Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
榊とセイバーがぶつかり合う戦乱の中でも、唯一直葉のみが無事だった。それ以外は皆、激しく吹き荒れる余波に巻き込まれ、一切合切が壊し尽くされていた。
2人が剣を交える度に、天井やフローリングは無惨にも切り裂かれたように崩れ落ち、無数のクレーターや残骸の山が新しく積み上がる。窓ガラスに至っては、その壁一面全てが無くなり、高層階特有の激しい突風が寒いくらいに吹き抜ける程だ。
しかし、直葉には傷一つない。榊が描いた線を境界線にして、その内側だけはまるで空間を切り取ったかのように、傷一つすら付いていなかった。
「まだだぁ!! まだまだ底があんだろうがァァァァァ!!
榊が蹴り上げた瓦礫が境界線を越えようものなら、セイバーがそれを裏拳で粉微塵に破壊し。
「ガァ! グルァァァ!! グルァァァ!!」
セイバーの空ぶった刃が境界線に届こうものなら、榊がバール振り上げて強引に弾き飛ばす。
理性を忘れて狂ったようにぶつかる衝突の中であっても、互いがその境界を超える事を許さない───例え獣に堕ちようとも、本能的に無関係な人間を巻き込む事は、唾棄すべき事だと理解している故、その境界線は越える事は無かった。
だからこそ───直葉は兄とセイバーの殺し合いを、ただ見つめるしかなかった。人の遥か上を行く戦いを前にして、まるで戦争映画でも見ているかのように、絶対の安全圏だと分かっている所から、この闘争の結末までを、ただ腰の抜けた身体で見守る事しかできなかった。
「……」
呆然と見守る中で、直葉は思ってしまう。いや、思わざるを得ない。どうして、自分は此処に居るのだと、その存在意義を考えてしまう。
今や、此処は優雅なダンスホールなどではなく、獣同士が争うに相応しい戦場。そこに部外者など立ち入れる隙間など無い。所詮、何も持たない、何の力も無い小学生一人に出番など無い。
そう、そうだ───直葉に出来る事と言えば、その殺し合いの行く末を見続け、そしてどちらかの首が飛ぶまで見守るのみ。
その時まで、変わり果てた兄を、兄を救おうとしてくれた騎士様を、そして自分自身でさえも、まるで他人事のように呆然と俯瞰し続ける。それがこの場に置ける直葉の役目だ。
──―本当に、そうなのか?
「にい……」
───だったら、どうして直葉は此処に来た? 何で未だ逃げ出していない? どうして恐怖に抗ってまで兄を助けようと思った?
「兄ちゃんを……助ける為、だからぁ!!」
固まって動かない両脚は、震えが止まるまで我武者羅に殴りつけ、張り裂けそうな程に早まる心臓は、呼吸を止めて無理やりに黙らせる。
───この境界線の先に行ってしまえば、もう戻る事なんて出来ない。そして飛び越えてしまえば最後、ぶつかり合う剣戟の僅かな余波に当たるだけで、直葉のか弱く小さな身体など、命諸共に吹き飛ばされてしまうだろう。
『兄貴として最低だろうけど、それでもお前が大人になるまでは絶対に守ってやるって』
だが、そこに兄の声がする──―かつて、あの雨の日に言ってくれた言葉が、腰が抜けてへたり込んでいる直葉の身体を、支えるように立ち上がらせる。
兄は───榊は、あの時の言葉の通りに、直葉を守ってくれた。訳も分からない大男に銃口を突き付けられた時も己の命よりも、先ず自分を守ろうとしてくれた。
そしてきっと、それは家を出て行った時もそうだ。あれはきっと、逃げ出したんじゃない、直葉を護るためだ。自分じゃ護るなんて出来ないから、責めて傷つけないように遠ざけようとした優しさの末だった。
結局、直葉は最初から最後まで、榊に護られ続けている。あの日の言葉通りに、兄として立派に妹を護ろうと、変わり果てた今でも、きっと心の何処かで抗っている筈だ。
───だったら、妹は何を為す。
榊は兄として、妹の為にその命をも賭けて戦っている。
だったら、直葉は妹として、兄の為に一体に何が出来る?
