Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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悪意は突然やって来る

 実家は此処からそう遠く無い。東区中央駅まで電車に揺られて10分間、後は道なりに歩いて行けば、それで直ぐに着く。

 

 だがそんな僅かな移動時間であっても、揺れる車両の中で2人の兄妹は、座席の距離を縮められずにいた。

 

「……」

「……」

 

 互いに無言。だが、何も思わない訳じゃない。寧ろ、思うからこそ、どう切り出せば良いのか言葉に詰まってしまう。

 

 それでも兄として、榊は自分から口を開くしかない。

 

「悪かったな。さっきは」

「ほえっ?」

 

 直葉が目を見開いて、マヌケな声を上げる。だが、不思議な事ではない。自分のせいで妹を泣かせた身としては、謝るのは榊としては当然の事だ。

 

「最近色々起こり過ぎて気が立って……いや、コレは言い訳にならねぇか。とにかく悪かった」

「……」

 

 直葉は何も返さない。どう思っているのか顔を見ようにも、結局は向かい合うのが怖くて、榊は窓の外で流れる田園を見つめてしまう。

 

「俺は、お前が思うような兄貴じゃねぇ。いっつも間違ってばっかで、どうしようもないロクデナシだ」

 

 視線の先にある田園を──いや、その前にある窓に映る、自分の情けなく歪んだ顔を見つめる。

 

 ──あの時もそうだ。自分は間違っていないと思い込んだつもりで、最後には失ってしまう。どうしようもなくやり直せない選択ばかりを、榊は選んでしまう。

 

「だけど、だからこそ俺は失う訳にはいかねぇんだ。これ以上、大事なモンを失ったら、俺は生きていけねぇ……いや、死んでも死に切れねぇ」

 

 ──だから、榊は選ばさるを得なかった。

 

 間違えてしまうのなら、その手で壊してしまうのなら、いっそ大事な物から離れてしまおうと、せめて自分の手が届かない所で間違えようと、直葉の前から消える事を選択した。

 

 その結果が、自分に向き合おうとする妹とも、ロクに目を合わせられない自分だと思えば、情けなくていっそ笑えてしまう。窓に映る臆病者(自分)が、自虐的にほくそ笑んでいる姿に、榊は目を伏せてしまう。

 

「何それ……意味、分かんないよ」

 

 向かい合った鏡像の隣──窓の反射に映りこんだ直葉の身体が、若干のくぐもり声交じりに弱弱しく震える。

 

「大事だから一緒に居るんじゃないの? 大事だから無くならないように手を繋ぐんじゃないの!! アタシはそうしたいよ!! 兄ちゃんも一緒じゃないの!!」

 

 そして、目を合わせようともしない榊に向けて詰め寄り、その真意を捉えようとする瞳を近づける。

 

 だが、それでも目を合わせようともしない。──それが出来ればどれほど良かったか。直葉から一歩踏み出そうとしているのが分かっていても、榊はキュッと唇を噛み締めるばかりだった。

 

 何故なら、榊はもう知ってしまった。自分が如何にどうしようもない人間なのか、そして誰かを守るには余りにも非力だという事に。

 

 そんな自分に、誰かを護りたいからだなんて言える筈も無い──そして、それは全て、あの日がそれを証明していた。

 

「聞いてくれ、直葉。俺は──」

 

 ──だが、その歩み寄ろうとする直葉の成長を無碍には出来ない。それだけは嘘にしてはいけない。

 

 例え、兄としては失格だとしても、それでも責務が無くなった訳じゃない。妹が勇気を出して一歩踏み出したのであれば、その前を歩く榊もまた、踏み出す他無い。

 

 自分が弱い理由を頭の中でグルグルと思い返し、胃の奥がグシャグシャにかき回されているような気分だ──だが、それでも榊は意を決して口を開く。

 

 榊は、言わなければならない。

 

 

 何故、自分は弱いのか。何故、自分は歩み寄れないのか。

 

 

 何故、自分は罪を犯したのか──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、素晴らしき兄弟愛ですなぁ!!」

 

 だが続く言葉は、無遠慮にも割り込んだ大男によって掻き消された。

 

