Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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全てが終わって、また紡ぐ

 セイバーの剣が榊の顔面を地へ叩き落とす。その威力の余り、建物全体が縦に振動し、深々と破壊の跡が分厚いフロアの床を突き抜ける。

 

 正にセイバーの全霊を尽くした、破壊的なまでの一撃。英霊が渾身を賭けた振り下ろしを真正面から受け──それでも、榊はまだ生きていた。

 

「成る程な──」

 

 減り込んだ地面の中で、脳天からドクトクと流れる血に赤く染まろうと、汚くニヤけた面は変わらない。しかし身体は言う事を聞かないらしい。頭上から己を見下ろすセイバーに、愉快そうな眼差しだけを向けると、ケタケタと笑い出した。

 

「思い違いをしてたらしいな……空っぽじゃなかった訳か」

 

 正に言葉の通り、榊は──そのガワを借りた獣の騎士は、勘違いしていた。

 

 確かに、先程の剣戟の中で見せた、セイバーが見せた荒れ狂う凶刃の如き姿は、セイバーの原点(オリジン)に違いない。

 

 だが、セイバーの本質は、それとは違っていた。原点こそ凶刃であれど、後付けされた余計な物が、セイバーという獣の在り方までもを変えていた。

 

「空っぽの器の底に染み付いた汚れが、テメェって事かよ」

「テメェ如きがオレを語るな」

 

 さりとて、分かった口のように宣う怪物。こいつの獣臭い声を聞くだけでも頭がおかしくなる──煩わしい言葉を吐くその口を頭ごと踏み潰そうと、セイバーは足を持ち上げる。

 

「面白ぇ!! 面白ぇよセイバー!! それがテメェだって言うなら貫いてみせろや!! 空っぽのテメェが何処まで本物に至れるか最後まで見届けてやるよぉ!!」

 

 ──―自身の存在を踏み潰そうとする足裏を見ても、最後まで獣は全く変わらない。そもそも最初から、そのつもりだったのだろう。じゃなければ、もっと早くにこの男に斬り殺されていただろう。

 

 結局、コイツからしてみれば、この結末でさえも全て思い通りに違いない。セイバーという存在を知り、その上で何処まで醜く足掻くのかを、榊の内側からしたり顔で干渉するに違いない。

 

 だが、セイバーは否定する──してみせる。決して、この獣のように、造られた意味だけの為に、王の敵を殺すだけの騎士になどならない。

 

 王の理想を護る為──そして置き去りにされた王の安寧を護る為の騎士であると、あの日から既に誓っている。

 

「地獄で見てろ。このイカレ野郎」

 

 故にセイバーの蹴り下ろしが、その在り方を否定をする為に、獣の頭を力強く踏みつける。

 

 そして次に、獣の顔を上がった時には。

 

「……セイバー、俺に恨みでもあんのか?」

 

 相も変わらない間抜けた顔が帰って来ていた。

 ──────────────────────────────────────────────

 縛り付ける鎖の中から、それでも手を伸ばし、外の景色まで手が届いたあの時、榊の意識は、また電源でも切れたかのように、プツリと途切れた。

 

 そして、次に目を覚ました時──埋もれる地面の中で榊は、自分の身体の主導権を取り返していた。

 

「っぇ……」

「起きろ」

 

 頭を踏みつけていた足が外れると、倒れ伏していた自分の肩を、救い上げるように腕が差し込まれ、そのままセイバーに支えられながらも立ち上がる。

 

 正直に言って、その優しさは今の榊にはありがたかった──身体の節々が千切れるんじゃないかと言うぐらい悲鳴を上げる。底無しの汚泥に浸っているような倦怠感に、今にも倒れてしまいそうだ。

 

 しかしそれでも、傷だらけで悲鳴を上げる身体で這いずり回っても尚、榊にはやらなければならない事がある──故に、支えられるその腕から離れ、一人フラフラと歩き出す。

 

 その先には、腰を抜かして涙目になっている直葉──榊はその震える肩に両腕をめい一杯広げ、そして胸の内に強く抱きしめた。

 

「直葉……」

「兄、ちゃん? 兄ちゃん、なの……?」

 

 先程まで、この身体を支配していた獣の残像が未だに映っているのか、信じられないという様子で、何度も榊の背中をまさぐるようにポンポンと叩く。

 

 ──信じられる筈も無いだろう。直葉は何も知らない。いや、何も知らなくて良い。だからこそ、何も変わらない昔の兄が戻って来たと教える為に、そしてたった1人で恐怖に抗い続けた愛すべき妹を褒めたたえる為に、優しい言葉を耳に囁く。

 

「良く頑張ったな、直葉。お前は最高の妹だよ」

「兄ちゃん……!!」

 

