Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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ボーイ・ミーツ・ヴィラン

「いやぁ悪かったねぇ、ウチのサーヴァントが。まっ、取り敢えず茶でも飲みなって」

「……」

「おや、飲まないの? コレ結構イケるんだけどねぇ」

 

 西洋調の丸テーブルを挟んで対峙する。怪しい民族衣装を着た謎の女性が、ティーカップに自分で入れた紅茶を啜る。

 

 そして、榊の手前にも同じティーカップと、その中に注がれた紅茶が置かれている。手足なども拘束されていない為、飲もうと思えば飲めるが、生憎と手を付けない。

 

 ライダーのマスター(誘拐犯)が注いだ紅茶など、飲める筈が無い。

 

「……マハ、だったか。アンタ」

「おっ、ご明察。アタシの事知ってたんだぁ」

 

 自分の名前を知っていた事が嬉しいのか、ティーカップを飲む手を一度止めるとカラカラと無邪気に笑い、そしてまた紅茶の残りを纏めて呷る。

 

 どうやら、自分の記憶は間違っていなかったらしい──昨日、京子に見せられた参加後者の経歴書の中に、呪術師と馬鹿真面目に書かれていたのが印象的で、榊の記憶の片隅に残っていたのが功を奏した。

 

 だが、そんな名前と経歴が分かった所で、今の状況が変わる訳でも無い──精々、目の前の異質な姿の女が、紛う事なく敵であると分かるぐらいだ。

 

「こんな所に連れて来させて、何のつもりだ……!!」」

 

 飲み干したティーカップを未だ片手に持つマハに、質問を投げかけつつも、榊はその目線を不自然ではない程度に動かし、この部屋全体に探りを入れる。

 

 脱ぎ捨てられた服や積み上げられたゲーム、プラモ、フィギュアその他諸々で全て台無しになっているが、それでも贅沢な意匠と材質に凝った家具の数々、クラシック調にあしらわれたカーペットやカーテンなどが相まって、さながら応急の一室のようなゴージャスさを秘めている。

 

 神宿市中央区の中でも特に目立っている五つ星高級ホテル『橘ジャック』のスイートルーム──まさか、そんな一生縁が無いと思っていた場所に来られたのは、ある意味で幸運なのかもしれない。

 

 それがライダーに連れて来られた監禁場所、もとい敵の本拠地で無ければの話だが。どんなに高級なスイートルームであっても、こんな所には一秒も居たくはない。

 

『コラ! そんなに暴れたらポパププペナルティだぞ?』

「ムホホッ! こ、コレはイケませんぞぉ!! そこはぁ!!」

 

 視界の外で騒々しいギャルゲのサウンドと、オッサンの気持ち悪い声が聞こえる。目を傾けて確認してみれば、200インチの巨大モニターを無駄遣いして、此処へ連れて来た張本人であるライダーが、ナース系ヒロインを口説こうと鼻息を荒くしていた。

 

「後1bit! 後1bitだけスカートを捲ってくだちぃぃ!! それだけで充分ですからぁぁ!!」

 

 そのエロに対する執着は並外れているようで、少しだけ脇の甘いヒロインの絶対領域を画面越しから覗こうと、目を真っ赤に充血させている。自分が連れて来た筈の榊と、マスターであるマハに対して、全く眼中に無いと言った様子だ。

 

 榊は視線を真正面に戻し、今一度だけ誘拐の首謀者であろうマハを、睨み付けるように見据える──そして、ある事がフッと頭の内側に沸いた。

 

 その肉が少ない細腕や身体を見る限り、喧嘩で鳴らしている榊が力で競り負けると言った事は、先ず無いだろう。それにこの距離だ、マハが魔術か何かを使う前に、テーブルを蹴り飛ばして抑えつける事も容易・

 

 魔術師と言う存在は、一般人である榊からしてみれば、確かに恐怖の対象に違いない。だが、それは何が飛び出すのか分からない未知の恐怖──であれば、それを出される前に潰してしまえば、少なくとも英霊なんて怪物共を相手にするよりも遥かにハードルが低い。

 

 ──こっちだって人質を取られている。榊がその手口を真似ようが、卑怯と言われる謂れは無い。自然と、片足が何時でも跳ね上がれるように股を開いてしまう。

 

「逃げるのはオススメしないよ。脳みそをグチャグチャにこねくり回されたいなら止めないけど」

 

