Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
「ぶもぉぉぉぉ!!」
高級絨毯で整備された廊下は、下駄だと短い毛が絡まって歩きにくい──そんな事を考えながら先を進んでいると、丁度京子から見て右真横のスイートルームから、バスローブ姿の油ぎった中年が扉を蹴破って現れた。
「ぶおぉぉ!!」
「汚いのでしてね」
その手に持った
すると、その落ちた符達は自ら京子の横合いを護るように四方へと展開すると、その生み出した不可視の平面が、京子へ迫る乱射された凶弾全てを弾き返した。
「セイハァ!!」
「ぶもっ!?」
そしてまた次の凶弾が飛ぶよりも早く、京子が指示をするまでもなく背後から飛び出したランサーが、槍柄を振るって中年男の首へ嫌な音を立ててめり込ませる──すると、まるで糸が切れた人形のように、その中年男は泡を吹いてバタリとスイートルームの奥側へ倒れた。
「やりました親方様!!」
「大義でしてよ。ランサー」
──敵を倒す度に一々暑苦しく報告するランサーを適当にあしらいつつ、京子はまた下駄には不向きな高級絨毯の廊下を歩き出す。
──―先程から襲撃の頻度が増えているのでして。恐らく、そう遠くない場所に居るに違いない。来るべき接敵に備えて、裾に手を差し入れ、京子は残っている符の枚数を確認する。
「……ふぅ」
1枚、2枚、3枚──残った符の数は総計52枚。その数の少なさに、少し心もとなさを覚えて、落胆気味に溜息が出てしまう。
京子の得意とする魔術──結界魔術は、魔力を込めた符によって面を形成し、不可視の壁を築く、正に不可視不干渉の鉄壁──だが、それを行使するのであれば、最低でも4枚は必要になる。つまり、京子の術式は多く見積もっても12回しか行使できない。
「まっ、何とかなるのでしてね」
だが、京子は隣でまだ誇らしげに顔を上げる忠実な配下──ランサーに目を向けると、そんな心もとなさも吹き飛んでしまう。そもそも、英霊という最強の戦力さえ居れば、京子の幼少から磨き上げた術式などカスも同然だ。
そんな一種の自虐心と、自分の手駒への信頼を京子が覚えていると、今更になってランサーが尋ねてきた。
「しかし親方様、何故件の敵が此処に居るとお思いで?」
「貴方達の主君がお城に天守閣を作る理由と同じでして」
「と言いますと?」
どうやら、生前は主君に仕える武将であったというのに、ランサーは全く良く分かっていないらしい。京子は丁度差し掛かった全面ガラス張りのT字路の突き当りから、その景色──―橘ハイソジャックの最上階から見下ろす、掌の上で掴めそうな都市を眺める。
「阿呆と支配者気取りの人間は、高い所が大好きでして」
「ハァ……?」
愚直なまでに主君を信奉するランサーには、少々難しいようだったようで、巌のような太い首が斜めに傾く。だが、一々説明してやる義理も無いので、それ以上は何も言わずに、京子は透明張りのT字路を左折する。
その時、先程数を符を収める逆側の袖内から、不意に何かを伝えるような振動が腕に伝わった。
「どうしたのでして?」
今度は逆側の袖内から、先程とは形の違う人型の符を取り出し、それに向かって京子は魔力を込める。すると、真ん中に墨で描かれていた単眼がパチリと開き、そこから昔から良く聞き入った腹心の一人である信者の声が聞こえる。
『巫女様、一階に居る全従業員及び宿泊客の回収が終わりました』
「大儀でしてよ。余計な被害はなるべく避けるに越した事は無いのでしてね、他の階層については?」
『そちらも並行して行っております。既に8割方は完了しております』
「分かったのでして。引き続き、被害者の回収を行うのでしてよ」
『承知いたしました』
京子が一しきりの連絡事項を聞き届けた後、その声を出す人型の符は、火を付けた訳でもなく、掌の中で灰となって消えていく。
人型の符──伝達符からの報告を聞く限り、事前に師事したホテル内の被害者の避難は順調のようらしい。と言っても、日平和教の巫女として、何の罪も無い日本人を救うのは、至極当然の事だ。
それよりも問題となるのはズバリ、ライダーのマスターである呪術師、マハの存在だ。
「さて、あの女──何をしでかすつもりでしてか」
写真上でしか見た事のない呪術師の顔を鮮明に思い返しながら、マハは憎々し気に歯で唇を噛み締める。
今回の誘拐騒ぎの首謀者であり、京子と同じく聖杯戦争の参加者、マハ──それをサーヴァント・ライダー諸共討ち取るのが、京子が此処へやって来た理由だ。
「いずれにしろ、見過ごせないのでしてね」
