Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
セイバーが直葉と鉢合わせのは、言わば偶然のような物だった。
その行動は間違いでは無いと、セイバーは断言できる。生前に数多潜り抜けた戦場の中で磨かれた、自身の直感は最早、第六感と呼べるまでに研ぎ澄まされている。そして、それを疑うことなく信じられる性根も相まってか、外した試しも無い。
現に、こうして何かあったらしい擦り傷だらけの直葉と、
そして、セイバーが取るべき行動は一つ。又もや、フラリと己の直感が導くままに、街の中を歩いてみれば、その行先は意外な所だった。
「此処だな、マスターが居んのは」
都内一等地に構えられた、大型バスの二、三台は余裕で通れそうな道幅のロータリー広場──そこへ辿り着いた時、セイバーはピタリと足を止める。見据える分厚い大理石に、金箔文字で刻まれているのは、『HOTEL 橘ジャック』。そして、ふと正面に目を向けてみれば、オフィス街に並いる高層ビル群に抜きん出て、都会的な豪華さで彩られた現代の巨塔が聳え立っていた。
「ったく、こんな立派なホテルに行くんならオレも誘えってんだ」
天まで付き抜けるであろう現代の摩天楼を前にして、セイバーは首が痛くなりそうになりながらも、その頂上階へと焦点を合わせると、途端に自身の直感が『此処だ』と、ザワザワと囁き始める。
──マスターとを繋ぐ魔力パスは、攫ったライダーのマスターに邪魔されているのか、一向にその行方を掴めはしない。だがしかし、この頭で感じた勘が、間違いないと言っている。それだけあれば、セイバーは疑う事も無く、此処だと確信する事が出来た。
「行くぞ、直葉」
──だからこそセイバー、十中八九敵が待ち構えているであろうホテルのエントランスに乗り込むよりも先に、自分のチューブトップの裾にしがみ付く、
「……兄ちゃん」
──血と傷だらけの両脚は頼りなく震え、顔色や唇は真っ青に色を失っている。裾にしがみ付かないと立っていられないようで、引っ張られているチューブトップの上から、直葉の全体重がセイバーの肩に伸し掛かっている。
既に肉体、精神共に限界なのは明らか──満身創痍とも呼ぶべき直葉のその姿を見て、セイバーは冷たい目つきで一瞥する。
「逃げたいなら逃げて良いぞ」
正直、セイバーに取って、直葉の存在は居ない方がマシだ。今から敵の本拠地であろうホテルに殴り込みを掛けるというのに、英霊でも魔術師でもない子供一人を連れ行くなど、邪魔以外の何物でもない。
だが、そんなのは直葉が一番分かっている筈だ。しかし、それでも袖を掴む掌は離れない──いや、離すつもりは毛頭ないらしい。
「いや……逃げない。もう、逃げたくない!!」
直葉は榊を見捨てて、一度逃げ出している──と本人は思っているらしい。だからこそ、もう決して逃げないという意思の表れを示すように、唇から血が滲むぐらいに歯を突き立て、まだ僅かに震えている足を黙らせるかのように、ダンッと音が出る程に地面を踏みしめてあ。
「だろうな」
セイバーの鼻からフッと控え目な笑いが込み上げる──そんなのは、此処まで付いて来ている時点で、既に分かり切ってる。
──恐怖に心を折られずに立ち向かう騎士には出会っても、恐怖に心を折られて尚立ち上がろうとする民草には、セイバーは生前を含めて出会っ試しはない。
何故なら、恐怖とはそれ程までに、精神を蝕む毒だからだ。一度充てられてしまえば、忽ちに精神の奥深くに潜り込み、二度とは治らない病となる──しかし、それを味わって尚、立ち上がろうと足掻く心こそ、最も強い武器である事をセイバーは知っている。
「オレから離れんじゃねぇぞ」
