Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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閑話:サーヴァント:アーチャー 召喚

 その男は掛け値無しの英雄だった。

 

 言動、思想、誇り。その全てが清廉潔白かつ正義に満ちていて、男の生涯は何処までも正しくあり続けていた。

 

 そして男の武勇も正しく英雄であった。

 

 その弓は一切を焼き尽くす炎を纏い、矢は音より早く敵を居抜き、その目は遥か彼方の星で見通す。例え万の軍勢であろうとたった一人で勝利を収めるその姿は、正しく無双と呼ぶに相応しかった。

 

 しかし、男の中には誰にも語られる事が無い闇がある。それは彼が英雄として壮大な偉業を成せば成す程、より影を増して猛毒のように男の精神を蝕む物だった。

 

 だが、男は英雄を辞める事が出来ない。人々が英雄を求め、助けを乞い続ける限り、運命がそれを許さなかった。

 

 ──そうやって、己の闇を知らぬフリをして戦い続ける内に、男の中に1つの人格が生まれた。

 

 自分の汚点、矮小さ、苦渋を煮詰めた最低最悪の人格だ。

 

 誰かを救う度にそいつを見捨てろと頭の中で囁き、敵を倒す度にお前は人殺しだと精神を糾弾してくる。そして否定しようとする程、その声は日増しに大きくなっていく。

 

 それでも、男は止まる事は出来ない。時折闇に意識を奪われようと、男は人々が求め続ける英雄であり続けた。

 

 だからこそ、必然的に悲劇は起きた。

 

 ──同じ英雄と呼ばれる仇敵(ライバル)が居た。その男は何も持たざるが故に、誰よりも眩しく、そして自分を含めて誰よりも強くあった。

 

 だからこそ英雄としてではなく戦士として、男は仇敵を真っ向から打ち倒したい。少なくとも、表の自分はそう願っていた。

 

 しかし結果として、男は戦士としてではなく、英雄となる道を選んだ。

 

 初めから分かっていた。仇敵との決闘は男に取って有利になるよう仕組まれている事も、そして、それは人々が英雄を求める故に起きた出来事だと。

 

 仕方が無かった。もし彼処でかの英雄を討取らなければ、戦争は終わらない。そうなれば多くの人々が血や涙を流す悲劇が繰り返される。

 

 だから──違う、そんな高尚な理由で弓を引いていないのは、何よりも男自身が一番知っている。

 

 弓を番えた時、闇が囁いていた。

 

『この男は、お前の全てを見通している。俺の中に潜む()も』

 

 それが聞こえた瞬間、気が付けば男の前には胸を撃ち抜かれた仇敵との死体があった。それが自分で打った物だと、無尽蔵の歓声がそう証明している。

 

 その瞬間から、戦士としての男は死んだ。そこに残っていたのは、ただ機械的に誰かを救う英雄という名の歯車のみ。

 

 男はあの瞬間、闇の誘惑に負け、矢を放ってしまった。どれだけ美談で飾ろうと、どれだけ民を救おうと、その事実は変わらない。

 

 戦争を終わらせたのは、男ではなく戦士ではなく、人々が勝利を願った英雄だった。

 

 ──その後、男は英雄として人々から崇められ、そして最後は生涯消える事が無かった闇を知られぬまま、永劫の眠りについた。

 

 そして男は目を覚ます。2度目の生では、自分を殺した英雄などには、決してならぬように。

 

 インドにある名も知れない、小さな町の片隅で。

 ────────────────────────────────────────────

 ──何時も、少女は星に夢を見ていた。

 

 いつか、星のように綺麗な王子様が迎えに来て、空の向こうに連れて行ってくれると。

 

 そんな事が起きる筈はない。腐臭が溢れるゴミ山の中で埋もれる少女の前に、現実は何も与える事は無い。

 

 しかしそれだけが何も持たず、何も得られず、何の為に生きるかさえ分からない少女の、唯一の宝物だった。

 