そんなの、言われなくたって、心で分かっている。
兄が命懸けて妹を守るのならば、妹は───。
「その為に……アタシは来たんだァァァァァ!!」
兄が道を踏み外した時に、それを引き留める為に立ち向かう。
その時、敷かれた境界線の向こうをデタラメに踏み超えた一歩が、直葉が叫んだ決意を後押しした。
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セイバーの頭を叩き切ろうと振りかざしたバールが、行き場を失ったかのように宙で止まる───それ程までに、自分たちの前に直葉が立ち塞がったのは、榊に取って予想外の事だった。
「ヴヴヴゥ……!!」
それはセイバーも同じだった。例え理性を無くして狂乱していようとも、謝って子供を斬る愚行は犯しはしまい。四肢の先端をフローリングに跡が残る程に食い込ませ、そのまま地を這いずるような姿勢で、急加速した身体を強引に停止させた。
そうして、互いのどちらかが斬られる筈だった衝突は、この歯牙にも欠けていなかった少女の乱入によって、白紙にされてしまった───それが、榊に取って非常に不愉快な事だった。
「どけ、ガキ。俺が言った事を忘れたか?」
榊は殺気の矛先を、セイバーから直葉へと置き換える───折角のお楽しみ、それも大一番の盛り上がりを邪魔されてしまった。故に例え子供だろうと、それこそ、この身体の持ち主の妹だろうと、榊は容赦するつもりはない。
「ゲホッ! ゲホッ! ……に、にぃ……!!」
だが、常人であれば、心臓を握り潰されるような錯覚で、意識を失ってしまう程の威圧を前にして、それでも直葉は、胸を嗚咽する程に殴りつけて、どうにか立ち塞がり続けている。
「兄ちゃん……」
言葉を吐くだけでも、臓器全てが喉から迫り上がるぐらい苦しいだろうに──ピンク色の胃液をみっともなく口の端から漏らしてでも、直葉は言葉を紡ぎ落す。
さて、一体何が出るのやら───今更前に出て来た事への後悔か、それとも兄が傷つくのを見ていられないと懇願か。どちらにせよ、一度火が付き始めた榊は止まるつもりはない。直葉が喋り始めたと同時に、直ぐに飛び出せるようにバールを固く握りしめる。
「兄ちゃんは……私が……助ける」
しかし、その予想外の言葉には、握り締めたバールの手が少しだけ緩まってしまった。
兄を助ける───それだけの為に、直葉はこの獣の前に立ち塞がったと言うのだろうか───そんな事は、並大抵に出来るものではない。
現にその両膝はガクリと地に落ち、顔は涙や鼻水に塗れてグチャグチャ、余りの恐怖に震えも止まらずに、失禁までしている始末だ。だが、現にこの自分を前に立ち塞がり、剰えその剣を止めたという事実に、榊は認めざるを得なかった。
「……それだけの為に飛び込むなんてな」
正直に言えば、榊にとって、直葉とは眼中に無い───それこそ邪魔をしなければどうだって良い石ころみたいな存在だった。
だからこそ、どうしてセイバーがこんなガキを連れて来たのか分からなかった。そんな存在など連れていても邪魔だというのに、甘っちょろい馬鹿だとさえも思っていた。
だが今になって、榊はようやくその理由が分かった気がする───姿形や知恵に技量、何もかもが違っていても、たった一つだけ、そこはかとなく似ている物がある。
例えどんなに恐怖で震えて、押し潰されそうになっても、歯を食い縛って
榊は───その中に潜む者は、獣である。だがしかし、それと同時に、王に仕える騎士を捨てた訳ではない。例えどれだけ罪を為そうと、王に向ける刃など持ち合わせていない。
「だったら」
しかし、榊は僅かに緩めた筈のバールを更に強く握り締める。
───獣として戦う事はもう止めだ。王の御前で獣として堕ちる無様な姿は晒せない。
此処からは、王の騎士として、榊は剣を振るう。だからこそ、今一度確かめる必要がある。
果たして、榊 浩一という人間は、セイバーと言う人間は。
「その価値に答えて見せろぉ!! 榊 浩一ィ!! セイバーァァ!!」
護る者として、その気高き覚悟に似合う意思があるのか。
この振り被られた凶刃を止める事で、応えてみせよ。
兄=護る者、妹=救う者。妹を護るのが兄であれば、兄を救いあげるのが、妹と言う存在です。
まぁ、妹居ないので分からないですけど。
『追伸』
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https://x.com/8f8qdLIQID34426
作品の高評価や感想は何時でも待っています!!
それと、来週は夏コミに参加するので、お休みします。盆休みです。
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