故にセイバーは二度は問い掛けない。その代わり、勝手ながらに自分の傍に居る立派な守るべき存在に誓いを立てる。
──コイツは、誰にも手を出させねぇ。それこそ、あのバケモンが相手だろうと、指一本触れさせるか。
幼い少女が、心に巣食った恐怖に抗い、手を伸ばそうとする意志を、この剣に誓って破らせはしない。
「お待ちしていたのでしてよ」
その時、待ち侘びていたとばかりに、足を付けるロータリーの真反対側から、心底癇に障る呼び声が、セイバーの琴線に触れた。
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それが誰なのか、問う理由も無くセイバーが振り返ると、丁度ロータリーに差し掛かる入り口側に、如何にもな黒塗りの高級車が止まっていた。
「親方様、足元にお気を付けを」
「あら、ありがとうでしてよ。ランサー」
無双の武人であるランサーを、さも執事でも扱うように黒塗りの高級車のドアを開かせ、そして柔らかい銃弾の上から凸凹の路面に下駄の足を付けたのは。
「相変わらず、狂った獣のような覇気でしてね、セイバー」
最初に出会った時から変わらない巫女服を着こなす、直葉とはまた違った趣を持つ少女──ランサーのマスター、親水 京子だった。
「何しに来やがった、腹黒女ぁ!!」
その瞬間から、セイバーは目前の敵拠点に突入するよりも早く、白銀の剣を掌の上に顕現させ、即座に戦闘態勢へと移り変わった。
──どうして、こんな所に居やがる? 理由も前兆も無く現れた敵の存在に、セイバーの思考に混沌の渦が巻き起こる。それ程までに、京子とランサーの介入は余りにも不自然だった。
「貴方と同じでしてよ。あの阿呆が答えを出す前に消えられては、コチラとしても勿体無いのでしてよ。まぁ、そちらはあくまで
すると、憎々しげに睨み付ける眼光で察したのか、京子はやれやれと額を抱えながら、重いため息交じりにそう吐き出した。だが、口ではそう言おうが、セイバーからしてみれば、信じられる筈も無い。
──―何が目的かは知らないが、こうして現れた以上、必ずや榊の救出に障害になる。だとすれば、誘拐犯との前哨戦として、先にやって置くのが正解か?
そう自身に問いかけ、握り締めた剣を振りぬく準備を始めた時、セイバーが一歩踏み出そうとするより先に、直葉が動き出していた。
「姉ちゃん、誰?」
現代の生きる化生を前にして、直葉は純粋な眼差しで、京子を見つめていた。
「貴方は、確か阿呆の妹……でしてか? 何故、このような所に……」
「もしかして、姉ちゃんも兄ちゃんを助けに来てくれたの?」
「それは……」
言葉を巧みに操る京子にしては珍しく、何を答えればいいのかと途端に言い淀みはじめ、細い瞳からは俯き気味に視線が垂れる。それは明らかに、どう接していいのか分からない、不器用な態度その物だった。
「そうだ! 貴殿の兄上である榊殿を助ける為に来た!!」
「ッ!? ランサー!! 勝手に何を」
「やっぱり! やっぱりそうなんだぁ!!」
そんな主の不器用さを察知してか、ランサーが急に割り込むような形で堂々と声を張り上げた。京子は慌てて訂正しようとするも、時既に遅く、それを疑いもせず信じてしまった直葉の期待の眼差しを前に、再び口を苦々し気に閉ざして、また言い淀んでしまった。
「……ハァ」
セイバーは踏み出そうとしていた足を留め、握り締めていた剣をまた虚空に霧散させる──非常に癪には触るが、京子とランサーが現れた事で、覚めぬ恐怖で冷え切っていた直葉の顔から、少しだけ温かみが戻っていた。
直葉からしてみれば、恐怖の象徴であるライダーのもう一度対峙するのに、見た目は唯の少女であるセイバー一人では心細かったのだろう。そこに、如何にも自分の兄を知っている京子とランサーがやって来て、しかも助けてくれると言う物だから、さぞ安心したに違いない。
