Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
今のセイバーに意識は存在していない。今、身体を動かしているのは、この身が生を受けた時から定められた、造られし存在意義だけだ。
王を失墜させる瓶逆の刃。それが──────という許されざる存在が、生きる事を許される唯一の理由だった。
しかし、鋭利な刃は時に向ける相手だけでは無く周囲を、そして自分自身までも斬り刻む。
故にセイバーは常に血に塗れていた。敵も味方も巻き込んで、斬って、切って、伐って、そして、最後に残ったのは無数の屍の上で、槍に貫かれて息絶える己の骸。
──つまりだ。今のセイバーは元に戻っただけ。ただ産まれた意味を為すままに、ただ全てを斬り捨てる空っぽの刃に還っただけの話だ。
なのにだ。騒ぐ、胸の奥と脳の底で激しく何かが騒ぎ立てている。
幾千と振り続けた刃に染み付いた血が、刻み込まれた歴戦の傷跡が、器として産まれた意味を上書きしていく。
──オレは誰なんだ? 王を失墜させる叛逆の刃では無ければ、オレに何の意味がある?
その問いの答えは、いずこの記憶の中にあった。
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それは誰も知らぬ、月が出た夜だった。
セイバーはその時、王城の廊下を支える柱の陰から、一歩たりとも動けずに居た。そこから覗く中庭の景色に目を離せず、らしくもなく息を潜めるようにに、ただ茫然と見つめていた。
「──」
──それは、王城の中で、ポッカリと空いた夜空、その中で闇を照らす月を見上げる王の姿。
薄光を灯す月明かりを一心に受け、星が疎らに光り輝く夜空を見上げる様は、正しく神話に語り継がれるような美しさを秘めていた。だが、それがセイバーの心を捉えた訳ではない。
セイバーの心を捉えたのは、その頬に一筋流れる涙の跡だった。
「おう、よ……」
何故、王は涙を流しているのか──セイバーは分からずにただ困惑していた。それは、己の知る王の姿とは余りにも懸け離れていたからだ。
セイバーの知る王の姿は、如何なる優れた騎士よりも遥かに強く、誇り高く──そしてどんな時であろうと決して涙を見せない、誇り高き御方だった。
そんな姿にセイバーは憧れていたし、近づきたいとも願った。憧れていたからこそ、誰よりも強くあろうと剣を振り、誰よりも認められようと、その齢に余る功を重ねて来た。
だからこそ、分からない。何故、その王が泣くのか。何故、誇り高き王が涙など、か弱き象徴を流すのか。
分からない。己の解釈と今目の前にある姿が余りにも矛盾していて、頭の中で上手く咀嚼できずに思考が止まってしまう。
だが、何故だろうか──それでも、何故か。一つだけ素直に思った事がある。
それは、使命でも憐憫でも、ましてや騎士としての忠義からではない。純粋に──そう、純粋にだ。
護りたいと願ってしまった。王が涙を流すこの時を、この空間を、ただ純粋に守りたいと願ってしまった。
──その時からきっと、セイバーは初めて騎士となったに違いない。今まで、騎士としての在り方を知らなかった己に、王の流した涙が教えてくれた。
王が涙を流した理由はかつては分からなかった──だが、あの涙を流したその時だけは、決して失ってはならない大切な物だったと、この魂に刻み付けられている。
ならば、セイバーの掲げる騎士道は決まっていた。彼の王が涙を流す時──いや、今は違う。彼の王が彼の王で在れる時を護る為、全てを駆逐する刃となる事だ。
そして、何時からだろうか。絶望の余りに、その記憶を閉ざしてしまったのは。
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だが、忘れてしまっていたその原点を、目の前の少女は思い出させてくれた。
「オレは……」
余りにも無様で、みっともない少女の姿。とても高潔で名高き彼の王と似ても似つかない。
しかし、今流しているその涙は、同じであった。その見る先が違えども
その残骸を拾い集める為と、セイバーは誓っていた筈だ。
確かに、産まれた意味は王を失墜させる刃。しかし、剣を手に取った原点は、何処まで辿ろうが、理想を体現しようとした王に憧れ、少しでも近づきたいと願ったから。
そして、王の安らぎを護れる存在である為に、今の己は剣を振るう。
それこそが、セイバーが生前に終ぞ叶える事の無かった、真の願い。造られし紛い物に注がれた、新たな生きる意味であった。
「──オレは」
だからこそ、怪物がバールを振り下ろすよりも早く、セイバーに剣を振るわせたのは刃としての本能でも、況してや取り戻した理性でも無い。
「王の騎士だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
王を守護する騎士としての魂が、セイバーに剣を振るわせた。
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榊は忘れ去っていた覚悟を思い出し、セイバーは忘れ去っていた原点を思い出す。
それは生まれた場所も時代も、何もかもが異なる二者を結び付ける唯一の点。
片や、全てとも呼べる存在を失っても尚、己に残った大事な存在を守る為に、腐り切った魂の汚泥の中から這い上がった者。
片や、忌むべき己の原点に振り返っても尚、この身に一度打ち立てた信条を貫く為に、狂乱の檻を自ら食い破った者。
その二人が持ち合わせた何か──それは例え、この手が血に塗れ地獄のような苦しみを経ようが、決して折れはしない不変不屈の精神。
即ち、大事な物を護る覚悟が、二人を突き動かしている。
榊の手とセイバーの剣が互いに伸び重なる時、その結末は最初からきっと、決まっていた。
それはきっと、どちらかがその覚悟を忘れてしまっては、その結末へは至らなかっただろう──しかし、榊とセイバーは、己の魂に刻み付けた覚悟のままに、この手で手繰り寄せる事が出来た。
故に、これは偶然でも軌跡などではない。
2人の意思と覚悟が強引に捥ぎ取った、必然の回帰であった。
「届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ぶっ潰れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
かくして、榊の手が暗闇の外へと届き、セイバーの剣が怪物の頭を地へ叩き落とした。
セイバーも一皮むけました。こういう互いの覚醒で引き寄せる展開……嫌いじゃないわ!!
胸熱の黄金展開最高ですわ!!
と言うか、セイバーの解釈ってコレで合ってますか……?有識者よ、誰か教えてくれ。
『追伸』
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