Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
「ひもじぃ……ひもじいよぉ……」
結局、汁の一吸いすらも手を付ける事無く、二人にペロリと完食されてしまった。だからこうしてご飯がわりに親指をしゃぶって、榊はベッドの上で不貞腐れていた。
「ぷはー! 食った食ったぁ!! また頼むぜ!!」
「兄ちゃんのご飯サイコー! 超美味しかったぁ!!」
飢える榊の隣で、2人は幸せそうに腹を抱えている。如何にも満足ですと言ったすがすがしい顔をしていて、思わずちょっとした殺意が湧き上がってしまいそうだ。
とまぁ──―それはそうとして、そろそろあの事を言わないとな。榊は口から親指を離して不貞腐れるのを止めると、つかの間の日常にゆるんでいた顔を今一度引き締める。
「直葉。お前一回家帰れ」
「へっ!? まさかアタシまた何か」
「いやチゲェよ」
何か感に触ることでも!? と、直葉は一瞬怯えた顔を見せるが、呆れて溜息を吐く榊に、それが勘違いだったと、ホッとした息を吐く。
「お前、親父達に連絡してねぇだろ。今頃心配してんじゃねぇのか」
「ヴッ!!」
だが直ぐに、蛙の断末魔のように喉を詰まらせた。
──―どうやら図星らしい。この猪突猛進を具現化したような妹の事なので、簡単に予想は付く。それで一日帰って来てないとなれば、いよいよ警察に迷子届けが出されていてもおかしくは無いだろう。
「で、でもぉ……」
だからと言ってまだ帰りたくはないのか、必至に言い訳を思いつこうとして、直葉は目をウロウロと左右に揺らしている。
──―それもそうか。折角、兄妹に戻れたばかりだ。今まで会えなかった分、もっと榊の傍に居たいと思っているのだろう。そんな気持ちが分からない程、榊は馬鹿ではない。
そもそも、榊もまた、同じ気持ちだ。これまで兄として何も出来なかった分、せめて妹の細やかな我儘を聞いてやるぐらいの器量は持ってみせる。
「……此処に泊まりたいたいなら一回、実家に帰ってお泊まりセット持って来い。話はそれからだ」
「えっそれって!!」
「折角の妹が遊びに来てんだ。こんなボロい部屋で良ければな」
「兄ちゃぁぁぁぁん!!」
「グフッ!?」
そう言ってやった直後、まるでコーナーリングからのボディプレスが如く、飛び上がった妹が降り注ぎ、丁度その肘が鳩尾にクリティカルヒットする。
「やっぱり! 兄ちゃんはアタシにはゲロ甘だから良いって言うと思った!! 兄ちゃん大好きぃ!!」
「分かった! 分かったから!! デコをグリグリするんじゃねぇ!! 鳩尾に連続HITしてるから!!」
高速でグリグリとデコを打ち付けられて、榊の鳩尾がそろそろ限界に近い。空っぽの胃の中をリバースする前に、伸し掛かった妹を無理矢理引き剥がす。
「兎に角! 一回家に帰って親父達に会う!! そんでお泊まりセット持って来てから戻ってこい!!」
「うん分かった!!」
そう元気良く返事するや否、直葉は疾風の如き勢いで、そのまま玄関へと飛び出して、転がっていた運動靴に足を入れる。そして二、三度、踵で整えると、後ろを振り返って、飛び切りの笑顔で手を振った。
「それじゃあ一旦家に帰るね!! また帰って来るから!!」
ドアを蹴破る勢いで開いて、直葉がそのまま飛び出していく。やがて、扉が自然に閉まると、途端に部屋の中が、やたらと閑静になったような気がした。
「ったく、相変わらず騒がしい奴だな、アイツ。落ち着きと言うのを覚えて欲しいぜ……」
「なぁ、マスター。本当にアイツを置いておくのか?」
ベッドで寝転がるのを止めると、榊はテーブルの上に残った三人分の食器を重ねていく。すると、セイバーがさっきまでとは打って変わって、眉を固く引き締めて、そう尋ねてきた。
「まぁな、そっちの方が安全だろ」
──―昨日の一件で、榊だけでなく、その身の回りの存在に危険が及び可能性を、榊は思い知らされた。ならば、魔術もロクに知らない警察なんかより、
「それに、守るって決めたからな」
それに、決して手を離さない覚悟も、その為に戦う覚悟も既にある。今更それを突き放すなど、出来る筈も無い。
「さてと、俺もやる事やるか」