「今回ばかりは見逃してやる。感謝しろ、腹黒女」
「あら、どういたしまして。でしてか、貴方も少しはこの小娘のように、愛嬌という物を覚えた方が生きやすいのでしてよ?」
「ウッセェ、余計な世話だ」
若干ピキリと脳の血管が弾けるような音が聞こえるが、セイバーは敢えて無視を決め込む──京子を信用した訳では無いし、今後の事を考えれば、今の内に殺しておいた方が良いとまでも思っている。
しかし、今にも恐怖と不安に押し潰されそうな少女から、一度与えられた安堵を取り上げる真似など、見っともなくて出来る筈が無い。
「良いか、直葉に手を出してみろ、そん時は加減しねぇぞ」
「安心するのでして。アソコに居る外道と違い、幼子を人質に取る程、日平和教の巫女は落ちぶれていないのでして」
京子は忌々し気な顔つきで、遥か高く聳え立つホテルの正面、その頂上を先程のセイバーと同じように見つめる。察するにどうやら、先程言っていた通りに攫われた榊ではなく、本命はその誘拐犯の方らしい。
その誘拐犯、間違いなくライダーのマスターである魔術師に、一体どんな因縁があるのやら──―まぁ良い。そっちが目的だってんなら、此処は見逃してやる。セイバーとしては、直葉に万が一の事があってはならないし、戦力となるのであれば、渋々だが歓迎してやる。
それにだ。
何時かは殺す敵だったら、それが今じゃなくても構わない。
「だったら勝手にしろ。オレが邪魔だと思ったら、そん時は容赦なく斬り捨ててやる」
「言われなくともそうさせてもらうのでしてよ。精々梅雨払いはお願いするのでしてよ」
直葉の純粋な眼差しに勢いを失っていた筈の京子が、途端に露骨なしたり顔を見せつける──最初からそれが狙いだったに違いない。じゃなければ、こう都合良く鉢合わせるなど有り得ないだろう・
正直、体よくコキ使われているような気もしなくは無い。だが、そんな不満も性に合わないが飲み込んで、セイバーはホテルのエントランス口に向けて歩き出す。すると、駆け足で後ろから追いついて来たランサーが、真横に立って肩を並べて来た。
「そういう訳だセイバー! 親方様の為、助太刀致す!!」
「言っておくが、少しでも俺の邪魔をすれば叩き斬るぞ」
「邪魔などせん! 最も、そちらが邪魔になるかも知れんがな!!」
「ほざけ、テメェが一番の邪魔だ」
相変わらず、暑苦しいまでの実直さを兼ね備えたランサーに、セイバーは辟易として、首を面倒臭いと言いたげに傾ける。だが、それぐらいの関係性こそが、英霊同士には丁度良い。
絆や情ではなく、ただ利害のみの歪な共闘。しかし、時代も出身も伝承も、何もかもが違う英霊が手を結ぶのであれば、それぐらいの距離感こそが最適だ。
「さぁて、それじゃあサッサとマスター取り返しに行くか!」
「いざ! 真田幸村、推して参る!!」
セイバーとランサーが、エントランスのガラス張りの自動ドアを潜り抜け、我先にと先陣を切る──何時かは殺す相手だとしても、今は互いのマスターの為にと、揃って肩を並べ歩く。
「ねぇ巫女の姉ちゃん、あの2人って何者なの?」
──その背後を辿る直葉は、ふと京子に耳打ちする。すると、暫く考える素振りを見せた後、ようやく良い言葉が見つかったらしく、さも呆れた声色で返してみせた。
「只の阿呆2人でしてよ。それも歴史に名を残すほどの」
腹黒巫女(京子)と戦国武将(ランサー)がなかまにくわわった!!正直、ライダー陣営に対して、この二人はオーバーキル感が否めないです……!!
『追伸』
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