Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
──取り敢えず、先ずは状況を整理しよう。
まだ再開発地区であろう何処とも知れぬ路地裏で、工事現場とは違うアスファルトの地面を、汚れた爪先でグリグリと削りつつ、榊はそう思い至り早速、顎に手を置いて考えてみる。
「えぇっと、先ずは……」
オフィスビル同士の境に生まれた暗闇の虚空に、今しがた体験した記憶を映し出す。
まず最初に、帰り道に都市伝説みたいな老人に襲われて、そしたらセイバーと名乗る謎の美少女Xがぶった切った。それで騒ぎを聞きつけたであろうパトカーのサイレンが聞こえて、慌てて逃げだした結果、こんな路地裏で屯していると……。
「訳が分からねぇぇぇ!!」
そして頭を抱えて、大声で叫ばずにはいられなかった。
辿る記憶の大筋は合っていても、それを全く持って理解できない。というか理解したくない、脳がそれを拒んでいるかのように、現象を現象のままに受け止めようと働かない。
「ウッセェ! 耳元で叫ぶんじゃねぇよ!!」
コンクリートの壁で増幅する榊のがなり声に、更なるがなり声で返すのは、兜を脱いでその顔を晒す
最も、ポニーに括り付ける鮮やかな金色の髪や、幼い印象ながらも華と凛のある容貌も、田舎ヤンキー然としたメンチ切りのせいで、全てが台無しになっている。
「黙れ未確認生命体2号! 何あのビーム! そして何その鎧!! 男のロマン詰め込みやがって!! 今流行りの特撮かぁ!! 第一話が蜘蛛の怪人じゃねぇとか視聴率下がんぞ!!」
そもそも、突然現れたコイツが元凶その物だった。蟲ジジイに襲われた次には、男のロマン満載の重装騎士の到来、しかも中身は美少女と来た。これがソシャゲなら間違いなく廃課金勢の一人や二人出てもおかしくないだろう。
「というか、何で鎧の中は美少女なの!? そういうのはオッさんが──」
出てくるだろ。と榊は言いかけた瞬間、首から上が千切れた自分の身体を、跳ね飛ばされた頭から見つめる光景が、幻影となって目の前を過った。
首が繋がっているのかを確認しようとする──すると、自分の喉元にセイバーの剣先がコンマ数ミリを開けて突き付けられている事に、指先に触れた刃先からようやく気が付いた。
「マスター、覚えておけ」
メンチを痛いくらいに切っていたセイバーの睨みが消え、感情を失った冷ややかな表情が榊を見つめる。そこに嘘や偽りがない事ぐらい、馬鹿な榊にだって理解した。
「次、オレは女扱いすれば、オレはオレを自制できないぞ」
蒸し暑い筈の夏の夜が、極寒の地に一変するようだった。榊の身体が、急激に熱を失う。
間違いを犯せば、即座に首を刎ねられる──さっき脳裏によぎった幻影は間違いじゃ無いと榊が確認するには、充分だった。
「お、おぉ……すまねぇ」
だが、沸騰寸前の血が凍りつくような感覚のお陰で、ようやく考えが巡り始めた頭を動かす。そして二度と同じ過ちは犯さないと胸に刻み付けた。
「……で、セイバーだったか?」
榊が引き攣った表情と喉でどうにか謝罪すると、セイバーはようやく剣を下げ、建物の外壁に太々しく背中を預けと、満足が行ったというように重い息を吐いた。
「そうだ、ちゃんとセイバーって呼べよな」
「その名前に意味でもあんのか?」
「……お前、ほんっとうに何も知らねぇんだな。さっきだって惚けた顔してやがったし」
「知らねぇよ」
「……ハァァ……こんなんがオレのマスターかよ」
セイバーに呆れ顔でクソデカ溜め息を吐かれる。何か無性に苛立つが、一応は命の恩人。榊はグッと奥歯を噛み締めて、黙っておいてやる。
「要は敵をぶっ殺して、ぶっ殺して、ぶっ殺し尽くせば良いんだよ」
「ハハッ、何言ってんだコイツ」
だが、その優しさも大雑把過ぎる説明に、榊はツッコまずにはいられなかった。というか、ツッコむ事すら放棄していた。
「ハァ!? 分かりやすいだろうが!! 敵をぶっ殺すだけだぞ!!」
「そうだな。要はアレだろ? 古代から復活した戦闘民族を倒す勇者になれとか、そんな感じだろ?」
「ゼンッゼンチゲェ!! 話聞いてたのか!! どっから戦闘民族が出てきやがんだよ!!」
そもそもマトモに聞いても理解出来ない時点で、榊としては、見るからに脳筋思考っぽいセイバーに何も期待してない。なのでマトモに取り合うつもりも無かった。
「折角オレが話してやってんのに何で聞いてねぇんだよ!!」
「つぅか、これからどうすんだ、俺……」
未だにギャアギャアとがなり立てるセイバーを脇目に、榊は路上に転がる空き缶を、足の裏で転がしてもてあそぶ。
──自分の事なのに、現状がどうなってるのかすら榊は全く分かっていない。言うなれば、巻き込まれて変身能力を手に入れたのに、解説役が誰も居ないという詰みの状況だ。