「是非とも拙者も兄弟愛について語らいですぞ! 近年は近親相姦だとかクレームが付きそうですが、そんな奴らは爆弾括り付けて海に放り投げればオールオッケー!! 寧ろ家族だからこそ深まる絆というモノ!! 禁断の関係からガバァって行くから良いんでしょうがぁ!!」

「っ! テメェ! 邪魔すんじゃねぇ!!」

 

 その大男は榊の隣にダイブするように座席へ座ると、そのまま訳の分からない事を次々とペラペラ喋り出す。そんな突然の異常事態を前にして、榊は覚悟していた言葉が引っ込んでしまった。

 

「まぁまぁそう怒らないでくだちぃお兄たま? いや、にいにと呼んだ方が良いですかな? ハッ! もしや兄上派!?」

 

 その大男は言動も風貌も、明らかにイカレている。榊より頭一つ抜きんでた屈強に引き締まった体躯は、某プラモメーカーのパチモンTシャツをハチ切らんばかりに隆起し、深彫の筋と毛むくじゃらの顔面は、おおよそ日本人のそれではない。

 

 ──何モンだ、コイツ。頭のイカれた外国人にしては、やたらと異質で厳つい大男に、榊はどう対処すればいいのか思いつかず、思考が一歩手前で立ち止まってしまう。

 

「あっ、申し遅れました」

 

 すると、半ば思考停止状態の榊を見て、大男が何かを思いついたかのように掌で拳をポンッと叩くと、吐き気を催す気色の悪い笑顔を晒した。

 

「拙者サーヴァントのライダーと申しまする。末長くよろちくくだちぃ」

「ハッ?」

 

 サーヴァント、ライダー───突然に男の口から出たその言葉に、思考を放棄していた榊の脳から、一瞬だけ意識が掻き消えた。

 

「そう言うわけで、テメェのお時間を下さいな。まぁ嫌でも奪いますけどぉ」

 

 そして気が付くと、榊の眉間の中央には、突き付けられた時代遅れなフリックロックの銃口の冷たさが伝わっていた。

 

「ッ!!」

 

 動揺する間もなく、グリグリと詰められる銃口に、恐怖が榊の喉を塞ぐ。最も分かりやすい死の予兆を前に、情けなくも身体がピクリとも動こうとしない。

 

「兄ちゃん!!」

「おぉっと、動いてはいけませんぞ? 最も、此処には誰も居ないがな」

「ヒッ!」

 

 見知らぬ人間に兄が銃口を突き付けられている様に、直葉は驚きに悲鳴を上げようとする。だが、その銃口の向きが、僅かに自分の方へ傾けられると、恐怖で顔を引き攣らせて、榊と同様にピタリと動きが止まってしまう。

 

「テメェ……!!」

 

 直葉に銃を突きつけられた瞬間、滲み出る恐怖よりも、沸騰するような怒りが追い越した。そして、睨み付ける目の前のクソ野郎(ライダー)の傍で、ある異変が起きている事に気が付いた。

 

 何故気が付かなかったのか──平日の昼間だとしても、この車両どころか、連結した扉の向こう側にも、自分達とこの大男以外は誰一人として見当たらない。

 

「そう言うわけなんで、拙者に付いて来てくだちぃ。尚、拒否権は無視ですぞ」

 

 その疑問に答える訳も無く、ライダーが返事を待たずして、榊の眉間へ銃口をめり込ませる──ガタゴト揺れる電車の揺れのせいか、妹を危険にさらされた怒りのせいか、いつ鉛玉が頭を吹き飛ばすのか分からないからか、意識が捏ね繰り回されているようで、思考が纏まらない。

 

 違う、そうじゃない──銃口から噴き出す鉛玉よりも、英霊と言う人外の証よりも、それ以前に榊はライダーという男を恐れている。

 

 何故かは分からない。名前も知らない男に対し、突き付けられた銃口よりも恐怖を抱く理由など見当もつかない。それでも榊の頭は理屈ではなく、本能で目の前に居る存在に逆らうなと警鐘を鳴らしている。

 

「ッ……!!」

 

 ──だが、泣き言を宣う本能を、榊は内頬を噛んで黙らせる。そして口内で滲む血の味の苦みで、弱気越しの意識を覚醒させる。

 

 自分だけが傷つくなら未だ良いだろう──だが、此処には直葉が居る。下手な選択をすれば最後、この血の味を直葉が味わう事になる。それを恐怖と怒りで暴走寸前の脳神経に叩き込む。