 埋もれるゴミ山の中で、僅かに開いた隙間から少女は空を仰ぐ。

 

 そこには夜だと言うのに星が見えない、分厚い灰色の雲の天井が光を遮っている。どうやら、今日も星を見れないらしい。

 

 このままじゃ、あの雲色のように少女の夢が色褪せてしまう。そうなったら最後、少女は遂に生きる希望さえも失ってしまうに違いない。

 

 空から雫が落ちてくる。初めはポツポツと、そして間を置かずに洪水のような豪雨となって、地上に満遍なく降り注ぐ。

 

 少女は動かない。生柔らかい不快な感覚に包まれながら、空からの冷たい仕打ちに、ただ無抵抗に身を晒すのみ。

 

 夏の冷たい雨は、少女の身体から僅かに残った熱を奪い、肌を打ちつけていく水滴の感覚が段々と失っていく。そして意識までもが、頬に流れる水滴に混ざって溶け落ちていくようだった。

 

 そうやって意識が全て消えた後は全てが終わる、その予感だけは何となくは察していた。だからこそ、少女はそっと目を閉じる。

 

 いっそこの雨水の流れに、夢も意識も溶けて流されていけば、もう苦しまなくて済む。

 

 ──それからどれくらいの時間が経ったのか。僅かに残った肌を打つ感覚が無くなり、誰かに持ち上げられるような浮遊感が生まれる。

 

 もしかして、空の向こう側に行けたのか。淡い期待感に感覚を失いつつある少女の胸が弾む。そして、そこに何があるのかを見たくて重い瞼を開く。

 

 残念な事に、そこは空の向こうでは無かった。未だ分厚い雲から打ちっぱなしの雨が降り注ぐ、汚いゴミ山の上だ。

 

 だが、そこには星があった。地上に降り立った星が人となって、少女を優しく抱き抱えていた。

 

「大丈夫ですか、マスター」

 

 星は少女の身を案じるように、不安げに少女の顔を覗き込む。

 

 黒髪と同じぐらいの色をした褐色の肌に、清廉然とした雰囲気を放つ、端正な顔立ちをした青年だ。

 

 晴れた夜空のような黒い瞳には、少女が愛する星が見えそうなほど澄んでおり、そこに少女は目を奪われてしまう。

 

 ──この人は誰なんだろう。心当たりがないように思いながらも、その慈愛に満ちた表情と抱える手付きに、少女はある確信を持っていた。

 

 きっと──。

 

「貴方は、王子様なの?」

 

 王子様。自分をそう呼ぶ事に戸惑いを見せるように、その星は眉を困ったように顰めるが、雨水で滲む視界では少女は気が付かない。

 

「私に、会いに来て、くれたんだ」

 

 少女は星に触れようと手を伸ばす。今まで夢でしか触れる事のできなかった存在を確かめようと、その褐色肌の輪郭をソッとなぞった。

 ────────────────────────────────────────────

 

 ──冷たい。頬に死人のように冷めきった体温が、その英霊に伝わる。それはきっと今もなお降り注ぐ雨のせいじゃ無いだろう。

 

 一体どれだけの辛い思いや傷を負ってきたのだろうか、そう一度考えてしまうと、胸の奥が責めるような疼きをみせる。だが、唇を噛み締めて押し殺す。

 

 此処で動いてしまえば、それは最早英雄に他ならない。そうなれば最後、またあの時と同じように、また己の闇に憑りつかれてしまう。

 

「マスター、貴方は私に何を望みますか」

 

 ──だからこそ、少女を救う英雄ではなく、一介のサーヴァントとして心を殺す。そして、マスターの望みを叶える機械として、問い掛ける。

 

 その問い掛けに、少女は考える素振りも無かった。ただ素直に、力の入らないか細い声で返した。

 

 

 

 

 

「ううん。もう、大丈夫だよ」

 

 

 ──ー少女の望みは、もう叶っていた。

 

「王子様が、来てくれて。私、凄く嬉しかった」

 

