Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
その一振りが直葉の身体を切り裂き、殺す事は分かっていた。何せ自分の身体で行われようとしている凶行なのだから、分からない筈が無い。
「どうしてだ……どうして俺なんだよ……」
何度も抗い続けた先で、榊に残されたのは悲痛のみ。目の前で行われようとしている特大の絶望を前に、力無く項垂れる死骸となる他無い。
その時、榊の中である日の記憶が蘇った。
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「なぁ、俺ってそんなに怖いか?」
「少なくとも、闇討ちして来た不良を椅子替わりにしている時点で、その問いをするのはズレてるとは思うけどなぁ」
香住からそうツッコまれてしまうと、榊は忽ちに顔が引き攣ってしまう──いや、確かにそうだろう。学校帰りに襲撃して来た不良5人を伸している時点で、傍から見れば悪鬼羅刹に見えているに違いない。
「ウゥ……、さ、榊……テメェ、ゆる」
「はいはい、今忙しいから後、でな!!」
「ブベッ!?」
ケツの下から聞こえて来た恨み節を、脳天への拳一発で黙らせると、ようやく座り心地の良い椅子になってくれた。そのまま榊は下を気にする事もなく、続けて尋ねる。
「だったらよ、どうすれば怖がられなくなれば良いよ」
「取り合えず人を睨み殺せそうな顔面とぉ、今まで打ち立てた不良伝説とぉ、後はその捻じれ切った性格を消せばOKじゃないかな」
「それ、俺と言う存在を全否定してねぇか?」
「うん、そうだよ」
そう揶揄い交じりにケラケラと彼女──香住は一しきり笑うと、歩道橋の欄干に背中を預けて、青い夏の空を見上げた。
「まぁ、でもしょうがないよ。妹ちゃんからすれば、突然の他人──しかも不良がお兄ちゃんになるとか、怖がられても仕方ないって」
「ッ!?」
突然に悩みの確信を突かれてしまい、動揺の余りに榊は不良共の椅子から転がり落ちてしまいそうになる。
「違った?」
「い、いや、まぁ……そうなんだけどよ……」
間違ってはいないからこそ、榊は歯切れ悪く声を詰まらせ、困惑を誤魔化そうと頬を掻く──いつもそうだ、榊が何か悩んでいれば、香澄はズバリとその本質を言い当ててしまう。
だからこそ、なのだろう──-榊は聞かざる事もなく、真っ直ぐ本心を吐露する事が出来るのは。
「……俺さ、ぶっちゃけ良く分かんねぇんだよ。兄貴って奴がよ」
突然、父親の再婚でできてしまった妹の直葉──最初に出会った時は、何処にでも居るような腕白っ子のようだった。だが、一緒に過ごして三カ月、榊はそんな姿を見た事がない。と言うより、マトモに顔を合わせた試しがない。
無論、それは自分のせいだと、榊は分かっている。こんな見るからに不良が兄だなんて言われて、子供心にどう思うのか分からない程、榊は馬鹿じゃない。
だからこそ、今は自分がグレた不良だという事が恨めしく思ってしまう──そうすれば、きっと直葉にも心を開いてもらえていたのか、ずっとそんな事ばかりを考えてしまう。
やっぱり自分が兄貴なんて──。
「てぃ!!」
「ぶふぅ!?」
そう考え始めた瞬間、榊の両頬がバチコーン! っと弾けるような音を鳴らして、香住の小さい両掌で挟まれた。
「そーんな悩まなくて良いじゃん。コウは難しく考えすぎだって」
「ふぇ、ふぇも」
言い訳が勝手に口から漏れ出そうになるが、ズズイッと急接近する香澄の瞳に囚われると、それ以上何も言葉が出なくなってしまう。
数分、いよもっと短い筈だろう。暫くの間、榊と香住の眼差しが熱く交差した後、不意に挟まれていた両手がヒョイと手放された。
「コウはさ、何でその子のお兄ちゃんになりたいの?」
「……そ、それは」
まだ少しヒリつく両頬を撫でながらも、その痛みが落ち込みかけた考えを安らがせてくれる──すると、ふと頭の中で過るのは。
「アイツが……俺の飯を美味しそうに食ってくれたから……」
自分が何故、兄貴になりたいか。その理由と記憶だった。
「俺の親父、ずっと仕事で家に居ねぇから、自分で飯作るしかねぇんだよ……そんで、義母の方も共働きだからよ、偶に俺が飯作ってんだけどさ」
ポツポツと言葉が流れ出し、それに合わせてパズルのピースを組み合わせるように、記憶の残滓が榊の頭の中で、徐々に出来上がっていく。
思えばそうだ──榊は飯を作る時は、いつも自分の為だった。親父が家に居ないからこそ、自分で飯を作り、そして一人で食べる。それがいつも通りだった。
「妹……直葉の奴、俺が飯を作ってるって言ったら食わねぇだろ? だから、そういう時は飯だけ作って置くんだよ」
