく、内も強いて言えば窓代わりに当てはめられた色鮮やかなステンドガラスが、消えている燭台代わりに月明かりで室内を薄く照らしているくらいだ。
その色鮮やかな光のみを一心に受けるのは、金の髪をした神父服の青年であった。風の無い日の湖のように穏やかに檀上に存在し、ステンドガラス越しの夜天を仰ぐ薄い瞳は、青く優しい光に満ちている。
「いらっしゃいましたか」
扉を押し開ける軋んだ音が、青年の心に溜まった平穏に波紋を立てる。そしてようやく現れたかと静かに檀下の方へ振り向く。
扉の前に居たのは、巫女服姿の少女だった。
「えぇ、なにせ聖堂教会直々のお呼び出しでして。来ないわけにはいかないでしてよ」
独特かつ古風な口調で話す少女は、長く切りそろえた鮮やかな黒髪を夜風に靡かせる。年齢には似合わない大人びた美貌に加え、教会とは真反対の巫女服も相まって、その姿は言葉の通りに浮世離していた。
「どうぞお好きな場所にお座り下さい。それと紅茶はいかが?」
「いえ、紅茶は私の口には合わぬのでして、どうしてもというなら緑茶が良いのでして」
青年の誘いを慣れたように断ると、巫女は手近にあった木製の座席に目を付け、洗練された一挙手一投足で音も無く座った。
「でしたら、早速本題へ入らせてもらいましょう。先ず貴方を呼び出した理由は……」
「当然、これのことでしてね」
巫女が青年の話を聞かずして、長い袖を少しだけ捲し上げると、隠れていた手の甲を露わにする。
「聖堂教会にこの紋様。言われずとも何が始まるのか容易に想像できるのでして」
そこに刻まれていたのは、きめ細やかな白い肌の上に描かれる三画の赤い紋様。それが何を意味しているのか、巫女は言われずとも理解している。
「貴方の想像通りの事が起こるでしょう」
青年の声のトーンが微かに下がる。その先もまた、巫女は何の言葉が出てくるのかを分かっていた。
「即ち、聖杯戦争が」
そして予想通りの答えが得られた時、巫女は自分の口元が勝手に歪んでしまうのを感じる。
──『聖杯戦争』、久しく耳にする事が無かった言葉。いや、正確には真の意味で聞く事が無かったと言うべきだろうか。
「そうでしてか、始まるのでしてね……」
巫女は自分の内側で渦巻くような揺らめきを覚えながらも、顔には一切の変化を見せない。寧ろそう自覚した事で淡々と確認すべき事が浮かび上がってきた。
「此度の『聖杯戦争』が真である保証は?」
「それは貴方達が一番ご存じではないでしょうか?」
「おや、よくご存じでしてね」
青年の背後に居る『聖堂教会』と『魔術協会』が暗躍している事を、既に巫女は掴んでいる。その二大組織が手を組んで動くなど、本物の聖杯戦争が始まる事以外にある筈がない。
故に、これは唯の確認。巫女が本当に聞きたい事は別にある。
「でしたら、私以外の参加者は?」
「4人、現在確認出来ている参加者はそれだけです」
青年が右手の四つ指を立てる。しかし、巫女の知識が正しければ、自分を数に含めてもあと2人足りない。
「他の2人は如何がして?」
「一人は未召喚、もう一人は身元不詳、という所です。何しろ『世界中に』参加者が散らばってましてね。こちらでも情報が間に合っていない状況です」
「ほぅ、世界中にでしてね」
ニヤつく顔を抑えきれない巫女は、益々の確信を深める。亜種聖杯戦争如きでは、到底考えられない規模の大きさに、本物である事の証明がなされていた。
間違いない、この聖杯戦争は紛い物ではない。正真正銘の、願いを叶える為の聖杯戦争だ。
「もうお暇させてもらっても? そうとなれば色々と準備が必要でして」
焦りは決してせず、しかし僅かに衣を揺らしながらも巫女は座席から立ち上がる。
聖杯戦争が始まるのであれば、やるべき準備は無限に存在する。そうなると巫女には時間は余り残されていない。
何せ、本物の聖杯戦争だ。参加する誰もが己の持てる全てを用いて、あらゆる手段を講じるに違いないだろう。巫女もまたそのつもりだった。
「えぇ、今回は顔合わせと勧告だけですので、どうぞお帰りを」
「では、失礼させてもらうのでして」
巫女は青年を一瞥すると、そのまま振り返らず足早に歩み出す。
その足取りに迷いはない。
きっと顔を知らぬ誰かの屍の上に立っていても、聖杯をその手に掴んだ後でも、それはきっと変わらない。
青年は巫女が教会から出て行くまで、目を離さずに見届けると、再びまたステンドガラス越しの夜天を見上げた。
瞳に映す夜天には無数の煌めきと色彩を見せる星達がちりばめられている。
──彼、彼女らの願いはきっと星と同じだろう。その目が眩んでしまう程の輝きに魅せられてしまい、遥か遠く彼方だと分かっていても、手を伸ばしてしまう。
「貴方達は、何を願うのでしょうかね」
そして、星を、軌跡を、聖杯を手に入れた時。そこに何が残るのだろうか。
此処からです。此処から聖杯戦争が始まります。これから先どうなるのかは、おいおい楽しみにしてください……!!
『追伸』
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https://x.com/8f8qdLIQID34426
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