Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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特訓、日常、料理

 そう言って何処に連れて行かれるかと思いきや、榊に連れて来られたのは何の変哲もない土手河原だった。

 

「何でこんな所に連れて来たんだよ。何もねぇじゃねぇか」

 

 近くに小川が流れているくらいで、それ以外は短い草が生え揃う広い空き地だけ。こんな何の面白味も無い場所に、どうして連れて来たのかと疑問に思ったが、セイバーはその理由は直ぐに分かった。

 

 榊が、木刀を構えている。

 

「成る程、オレとやるってのか?」

「まぁな」

 

 たかが人間が英霊相手に勝てる筈もないと言うのに、下手くそな構えで木の刃を向ける榊。

 

「覚悟だけじゃどうにもならねぇのは、痛い程に良く知ってる。だから俺は強くなりてぇんだ」

 

 そう自分に刷り込ませるように呟く榊を見て、セイバーは思わず笑いが込み上げた。

 

 自らが矮小だと知りつつ、少しでも理想に近付く為に足掻く姿──ーそういった馬鹿無鉄砲は大好物だ。

 

「良いぜ、飽きるまで付き合ってやる」

 

 セイバーも木刀を構え、その意気込みに応えてみせる。興が乗ったというのだろうか、普段なら遊んでやる程度で済ませるが、今回ばかりは本気の構えを以て、榊に真っ向から対峙する。

 

 そこからは何の変哲もない朝の河原に、ちょっとした戦場が誕生する。幾ら真剣では無いとは言え、剣呑な空気が迸り、爽やかな朝の風に乗って緊張が迸る。

 

「言っとくけど、男とか女とか関係無く平等に容赦しねぇからな!!」

「アァ!! ンなの当たり前だろ!! ボコボコにされても泣くんじゃねぇぞマスター!!」

 

 そして互いの木刀が交差して……。

 ──────────────────────ー

「うぁぁぁぁぁぁ!! 兄ちゃんの顔面がボコボコに腫れ上がってるぅ!?」

「わげばぎがないでぐれ」

 

 その結果、原型が留めないレベルで、榊の顔面はボコボコにシバかれた。

 

「セイバーが兄ちゃんをボコボコにしたの!? 酷いよ! 兄ちゃん弱いのにイジメるなぁ!!」

「しょうがねぇだろ。コイツが弱ぇ癖に何度も刃向かってくるからよ」

「あのぉ、俺のごごろをえぐらないでぐれまず?」

 

 榊としては心と身体もボロボロだった。思わずメンタルがブレイクしそうになる所を、グッと持ち前の精神力で食い縛る。そして、冷凍庫から取り出した氷をビニール袋に詰めて、腫れあがった顔を冷やす。

 

 その時であった──ーグゥゥゥゥゥ!! と氷のヒンヤリとした冷たさに、傷だらけの精神を癒している途中、盛大に鳴る腹の音が、榊の耳元でがなりたてる。

 

 その腹の音はセイバーか直葉か。どちらかは分からないが──ー先に言い出したのはセイバーだった。

 

「動いたら腹が減ったな。マスター、飯」

「アタシもぉ! 兄ちゃんご飯ー!!」

「怪我人に飯を作れと? この畜生どもが」

 

 少しだけ腫れが引いて、クリアになった視界で壁掛け時計の針を見る。短針は既に9時を過ぎており、丁度朝食ぐらいの時間だろうか。

 

「もうこんな時間か……しょうがねぇな。ちょっと待ってろよ」

「よっしゃ! 頼むぜマスター!!」

「分かったー! そうだ兄ちゃん!! 待ってる間ゲーム借りるね!! ゾンビバンバン撃つ奴!!」

「おう待て直葉! それはまだクリアしてねぇ!! オレが先だ!!」

「はいはい、良いから仲良くゲームでもしてろ」

 

 ギャアギャアと一つしかないコントローラーを奪い合う馬鹿共は放って置くとして、榊は丁度目の前にある冷蔵庫を開いて、その中身を確認する。

 

 昨日で冷蔵庫の中身はスッカリ使い切ったと思ったが、まだ少しだけ余っていたらしい。と言っても、合い挽き肉に豆腐、それと長ネギにシメジにエノキ……まぁ、それだけあるなら充分だろう。

 

「さぁて、作りますかぁ」

 

 頭の中でレシピが決まれば、後は作るのみ。榊はそれら一式をズラリと台所のまな板の上に並べると、早速包丁を片手に、先ずは長ネギに手を伸ばした。

 

 先ずは長ネギを斜め切り、豆腐はソッと正方形にカットし、キノコ類は石付きを切ってバラバラに、続いてごま油をフライパンに敷くと、充分に熱してから合い挽き肉を炒め始めた。

 

「ほいっと」

 

 ある程度まで合い挽き肉に火が通ったら、切った長ネギや豆腐、キノコをザッと投入して、全体が萎びるまで炒めたら、水、醤油、酒、みりん、砂糖をぶち込み、蓋をしてタイマーをセット──ーその間に水溶き片栗粉を用意しておく。

