Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

53 / 89
護る覚悟

 今のセイバーに意識は存在していない。今、身体を動かしているのは、この身が生を受けた時から定められた、造られし存在意義だけだ。

 

 王を失墜させる瓶逆の刃。それが──────という許されざる存在が、生きる事を許される唯一の理由だった。

 

 しかし、鋭利な刃は時に向ける相手だけでは無く周囲を、そして自分自身までも斬り刻む。

 

 故にセイバーは常に血に塗れていた。敵も味方も巻き込んで、斬って、切って、伐って、そして、最後に残ったのは無数の屍の上で、槍に貫かれて息絶える己の骸。

 

 ──つまりだ。今のセイバーは元に戻っただけ。ただ産まれた意味を為すままに、ただ全てを斬り捨てる空っぽの刃に還っただけの話だ。

 

 なのにだ。騒ぐ、胸の奥と脳の底で激しく何かが騒ぎ立てている。

 

 幾千と振り続けた刃に染み付いた血が、刻み込まれた歴戦の傷跡が、器として産まれた意味を上書きしていく。

 

 ──オレは誰なんだ? 王を失墜させる叛逆の刃では無ければ、オレに何の意味がある? 

 

 その問いの答えは、いずこの記憶の中にあった。

 ────────────────────────────────────────────────

 それは誰も知らぬ、月が出た夜だった。

 

 セイバーはその時、王城の廊下を支える柱の陰から、一歩たりとも動けずに居た。そこから覗く中庭の景色に目を離せず、らしくもなく息を潜めるようにに、ただ茫然と見つめていた。

 

「──」

 

 ──それは、王城の中で、ポッカリと空いた夜空、その中で闇を照らす月を見上げる王の姿。

 

 薄光を灯す月明かりを一心に受け、星が疎らに光り輝く夜空を見上げる様は、正しく神話に語り継がれるような美しさを秘めていた。だが、それがセイバーの心を捉えた訳ではない。

 

 セイバーの心を捉えたのは、その頬に一筋流れる涙の跡だった。

 

「おう、よ……」

 

 何故、王は涙を流しているのか──セイバーは分からずにただ困惑していた。それは、己の知る王の姿とは余りにも懸け離れていたからだ。

 

 セイバーの知る王の姿は、如何なる優れた騎士よりも遥かに強く、誇り高く──そしてどんな時であろうと決して涙を見せない、誇り高き御方だった。

 

 そんな姿にセイバーは憧れていたし、近づきたいとも願った。憧れていたからこそ、誰よりも強くあろうと剣を振り、誰よりも認められようと、その齢に余る功を重ねて来た。

 

 だからこそ、分からない。何故、その王が泣くのか。何故、誇り高き王が涙など、か弱き象徴を流すのか。

 

 分からない。己の解釈と今目の前にある姿が余りにも矛盾していて、頭の中で上手く咀嚼できずに思考が止まってしまう。

 

 だが、何故だろうか──それでも、何故か。一つだけ素直に思った事がある。

 

 それは、使命でも憐憫でも、ましてや騎士としての忠義からではない。純粋に──そう、純粋にだ。

 

 

 

 護りたいと願ってしまった。王が涙を流すこの時を、この空間を、ただ純粋に守りたいと願ってしまった。

 

 

 

 ──その時からきっと、セイバーは初めて騎士となったに違いない。今まで、騎士としての在り方を知らなかった己に、王の流した涙が教えてくれた。

 

 王が涙を流した理由はかつては分からなかった──だが、あの涙を流したその時だけは、決して失ってはならない大切な物だったと、この魂に刻み付けられている。

 

 ならば、セイバーの掲げる騎士道は決まっていた。彼の王が涙を流す時──いや、今は違う。彼の王が彼の王で在れる時を護る為、全てを駆逐する刃となる事だ。

 

 

 

 

 

 そして、何時からだろうか。絶望の余りに、その記憶を閉ざしてしまったのは。

 ────────────────────────────────────────────────

 だが、忘れてしまっていたその原点を、目の前の少女は思い出させてくれた。

 

「オレは……」

 

 余りにも無様で、みっともない少女の姿。とても高潔で名高き彼の王と似ても似つかない。

 

 しかし、今流しているその涙は、同じであった。その見る先が違えども理想()である為に怖さや脆さ、弱い所全てを投げ捨てる誇り高き残骸であった。

 

 その残骸を拾い集める為と、セイバーは誓っていた筈だ。

 

 確かに、産まれた意味は王を失墜させる刃。しかし、剣を手に取った原点は、何処まで辿ろうが、理想を体現しようとした王に憧れ、少しでも近づきたいと願ったから。

 

 そして、王の安らぎを護れる存在である為に、今の己は剣を振るう。

 

 それこそが、セイバーが生前に終ぞ叶える事の無かった、真の願い。造られし紛い物に注がれた、新たな生きる意味であった。

 

「──オレは」

 

 だからこそ、怪物がバールを振り下ろすよりも早く、セイバーに剣を振るわせたのは刃としての本能でも、況してや取り戻した理性でも無い。

 

「王の騎士だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 王を守護する騎士としての魂が、セイバーに剣を振るわせた。

 ──────────────────────────────────────────────

 榊は忘れ去っていた覚悟を思い出し、セイバーは忘れ去っていた原点を思い出す。

 

 それは生まれた場所も時代も、何もかもが異なる二者を結び付ける唯一の点。

 

 片や、全てとも呼べる存在を失っても尚、己に残った大事な存在を守る為に、腐り切った魂の汚泥の中から這い上がった者。

 

 片や、忌むべき己の原点に振り返っても尚、この身に一度打ち立てた信条を貫く為に、狂乱の檻を自ら食い破った者。

 

 その二人が持ち合わせた何か──それは例え、この手が血に塗れ地獄のような苦しみを経ようが、決して折れはしない不変不屈の精神。

 

 即ち、大事な物を護る覚悟が、二人を突き動かしている。

 

 榊の手とセイバーの剣が互いに伸び重なる時、その結末は最初からきっと、決まっていた。

 

 それはきっと、どちらかがその覚悟を忘れてしまっては、その結末へは至らなかっただろう──しかし、榊とセイバーは、己の魂に刻み付けた覚悟のままに、この手で手繰り寄せる事が出来た。

 

 故に、これは偶然でも軌跡などではない。

 

 2人の意思と覚悟が強引に捥ぎ取った、必然の回帰であった。

 

「届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「ぶっ潰れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 かくして、榊の手が暗闇の外へと届き、セイバーの剣が怪物の頭を地へ叩き落とした。




セイバーも一皮むけました。こういう互いの覚醒で引き寄せる展開……嫌いじゃないわ!!
胸熱の黄金展開最高ですわ!!

と言うか、セイバーの解釈ってコレで合ってますか……?有識者よ、誰か教えてくれ。

『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。

https://x.com/8f8qdLIQID34426

面白かったら、作品の高評価や感想を是非とも宜しくお願い致します!!

Fate/Red Knights について、聞きたい裏話はありますか?

  • 各キャラの制作秘話・設定
  • 話の裏設定・心情
  • ストーリー展開の創作事情
  • その他
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。