Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
──コレで兄ちゃん家に居られる。マンションの階段をタタタッと小刻み良く駆け上がる直葉の顔は、嬉しさに弾んで緩み切っている。その背中には、着替えやゲーム等など、お泊りセット一式が入ったリュックが抱えられていた。
「夏休みはずっと兄ちゃんチに居られるかなぁ!!」
榊の言う通りに一度家に帰り、直ぐに母親と義父に暫く兄ちゃんの家に泊まらせて欲しいと頼み込むと、いっそ拍子抜けするくらいアッサリと了承してくれた事をふと思い出す。それに対して違和感を覚えなくは無いが、今の浮かれた頭ではそんな疑問すらも思いつかない。
「えぇっと、408、408……あれ? 409だっけ」
そんな事を考えている内に、目的の四階にまで辿り着いてしまう。直葉はうろ覚えの数字をそらんじながら、マンションの廊下に並ぶ扉の前を一個ずつ確認していく。そして『409』と表札に書かれた番号を見た時に、頭の中でピンッと来た。
その部屋の扉に手を掛けると、帰って来るのを待ってくれていたのか、カギは掛かっていない。それを良い事に直葉はそのまま勢いよく扉を開き、兄の家へと飛び込むように押入った。
「ただいまー!!」
靴なんて忽ちに脱ぎ捨て、直葉は玄関へと滑り込む。そこには廊下と併設された台所に立って、少し甘めの良い匂いがするフライパンを振っている兄の立ち姿。
それを見た時、直葉は少しだけ胸の奥が温かみを帯びたような気がした。何て言えばいいのか分からないのが、本当に帰って来たというような感じがして、思わず目じりが熱くなってしまう程だ。だが、兄が此方に気が付いて振り向いたのと同時に、直葉はその込み上げた物を拭い取る。
「よぉ、帰って来たな直葉。もう直ぐ昼飯出来るからサッサと座れ」
「うん! 分かったぁ!!」
そして、兄の言葉に首をブンブンと振って頷くと、その背中を邪魔しないように通り過ぎて、居間のドアに手を掛ける。
そう言えば、セイバーも兄ちゃんチに泊まるのかな? それならゲームの決着付けないと──兄とは違うもう一人の同居者の事を思い出し、昼飯の後の予定に直葉は胸を弾ませる。
そうして開いたドアの先に居たのは、予想通りセイバーが──そして、もう一人。
「ってアレ? 巫女服の姉ちゃん!?」
「巫女は辞めるのでして小童。私は親水 京子という名でしてよ」
持参したらしい湯呑みで、湯気が立つ粗茶を悠々と嗜む、あの巫女の姉ちゃんも居た。
「まぁ兎に角、座るのでしてよ」
「う、うん……?」
どうして兄ちゃんの部屋に巫女の姉ちゃんが? と疑問を持つ間もなく、まるで家主のような態度でその巫女の姉ちゃんが促してくる。呆然とした思考では、それに従うがままに座る他無かった。
しかし、その座った場所が悪かった。直葉が座ったその場所は、右を見れば、涼しげな顔で真正面を見つめる京子が。左を見れば、
「おう腹黒女。テメェどの面下げてオレの前に来やがった? その首叩き落とされてぇのか?」
「あらあら、私はそこで料理している阿呆に呼ばれて来たのでしてよ? 主人の客を持て成さないとは、随分と躾のなってない駄犬でして」
「よぉし決めた! テメェ絶対殺す!! マスターなんざ知ったこっちゃねぇ!!」
「殺せる者なら殺してみるのでして。最も、貴方のような単細胞の阿呆如きでは到底無理でしてかね」
目の前で
どうして巫女の姉ちゃんが兄ちゃんチに? というかセイバーとスッゴイ仲悪いし、もしかしてコレって『サンカクカンケイ』って奴なの!? 兄ちゃんで『オンナタラシ』って奴なの? 何が何だが分からない状況に、大して賢くも無い脳がグルグルと考え出して、頭が可笑しくなりそうになる。
「何つう醜い争いしてんだよ、お前ら……ほら昼飯が出来たから食え」
だがその似合わない苦笑いもグルグル巡る疑問も、丁度完成したフライパンの縁一杯に盛り込まれた肉ジャガによって、涎交じりに緩んだ顔に早変わりしてしまった。
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「おっ! 今回も美味そうじゃねぇか!! そんじゃあ」
「待つのでして」
榊が予め敷いていたコースターの上にフライパンを置くと、フォークを片手に携えたセイバーが、見っともなく涎を垂らして途端に食らい付こうとする。だが、それを京子が冷静に手で差し止めた。
「良いでしてか、食べる前に先ずは食物への感謝を込めて」
