Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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閑話:狙う英雄の眼差し

 神宿市は地方都市ではあるが、比較的に発展している都市である。

 

 近年の過疎化防止として、地方の一部を準都市化して人口流出を防ぐ政策が施行されており、そのモデルケースとして、神宿市には大量の予算と人員が派遣されている。その為、再開発地区や都庁の移転など、様々な急発展を遂げている。

 

 そんな上空から見れば、まだ未開発な更地や建設現場の暗闇が目立つも、中心部は高層ビル群やマンションの灯りが集中するアンバランスな斑模様になっている。一万ドルの絶景とは行かずとも、その半分ぐらいの価値はあるだろう。

 

 そんな街並みを、神宿市の中心のオフィスビル屋上で、見下ろす2人が居た。

 

「わぁー……お星様みたい」

 

 一人は年端もいかない少女──パディは、初めて見る都会の夜景に負けないくらいに目を煌めかせ、魅入っていた。

 

「きゃ!」

 

 不意に高層特有の強い風が屋上に吹き曝された。それに煽られ、パディの小さい身体が揺れるが、先んじて、その胸元に長い手を回してソッと支える。

 

「大丈夫ですか。マスター?」

「ご、ごめんなさい……王子様」

 

 パディは背中を支えられて立ち直ると、途端にしおらしく目を俯かせてしまう。それを見ると、もう一人の青年──『アーチャー』は軽く膝を付いて、小さい背丈と同じ視点に合わせると、自身の緩めた口角を示す。

 

「いえ、貴方の身が無事であれば何よりです」

「王子様……ありがとう」

 

 申し訳なさそうに俯いていたパディの目が、暫しの間だけ呆然と見開く。だが、自分が怒られていないと分かると、また自分よりも背が高い柵越しに眼下に広がる夜景に魅入ってしまった。

 

 それに合わせて、アーチャーも高層ビルから広がる神宿市の夜景を眺める。だが、パディとは文字通り、その目に映る視野は全く違う。

 

 アーチャーの眼──千里眼は、遥か彼方の物さえ明確に捉える事が出来る。見ようと思えば街の最端の工事現場の、重機のタイヤのボルトを指折り数える事が出来るぐらいには、遠くを見通せるだろう。

 

 その眼を通じて、見ているのは、神宿市全体を流動する人間達。都市であれば、体内を回る血液のように、絶え間なく誰かしらが循環している。それは街全体を見通せるアーチャーだからこそ、分かる論理だ。

 

 そして、流れが途絶える──誰もいない地帯があれば、そこにはかならず理由がある。それは偶発的ではなく人為的、あるいは魔術的な要因だろう。

 

 その途絶えた循環を見つけるべく、上空の視点から街全体を俯瞰するように眺め続けていると、アーチャーはついに見つけた。

 

 此処から遠く南端に離れた大通りだ。俯瞰でも分かる静まり返ったその道を。青年2人と少女1人、そしてサーヴァントと思われる異なる鎧姿の2騎が歩いていた。

 

(あんな少年少女でさえ、聖杯戦争に……)

 

 見据えている瞳が自ずと険しくなり、敵である筈なのに、思うが故に胸が痛む。

 

 ──聖杯戦争に参加するのに、年齢は関係ない。高齢の人間が選ばれやすい傾向はあるが、優秀な魔術師により令呪が宿りやすく、必然的に熟練した者が選ばれるというだけだ。

 

 だから、まだ17歳の青年や14歳の少女参加しようとも不思議ではない。だがそれでも……。

 

「いや……私はもう以前のような『英雄』ではない」

 

 アーチャーは隣にいる無垢な少女を見る。

 

 最早、万民の幸せを願い、敵を退ける『英雄』ではない、たった一人の少女の幸せを望み、その為に立ちはばかる敵を射殺す『英雄』。

 

 その為ならば、もう一度手を汚す事も覚悟している。

 

「さて、そろそろ降りましょうか」

「えっ……うん……」

 

 高層からの偵察と心境の整理に、一通り片が付いたアーチャーは、柵に乗りかかっていたパディを優しくコンクリートの地面に降ろす。すると、少し勿体なさそうな呟きが聞こえた。申し訳ないとは思うが、余り長居をして、他のマスターに見られるリスクを考えれば、仕方がないだろう。

 

「それでは、私にシッカリと掴まっていてくださいね」

「分かった、王子様」

 

 アーチャーはパディの小さい体を胸元に抱え、そしてシッカリとその腕が首に回された事を確認すると、柵の上へと足を掛ける。

 

「それでは、行きますよ」

 

 そして、此処へ来た時と同じように、柵の上からトンッ、と軽い音を立てて跳躍した。それはまるで、アーチャー一人だけが無重力空間に居るようで、高層オフィスビル群の摩天楼間を、さも自由に飛び回る。

 

「やっぱり王子様って凄い!!」

「気に入ってもらえたようで何よりです」

 

 高度で吹き抜ける都会の風で、買ったばかりの白いワンピースをはためかせながら、パディが興奮気味に鼻をフンスと鳴らす。どうやら、先程の絶景よりも此方の方をお気に召してもらえたようだ。

 

 そんな中、オフィスビルが織りなす夜の摩天楼から覗く隙間から、アーチャーは最後に一度だけ、高層からの景色を千里眼で見通し、人気の無い路地を歩く茶色の髪をした青年の顔を見る。

 

 ──あの青年は、隣で歩く少女と違い、どう見ても魔術師には見えない。きっと何か事情があるのだろう。

 

 だとしても、アーチャーがその顔を見据える瞳は、鋭く尖ったまま変わらない。

 

 聖杯戦争に勝利するには、己以外のサーヴァント全てを討ち取る必要がある。その為ならば、あの青年の命を奪う必要に迫られる時があるやもしれない。だが、その時にはきっと躊躇はしないだろう。

 

 何故なら、アーチャーは最早、万民に望まれる英雄ではない。望まれずとも、たった一人の幸せの為に弓を放つ英雄だ。

 

「いつか、会いましょう」

 

 だからこそ、いつか敵として相まみえるその時を、アーチャーは密に覚悟する。

 




今回から、本編以外のサブエピソードとして、閑話を投稿していきます。

基本、閑話は短い物が多いので、一部を除いて、本編と合わせて同時投稿していく予定です。

『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。

https://x.com/8f8qdLIQID34426

作品の高評価や感想は何時でも待っています!!

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