Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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セイバーという獣の正体

 ──白色のダンスホールで2人は踊り狂っていた。

 

 手を取る代わりに剣を交わし、ステップを踏む代わりに刃を振るう。優雅な伴奏は無くとも、鉄と鉄が火花を散らす金属音が2人を彩っている。

 

 ──しかし、踊りと言うには余りにも汚らしい。

 

 互いが歯と殺意を剥き出しにし、混ざり合った血風を撒き散らしながら無様に、不格好に、戦いしか知らないが如く剣を振るう様は、さながら自然界の闘争が如き野蛮さだ。

 

 されど、それにしては余りにも洗練されている。幾重の修羅で鍛え上げられた剣戟とその残光は、目で捉える事さえも叶わず、その余波だけで大気を切り裂き烈風を巻き起こす。正に武技の極地を体現したかのように、その凄絶さを見せつけていた。

 

 だが、これは断じて栄誉ある戦いではない。

 

 恥も無く互いの命を争う、本物の殺し合いだ。

 

「クソガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

「まだだぁぁ!! まだ足りねぇぞセイバァァァァァァァァァァ!!」

 

 息をする間もない剣戟の真っ只中、バールの鋭く尖った先端を、剥き出しになったセイバーのドタマを目掛けて振り下ろす。しかし、刃が触れる直前になって首を捻られ、頬肌が掠りはするが、狙い通りの場所には当たらなかった。

 

 だが、代わりにバールの切っ先は、セイバーの肩を貫く。

 

「ガァァァ!!」

 

 固く閉ざされた重装鎧は、まるでガラス細工を割るかのように意味もなさず、バールの刃を前に砕かれてしまい、その下に潜むセイバーの肩口に深々と突き刺さった。

 

「舐めンなぁぁぁ!!」

 

 下手に動けば、曲がったバールの刃が全て食い込んで、肩肉を骨から丸ごと抉り取られようというのに、セイバーがもう一つの肩を思いっきり捻り、榊の首を刈り取らんと、白銀の剣を水平に振り回す。

 

「足りねぇ!!」

 

 だがそこまでしようと、榊に刃は届かない。自らの身体をセイバーに詰め寄り、水平に剣を振るう腕の根元を、脇で挟み込んで封じる。それだけではなく、そこへ渾身の力を込めて、鎧小手諸共に、セイバーの片腕を粉々に粉砕した。

 

「グァァァァァァァァ!!」

「足りねぇんだよセイバーァァ!!」

 

 砕けた腕の痛みに悶えるセイバーの絶叫を、苛立ちと高揚に叫んだ己の声で上書きし、そして腹への突き刺さるような膝蹴りで無理矢理黙らせる。その衝撃で浮き上がった身体から強引にバールを引き抜くと、榊は今度こそ、がら空きになった頭部へバールのフルスイングを叩き込んだ。

 

「ガハッ!!」

 

 バールが直撃した側頭部に吊られて、セイバーの全身が横へと冗談みたいに弾ける。そして転がるようにダンスホールの最奥まで吹っ飛ぶと、逆に激突した壁の方が残骸となって、頭の上からガラガラと音を立てて砕け落ちた。

 

「何だその腑抜けた戦い方はよぉ。そんなモン求めてねぇんだよ!!」

 

 崩れ落ちた瓦礫の山から、埋もれているセイバーの頭を、何時かのように前髪を掴み上げて引き抜き、榊は憤りに強張る顔面を突き合わせる。

 

 バケツを頭から被ったように、額から溢れる血で真っ赤に染まるセイバーに、凡そ生気は感じられない──瞳は光を失って霞み、獰猛に歯ぎしりを繰り返していた口は、今やダラリと涎が垂れ下がっている。

 

 その様を見るや否、榊は耳元に口を寄せて、その無力さを骨身に刷り込ませるようにゆっくりと囁く。

 

「いい加減気づけや、セイバー。テメェの刃じゃ理想も、誇りも、矜恃も、何も守れやしねぇんだよ」

 

