Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
「へぇー、パティちゃんってインドから来たんだ! 凄ーい!!」
「ゼンゼン、スゴク、ナイ。ワタシ、ダメナコ」
高まったテンションのままに煌めいた眼差しを向けると、パティはくすぐったく身を小さく縮める。それが気にいらずに、直葉のマシンガントークは更に加速を見せ始めた。
「そんなにネガティブになったらダメだよ!! パティちゃんはこんなに可愛いのに!!」
「カワイイ?」
「そうだよ!! ほらこんなにお目目クリクリでお肌プニプニなのにさ!! 勿体ないったらありゃしないよ!!」
「クリクリ? プニプニ? ニホンゴ、ムズカシイ」
会話というよりは、直葉がひたすらに褒めまくり、それをパティが謙遜で返す一方的なやり取りに近いだろうか。それでも2人の会話は弾み続け、こうして心を許せるくらいには仲良くなれていた。
「あー、一杯話した話した。ありがとねパディちゃん!!」
喉がカラカラになるぐらいに喋り疲れ、綺麗に生え揃った芝生の上に寝転がる。パディの家だという豪邸の庭は、直葉一人の寝転がろうとも余りある広さだ。
──突然、声を掛けられた時はどうしようかと直葉は内心、狼狽えてしまったが、いざパディと話して見れば、中身は何ともない普通の心優しい少女だった。
いや、心優しいというより、純粋とでも言えば良いのだろうか。透き通るように混じりけのない感情でパディは喋り、一緒に居るだけでも、自虐で荒んだ直葉の心は、その無垢な瞳に癒されていく。
だからこそ、直葉はこうして何時ものように元気で笑う事が出来る。それを取り戻してくれたパディには、感謝してもし足りないくらいだ。
「スグハ」
パディが寝転がる直葉の隣に座ると、芝生の上に投げ出したその手を握る。
「ドウシテ、ナイテタ、ノ?」
──あぁ、やっぱり気づいちゃうか。この純粋無垢な少女の前では、自分の薄っぺらい空元気なんて直ぐにバレてしまうと、直葉は何となく確信していた。
「……やっぱ気になっちゃうよね?」
「ゴメン、ナサイ」
「良いよ良いよ!! アタシがバカやっちゃったせいなんだからさ!!」
どうせ嘘を付いても心配させるだけだ。だったら観念して直葉はいっそ全部ブチ撒けてやろうと、雲一つない青空に向き出す気概で、最初はポツリと吐き出す。
「アタシね、兄ちゃんが居るんだ」
「ニイ、チャン?」
「うん。兄ちゃんはさ、いつもはスンゴイ悪ぶってるんだけど、本当はスゴイ優しくて、そんで格好良く……て? まぁ、自慢の兄ちゃんなんだ」
──―榊 浩一は世間から認められずとも、直葉に取っては自慢の兄だった。
口も人相も悪いが、何だかんだ優しくしてくれるし、困った時はダラダラ文句言いつつも、いつの間にかどうにかしてくれる。そんな面倒な性格だからこそ、好きになれたのだろう。
でもそれは、全て過去の話だ。
「でも、二年前くらいかな。兄ちゃんが家から急に居なくなっちゃたんだ」
パディは意味を理解する事が出来ないようで、顔に疑問符を浮かべている。だが、直葉は詳しく答えようともしない。そもそも自分でも上手く整理が付いていない。
あの時は、それくらい本当に急だった。突然、起こしに行った兄の部屋に誰も居ないで、しかも机の上には、『ごめん』とだけ書かれたノートの切れ端が残るだけ。まるで、雲隠れしたように、その日から1か月間、榊は行方を晦ませた。
「そこからはさ、お巡りさんとか学校の先生とか、みんなが兄ちゃんが悪者みたいに『ロクでもない奴だ』とか『あんな兄を持って不幸だね』とかって、しかもそれを父ちゃんや母ちゃんまで言うんだよ」
そもそも、当時でさえ何が起きたのかさえ良く分かっていなかった。だが、自分に関わる大人全員が、直葉の事を『可哀そうな兄を持った妹』として扱い、口々に兄貴を悪人だと囃し立て、言いようが無い怒りを感じた事は覚えている。
「結局兄ちゃんは帰って来たんだけどさ、スッカリ別人みたいになっちゃって、聞いても全然答えてくれないんだよ……しかも、直ぐ後に学校辞めて家を飛び出しちゃって……本当に意味分かんなかった」
そして一か月後、警察に連れられて帰って来た兄の姿は、変わってしまっていた。まるで何か人として大事な物を失ったように見る影もなくなり、その1週間後には、また家を出て行ってしまった。
「だからね、今日は勇気を出して兄ちゃんに会いに行ったんだ。何でかそうなったか分かったら、また昔みたいに戻れるかなって。ただの兄ちゃんとして頭を撫でて欲しくて」