一通りの食器を流し場に納めると、スウェットのポケットから、スマホを取り出して電源を入れる。そして電話アプリの連絡帳にパラパラと指を滑らせていく。
「そんなチィセェガラス板なんぞで、何やってんだ?」
「そうだな、先ずはバイト先に有給申請だろ? それと久し振りに親父達にも連絡入れて、更に飯の買い出し……」
横からスマホを覗き込むセイバーに聞かれ、頭の中でボンヤリと浮かんでいたやるべき事を、具体的にイメージしていく。そして、その中で一番重要なのを考えると、真っ先に思い付くのは──ー
「最後に、あの巫女お嬢様に連絡だな」
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『本当に、大丈夫なのか? 浩一』
「大丈夫だって言ってんだろ、親父。俺は元気でやってるよ」
電話越しで久し振りに聞く父の声は、少しやつれたようにしゃがれている。それが自分のせいだと思えば、言いようも無い罪悪感が、榊の喉を詰まらせてしまう。
しかし──ーだからこそ、向き合わなければならないと思えば、喉に詰まった罪悪感も、自然と溶けてなくなる。そして、代わりに言うべき言葉が自然と流れ出した。
「とにかく頼む、ウチに直葉を預からせてくれ」
『……父さんな、正直後悔しているんだ』
気の小さい父の少しだけトーンの下がった言葉が、スマホのスピーカー越しに、垂れ下がった頭へ重く伸し掛かる。思わず赤い切断ボタンを押したくなる衝動を抑え、榊はその先を黙って聞き続ける。
『あの時、ちゃんと向き合ってさえいれば、お前が家を出て行くなんて事にならなかったんじゃないかって』
「……親父は何も悪くねぇよ。全部、俺のせいだ。俺がバカやったからだよ」
──―そうだ。結局の所、全て自分の弱さが招いた事だ。それ故に、現状から、直葉から、そして唯一の家族からも逃げた。だが、今は違う。
「もう大丈夫だ。親父も明子さんも、心配しなくて良いっての」
電話越しだと言うのに、作り笑いを浮かべて、榊は何事も無いように嘯く。
──―本当はまだ、忘れてはいない。それでも、引き摺っていようが立ち上がなければ、きっと大事な物は護れない。それが分かったからこそ、この虚勢を崩す訳にはいかない。
暫くの間、電話越しで何かを考えるように無音が続く。やがて、覚悟を決めたかのように重々しい口振りをした、父の声がまた聞こえる。
『──―浩一。直葉を頼むよ』
「任せろって、直葉には怪我の一つもさせねぇ」
その言葉にだけは嘘偽りは無い。例えこの先で何が起きようと、それだけは必ず約束すると固く誓い、赤い通話終了のボタンを押した。
一息吐いて、街路樹の木漏れ日から覗く快晴の青空を見上げる。そこから見える眩しい太陽は、夏盛り真っ只中とばかりに、肌を痛いくらいに熱波で照り付けて来る。この調子だと、早く帰らなければ、折角買った食材達が腐ってしまう。
「随分と嘘が上手いな。
隣に座っていたセイバーが露骨なニヤケ面をして、口に加えていた棒アイスで指差す。さっき買ったばかりだと言うのに、もう溶け始めているようで、そこから青透明な雫が、間に置いたエコバックの中に垂れ落ちようとしている。
「お前と違って、こちとら小心者なんでな。いっそ大袈裟なくらいに演じる方が丁度良いんだよ」
──―今更、セイバー相手に強がりも見せてもしょうがない。アイスの雫が入らないように、袋一杯のエコバックを反対側へ移しつつも、片意地を張っていた力を抜いて、榊はベンチにふんぞり返る。
だが、それも最後に残ったタスクを思い返せば、途端に脱力した身体が強張ってしまう。寄りかかっていた背筋を伸ばし、榊はもう一度スマホを手に取る。
「後は、アイツに電話するだけだ」
父親、バイト先の店長と、その下に続く通話履歴に、指をタップする。駄目で元々の方法ではあるが、それ以外に榊は連絡手段が思いつかない。
一度、二度、三度のコール音──―そして、プツリと音が鳴り、その直後に少女の声。
『貴方から連絡をするとは、どのような心変わりでして?』
「俺だって自分の心変わりにビックリしてるっての」