 ──するとだ、まるでむしゃぶりつくかのように直葉も抱きつき返した。止めどなく溢れ出る涙と鼻水が榊の胸元を濡らして、嗚咽交じりの鳴き声がうずくめる胸元を通じて、榊の心臓に直接響いて来た。

 

「兄ちゃんだ!! 兄ちゃんが帰って来たぁ!! あた、アタシィ!! 兄ちゃんが帰って来なかったらぁ!! あぁぁぁぁ!!」

「はいはい、落ち着けって。顔がグチャグチャじゃねぇか。一応女の子なんだから、そんな不細工なツラは止めろよな」

 

 その泣き声一つ、涙の粒一つが榊の心を浅く切り裂いていく──―直葉がどれだけ不安や恐怖に心を圧し潰されそうになり、どれだけ自分が傷つけたのかなんて、護る事から逃げ出した如きが推し量れる筈も無い。

 

 だからこそ、榊は言わなければならない事がある。

 

「直葉、お前の言う通りだったよ。本当に大事なモンが有るっていうなら離れるべきじゃねぇ、傍で守るべきだった」

 

 ──榊はずっと怖かった。

 

 また大事な物を、この手で壊してしまうのではないかと。この手が愛する人間の血で染まってしまうのではないと。

 

 だから護る事を諦めた。何処までも台無しにしてしまい、守ることさえ出来やしない弱々しい自分には、それが最善だと思いこんでいた。でも今はそれが最も馬鹿な選択肢だったとハッキリ分かる。

 

 真に願うなら──それが大切な物だと分かっているのなら。

 

「今度こそ、間違えたりしねぇ」

 

 ──戦うべきだった。あらゆる絶望や災難が降り掛かろうと、何度でも運命に抗い続けて、それでも護り抜くべきだった。

 

「今度こそテメェの大事なモンは、この手で守り通してやる」

 

 ──それが分かった今、榊は二度と直葉の手を離さないと誓う。

 

 大事な妹が、二度と泣かせない為ならば、この腐り切った魂がどうなろうと構わない。それだけ覚悟出来れば、何だってやってやる。

 

 ──その誓いを告げた直後、身体を支えていた最後の力が抜け落ちて、だらしなくも自分より遥かに小さい直葉へと寄りかかってしまった。

 

「に、兄ちゃん! お、重いぃぃ!!」

「ったく、格好付けやがって」

 

 伸し掛かる榊の身体を直葉が懸命に支えていると、それをセイバーが腰を掴んで、いとも容易く肩に抱え込んだ。

 

「セイバー、悪い」

「勘違いすんな。テメェの意識が無くなったら、またアイツが出て来んだろうが」

 

 そう言う割には、わざわざもう一度肩に担ぎ上げてくれる辺り、似合わない優しさを見せつけている。以前ならきっと、一発蹴りを入れてどかしている所だろう。

 

「なぁセイバー。俺達、少しはマシなモンになれたのか?」

「知るか」

 

 ふと、何処か清々しく映えるセイバーの横顔に、榊は尋ねてしまう。そして返って来たのは、予想していた通りの返事だったが、その口は少しだけ誇らしげに笑っていた。

 

「オレもお前も、思い出しただけだろ」

 

 ──―結局、セイバーも榊と同じらしい。互いに置き去りにしていた物を取り戻し、前へ進む為に覚悟を決めた眼をしている。

 

「そうだな。そうじゃなきゃ割に合わせねぇよ」

 

 そうでなければ、互いにボロボロになるまで戦った意味がない。せめてそれぐらいの希望は持っていてもバチは当たらないだろう。

 

「セイバー、もう大丈夫だ。こっからは自分で歩く」

「そらよ」

「ホゲッ!?」

 

 怪我人だと言うのに、セイバーは榊を放り投げる。地面に激突した反動で傷口がもっと開いてしまうが、痛みにめげずに立ち上がると、直葉に向けてその手を掴んだ。

 

「そんじゃあ、ウチに帰ろうぜ直葉」

 

 直葉を掴んだ掌の先に、榊は思い出す。

 

 土管の中から引き寄せた時は、今みたいに傷だらけじゃなく、血塗れになっていなかった。だが、兄として妹を護ると決めたあの気持ちは変わらない。

 

「うん!! 兄ちゃん!!」

 

 直葉に取って、世界一最低で情け無くても、榊は兄で有り続ける。

 

 もう一度、兄妹の縁を繋げるかのように、そして今度は決して途切れないように、榊は掴んだ直葉の掌を固く握った。




ようやく序盤が終わりました……此処から、神宿市で巻き起こる聖杯戦争は、加速していきます!!

と、その前に、次話は暫く閑話が続きます。

また、作者のリアルメンタルが不調なので、本日の活動報告は休ませていただきます……すみません!!

『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。

https://x.com/8f8qdLIQID34426

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