だが、その孤独は妹が出来てから変わってしまった。榊は誰かの為じゃなく、家族の為──直葉の為に飯を作る事が多くなった。
直葉の為に飯を作り、そしてさも義母が作ったかのように、何事も無くリビングに置いておく。それが最早日課にもなりつつあった。
「そんでさ、何時も隠れてみてるんだ」
──その時、榊は何時も見ていた。空腹に耐えきれずに、自分の部屋から恐る恐る抜け出し、リビングのテーブルに置かれたご飯に有り付こうとする直葉の様子を、何時も廊下の物陰からバレないように覗いていた。
「俺の飯を美味そうに食ってくれるアイツの顔」
そして、自分が作ったご飯に手を付けた時、直葉は決まって嬉しそうにクシャリと歪んだ笑顔をしていた。
「それ見てるとさ、守ってやりたいって思うんだよ……こう、うまく言えねぇけど、心の底からさ」
自分の料理スキルが高いだなんて思わない。精々、男が作る雑な飯。だけど、それでも心の底から美味しそう食べる姿を見ると、どうにもコッチまで顔が綻んでしまう。
そして、自分が笑顔になっていると気が付く度に榊は思ってしまう──見ているだけで笑ってしまうあの嬉しそうな顔を護ってやりたいと。
それは本能、理屈、そんな言葉では表せられない、心の奥底の何かがそう訴えているような気がしてならない──その為に、榊は兄貴となりたかった。
妹の直葉が、あの笑顔を曇らせるような事があれば、兄貴としてそれを払拭させられる存在に。
「ふーん、そうなんだ」
それを一通り聞き終えると、香澄は榊の額に人差し指を突き付け、少年のような悪戯っ気が混じった殊勝な表情を魅せた。
「だったらさ、今のままで良いじゃん」
「ハッ? お前、俺の話聞いてたのかよ。俺は」
「コウが不器用なのは最初から知ってるよ」
不器用、その言葉を言われた時、榊はトンと腑に落ちた。確かにそうだ、不器用じゃなければ直葉にどう接すれば良いのか分かっているだろうし、何より不良になどなっていない。
「コウは何時もそう。不器用で臆病で空回りしてばっか……だからさ」
まるで子供に言い聞かせるような口ぶりで、香澄は榊に答えを教える。
「コウは、コウなりのお兄ちゃんになれば良いんだよ。ダメダメで、いくじなしで、バカみたいだけど、ちゃんと大事な物だけは守れるお兄ちゃんにさ」
自分なりの兄貴──ありのままの自分で、兄貴になれと容易く教えこむ。だが、榊自身はそんな風に到底思えない。
「そういう所が、アタシが好きなんだよ」
だが、信じてくれる。どん底で呻いていた自分を変えてくれた香澄が、真っ直ぐにそういう所が好きだと言ってくれる。
それだけで、榊は決心する事が出来た──どんな形だろうと構わない。嫌われたって良い。
自分は、自分なりの形で兄として貫いてやろうと。
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「そうか……」
身体が、勝手に動く。
一度は跡形もなく折れ、無力さに諦め去っても、それでも捨てられない物がある事を、あの時の記憶が思い出させてくれた。
「俺は……まだ、諦め切れてねぇのか」
──あの時とは違い、この手で壊してしまう恐怖も、その後に襲い掛かる絶望も知っている。だが、まだそれでも胸の奥に残っている衝動。
あの嬉しそうにクシャリと歪んだ笑顔を護りたい──堕ちてから、いつの間にか聞こえなくなっていた魂の叫びが、今になってようやく榊の精神を馬鹿みたいに震わせる。
「そうか、そうかよ……!!」
──失った恐怖も絶望も知って尚、いや知ったからこそ、如何に己がどうしようもなく愚かな人間なのかを理解した。激しい後悔に身を焼かれ、その魂と精神は一度殺されている。
「俺は……今度こそ」
だからこそもう逃げはしない、そして諦めもしない。
もう二度と己の魂を殺させない為に、例えどれだけ愚かであろうと。
「今度こそ、守り切ってやるよクソがァァァァァァァァァァ!!」
榊は大事な物を、この手で護り抜く。その為ならどうなっても良い覚悟なら、もうとっくに出来ている。
鎖が一つ、榊の腕から切れ落ちた。
主人公、覚醒ーーー50話以上になってようやく覚醒するとは、遅すぎないか?
兎に角、榊 浩一が一皮向けました。これからが期待です。
『追伸』
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https://x.com/8f8qdLIQID34426
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