Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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閑話:危険な火種

 橘ハイソジャックの全長は約250m。並み居る高層ビルにも比類する高度から落下すれば、例えどのような生物であっても、大抵は死ぬ。

 

「アハハッ!!」

 

 だとすれば、今は高度何メートルぐらいだろうか。空気抵抗などを計算すれば解るかも知れないが、そんな知識も意識の欠片もマハにはない。ただ遥か上空から自由落下する身体に底知れぬ興奮を覚えながら、アドレナリンに思考を任せていた。

 

 ──―いっそこのまま落ちて、一塊の挽肉になっても良い。激しい逆風に吹き付ける中で、そう夢見ていると、野太い声と下品な面がマハを現実に引き戻した。

 

「マスターァ! 拙者只今参上ですぞぉぉ!!」

 

 ライダーが空から落ちて来る。痩せこけたマハよりも遥かに体重の乗ったゴツイ身体は、遅れてやってきたにも拘らず、あっという間に空中の最中で肩を並べた。

 

「ライダーァ! アタシを受け止めろ!!」

 

 まだ何もやらかしていないのに、死ねる筈も無い──ー己の本望を思い返すや否、生き残る為にマハは活気良くライダーに指示を飛ばす。

 

「かしこまりぃぃぃ!!」

 

 すると、不細工な面に似合わず、ライダーがお姫様抱っこスタイルで身体を支える。そのまま姿勢を崩さず、既に目前まで急接近するロータリーに向けて、ドンと足を構えた。

 

「ヨイショォォォ!!」

 

 そして、地を着いたライダーの両脚が、コンクリートの地面を粉砕する。最上階から落下した二人分の衝撃に、入り口のロータリーが隕石でも降って来たかのような亀裂を迸らせ、まるでクッキーのように割れる。

 

「あんがとライダー! でもキメェから離れてくんない?」

「あぁん! イケズですなぁ」

 

 着地するや否、ライダーの抱擁を無理やり引き剥がすと、マハは破砕痕だらけの地面に降り立つ。そして、血に濡れた身体をプラプラと動かして、その調子を確かめた。

 

「マスターぁ、RG18並にヤバい格好してるんですが、それ大丈夫でちてか?」

「ん? 別に問題無い無い。死なないなら全部オールオッケーだし」

 

 内側からズタボロに切り裂かれた身体が無事な筈が無い。血液の代わりにアドレナリンが駆け巡っていて、痛みを忘れているだけだ。だが、魔力で千切れた血管の膜を補ってやれば、首の皮一枚だが、直ぐには死なないだろう。

 

「そんじゃあ惜しいけど、そろそろトンズラしないとねぇ」

 

 マハは先程まで居た橘ハイソジャックの最上階を見上げる。

 

 そこにはモクモクと黒煙が噴き出すスイートルームのベランダが見える。だが、日本でも指折りの術師と、あの見るからに武人の英霊の事だ、これくらいで死ぬ筈も無いだろう。

 

 このままもう一度戻って、命を懸けた本気の殺し合いを魅せても良いが──今はまだ命を懸ける時じゃない。どうせやるんだったら、それこそあの操り人形ちゃん(京子)が絶望するほど、最高に最低な舞台を用意してやらないと。

 

「じゃライダー、やっちゃって」

「うぃー」

 

 ライダーが懐から一本の細いマッチを取り出す──ーそれを手甲に擦って火を付けると、適当にそこら辺へ投げ捨てた。

 

 マッチの軌道が描く先にあるのは、ロータリーに停められていた二段構造の大型送迎バス──ー着地の衝撃により歪んで開いてしまった給油口。

 

「ほいさ!!」

 

 透かさずにライダーがその大型送迎バスの横面を蹴り飛ばす。すると車体は、まるでボールのようにクルクルとガラス片を撒き散らして転げ回り、その全長に見合わないエントランスへ、交通事故さながらの衝撃で突き破った。

 

「さーん」

 

 マハがカウントする。恐らく後、三秒くらいだろう。

 

 なので指折りに数えて3,2……。

 

「いーち」

 

 そして、階層丸ごと焼き飛ばす勢いの大爆発が、橘ハイソジャックエントランスで激しい豪炎を噴いた。

 

「コレが立つ鳥跡を濁さず、って奴?」

「むぅぅ! やはり爆発は男のロマンですぞぉ!!」

 

 轟々と燃え盛る黒煙と炎を背に、大悪党二人は哂い続ける。

 ──────────────────────────────────────────────ー

 部屋全体を覆い尽くす程の爆発を間近に受けてなお、京子の身体には火傷1つ残っていなかった──ーそれも全て、身を挺してランサーが庇ったお陰だろう。

 

「親方様! お怪我はございませんか!!」

 