 返事はない、か。あれ程威勢の良かったセイバーの啖呵も、今やダンマリ状態だ──榊は期待外れとばかりの乱雑さで、セイバーの前髪から手を離すと、バールをそのドタマを目掛けて大きく振り被る。

 

「──だったら」

 

 ──結局、セイバーは獣には至らない。自分と同じ素質と才を合わせ持ちながらも、その精神がどうしようもない程に不純物で、濁っている。

 

 だとすれば、セイバーに生きる価値は無い。

 

 獣にもなれぬ哀れな者であればこそ、榊自らが、この世に与えられた仮初の命を終わらせるしかない。

 

 それこそが榊に取って、セイバーに取って──そして王に取って、最も最善の末路。牙を晒さぬ獣に居場所など無い。

 

「俺が終わらせてやる。テメェが獣にもなれねぇっていうなら、此処で死ね」

 

 かつて獣に成り損なった男が、獣になれないセイバーの首を断つ。

 ────────────────────────────────────────────

 ──鮮血に染まる虚な意識の中で、セイバーは夢を見た。

 

『ひ、かり……』

 

 光だ、眩いほどに燦然と輝く光だ。誰よりも高潔で正しく、遍く理想の上に立つ光だ。

 

 それ故に1度目の生では、掴もうと手を伸ばした。追いつきたくて、なりたくて、認めてもらいたくて、そして失望の中で息絶えた。

 

 そして2度目の生では、その影を歩む事を決めた。光が取り溢していった物を一つ一つ拾い集め、その道を暗く果てが無くとも付いて行くと決意した。

 

『あぁ……』

 

 では3度目の生では、何を為す? 決意を砕かれ、誇りを貶された先に、セイバーは何を追い求める? 

 

『あぁぁ……』

 

 ──そんなの決まっている。いや、目の前の獣が、それを分からせた。

 

 セイバーが求める物、それは。

 

 この魂に掲げた矜持も誇りも砕かせはしない、邪魔する物全てを叩き潰す強さだ。

 

 もう二度と、セイバーは騎士としての誇りも、己の罪を汚させはしない。

 

『アァァァァァァァァァァ!!』

 

 その為なら、この魂が地獄に堕ちようとも、構わない。

 ────────────────────────────────────────────

「ほぉ、ようやくお目覚めか」

 

 ──深々と感心したように、榊は良くやったと、セイバーを褒め称えるように満足気に頷く。

 

 バールを振り被ろうとした腕を、骨ごと握り潰されていると言うのに。

 

「アァァ……」

 

 喧しく騒いでいた怒声や罵倒も飛ばさす、ひしゃげた腕を掴んだまま、セイバーがゆるりと立ち上がる。

 

 その直後、榊の身体はまるでデタラメに振り回されたかのように、ダンスホールの高い天井にまで投げ飛ばされていた。

 

「オォ!! さっきよりも力が強くなったんじゃねぇか!?」

 

 一瞬何が起こったのか分からなかった──だが、乱暴に投げ飛ばされたにも関わらず、空中で器用に身体を捻ると、着地する瞬間に両脚でタイルを荒削りながら踏みしめる。そして、潰れた片腕とは逆の手にバールを持ち変えると、榊は心底愉快そうに笑い始めた。

 

「良いぜ! 良いぜぇ! 良いぜぇ! それだよそれぇ!!」

 

 ──明らかに、先程のまでのセイバーとは、纏う空気が違う。どうやら、死を目前にして、その精神からは不純物が消えたらしい。土壇場で目覚めるとは、流石の榊でも予想が居であった。

 

 ならば確かめる他ない。不純物に隠れて見えなかった、その精神が、獣としての在り方がどのような形をしているのか、剣を持ってして応えて見せてもらう。

 

「さぁセイバー!! テメェの腹の底を見せてみろよ!!」

「アァァァァァァァァァァ!!」

 

 その深淵を堪能しようと舌なめずりをする榊に、セイバーは罵倒ではなく行動で応える。爆発するような一息のステップで迫り来るや否、その剣の切っ先を、心臓目掛けて走らせた。

 

「芸がねぇなぁ!! そんなのが俺に!!」

 

