Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
争うセイバーと直葉の間に入り、二人に揉みくちゃにされながら、それでもめげずに荒ぶる獣を押さえ続けて数分──―。
「へぇー、じゃ姉ちゃんって、セイバー? って言うの? なんかスッゴイカッコいいー!! 騎士みたい!!」
「へっ! 分かってんじゃねぇか。そうだろ、カッコいいだろ?」
スッカリ二人は意気投合していた。やはり、ガキはガキ同士で何か通じ合う物があるらしい。
「……何で意気投合してんだよ。コイツラ……」
散々暴れるセイバーを抑えようとしてボコられたり、部屋の中で逃げ回る直葉に踏みつけられたりと、そんな諸々の苦労が無駄だったような気もするが、それが実を結んだと、榊は思い込む他ない。
「全く……ほら、喧嘩して腹減っただろ。食えよ」
その単純さに肩の力が抜けつつも、二人が和解している間に作り終えた飯を大皿に乗せて、榊はドンッとテーブルの上に並び立てる。すると、食欲をそそる匂いに釣られた二人が、途端に群がってきた。
「うぉぉぉ!! 兄ちゃんの手料理だぁ!! 美味そぉぉぉ!!」
「おぅマスター! 相変わらず美味そぉな飯じゃねぇか!!」
セイバー達が楽しそうにハシャいでいる間に片手間で作った物だが、どうやらお気に召してもらえたらしい。2人とも、こぞって皿の中に収められた料理に釘付けになって、だらしなく涎まで垂らす始末だ。
「デケェぇぇ!! 肉が丸々!! 丸々焼けてるぞ!?」
「何これ!? 肉丸ごとって凄い豪華だよ!! 兄ちゃんリッチじゃん!!」
「おあいにくさま貧乏のままだよ。ほらサッサと食えよ」
「「頂きまぁぁす!!」」
食べやすいように榊がフォークとナイフを渡した途端、獣が如く肉に猛然と食らい付くセイバーと直葉。2枚で400円のササミで此処まで食らい付くとは、安い女達で助かった。
榊が今回作った料理は棒棒鶏。
作り方は簡単で、皿底に敷き詰めたモヤシと料理酒を揉み込んだササミ肉を電子レンジで5分間チンする。出来上がったら、ラー油やポン酢、砂糖に胡麻油を混ぜたタレを掛ければ直ぐに完成だ。
チンするだけとお手軽な癖に、肉一枚を丸々調理に使うので、安くてボリュームのある一品で、榊の数あるレシピの中でもお気に入りの料理だ。なので、貪るようなセイバーと直葉の食いっぷりは素直に嬉しい。
「ウメェェェ!! この甘辛ぇタレとデケェ肉の相性良すぎんだろ!! 最強じゃねぇか!!」
「やっぱり兄ちゃんのご飯美味しいよぉぉ!! あっ、もう無くなっちゃった……隙あり!!」
「アッ! テメェ!! オレの肉取ろうとしてんじゃねぇ!!」
「フッ! おじいちゃんが言っていた……人は肉の前ではケダモノ同然って!!」
とは言え、棒棒鶏を巡って醜く争う有様を見てしまっては、暫くお蔵入りにせざるを得ないだろう。それと、榊のおじいちゃんは一度もそんな事は言った覚えはない。
「ったく、ゆっくり食えよな……」
そんな浅ましい争いの一部始終を見届けると、セイバーの逆襲の末に残った棒棒鶏を全部取られてしまった直葉を見つめながら、榊は面倒気にテーブルの上で頬杖を付く。
「そんで直葉、お前どうやって此処へ来た?」
そして置き去りにしていた疑問を、今度はシッカリと直葉の目を見つめて尋ねた。
「ヴェ!? そ、それはぁ……」
やはり、そこを突かれてしまうと困るらしい。直葉またもや歯切れ悪く言い淀んで、目を激しくウロチョロと走らせる。
──さて、どう問い詰めるか。この調子だと、夏休みの間はずっと家に居座りそうな様子だ。そうなる前に親父に連絡でも取るか? でも今更どんな顔をして会えば良い? 電話するのも気まずいし、実家に行くのも、もちろん論外だ。じゃあどうすれば……。
そうしてアレコレと色々考えた末に、榊が導き出したのは。
「……ハァ、もういいや」
単純に諦めた。聖杯戦争が何やら巻き込まれている状況に比べたら、今考えているような家族の問題は、チッポケすぎて考えるのが、馬鹿らしくなってしまう。
