Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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獣、再び邂逅

 腹黒女(京子)が言うには、エントランスに備え付けられたエレベーターはどうやら、()()()()が暴れたせいで動かないらしい。

 

 だとしても、こうしてその脇に備え付けれていた、長い非常階段を一段ずつ昇って行くとは、流石のセイバーであっても思ってもみなかった。

 

「アァァァァァ!!」

 

 延々と螺旋状に続く階段をウンザリとしながらも昇る途中、ホテルスタッフが笑顔ではなく銃を突き付けて、蹴破るように階の非常口から飛び出してくる。

 

「邪魔だ」

「グエッ!?」

 

 だが、引き金を引かれるより早く、セイバーは蹴り飛ばした小石を額にぶち当てると、そのホテルスタッフは壁に持たれたかかかるように倒れて、そのまま意識を失う──既にこれで12度目にも渡る襲撃だ。

 

「ったく、さっきから虫みてぇに湧いて来やがるな」

「文句を言う前に、サッサと歩くのでしてよ。英霊様ががまさか階段を登っているだけで音を上げる訳ないのでしてよ?」

 

 今しがた処理を終えたスタッフの横脇を通り過ぎながら、何段昇っても壁のフロア表示以外全く変わらない景色に、ウンザリとしてセイバーが愚痴を零す。すると、その背後を下駄で器用に階段を上がっている京子が、さも厭味ったらしい小言をグチグチ言ってきやがる。

 

「ねぇセイバー、まだ兄ちゃんは見つからないの? ずっと昇ってばかりじゃん!! まーだーなーのー!!」

「そうだぞセイバー! まだお前のマスターは見当たらないのか!! 全く! マスターを攫われて見当も付かぬとは、武士の風上にも置けぬな!!」

 

 それに加えて、更に京子の後ろでは、重い甲冑にも拘らず息切れ一つしないランサーや、その広い背中に抱えられている直葉からも、さも囃し立てるようにギャアギャアと文句を喚いて来やがる。

 

「黙ってろ! 今探してんだよ!!」

 

 そろそろ怒りが有頂天を突き抜けそうだ。このまま嫌味と文句のダブルコンボを決められては良い加減どうにかなりそうになる──そうなる前に、サッサと馬鹿マスター()を見つけようと、セイバーの階段を昇る速さが更にます。

 

 だが、速度を上げて昇り始めた両脚は、壁に描かれた『78F』の標識を前にして、ピタリと立ち止まった。

 

「──此処か」

「此処って……兄ちゃん見つけたの!?」

 

 飽き飽きとした階段の景色に、半分ほど落ちかけていた直葉の瞼も、セイバーの呟きに反応してバッと見開く──それはつまり、自身の兄がこの階層に居るという宣言に他ならないからだ。

 

「間違いねぇ、マスターは此処に居る」

 

 セイバーは、その宣言を撤回しようとはしない──その階層の踊り場横の設置された非常口に手を掛けると、肌を焦げ付かせるスパークのような直感が全身を駆け巡る。その衝動こそが、この先に己のマスターが居ると告げていた。

 

「そうでしてか。ランサー」

「ハッ、済まない幼子よ」

「え? ランサー?」

 

 ──それを聞いた京子は一度指を鳴らすと、セイバーと同じく踊り場まで上っていたランサーが、背に抱えていた直葉を転ばないようにゆっくりと降ろす。

 

 そして、京子は地に足を付けた直葉に対し、何ら躊躇う事も無く真っ直ぐ口を開いた。

 

「それでは、ここからは別行動でしてね」

「どうして!? 兄ちゃんを一緒に助けてくれるんじゃないの!?」

 

 突然告げられた別れに、直葉は動揺を隠せずに、驚きで素っ頓狂な声を上げる──だが、セイバーからすれば、これは当然の結末でしかなかった。

 

「……えぇ、助けるのでしてよ。ただ二手に分かれた方が効率の良いというだけでして」

 

 それは嘘は言っていないが真実では無い──利用価値のある榊を助けるという目的も確かにあるだろう。しかし、それは京子にとってすれば、オマケ程度に違いない。

 

 恐らく、この女(京子)の目的は誘拐犯──いや、マスターとそのサーヴァントの抹殺。此処までせっせと仲良しこよしで協力していたのは、その道中の梅雨払いをさせる為に過ぎない。

 

 極論を言えば、このホテルの何処かに居るマスターもしくはサーヴァントを殺せれば、榊がどうなろうと構わない──そんな事は、このホテルに乗り込む前から分かっていた事だった。

 

「勝手にしろ」

 

 そして、それを分かっていたからこそ、セイバーは止めようとはせずに、黙って次のフロアへと昇る階段の前から立ち退く──元より単身で乗り込むつもりだった。こちらとしても、ランサーの助力もハナからオマケ程度でしかない。

 

「それでは、お言葉に甘えさせてもらうのでして」

 

 言葉とは裏腹に別れを惜しむ素振りすらも見せず、京子は迷わずにセイバーの前を通り過ぎ、上へと続く階段を再び昇り始める。

 

 それに続いてランサーもまた主の跡を追うかのように、階段を昇り始めるかと思いきや、セイバーの直前で立ち止まった。

 

「何だ、ランサー。サッサとテメェのご主人様の所に行きやがれ」

「……セイバーよ。一つ頼みがある」

 

 ランサーは嫌に神妙な顔つきを、六文銭の鉢巻きの下から覗かせ、そして唇を口惜し気に噛み締めている。

 

「俺は親方様の武士……故に、これ以上の尽力は出来ぬ。なればこそ、貴殿にお頼み申す」

 