 ずっと待っていた。生まれてから最下層に生きる事を定められ、蔑み罵られる毎日の中で、きっと誰かが手を伸ばしてくれる事を。

 

 それが誰かであっても、少女に取っては希望であり、夢であり、星となる。

 

「それだけで、私、幸せ、だから」

 

 だから、誰かが助けを求める手を握ってくれただけで、少女は生きていて良かったと思える。

 

 それだけで、この些細な夢は叶っていた。

 

 もう、少女は何も望まない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──気が付くと、英霊はゴミ山の不安定な足場に構わず、少女をその腕の中に抱えたまま歩き出していた。

 

「おうじ、さま……?」

「安心して下さい」

 

 ──誰かの願いを叶える英雄には決してならない。ならない筈だった。

 

 しかし、その腕の中には名もなき少女がいる。無欲であり、それでいて無垢な少女が居る。幸せにする為に掴んだ手が在る。

 

 何故、そんな事をしたのか。それは当の英霊でさえも深くは理解していない。

 

 ただ、この少女を救いたい──英雄を忌み嫌う筈の自分に芽生えた、そんな感情に戸惑いすらも覚えているのだから。

 

 だが、その少女の掃き溜めの中でも、決して色褪せない青い瞳を思い返せば、英霊は自ずと腑に落ちてしまう。

 

 ──英雄になりたかった。ただ抱き寄せただけで幸せだと言う少女を、掬い上げる為の真の英雄に。

 

 それが愚かな事だと分かっていても、どうしても望まずには要られない。英雄になってしまえば最後、闇に呪われると知っていても、動かざるを得ない。例えそれが破滅に向かうキッカケだとしても、飛び込む他ない。

 

 ──―どうやら、どう足掻いても自分は英雄だったようだ。だが、今世では違う。誰かに請われる訳でも望まれる訳でもなく、ただ心のままに誰かを救う為に立ち上がる。

 

 奇しくも、自分が殺したあの最も誇り高き英雄のように。

 

「マスター……いえ、貴方のお名前は?」

 

 出来るだけ怯えさせないように優しい口調を投げかける。すると答え辛そうに口をモゴモゴとさせるが、少女はやがて呟くように言葉が零れた。

 

「ない……みんな、クズとかゴミって、呼んでる」

「それはいけません。名前というのは父と母から授かる大事な物です。ですから、私が代わりに名前を授けましょう」

 

 英霊は少しだけ考えると、ふと最愛の女性の名が浮かび、そこから或る名前が思いついた。

 

「『パディ』という名前はどうでしょうか?」

「『パディ』? ……うん、凄く、良い名前」

「そうですか、ありがとうございます」

 

 どうやら気に入って貰えたらしく、少女が何度も与えられた名前を口の中で呟く。

 

 すると、今度は少女の方から名前を聞かれてしまった。

 

「貴方の、名前は?」

「私の名前ですか? 私は──」

 

 一瞬、本当の名前を教えるべきかと迷ったが、青年はここは敢えて用意されている仮の名前を使う事にした。

 

 名前は、クラスは。

 

「『アーチャー』と申します。これから貴方を救う『英雄』となるでしょう」

 

 英雄は一度地に堕ち、そして再び目を覚ます。

 

 それは万人からの望みからでなく、かつての敵との再戦の為でもなく。

 

 ただ一人の少女を救う為に。

 




第五弾は、インド生まれの名もない少女『パディ』と元英雄のアーチャーです。

コチラも公式様から選出させていただきましたが、一つ事前に謝らせて戴きたい事がございます。

アーチャーの思想や言動につきましては、個人的解釈の部分が大きくなってしまうと思われますので、アーチャー推しの皆様には申し訳ございませんが、今回の聖杯戦争においては、このようなキャラの元で表現していきたいと思います。

これって、独自解釈のタグをつけた方が良いんですかね……?

『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。

https://x.com/8f8qdLIQID34426

作品の高評価や感想は何時でも待っています!!

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