 単純な切り裂きは容易く受け止められる──胸元の前でバールを真横に構えようとするが、その途中で榊の動きが止まる。

 

 突き立てる。そんな甘い殺し方を今のセイバーがやるのか? 研ぎ澄まされた本能がそう問いかけてくると、榊は無意識にバールを構えるのを止め、潰された片腕で首筋を守っていた。

 

「ッゥ!! ……ハハッ!!」

 

 そして、次の瞬間に迸るのは肉を裂く灼熱感と鋭い痛み。それを感じた時、榊は自身の予想を超える結果に笑いが止まらなくなる。

 

 それが首筋を守る片腕に食らい付く、セイバーの牙だと気が付くと、予想を超えた結果に、榊はいよいよ、より一層笑いが止まらなくなった。

 

「面白ぇ!! 剣を捨てて本当に獣になりやがったか!!」

「ガルゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 一コンマでも遅れていれば頸動脈ごと首を噛み千切られていた恐怖を物ともせず、榊は迷わず腕を捨てる勢いで地面に叩きつけようとする。だが、その直前にセイバーの牙は引き剥がれ、白銀の剣が掬い上げるように振り切られる。

 

「ガッ……!!」

 

 直前に身体が反応し、頭はどうにか守る事が出来た──しかし脇腹から肩に跨る巨大な切り傷からは、縦一文字に赤い血飛沫が舞い踊る。

 

「ハハハッ! イッテェなぁオイィ!! この痛み! テメェも味わってみるかぁ!!」

「ウガァァ!!」

 

 そのお返しとばかりに、今度は榊はバールをスイングするように振り回す。だが今まで重装鎧を容易く砕いた太刀筋は、さも視えているかの如く、セイバーは身体を不規則に仰け反らせ躱してみせた。

 

 それだけに留まらず、躱す勢いに身を任せて放たれる、延髄を刈り取るような楕円の回し蹴り──それが榊の首筋に突き刺さろうとしていた。

 

「足癖がワリィなぁ! テメェはぁぁ!!」

 

 咄嗟にバールを盾にして榊は受け止めようとする。するとセイバーの爪先が触れた直後、重い一撃が腕に伸し掛かった。

 

 さながらクレーン鉄球でもぶち当たったかのような重厚な衝撃──それは今までセイバーの振るって来た剣戟より遥かに強く、そして最も榊の命に切迫する程に研ぎ澄まされていた。

 

「ナメンなよぉぉ!!」

 

 だが、床が砕ける程の踏み込みで全身の膂力を隆起させると、榊は一拍の気合と共に弾き返して見せた。

 

「ガァ……ガゥオ!!」

 

 弾き飛ばされたセイバーが、脱力したように空を舞い上がり、そして無様にも崩れるように落ちる。だが、それでもまるで何事も無かったかのように立ち上がり、さも幽鬼が如く無形の振る舞いで、榊を見据える。

 

「フゥ……フゥ……!!」

「──―ハハハッ! そいつがテメェの本性か!!」

 

 蹴りの一撃で、未だに感覚がぶっ壊れたままの腕を榊は振り払うと、獣の唸りのような息を吐くセイバーを見て、涎が垂れそうな程のニヤケ顔が更に酷く歪む。

 

 ──―無形とも我流とも呼ぶべきデタラメな太刀筋、貪欲なまでに飢えた殺戮的衝動、そして一切迷いのない破滅的な振舞い。たった今、榊は確信した。

 

 セイバーは自分と同じ獣などではない。それよりも、更に悍ましい存在だ。

 

 つまり、セイバーは。

 

「オメェは獣なんかじゃねぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハナっから、何も入ってねぇんだもんなぁ!!」

 

 空っぽの器だ。

 

 

 




空っぽの器の意味ーーーそれは、セイバーの生い立ちに由来します。

詳しく知りたいのならFate/Apocryphaを読みましょう。と言うか読め、お勧めだから。

『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。

https://x.com/8f8qdLIQID34426

作品の高評価や感想は何時でも待っています!!

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少しでも面白いと思って頂けたのであれば、何卒……何卒評価の程ぉ……!!

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