 セイバーの地元では聞き慣れない日本独特の古風な口上。そして主の敵であるセイバーに対して、恥じる事無く深々と頭を下げる佇まい。

 

「俺の代わりに……兄を想うあの娘との約束を叶えてくれ」

 

 ──分かっていた事だが、この英霊は馬鹿みたいに真っ直ぐな奴だ。その兄こそが、いつかは倒さなければいけない敵だと言うのに、一度兄を救うと約束しただけで、本気で助けようと思っているのだから。

 

「……ハァ」

 

 セイバーは溜息を吐かざるを得ない──折角こうやってランサーが誠意を見せていようが、約束するつもりなど毛頭ない。

 

 そもそもだ。ランサーに取って、セイバーは()()()()()()を約束しなければならないマヌケと思われている時点で、さもバカバカしく思えてしょうがない。

 

「テメェに心配される筋合いはねぇ。黙って消えろ」

「あぁ──それを聞ければ、充分だ」

 

 約束をしたつもりは無いが、勝手に何か納得したようにランサーの顔が晴れると、やがて吹っ切れたかのように、今度こそ主である京子を追って階段を駆け上がる。

 

 そうして、この踊り場から二人が消え、そしてセイバーと直葉のみが残った。

 

「巫女の姉ちゃん……赤鎧の兄ちゃん……」

 

 昇る螺旋の向こう側に消えて行った二人の残滓を思い返したのか、直葉が何処と無く寂しげに声を振るわせて呟く。

 

 ──幾ら馬鹿な直葉でも薄々気が付いているのだろう。京子の口から吐き出される言葉の裏側は見えなくても、その根本的な何かがスレ違っているという事にだ。

 

 だが、そんな事を直葉が気にしなくて良い──セイバーは京子のように賢い嘘で誤魔化せないが、俯き欠けたその頭を、ワシャワシャと無遠慮にこねくり回して、無理やり面を上げさせる。

 

「安心しろ! あんな雑魚が居なくてもオレ1人で充分だ」

「セイバー……でも赤鎧の兄ちゃんの方が頼りになりそう。デッカイし、優しいし。後、ガサツじゃないし」

「んだと!! オレの方が良いに決まってんだろうが!!」

 

 ランサーと比べられて頼りないという評価は癪に障るが、セイバーはやがて満足したように鼻息を漏らす──どうやら、わざわざ心配するまでも無く、京子との別れに直葉は立ち直っているようだ。

 

 だとすれば、もう後顧の憂いは無い。セイバーは今一度、榊の待つフロアへ繋がる非常口と向かい合い、そのドアノブに手を掛けて捻り回す──どうやら鍵は掛かっていないらしく、少し力を籠めれば、その分厚い防火扉はすんなりと開いた。

 

 だが扉を開いたというのに、セイバーは直ぐには中へ入らない。

 

「……」

 

 ──此処から先の何処かに、自分のマスターは居るのは確か。だが、扉を開いた瞬間に、まるで死神が向こう側で手招きをしているように、濃厚な生命の危機と焦燥感が、肉体や精神を超えて、セイバーの仮初の魂にまで訴えかけてくる。

 

「そんじゃあ、まぁ」

 

 だが、セイバーは弱音を喚きたてる直感を黙らせ、何も気づいていないように悠々と扉の先のフロアへ踏み出す。

 

「サッサとバカマスターを奪い返して、こんなふざけた真似をする野郎をぶっ飛ばすか」

 

 恐らく、この先に待ち構えているのは、マスターを誘拐したライダーとそのマスターではない──だが、例えこの先に()()待ち構えていようと、セイバーはこの剣を持って叩き潰す。

 

 それこそセイバーの騎士としての在り方。そして、セイバーが剣を振るう理由。

 

 ならばこそ、今更恐れる理由など、セイバーには持ち合わせていない。

 ──────────────────────────────────────────────

 足を踏み入れた78階を少しばかり散策すると、どうやら主賓を迎える為のパーティーフロアとなっているようだった。

 

 西洋貴族の黄金期を現わすかのように、いっそ装飾華美なぐらいの絢爛に部屋が並ぶこの階層は、正にセイバーが知る王の城にも引けを取らない立派な物だった。

 

 ──しかし、華やかさの裏には、必ず獣じみた闘争と欲望が渦巻いている。綺麗であればある程、醜さはより色濃く映える。

 

 それを象徴するかのように、セイバーが一際豪華に装飾された大扉を開くと、サッカーコートが丸ごと収まりそうな程に広いダンスホールの中で、一面の群青を写すガラス張りの壁を眺める男が立ち尽くしていた。

 

「兄ちゃん!!」

 

 その男──―榊の姿を見た直後に直葉が、セイバーの横を通り抜けて駆け寄ろうとする。しかし、セイバーが突き立てた白銀の剣が、その行く先を断ち切った。

 

「セイバー、何で」

「下がってろ。アイツはお前の兄貴じゃねぇ」

 

 一歩二歩と、セイバーは恐れる事を知らずに近づく。すると、ガラス張りの向こう側に広がる群青を見ていた榊もそれに気が付いたらしく、振り返った深い黒色の双眸が、コチラの姿をようやく捉えた。

 

「よぉセイバー、昨日ぶりじゃねぇか」

「お前が気安く名を呼ぶな。怪物が」

 




獣は何の為に再び目覚めたのかーーーそこにどのような理由があろうと、一度目覚めれば、獣は止まらない。

『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。

https://x.com/8f8qdLIQID34426

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