Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
弾け散る白光は侵食が如く、世界を全て無の一色に染め上げるばかりに輝きを見せ、眼を焼き焦がす。そして駆け抜ける衝撃は破滅が如く、波及し触れた橋から物質という物質は、たちまちに個から破片へ、破片から粉微塵へと打ち砕かれる。
誰であってもーーーいや何が相手であっても、その爆発は紛れも無く全てを吹き飛ばす破壊に違いなかった。
「いやはや、ホムンクルスとは言え、馬鹿には出来ませんね」
それでも、アーノルドは未だ生きている。握り潰された左脚は千切れ落ち、衝撃の余波で肉が滅多切りに裂かれても、悠々とした態度で、今にも焼き崩れ落ちそうな橋の上に立っている。
その姿を目にして、フィロは呆然と目を見開かざるを得ない。見るも無惨、それこそ肉塊と変わりなくとも、尚も生命活動を続ける有様は、フィロの知る人間という定義からは、完全に逸脱している。
「何故生きている」
「貴方と同じですよ。私の身体は特別製でね」
ジュルリと、粘性の液体が地を這う嫌な音が、フィロの耳をくすぐる。それが足元にへばり付く、アーノルドの身体から飛び散った体液だと気づくのは、その直ぐ後だった。
フィロの足元だけではない。焼き焦げた橋の残骸裏に、蒸発して露わになる川底にと、爆発によって、有りとあらゆる箇所に飛散した赤黒い体液が、共鳴するかのように一斉に震え、そして這いずりながらも動き始めている。
「なにせ、傷が付いても問題ない」
寄せ集まった体液の群が、アーノルドの欠けた部分を継ぎ接ぐように埋め合わせいく。そして一つの個として収束すると、やがて肌色に同化し、後に残ったのは傷跡すら見当たらない真っ新な肉体のみ。
その有り得ざる光景を前にして、あらゆる魔術の知識を詰め込まれたフィロの頭脳が、冷静にその正体を導き出す。
「
「おや、確かにそのような名前でしたかね。よくご存じで」
ーーー
その正体は『水』と『風』、魔術の基礎属性である二元素に共通する『流動性』に着目し造られた、巨大な水銀の塊。それは魔術界においては、至上の礼装とまで称される一品だった。
なにせ13kg/Lの密度を誇る水銀は、鋭く尖ればチタン胴でさえも薄紙の如く切り裂き、膜を張れば軽機関銃の掃射をも弾く。そんな万能物質の塊が、魔力一つで自由自在に形を変化させるとなれば、その脅威は凡そ計り知れる物ではない。
正に最強の矛にも盾にもなりえる万能の魔術兵器。本来であれば、発明者のケイネス、もしくは家元であるエルメロイ家が秘蔵中の秘蔵として持つべき筈のそれを、アーノルドは言葉通り、自分のように扱っていた。
「昔、私が監督を務めた亜種聖杯戦争で、珍しい魔術を使う人間が居ましてね。その方が不慮の事故で亡くなられた際、私が預からせて頂いているのですよ」
その珍しい魔術を使う人間こそが、かのケイネス・エルメロイ・アーチボルトだろうと、フィロは直ぐに検討が付いた。
ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの消息は、とある極東で行われる亜種聖杯戦争に参加を表明して以降、行方不明になっている。恐らく、亜種聖杯戦争に敗れて、既に死んでいるのではないかと言うのが、魔術界での共通認識だった。
そして、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトと共に、
「とは言え、その全てを使えるという訳では有りません。どうやら私には彼ほどの才能がないようで、精々肉体の代わり再生するぐらいしか扱えませんくてね」
アーノルドの四肢が軟体動物のようにしなり蠢き、そして元の形に戻る。大凡内骨格を持つ人間とは思えない挙動は、明らかに常識とは一線を画している。
ーーー最早人間を相手にしているとは思わない。
「僕の知る人間とは、随分乖離しているな」
フィロは己が貯め込んでる魔力の内、その2割を消費する事で、数にして1254体の疑似精霊を産み出す。眩いほどに煌めいて漂うそれは、まるで地上に降り立った銀河のようだが、フィロの言葉一つで、瞬く間に降り注ぐ流星群へと変える事も出来る。
生半可な攻撃では、
「おや、人間もどきの異形が、人間を語りますか?」
それはきっとアーノルドも同じだろう。いや、最初からフィロを人間として見ていない。ただ排除するべき異形を前にして、最早取り繕うとすらせず、水銀で出来た鋼の肉体を脈々と隆起させている。
片や無限の魔力源を持つ人間もどき、片や自在に変化する水銀の肉体を持つ異形。過去から甦りし英霊でなくとも、現代に生まれし異形同士の戦いは、人智を遥かに凌駕する事は想像に難くない。
「マスター殿、此処は去るべきかと」
ーーーその時、フィロは全く気が付く事が出来なかった。一時も目を離していない筈なのに、その背後の夜闇に欠けた髑髏の面が浮かび上がる瞬間を捉える事が出来ずにいた。
「どうした、アサシン」
「先程の爆発で既に騒ぎが起こっております。このまま戦えば、いずれ野次馬達が集まるでしょう」
髑髏の面が肉体を伴って、アーノルドの背中を前に傅く。それが人間と言う領域から外れた自分達であっても、その更に上を位置する
「それはいけない、それは私としても本望ではない」
髑髏面の英霊の忠告を受けると、アーノルドは脈々と流動する肉体を抑え込み、フィロが対峙しているにも関わらず、躊躇う事無く背を向ける。
「表の世界に魔術を露見するのは禁忌。些か残念ですが。今宵は此処までですね」
ーーー理屈は分かる。神秘とは隠匿、管理する物であるという聖堂教会の人間らしい発想だ。このまま戦闘を続けて、魔術の存在を目撃されるのを避けたいという考えだろう。