「直葉、それで腹一杯になっただろ。ならサッサと親父と母さんの所に帰れ」
「えぇ? 何でぇ!! 折角可愛い妹が来てやったのに!! もっと可愛がってよ!!」
直葉が頬をハムスターみたいに膨らませる。だが、榊としてはそこだけは譲れない。
榊は今、聖杯戦争に巻き込まれている。それは魔術師と言う人間達が互いの願望の為に行う殺し合い、そんなデスゲームの真っ只中に居る状況で、直葉を近くに置くのは、余りに危険すぎる。
「良いから帰れ、俺も暇じゃねぇんだよ」
だが、そんな事実を素直に言える筈もなく、ただ榊は厳しく睨みつける眼差しで、ぶっきらぼうな言葉と共に突き放すしかない。
「……もしかして」
途端に直葉の顔が陰りを見せる。アレほど馬鹿みたいな元気は一気に消え失せ、せり詰まっていた喉をほじくり返すように、恐る恐ると口を開く。
「あの事……引き摺ってるの?」
その途端、心臓に杭を打ち付けられたような衝撃。ここ最近で幾度と無く覚えた痛みが、榊の記憶を揺り動かす。思い出したくもない過去のトラウマが、一瞬だけフラッシュバックで視界を横切った。
「……ッ!!」
──普段なら、それぐらいの痛みくらいどうにか受け流せる。だが、何度も過去を思い出し、今なお向き合う事に苦しみ続ける榊には、そんな余裕すら持っていない。
「そんな話をしに来たのかお前は」
「いやっ、違っ!!」
「ウチに帰れ、直葉」
自分の口から出たとは信じられない程に低く、ドスが効いた声だった。今の姿を鏡でも見れば、榊の顔はきっと醜く歪んでいる事だろう。それは直葉の引き攣った怯え顔が何よりも物語っていた。
「分かった……ごめん、兄ちゃん」
榊と顔を合わせるのを避けるように、直葉が目線を下に反らす。そして、そのまま何も言わずに、立ち上がって玄関に大人しく歩き出していく。
「……ねぇ」
玄関で脱ぎ散らかした運動靴を履き、頭一つ上のチェーンロックを背伸びして外す。その直葉が出て行こうとする様子を、榊はずっと眺めたまま、黙って動こうともしない。そもそも、そんな資格すら持ち合わせていない。
そうして、手を掛けたドアノブを引き絞り、開いた玄関から一歩だけ外へと出た時、直葉の顔が一度だけ、榊の方へ振り返る。
「兄ちゃ……ううん、何にもない」
だが、泣き出しそうな程に潤んだ眼と、何かを言おうとして噛み締めた唇も、全ては扉の向こうに消えてしまう。
そして、その後に榊が幾ら待っても、その後に玄関の扉がもう一度開く事は無かった。
「随分とドスの効いた声を出すじゃねぇか。人殺すのにもビビるチキンの癖によ」
「……俺も驚きだっての。悪りぃな、飯の後味を不味くしちまって」
「別にどうでも良い。テメェが何考えてようと、オレが知った事じゃねぇ」
そう言うと、セイバーはまたベッドの上に寝転がり、そのまま目を瞑る。何も聞こうとも、干渉しようともしないその態度は、今の榊には寧ろありがたい。
「ちょっと頭冷やして来る。付いてくるんじゃねぇぞ」
「言われなくても付いて行かねぇし。サッサと行って来い」
徐に立ち上がると、榊は一言二言だけセイバーに残し、財布と携帯だけ持って直葉と同じく、玄関に向かう。
別に直葉を追いかける訳じゃない。兎に角、今は独りになりたかった。そうでもしないと、自分の駄目な兄貴ぶりに、頭がどうにかなってしまいそうになる。
「ハァ……ほんっとうに俺ってダメな兄貴だよな」
自分が泣かせた妹の尻拭いが出来ない奴を、ダメな兄貴以外に表せる言葉があるものか。
そんな弱い部分を、誰に受け止めて欲しい訳でも無く、ただ開いたドアの外側へポツリと投げ出した。
過去のトラウマとは、そう簡単に消える物じゃないです。それが例え、大事な人間を傷つけると分かっていても、乗り越えられないのが人間の弱さか……。
『追伸』
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