その今一度思い返した決意が腹の底から漏れ出てしまい、呟きとなって京子の口から出てしまう──そもそも、マハという存在は、そもそも経歴からして見過ごせない危険人物であった。
魔術師、非魔術師問わず、暗殺を専門とするフリーの呪術師、マハ──その追い立ちは一切の謎に包まれているが、殺し屋としての経歴だけを見れば、恐らく世界中の裏社会に置いても随一のシリアルキラーに違いないだろう。
そんな最大級の危険人物が聖杯戦争に参加しているというだけでも充分に排除するに十分だというのに、子飼いの密偵達曰く、マハという女は神宿市の全域に渡って、まるで何かを仕掛けているように、度々その姿を現しているという報告が上がっている。
加えて、此度の触れれば何が飛び出るのか分からない目下特大級の
──故に、疾く排除せねばならない。マハと言う
その使命感に突き動かされ、京子は何処から敵が飛び出てこようが構わず、その歩みを止めようとはしない──そして、およそ数分もしない内に、人を不快にさせる独特な匂いが、京子の鼻孔を麻痺させた。
生臭く、錆び切った鉄のような重い香り──それは噎せ返る程の血の匂いだ。
「親方様」
「えぇ、分かっているのでして」
その匂いにランサーが気が付かない筈が無い、鉢巻きの下に覗く表情が険しく固まり、従者らしく半歩下がっていた立ち位置から、さも前に立ち塞がるように陣取る。それに合わせて、京子も袖元から先程確認したばかりの符を数枚取り出して指先に挟む。
──進めば進む程に、その錆び切った鉄のような血の匂いが主張を増していく──そして、廊下の突き当りにある1083号室の前に辿り着いた時、それは遂に、ピークを迎えた。
この扉の先に、あの女が居る。いっそ嗚咽を漏らしてしまいそうなほど噎せ返る匂いに、京子は確信せざるを得ない──呪術師というロクでもない人間の居場所としては、血の香りが充満するこの部屋こそ、最も相応しい拠点だ。
「この奥に居るのでしてね?」
「はい。親方様、お気をつけて」
念の為、ランサーに尋ねてみるも、同じ意見が返って来る。そうなると益々、この奥にあの呪術師──マハが居ると思って間違いないだろう。
──―生臭い空気を深く吸い上げ、何時でも出せるように、携えてた符にさらなる魔力を上乗せする──相手は裏社会随一の呪術師、その殺して来た魔術師は数知れず。それを想えばこそ、僅かながらに指先が震える。
「ランサー、行くのでしてよ」
だが、躊躇う事は許されない、此処で取り逃せば、日ノ本の民に危害が及ぶ──震える指先を、日平和教の巫女としての覚悟で塗り潰し、京子はランサーに指示を飛ばした。
「では行かん!!」
ランサーが重厚な扉を金具ごと豪快に蹴り飛ばし、部屋の中へと押し入る。それに続いて、京子も迷う事なく扉の枠を超えて踏み入る。
そして待っていたのは、機関銃のような弾幕でも、況しても呪術による予想外の迎撃ではない。
自らが流す血の池で溺れる、マハの姿だった。
「何が、あったのでして……?」
どんな事が起きようと動じない覚悟はしていた──しかし、それを目の当たりにした京子の身体は、驚きに縛られて動きを止めてしまう。
相手は超一流の呪術師──それが目、口、鼻、耳、穴という穴から、血液を壊れた蛇口のように垂れ流し、身に纏う民族衣装とカーペットを自身の血溜まりで赤く染めている──その惨状は凡そ、人間による所業とは思えず、まるで身体の内側を凝縮した後、纏めて破裂したかのような有様だった。
「ガハッ……親水、京子かぁ……」
一体誰がこんな事を──例え京子以上の魔術師であっても作りえぬ惨状を目の当たりに傍観している中、もだえ苦しむような痛みの間際でも此方に気が付いたらしく、自身の血沼に沈んでいたマハの顔が這い上がる。
「アンタ……あの化け物に、会ったかい?」
その裂傷、失血、惨状は、生きているのが不思議である程の有様だというのに、それでもニタリと粘ついた笑顔を見せるマハ。
「手懐けるなら、辞めときな……ありゃ、正真正銘の、バケモンだよぉ」
黒幕マハ、早速の重傷でリタイヤです。一体何があったと言うのやら……そんな事が出来る奴など、一人しかいませんが。
『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。
https://x.com/8f8qdLIQID34426
作品の高評価や感想は何時でも待っています!!
Fate/Red Knights について、聞きたい裏話はありますか?
-
各キャラの制作秘話・設定
-
話の裏設定・心情
-
ストーリー展開の創作事情
-
その他