 

 そこでふと、セイバーと直葉が仲良くしているのか気になって、ビーカーの中で水と片栗粉を混ぜながら、どうしているのかと、台所からリビングに向かって顔だけを出す。

 

「ギニャァ!! セイバー来てるって!! ほらソコ! 土管からゾンビがウヨウヨ出てるってぇ!!」

「わぁってる!! わぁってるからオレに触んじゃねぇ!!」

 

 さっきまで揉めていたくせに、結局は二人仲良く協力プレイをしているようだった。やっぱりアイツら仲良いだろと思いながら暫く眺めていると、セッティングしていたタイマーが五分経った事を電子音で報告してきた。

 

「おぉ、出来てる出来てる。後は……」

 

 フライパンの蓋を開けて、如何にも旨そうな良い匂いをするのを確認すると、水溶き片栗粉を溶かしてトロみを付け、少しだけ弱火で加熱する。そして最後に特大の大皿に盛り付けれやれば……。

 

「よぉし完成だ。2人とも飯出来たぞー」

「やったぁぁぁ!!」

「よっしゃ! 早く食わせろ!!」

 

 榊が盛り付けた大皿の飯を持ってくると共に、2人ともコントローラーを投げ出して、猛然と食い付いて来る。その後ろでは、ゾンビに齧り付かれて主人公が死んでいるが、どうやら構わないらしい。

 

「はいはい、落ち着けって。今持って行ってやるからよ」

 

 そんな今にも被りつきそうな猛獣達を抑えつつ、テーブルの上に大皿をドンッと置くと、榊は一緒に持ってきたスプーンを2人へ手渡す。

 

「ほらよ、すき焼き風肉豆腐だ。食え」

「すき……焼き? それと豆腐? なんだそりゃ」

「えぇー! セイバー知らないの!?」

 

 どうやらセイバーは、すき焼きと豆腐という言葉を知らないらしい。まぁ見た目からして日本人では無いだろうし、当然と言えば当然だろう。

 

 だとしたら面白い。この味覚原住民であるセイバーにジャパニーズ文化を叩き込む良い機会だ。榊は頭の中で浮かんだ往年のプロレスラーを想いつつ、にこやかスマイルでサムズアップしてみせる。

 

「食ってみな、飛ぶぞ」

「お、おぅ……な、何だこの白いプルプルは……く、食えんのか……? それに肉も少ねぇしよぉ」

 

 初めて見る料理、特に豆腐に対してセイバーはスプーンの上で滑らして、疑念の眼で見つめている。幾ら畏れ知らずであっても、見た事もない食材には躊躇いがあるらしい──ーだがやがて覚悟を決めたのか、遂に口の中へと踏み出した。

 

 一度は咀嚼し、ごくりと飲み込む。喉と舌でゆっくりと味わい──ー。

 

「ウメェ……ウメェぞ!! 何だコイツァ! 肉じゃねぇのに肉の満足感が胃にぶち撒けてきやがる!! しかも甘くて濃い味がまたタマんねぇぜ!!」

 

 そして、美味いと分かるや否や、一気にキラリと目を輝かせた。

 

「おいどう言う理屈だこりゃ!? 特にこの白い奴!! 何の味もしねぇ筈なのにやたらとボリューミーでよ!?」

「はいはい、豆腐な。単体じゃ味気ねぇけど、肉とかに合わせたら良いカサ増しになるんだわ」

 

 豆腐はそれ単体では無味──ーしかし肉と合わせれば、途端に足りないジューシーさを補うスーパーフードと化す。更に、すき焼きのような濃い目の味付けをしてやれば、いよいよ本物の肉と遜色なくなるのだ。

 

「畜生! 肉じゃねぇのに!! 肉じゃねぇのにウメェェェ!! どうながってやがんだ!! どうなってやがんだよぉ!!」

「ちょセイバー!! アタシの分まで食べるつもりでしょ!! うぉぉぉアタシも負けてられるかぁぁぁぁ!!」

 

 そうとは露知らず、セイバーはまるで人の味を覚えた獣が如く、ハムスターのように頬袋一杯まで肉豆腐を口の中に掻きこみ続ける。それに負けじと直葉も猛然と食らい付いて行く。

 

 だが──―どうしよう、作り置きも考えて8人前を作っておいたのに、見る見る内にセイバーと直葉の胃袋へと吸い込まれていく。自分の分もと思っていたが、この様子では残り汁すらも食べられるかさえ怪しい。

 

 かと言って箸を伸ばそうにも、激しい奪い合いに手を出す暇すら無かった。そこで榊は恐る恐る聞いてみる。

 

「あのぉ、俺の分は?」

「「ない!!」」

 




因みに河原での決闘は、ただセイバーが榊をタコ殴りにしただけで終わりました。

流石セイバーさん、マスター相手に容赦ねぇや。


『追伸』
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