「知るかんなの! 飯は早いモン勝ちだ!! 食えりゃあ良いんだよ食えりゃあ!!」
しかし飢えた獣が耳を貸す筈もない。邪魔をする京子の手を乗り越えて、セイバーのフォークがフライパンの中央へ豪快に突き刺さる。そして、その先端に何枚も重なる豚肉の山を、たったの一口でパクリと平らげた。
ェ! 朝食った奴みてぇ味だけど、此処まで変わるモンかよ!!」
「全く……これだから教養の無い者は」
「まぁまぁ巫女の姉ちゃん! 早く食べないとセイバーに全部食べられちゃうよ!! それじゃあ頂きまーす!! ウンマァァァァァ!!」
呆れて口をへの字に曲げる京子の横で、榊の妹である直葉も、肉ジャガへ手を付ける。食事前の挨拶をする点、まだ行儀良い方に見えるが、一口肉ジャガを食った途端に、ビックリするぐらいの速さでセイバーと同じ知能指数にまで落ちぶれた。
「スグハ! それは俺のモンだぞ!! テメェはジャガイモでも食ってろ!!」
「ヤダ! セイバーと違って、アタシはウェイクアップする年頃なんだよ! 肉は全部アタシのモンだい!!」
「「ガルルルルゥゥゥゥゥ!!」」
肉とジャガイモ、箸とフォークが入り乱れる大乱闘が、フライパンの頭上で繰り広げられる──その様を側から見ていると、さながら飼育員がばら撒く餌に群がる畜生の如くであった。
「コレが庶民の教養でしてか……どうやら認識を改めなければならないのでしてね」
「言っとくけど、コイツらが家庭の一般じゃ無いからな。だいぶ特殊な方だぞ」
こんな家庭内サバイバルが普通だと思われると、庶民代表としては溜まったモンじゃない、とでも言いたげに榊は眉を潜ませる。だが、初めて見る庶民の食卓の風景がコレでは、京子としては俄かに本当なのかは信じがたい。
「ほらよ、お前も食えって」
「……あの畜生共の争いに混ざれと?」
「それが報酬だからな」
思わず図星を突かれてしまい、自分でも意識しない内に、京子の眉は分かりやすく引き攣る。
「直葉から聞いたぜ。覚えてはねぇけどお前、俺の事を助けてくれたんだろ? まぁ、別の目的があんだろうが、それはそれとして礼は死ねぇと行けねぇしさ」
──確かに昨日、あのホテルのエントランスまで直葉に対し、兄である榊を助けると嘯いた。それに、途中までではあるが、セイバーとも共闘もしている。
だからと言っても、同盟の条件に金や女の代わりに、自分の飯を食べさせる事を要求するとは誰が思いつくのだろうか。そして、一度飲んだ以上、京子には何が何でも食べる道しか残されていない。
「ほら、良いからサッサと食え」
「でしてか、私は庶民とは、あむ!?」
長々と講釈を垂れようとする京子の口に、問答無用で豚肉と舞茸を掴んだ榊の箸を突っ込まれる。すると、条件反射でそのままモグモグと噛み締め始めた。
「んぐ……」
──―歯に感じるのは、良く味が染み込んでほろりと崩れるじゃがいもの食感。そして、舌の中で豚肉と柔らかい何か丁度よく絡み合って、雪のように蕩けていく。
「どうだ? 舞茸入れて煮込むと、肉が柔らかくなるんだぜ。しかも油を吸って舞茸の方も美味くなるしな」
「ん……」
──―恐らくは100g百数円の豚コマに、それに安いジャガイモやニンジン、舞茸を入れただけのシンプルな庶民料理。だがそれも、こんぎり丁寧なアク抜きや、形が崩れないよう煮込む前に焼く下準備など、所々に細やかなアクセントの積み重ねが、旨味を引き立てている。
「普段は面倒だから作らねぇけど、お前が助けてくれたって直葉から聞いたからな。その礼をしたくてな」
照れ臭そうな阿呆(榊)が何かを言っているが、今の京子に聞き入れる余裕はない。ただ口の中で躍る旨味の物体を噛み締める事で手一杯だった。
──―悔しい……悔しいのでして!! 日平和教の教祖として、日々贅の限りを尽くしたような食事をしていると言うのに! こんなご家庭で出来る安い料理が身体の隅々に染みるなど、しかもよりによって、庶民の権化が作った手料理などで!!
圧倒的な屈辱、陵辱、恥辱。しかし、何時もの食事から感じることの出来ない、手作りゆえの温かみと素朴な美味しさに、京子の身体はビクンビクンと反応してしまう。
最早、認めたくないが、認める他ない……この阿呆が作った料理は美味いと!!
「どうだ、美味いだろ」
「貴方、私の専属料理人になりませんでして?」
「何言ってんだお前」
海〇雄〇クラスの京子の舌を唸らせるとは。
榊さんや……アンタの料理には何が入っとるんや。
『追伸』
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