だから、母の携帯に唯一残されていた携帯番号だけを頼りにしてまで、直葉は榊の家を探し出して、そして今日は震える指先でインターフォンを押した。
兄の傷跡を知る事で、また昔のように戻れる──そんな淡い希望さえも直葉は抱いていた。実際、久し振りに会った兄は昔のように優しくて、きっと大丈夫だとも思っていた。
悲壮に歪んで、苦しそうに歯を食いしばる兄の顔を見るまでは。
「でも怒らせちゃった。アタシ馬鹿だから、兄ちゃんの事全然分かってなかったんだ。兄ちゃんは乗り越えたんじゃなくて、ただ忘れたんだって」
兄は乗り越えたんじゃない。ただ思い出さないように忘れたから、どうにか生きている。それほどまでに深い傷跡が残っているのを知らずに、無遠慮にも触れようとした。それが分かったからこそ、耐え切れずに直葉は榊の家から、泣きながらに飛び出した。
「それで色々とグチャグチャになって……まぁ! そう言う事! ごめんねパディちゃん! 勝手にベラベラ話しちゃって」
「……」
そこまで話し終えて、直葉がふと寝返りを打つと、パディの顔が鬱蒼と曇っている事に気が付いた。
こんな話を聞かされたら誰だってそうなる。直葉は切り上げようと、何時も通りの笑顔を取り繕おうと顔を上げる。
「ウラヤマ、シイ」
だが、パディが呟いた言葉に、笑おうとしていた表情が、作り欠けのままで止まってしまう。
「ワタシ、カゾク、イナイ。ソンナ、フウニ、ナヤメ、ナイ」
──―パディは知らない。生まれながらに孤独で、家族と言う大事な存在が居ないから、誰かの為に一生懸命になろうとするその気持ちを。
「スグハ、ヤサシイ。ニイチャン、スゴク、カンガエ、テル。ソレ、ムズカシイ」
──―直葉は知らない。顔も知らぬ社会の中で虐げられ続けたパディに取って、そんな誰かの為に動き、傷つき、そして涙を流す事が、どれほど優しさに溢れているのか。
「ダイジョブ」
小さい掌で頬を温かく包まれて、パディの澄んだ緋色の目が合う。
会ったばかりで、互いに何も知らない事だらけ。パディがどういう気持ちで自分と目を合わせているのか、直葉は少しも推し量れない。
「ソンナ、スグハ、ダカラ、キット、デキル」
だが、それが目を奪われるまでの純粋さだというのは伝わっていた。
「パティちゃん……」
押し込んだ筈の涙が、勝手に目尻から零れてしまう。だが不思議と悲しい気持ちにはならない。まるで、心に貯めていた苦しい感情を洗い流すように、いっそ清々しいくらいだ。
「ゴ、ゴメン、ナサイ!!」
「ううん……違う、違うの!! コレはその……多分嬉しい、から!!」
溢れ出す涙を止めようとしても、手で拭った先から零れてしまう。だが鼻を啜って、無理矢理に堪える。そして、重い気持ち流し切った心のままに、直葉は立ち上がった。
「ごめんパディちゃん! アタシもう一度兄ちゃんに会って来る!!」
芝生の上を蹴飛ばすように走り出し、あれほど重苦しく感じた帰り道に向けて、庭の外へと駆け抜ける。
どうすれば良いのかなんて分からない、どんな顔で会えば良いのかも分からない。
でも、パディが出来ると言ってくれた。優しくて純粋な少女が真っ直ぐに信じてくれているだけで、胸の底から勇気が溢れ出してしょうがない。これはもう一種の魔法のようなものだろう。
「スグハ」
道に飛び出して、帰り道を逆走しようとする直葉を、パディは一度だけ呼び止める。
「ガンバレ」
その励ましだけで、直葉はもう一度兄に向き合おうと頑張れる。だから、そのお礼に飛び切りの笑顔と約束で応えた。
「うん! ありがとう! また会おうね!! パティちゃん!!」
──────────────────────────────────────────ー
「パディ」
小麦肌の少女が飛び出したのを見計らい、アーチャーは霊体化を解除すると、庭の木の影から姿を現した。
「王子! 様……!!」
背後から突然現れたアーチャーの姿に、パディは目を丸くして、身体を硬直させる。驚いているようにも怯えているようにも見えるが、きっとその両方なのだろう。
アーチャーは手を伸ばす。それはパディが知る大人達のように躾ける為じゃない。優しく頭を撫でる為だ。
「善い事をしましたね」
あの日、ゴミ山の中から掬い上げた時、既に覚悟は決めている。ただ1人だけの英雄として、パディが幸せになる為に、この仮初の身体が尽きるまで戦うと。
だからこそ、それに見合うだけの美しい心だと、もう一度知る事が出来て、アーチャーは喜びに打ちひしがれていた。
「貴方の心は誰よりも美しい色をしている。だからこそ、私は貴方が幸せになる事が何よりも嬉しいんです」