 ようやく抱きしめていたランサーが、京子の身から離れる。流石英霊というべきか、アレ程の爆発から京子を庇っておきながら、その身体に火傷の痕一つも負っていないようだ。

 

「えぇ、無事でしてよ」

 

 解放された京子は、部屋全体が無残に焼け焦げたスイートルームの中を見渡すと、そこに居ない筈とマハ達を探す。そして当然と言うべきか、その姿が無い事を改めて確認すると、燃えカス塗れのベッドにドスンと腰かけた。

 

「やってくれたのでしてね、あの下郎……!!」

 

 あの躊躇いの無さを見るに、最初から逃げる手順を整えていたのだろう。だとすれば、部屋に踏み込んだ時点で、血塗れのマハに圧倒されてしまい、それを見抜けなかったのは、紛れもなく京子の責任だ。

 

「直ぐにあの女を追うように伝達するのでして。ランサー、次は遅れを取らぬようにするのでしてよ」

「奴の卑怯には慣れました。次は必ずや首を討ち取ってみせます……!!」

 

 暑苦しいまでに元気の良いランサーの威勢も、討ち取れなかった悔しさに声が歪んでいる。それは京子も同じではあるが、唯では終われはしない。

 

 京子は取り出した伝達用の符に魔力を込める──―まだ、そう遠くには逃げていない筈だ。ならば一階に残る信者達を直ぐにでも向かわせれば、その足取りは追える。

 

 そして、追い詰めたその時こそが、あの女と最後になる。これ以上、野放しになど必ずさせない。京子は眼が開いた符を前に、追撃の支持を飛ばそうと口を開く。

 

「────」

 

 その時、ドガンッ!! と足元から貫く激しい衝撃と爆発音が、京子の言葉を掻き消した。

 

「ッ! 聞こえているのでしてか! 何が在ったのでして!!」

 

 突然巻き起こった衝撃に、京子は一度口にした指示内容をも忘れて、人型の符に向けて必死に叫ぶ。そして、返って来るのは、何かが激しく燃え立てるような音と、それに紛れて喉が焼けただれたようにかすれた声。

 

『……み……さ、ま……』

 

 それは腹心である信者の声だ。喉が焼け爛れたかのようなしゃがれた声が、京子の意識を符越しのその先へと釘付けにする。

 

 何が起きたのか、そして無事なのか。神の如き巫女であるにも拘らず、まるで祈るように人型の符を握り締めてしまい、必至にその続きの言葉を待ってしまう。

 

『ど……か、われ、ら……おす……くい……さい』

 

 だが、それを最後にしゃがれた声は聞こえなくなった。

 

 人型の符が灰となる。まるで、その先に居る命が消えたのを示すように。

 

「親方様!! 玄関口から火が出ております!! おそらく何かが爆発したのかと!!」

 

 ベランダに出たランサーが、その下を覗き込んでそう叫ぶ。既に黒煙が空に向かって昇って行くのも見えている。

 

 だが、京子に取っては、どうでも良い。

 

「ランサー」

 

 京子はランサーに問う。振り向いたその顔が、まるで恐れるように顔が歪む。

 

「私は、日平和教の巫女。日ノ本を救う為の象徴でして」

 

 ──―きっと、信者達もそう望んでいる。彼らは日平和教の為にその命を賭し、そして死を目前にして、京子へその望みを託した。

 

「私の言葉は日平和教の総意。私の言葉は日ノ本の声。私が何かをするのであれば、それは救うべき民の為。故に、コレは私の言葉ではなく、巫女としての勅令でして」

 

 ──―だから、この胸を激しく焦がすのは、断じて怒りなどでは無い。ただ日平和教の巫女として、そして日ノ本の声として、当然の結論。

 

「あの女を、何が在ろうと必ず殺すのでして」

 

 故に、あの女は生かしてはならない。日平和教(私)に害為す存在は、殺さねばならない。

 ──────────────────────────────────────────────ー

「それでマスター、これからどうするおつもりで?」

「暫くは身体と魔力と回復かなぁ。流石のアタシもズタボロって訳よ。ちょっと休みたいかなぁって」

「と言う事はと言う事はぁ! 暫くは休みを貰えるのですなぁ!! よっしゃぁ! 積みゲーと積みプラモを消化せねばぁ!!」

「全く、アンタの趣味は意味が分からないわ。まぁ他の奴に目を付けられない範囲で好きにやってたらぁ?」

 

 

 

 

 

「でも、計画は変わらない。それまで精々楽しみにしときなよ、ライダー」

「ハッ。それでこそ俺のマスターってモンよ」

 




なお、セイバーと榊達は先にホテルから脱出している為、何があったか知りません。

これにて、序章終了……!!50話以上の序章とか、流石に長すぎる……!!ようやく話が動き出すぞ!!

序章終了、という事で次回はお休みをいただきます。一章終了毎に、お休みを頂ければと……

『追伸』
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