 だが、そんな見え透いた甘い考えは、意識外から額に突き付けられた、鋭い爪先一つで容易く吹き飛んでしまった。

 

「と言うか、逃げれると思ったの?」

 

「まぁだ子供だから分かんないと思うけどさぁ。呪術師ってのは、アンタが思うよりもずっと賢くて、悪どい生き物なんだぜ? そこら辺、アーユーレディ?」

 

 何時、その指先が突き付けられたのか見えなかった──だが、爪の先端が額を貫いて、脳味噌に直接突き刺さる幻覚は見た。恐らく少しでもマハが指を動かせば、それが現実となるに違いない。

 

 榊は魔術師と言う存在を見誤っていた──確かに、彼もしくは彼女らが召喚した英霊には劣る。だからと言って、常人の域から外れていない保証は何処にもない。小首を傾げて問い掛けるマハの瞳が、ライダーと同じドス黒い邪悪に染まっている事が、それを証明していた。

 

「俺を……どうするつもりだ?」

 

 指先を突き付けられたまま、未だに脳味噌をグシャグシャにかき回される幻覚を見る中で、それでも榊は耐えられずに尋ねてしまう。

 

「ん? それってどういう事かにゃーん」

「殺すだけならいつでも出来た筈だろ。あのオタク野郎(ライダー)じゃなくても、アンタなら簡単に出来る」

 

 それは此処へ連れて来られる前から──電車に乗っている時からの疑問。殺す事だけが目的であれば、ライダーに出会った瞬間に、榊の頭はザクロのように弾き飛ばされていたに違いない。そうじゃなくとも、この目の前の女であれば、未知の呪術とやらで自分如きなど、簡単に殺せる筈だ。

 

 だが、こうして榊は生きている。その事実が、何か裏があるという証拠その物だった。

 

「別にアンタに要求するつもりはサラサラないよぉ? お金も使いきれないぐらい一杯あるし、男は……うぅん、アンタはギリギリ合格点だけど残念要らねぇ!! もっとゴツゴツの筋肉付けてから出直してきな!!」

 

 ペラペラと流暢に言葉を捲し立てる辺り、本当に榊には興味が無いらしい。だとすれば、何故自分を生かしているのか、益々疑問が深まってしまう。

 

「じゃあ何で」

「アンタじゃない」

 

 深まる疑問の答えを問いただそうとした瞬間、それを遮るように榊の唇に、額に突き付けていた筈のマハの指が触れた。

 

「アタシが話したいのはアンタの内にいる怪物さ」

 

 指先から伝わる、意識が痺れあがりそうな程に甘ったるい匂い──それが鼻腔の奥で匂った瞬間、榊の身体は座っていた高級チェアの上から転がり落ちていた。

 

「あ、ぁ……?」

 

 身体が、動かない──まるで、血中に麻酔が流れ込んだかのように、全身の筋肉が途端に言う事を聞かない。どうして、何が起きたと考える思考も、鼻腔に残る甘い香りと共に片っ端から蕩けてしまう。

 

「さて、交渉しようか。名も知らない怪物さん」

 

 ──地面這いずっている霞む視界で、屈んだマハの愉快気な笑みが映る。榊はその時になってようやく、自分を生かしていた理由を理解した。

 

 マハの目的は自分ではない──榊 浩一という人間の内側に潜む、()()()()()()()()だ。

 

「なぁ……に、おぉ……」

 

 遂に瞼でさえも重くなってしまい、目を開く事さえも次第に出来なくなっていく。だがそれでも、榊は最後の力を振り絞って、僅かにだが手を伸ばした。

 

 ──マハが何をしでかすつもりか、そもそもどういうつもりでアイツと会おうとしているのかも分からない。だが、これだけは断言できる。

 

 あの怪物と、この女は出会わせてはいけない。出会ってしまったら、ロクな事にはならない。

 

「そんじゃ、外野は黙って寝てな」

 

 その最悪の事象を止めようと伸ばした手は何も掴む事は出来ずに、寝心地の良い柔らかな絨毯の上で、闇に覆われる意識と共に深く沈んだ。




触れてはいけない禁忌に、土足で踏み込んでガッチャするスタイル。それこそが、マハ・スタイルです。

『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。

https://x.com/8f8qdLIQID34426

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