頭を撫でる手を離し、パディと同じ目線に膝を降ろして、顔を合わせる。そして誰かの為に涙を拭って励ました優しさを称えて、アーチャーはその頭を深々と下げた。
「ありがとう、王子様」
ようやく安心したようにパディが息を吐き出すと、先程の少女の事を思い出しているのか、その頬が赤く染まる。それは傍から見れば、正に幸せの絶好調に居るような
しかし、まだ遠い。この不幸で、無欲で、世界から見捨てられた少女が救われるには、まだ遠い。
だからアーチャーは叶える。聖杯という軌跡を持ってして、パティが幸せになる未来を思い描く。
その為ならば、この手が汚れる事などに躊躇いなど無い。
「さぁ、戻りましょうか。私達の家へ」
──────────────────────────────────────────ー
頭を冷やそうと外に出ても、行先なんて何処にもない。ただ通いなれた道なりを当ても無く彷徨い続けるのが関の山だ。
だと言うのに、榊の足は止まらない。いや、苛立っている分だけ、地面を荒く蹴る歩調がドンドンと速くなっている気さえもする。
「あぁクソ……」
原因は分かっている、全部自分のせいだ。何も知らない妹に当たって、挙句の果てには泣かせたクソ野郎が自分だと思えば、もっと歩くスピードは速くなる。
「何やってんだよ俺……!!」
ふと立ち止まり、力任せに近くの電柱を殴りつける。ザラついたコンクリートの反動に、拳の皮膚が裂けるも、その痛みが今は恋しいくらいだ。
直葉は、榊にとって大事な存在、それこそ、あの日に無くした物の次に来る程に。
失いたくも無いし、傷つけたくも無い。だからこそ、また壊してしまう前に、榊は自分から離れて行った。
しかし、今となって見れば、それで合っていたのかも怪しく感じる。離れていても、直葉はやって来た。そして、その理由を何となく分かっていながらも、弱い自分を乗り越えられずに、榊は傷つけてしまった。
今更合わせる顔など無い。いや、これから顔を合わせる事は二度とないだろう。榊はまた間違えてしまったのだから、当然の事だ。
だから、もう──ー。
「居た!! 兄ちゃん!!」
だが、失ったと思ったその機会は驚く事に直ぐにやって来た。曲がり角の向こう側から、転びかけてしまう程の勢いで現れて、汗だらけになりながらも、大きな声で自分を呼んでいた。
「やっと……やっと見つけた!!」
現れたその小麦肌の少女は榊を見つけるや否、ずっと走りっぱなしだったのか荒い呼吸のままに走り出し、そして身構える暇もなく、半ば倒れこむかのように胸へと飛び込んで来た。
「直葉……!?」
「兄ちゃん! さっきはごめん!!」
ぶつかる衝撃に辛うじて踏ん張り、反射的にそれを榊は抱きかかえる。そして、驚きに言葉が出てしまうが、それより先に小麦肌の少女──―直葉が先に制した。
「アタシ、兄ちゃんの事、全然知らなかった……今も全然分からない」
小さい頭が榊の胸にうずまる。そこに涙で濡れる感触は伝わらない。家を出て行った時に僅かに見せた泣き顔は、既に晴れたようだった。
「だから教えて! そんでまた昔みたいに仲の良い兄弟に戻ろうよ!!」
そして顔を上げて訴えかける直葉の眼に悲しみは映らない。今は戸惑いと焦りに目を泳がせる榊だけを映している。
「……」
──この短い間に、一体何があったのか。それを反射的に聞こうとするが、直ぐに引っ込める。
──一度直葉を見捨てた自分が、直葉に何かを言える権利などある筈が無い。だから、此処は何も言わず突き放すのが正解の筈だ。
だとしても、その眼は駄目だ。その眼をされてしまっては、榊はどうしても抗えない。
昔に自分を救った誰かに良く似た、自分を真っ直ぐ見つめるその眼に、榊は逆らう事は出来ない。
「……家まで送って行く」
ゲリラ投稿をしたザックリとした理由としましては、ここ最近、色々と自分の作品を見返したり、第三者の意見を頂いたりして、改めてより多くの人間に見てもらう為に、テコ入れせにゃいかんと思った次第です。
そこで、(少数とは思いますが)古参の方は気づかれているとは思いますが、序盤部分やあらすじをザックリ変えました。出来るだけ間口が広くなるように頑張りました。
更に、今日から毎日投稿~2週間編~始めます。もうストック全部消化する勢いでやります。
一か月毎日投稿よりは短いですが、なるべく多くの人達に見てもらえるように頑張ります……そして、私の推しを広めるために、どんな苦行も乗り越える所存です。
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