 

 考えろ──考えろ。どうすれば、助かる。どうすれば、直葉を無事に逃せるのか──この不出来な頭で考えろ。

 

 その時、パンッ! と余りにも気軽い破裂音が、車両内と榊の耳元で弾けた。

 

「あっ、いっけね。ついつい手が滑ってしまいましたぞ」

 

 ──お茶目な口調とコミカルな照れ顔でも隠せない濁った悪意が、榊の意識を真っ黒に染め上げる。

 

「へっ?」

 

 ──突き付けられる銃口とは逆の手から上がる硝煙。何が在ったのか分からないように目を見開く直葉。その片頬には、鉛球を掠めて切り裂かれた赤い血筋。

 

 信じられないように直葉が頬をなぞる。そして、自分の指先に付着した血を見た時。

 

「キャァァァァアァ!!」

 

 声にもならない甲高い直葉の悲鳴が、走る電車の音を掻き消して、誰も居ない車両の中で乱反射した。

 

「何しやがんだテメェェェェェェ!!」

 

 その瞬間、理屈よりも先に榊の拳が飛び出していた。視界が真っ赤になる程の怒りに、それまで必死に保とうとしてい考えが纏めて弾け飛ぶ。そして、身体が怒りのまま身勝手に動き出していた。

 

「まぁまぁ」

 

 しかし、振り抜いた榊の拳は、蠅を払うように大男の太腕で軽くいなされると、逆にその喉笛を鷲掴まれ、そのまま横面を分厚い窓ガラスに力強く叩き付けられた。

 

「グゥ!!」

「そう怒らないで欲しいでおじゃる! 拙者としても人類の至宝であるロリに手を出すのは不本意というモノですが……」

 

 窓ガラスにヒビが入る程の圧力と頭がカチ割れるような痛みに、視界が真っ赤に充血する。

 

 抗おうにも、片手で押さえつけられているだけなのに、まるでプレス機に挟まれたかのように動けない──だが、圧倒的な実力の差を見せつけられても、それでも榊は首を捩じらせ藻掻こうとする。

 

 そんな榊を嘲笑いたいのか、ライダーのニチャリとした汚らわしい顔が、押さえつけられている横面に厭らしくも近づく。

 

「だがオレァ、気が長い方じゃねぇ。また手が滑っちまうかもですゾ⭐️」

 

 無邪気に弾ませる野太い声の囁きで、榊は何故、自分がこの男に恐怖を覚えたのかようやく理解した。

 

 ライダーは、今まで見た英霊達とは違う。誰もが人間とは一線を画した存在であるのに対し、この大男の真っ黒に淀んだ眼は、何処までも人間染みており、故に理解が及んでしまう。

 

 だからこそ、思い知らされる。ライダーと言う人間が、如何に悪人であるか。世の凶悪犯罪者すらも悪戯小僧程度に思える程の、底なしにドス黒い淀みを孕んでいるのかを。

 

 その正体はきっと、騎士でも武将でも英雄でも偉人でも、そのどれでも何でもない。正にライダーの為だけに用意されたような相応しい言葉がある。

 

 この英霊──―いや、この世紀の大悪党を前に、弱み()を見せた時点で、既に榊は詰んでいた。

 

 ──最早、榊には選択肢など、用意されていなかった。最初から、この男に従うしか、最適な回答が無かった。

 

「分かった……お前の言う通りにしてやる……!!」

 

 

 それを思い知ってしまえば、抗おうという意思は起きない。英霊と人間という以前、大悪党のライダーと元不良でしかない自分では、余りにも悪意の格が違い過ぎる。

 

 だからきっと、この大悪党が用意する最悪なシナリオを変える事は出来ない。ヒーローが居ない物語では、そうなるのは必然でしかない。

 

 

 

「──ただし、一つだけ俺の言う事を。聞け」

 

 だとしても、たった一つ些細な悲劇くらいは変えて見せる。

 




満を持して、最後のサーヴァント:ライダーの出番がやってきました……このサーヴァントの召喚回は、もう少し先です!!

デュフフ……この大悪党様が活躍する様を、是非見たいですなぁ!!

『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。

https://x.com/8f8qdLIQID34426

作品の高評価や感想は何時でも待っています!!

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