御淑やかに澄ませた少女──―親水 京子の毒づきに物ともせず、榊は皮肉で返してみせる。すると、電話の向こう側から、合格とでも言いたげに、少しだけ満足げな鼻息が吹き込んだ。
『それにしても、良く私の連絡先を知っていたのでしてね? もしや調査でもしていたのでしてか?』
「いや、一度俺に電話掛けただろ。それリダイヤルしただけだぞ」
『リダ……イヤル?』
「……お前、もしかして電話を一方的に掛けるだけの機械とか思ってないよな?」
『……そんな事はないのでしてよ』
絶対に嘘だ。今の最先端を生きる若者だと言うのに、機械知識が黒電話時代のおばあちゃん並とは、どういう事なのだろうか。
『私を馬鹿にしたいだけでしたら、切らせてもらうのでして。何せ貴方のような一底辺と違い、忙しいのでしてね』
「待てって! そうじゃねぇ!! 話があるんだ!」
危うく電話を切られそうになる所を必死に呼び止める。その時点で、ブツ切りをされてはいないので一応、話を聞く気自体はあるようだった。
──―スマホから顔を離し、不規則に変わる呼吸を整える。これから、
肺一杯に満たす深呼吸で、緊迫する身体をほぐしていく。そして自然体に馴染んだ後、言葉が止まらないように一息に吐き出す。
「もう一度だけ、俺に会ってくれ」
『ほぅ……あの話の続きを聞かせてくれるのでしてか?』
──―忘れてなどいない。一昨日、呼び出された公園で、この怪物から提案された取引。
「あぁ、そうだ。ぶっちゃけ殺すとか、そんなんのは分からねぇけど」
渇きを見せる喉を、飲み込んだ唾で湿らせる。未だに誰かを殺すと思うだけで震える手で、耳に翳すスマホを強く握り占め、それでも決意で滾らせた瞳で、曇り一つない空を仰ぐ。
「戦う覚悟なら、出来た」
──―即ち、榊が選んだのは、誰かを殺す事でも敵対する事でもなく、戦う事だ。これ以上、大事な物を失わない為に、その意志で
『そうでしてか』
短い相槌の後に続いた長い静寂が、ウルサイぐらいに喚く蝉の鳴き声を際立たせる。やがて、もう一度だけ京子が尋ねる。
『もう一度お聞きしますが、その覚悟に偽りは無いのでして?』
「あぁ、男に二言はねぇよ』
何度聞かれようと榊の答えは変わらない。だが、今度は違った角度からの質問が返って来る。
『例え、私が貴方を裏切ったとしても?』
「寧ろ上等だ。その時は俺とセイバーで、テメェのランサー諸共ぶっ飛ばしてやる」
榊はいっそ挑発する様にせせら笑う。今更、誰が相手だろうと構わない、そう決めてしまったのならば、例えそれが英霊相手だろうと、押し通すぐらいの覚悟は出来ている。
そして、今度は暫くとは言わず、一拍を置いてから、京子が答えを返した。
『良いでしてよ。ならば貴方にもう一度チャンスを与えてあげるのでして』
どうやら京子からしてみれば、榊が導き出した回答は合格点だったらしい。それが分かるぐらいに、その声が殊勝気に弾んでいる。
「そうか、そりゃ助かる」
上手く交渉を押し通したというのに、榊は安堵の息1つも漏らす事が出来ない。結局は全て、電話越しの巫女に転がされただけのような気がしてならない。
──―だが、それでも少しは巫女と同じ土台に立てた。それで良い、先ずはそこから始めれば、後は転がるように全ては進んで行く筈だ。
『でしてか、駒を働かせるには、先物が必要でして。金でも女でも何でも用意してあげるのでして』
すると今回のご褒美とでも言うのだろうか、京子が何とも悪の親玉みたいな提案をしてきた。
さてどうしようかと、榊は考えてみる。金……は、後でトイチの金利とか請求されそうだし、女は……今の所、セイバーと直葉の世話でも手に余る。かと言って、何も貰わないのも、それはそれで信用されないだろう。
…………よし、決めた。
「それだったら……」
金か女か選べと言われたら、私は迷わず金を選びます。
それで売れなくてもいいから百万部ぐらい自作小説を出します。
やっぱり書籍化ってロマンですよね……
『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。
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