何から手を付ければ良いのなら、そもそも何が起こっているのか、そして自分は何に巻き込まれているのか──それすらも分からない状況で、身動きなど取れる筈も無い。
「あぁ、クソ。やっぱ分からねぇ!!」
そんな手詰まりになった思考に苛立ちを隠せず、榊は転がしていた空き缶を意味も無く、力のままに踏み潰してしまう。だが、それで何かが変わる訳でも無い。
──やはり、幾ら何を言ってるのか分からない説明だとしても、自分よりも何か走っているセイバーに、一応は聞いてみるべきだろうか。そもそも、それしか知る術がない。
「おいセイバー、やっぱりもう一度」
結局はセイバーを名乗るこの少女に聞くしか無いと行き着くと、また訳の分からない説明が来ても、我慢できるように腹を括るしかない。
「マスター、離れとけ。来るぞ」
だが、榊が言葉を言い切るよりも前に、セイバーが突き出した手で動きを制す。榊から視線を外す眼光は、明らかにさっき迄と別人のように変わっており、まるで獲物が縄張りに踏み込んだ時のような鋭い獣の目をしていた。
「来るって……何処から」
──最早、何がとは敢えて聞かなかった。榊はただその場を見渡して観察する。
オフィスビルの境に生まれた、都会ならではの狭い路地を見渡す事は容易い。だが、僅かに見える大通りの隙間にも、鼻が曲がりそうな異臭を放つゴミ箱の影にも、見える限りの場所には人影すらも無い。
だったら何処から──その時、榊の脳天に一筋の突き刺す電流が迸った。
「!?」
「来たか!!」
それが全身に巡る電気信号を一瞬の内に上書きし、榊の両脚は己の意思に関係なく、弾けたように後ろに飛び跳ねてしまう。そして、セイバーが自分とは逆方向にバックステップをしたのも、それと同時だった。
──何故、飛び跳ねたのか榊は分からない。ただ脊髄に走った衝撃のまま、身体が勝手に動いてしまっていた。
だが、それが結果的に命を繋いだ事を、榊は直ぐに思い知らされた。
今まで立っていた路地裏の一面が、垂直に上空から飛来する何かで踏み潰された。
「ッ!? オァ!?」
それは、さも上空から落ちて来た弾頭が、目の前で爆発したような衝撃だった。
砕けて弾けるコンクリートや、ゴミ箱から飛び出した空き缶の残骸が皮膚を満遍なく切り裂き、まだ脚も付いていない身体を、突風が攫っていく。
「グァッ!! ゲホッ!! ゲボッ!!」
そして身を掠める切り傷の痛みと宙を泳ぐような浮遊感の後、背中をバットで殴りつけられたような打ち付ける衝撃に、榊は一瞬で肺が詰まり息が出来なくなる。
「ゲボッ……な、何が、起きた……!!」
それでも肺に詰まった空気を荒い咳で吐き出し、上半身を肘を突いて立たせると、つい先程まで居た路地裏が遠くに見えていた。
路地裏処か、その先の大通りの向こう側まで弾き飛ばされたのか──衝撃の余波でそこまで飛ばされた事実に、背中の痛みも忘れて、その元凶がある路地裏を呆然と見つめる。
「今の一撃を躱されるとは不覚だ」
すると、見つめている路地裏の闇から、飛来した何がが影となって浮かび上がるのを榊の視界が捉えた。
「何、モンだ……テメェ!!」
未だ呼吸が整わない掠れた叫びで、瞬間に迸る恐怖を誤魔化し、その人影に対して精一杯の虚勢を浴びせる。
「俺か。俺の名は」
それに応えるかのように影は、路地裏の闇から榊の元へと近づき、徐々にその鮮明な形を表していく。
──先ず目を引いたのは、その時代錯誤な装いだ。まるで戦国武将のような朱の甲冑鎧を誇らしげに擦り鳴らし、凸凹に尖った現代のアスファルトを、古びた重厚な具足で踏み潰す様は、ハリウッド撮影のようなミスマッチさが際立つ。
だがそれ以上に目立つのは、その小手の内側に握る、全長が2mは超えそうな十文字の槍。それを狭い路地裏の中で壁に当たらぬよう器用に振り回し、忽ちにコンクリの粉塵飛び散る大旋風が巻き起こす武技は、熟達の域を飛び越えている。
影──時代遅れの赤甲冑を着た古風な男が、完全に路地裏から踏み出した時。
「ランサー、又の名を『真田幸村』と申す」
戦国の勇士──真田幸村は、堂々と恥じる事無く名乗りを上げた。
「セイバーのマスターよ。そのお命、頂戴する」
そして、戦国の勇士が
早速ですが、ランサー『真田幸村』の真名解明です。見た目から結構丸分かりな部分もありましたので、特に意外性はないかも知れないですが、登場2話目からの真名解明は早すぎた気もします。
ステータスについては、何時か設定集を纏めた回を作成した時に公表したいと思います。
『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。
https://x.com/8f8qdLIQID34426
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