「逃すと思うか?」
しかしフィロは引き下がるつもりはない。背後に浮かぶ光球の銀河は未だに消えず、その無機質なまでに冷めた翆色の瞳は、アーノルドから目を逸らさない。
このまま放置すれば、必ずや聖杯戦争における最大の障害になる。いや、もしかすれば、聖杯戦争その物を破壊する要因になり兼ねないだろう。そんな人間を相手に、逃すという選択肢は、フィロには与えられていない。
「いいえ、貴方は逃さざるを得ない」
すると、いつの間にだろうかーーー視界が霞む。フィロの網膜が曇ったのではなく、まるで世界自体が白くボヤけているように、いつの間にか漂い始めた濃霧が、アーノルドを覆い隠していく。
「霧か」
いや、これは霧なのかーーー足元すらも見えない程に深いそれは、夏の夜に起こりえるような自然現象などではない。そもそも空気中に高密度の魔力が漂っている時点で有り得ない。
恐らくはアーノルドのサーヴァントである英霊の宝具、またはそれに準ずる何か。であれば、この不可解な現象にも説明が付く。だからこそ、フィロは控えていた光球の群を躊躇鳴く眼前に降り注がせた。
「『落下』」
白く霞んだ向こう側で、無数の光球の煌めきと爆発が僅かながらに垣間見える。しかし、それすらも幻のように、深い霧の中へと飲み込まれていく。
―――やがて、フィロが全ての光球を打ち尽くした頃には、あれほど色濃く漂っていた霧は、最初から無かったかのように全て消え去っていた。
「……」
本当に何もなかったかのようだ。アサシンの姿も、アーノルドの姿も、そして光球の流星群を打ち出した破壊の跡も無くなり、初撃で残した爆発の残骸のみがそこにはあった。
「いやぁ、
何処からともなくキャスターが現れ、欄干に僅かに残っていた赤黒い月霊髄液の残滓を、指で救い絡め、興味深そうに眼鏡越しの瞳を輝かせる。
「しっかし、今も昔も化け物よりも化け物って居るもんだねぇ。全く
霊体の状態で、先程の一部始終を見ていたのだろう。キャスターは自虐する様にやれやれと肩をすくみ上げる。しかし、フィロにはそれが不思議に思えてしょうがない。
「僕からすれば、貴方も人智を超えた怪物に見えるが」
「私は唯の医者、もしくは詐欺師さ。人より少し知識があるだけで、君たちと何も変わらない」
さしも自らが普通の人間だと嘯くも、キャスターもまた、人類史に認定された
「さて、そろそろ退散しないとね。ホムンクルスちゃんも面倒事に巻き込まれたくないだろう?」
胸元から取り出した試験管に、指先に付着した
「分かった。退散しよう」
警察にでも拘留されたとなれば、後々動きにくくなる。避けられる障害を敢えて受ける理由も無く、フィロはキャスターの言葉に従う。
だがその前に、あの男の残影が残る壊れた橋の姿を、決して忘れないように目に焼き付ける。
「やはり、あの男は危険だ」
フィロは目に焼き付けた光景と共に、昨日の記憶を思い出す。
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ーーー深夜、監督役である聖堂教会の神父、アクレスにフィロはこう尋ねた。
『敵を教えてもらおうか』
それは中立を重んじる聖杯戦争の監督役に投げかけるべきではない質問。
『そうですね……聖杯戦争における最有力候補としては、間違いなくランサーのマスター、親水 京子でしょうか。本人の実力もさながらに、背後に居る日平和教が厄介です』
だが意外にもアクレスは、何ら躊躇う様子も無く、素直に答えてみせる。そして、それは二つの意味で予想通りの回答だった。
なにせ、アクレスは元からコチラ側の人間。創造主であるアインツベルン家とは、協力関係にある人間だ。そして、そのアクレスから事前に横流しされた情報でも、最も厄介なのは親水 京子だと、フィロも実直にそう思っていた。
『ですが、最も厄介と呼べる存在は、彼一人』
しかし、その予想を裏切るかのように、アクレスがやたらと引っかかる含みを持たせる。その続きをフィロが待っていると、もったいぶる真似はせず、またもや素直に答えた。
『アーノルド=シュルト。異端狩りを専門とする『代行者』の中で、異端と呼ばれる彼こそが、きっと貴方に取って最も立ちはだかる敵となるでしょう』
代行者。聖堂教会において、使い捨ての最強戦力とも呼べる異業種専門の実働部隊。凡そ人知を超えた存在を狩る者達の中で『異端』と揶揄されるのであれば、それは間違いなく怪物であろう。
「分かった」
「おや、もう宜しいのですか?」
それを聞くや否、この教会にもう用は無いと、フィロは背を向ける。するとアクレスが尋ねるように呼び止めるが、振り返りはしない。
「それだけ聞ければ、最大の障害さえ取り除けば、負けはしない」
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その答えを聞いた瞬間から、フィロの最初の標的はアーノルドと決められた。そして、標的を監視し続け、最も最適なタイミングで襲撃を掛けたというのに、こうも容易く逃げられてしまっては、元も子も無いだろう。
「アーノルド=シュルト。あの男は必ず排除する」
アクレスの言う通り、あの異形―――アーノルドは、必ず避けては通れない障害となる。だとすれば、次に会う時は殺す他ない。そして次に会う時は、いずれそう遠くないだろう。
そんな確信めいた予感は、決して裏切らない。
例え英霊では無くとも、型月世界では人外の領域に居る存在は確かに居るとは思います。まぁ、英霊に比べれば、取るに足らない相手かも知れませんが、それでも歴とした怪物と呼べるでしょう。
『追伸』
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