Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
「さっき言った事は忘れるのでして。さもないと、貴方の頭ごと記憶を焼却するのでしてよ」
どうやら榊が作った肉ジャガをたっぷりと堪能してもらえたらしい。京子はお嬢様らしく持参していたハンカチで、少し茶色く汚れた控え目に口元を拭う。だが、その鋭く睨み付けている眼は人を殺しそうな程に尖っていた。
「はいはい、忘れてやるよ。だからそんな顔すんなって」
そんな思春期少女の可愛らしい抵抗? など、榊は何とも思わない。寧ろ、年相応の姿を見られて良かったとさえ思っている。
「お嬢様の癖に偉くガッツいてたじゃねぇか? そんなにマスターの飯が気に入ったか? ほら言ってみろよぉ」
「分かるよ巫女服の姉ちゃん! 私も兄ちゃんのご飯を初めて食べた時なんてそれはもう」
「そこの2人は黙るのでして。疾く黙るのでしてよ」
……セイバーと直葉は別だが。
流石にそろそろフォローに入れないと、激情態とかに変身しそうで怖い。それに──―と、そこまで考え、榊はポケット入れっぱなしの財布を取り出し、詰め込んだレシート束の中から、適当に千円札を取り出す。
「直葉、これ」
「ん? へぁっ!? こ、こんなに!?」
手渡されたクシャクシャの千円札に、直葉が驚愕に目を白黒とさせている。そんなにかと思ってしまうが、榊に取ってはバイト一時間分でも、小学生に取っては一ヶ月分ぐらいのお小遣いに相当するのだから、当たり前だろうか。
「それで好きな菓子でも買って来い。お泊まり初日の小遣いだ」
「やったぁ!! 兄ちゃん愛してるぅ!!」
たかが千円札一枚で飛び跳ね回るほど嬉しがるとは、中々に現金な妹だとは思いつつも、今回ばかりはその単純さに感謝せねばなるまい。
「それじゃあ行ってき」
「待つのでして」
「ほえっ?」
今にも1000円札を握り占めたまま飛び出しそうな直葉だったが、京子に呼び止められて、玄関に向かい掛けたその足がピタリと止まる。
呼び止めた京子は、袖から何やらゴソゴソと弄ると、陰陽師でも使っていそうな紋様が書かれた符を取り出し、それを直葉に手渡す。
「お守りでしてよ。精々気を付けるのでしてね」
「? ありがとぉー!!」
お守りと言うには、些か仰々しい物だとは思うも、直葉は特に疑問を感じなかったらしい。雑にその符をポケットに突っ込むと、そのままもう一度、玄関に向かって走り出した。
「それじゃあセフトイレブンに行って来る! サラダバー!!」
そして、剥き出しの1000円札を片手に、直葉が玄関から外に飛び出す。あの様子だと、コンビに着いても20分くらいはお菓子コーナーをグルグル回っている事だろう。
「──ーさて」
直葉が居なくなった瞬間、京子の一言で部屋の中を取り巻く空気が変化する──ーバタバタと騒がしかった今までの日常が、閑静に殺伐とした非日常へと移っていく。
「ランサー」
「ハッ」
京子がその名を呼ぶと、人の気配も無かった空間から、ランサーがその隣に膝を突いて、突然に現れる。これが以前に教えられた『霊体化の解除』という奴だろう。
──―以前、公園で取引を持ち掛けられた際、京子はランサーを横に付けなかった。あの時は、無暗に晒さない為と言うのもあるが、きっと榊如きにバレても問題ないと侮っていたのだろう。
だとすれば、役者がこうして全員揃った今、本気で交渉のテーブルに着こうとしている。それを示すかのように、口火は京子の方から切られた。
「さて、それでは取引と致しますのでして」
「あぁ、始めようじゃねぇか」
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──―最初に口火を切ったからには、先ずはその概要を擦り合わせる所からだろう。敢えて京子は簡単な質問を榊に問いかける。
「以前に話させて頂いた通り、私としては是非とも同盟を結びたい所でして。でしてか、それには条件が一つあるのを、お覚えでしてね?」
「バーサーカーのマスターを殺せ、だろ」
「その通りでして」
流石に自分から呼び出しておいて、忘れていましたでは話にならない。そうなっていれば、京子は無言で、この部屋を出ていただろう。
だとすれば、自然と次に聞くべき事は決まっている。
「それに関して、貴方はどうするのでして?」
「ぶっ倒す。そいつが俺達に関わらねぇように、何度でもぶん殴って、心がへし折れるまで追い詰める」
京子は興味深そうに深く頷いた──ー成る程、非常に分かりやすい答えでして。確かに、それなら『聖杯戦争からの脱落』という点に置いては、結果として大差はない。それすらも放棄していた阿呆にしてみれば、非常に成長していたと言えるだろう。だからこそ。
反吐が出る程に、甘ったるい。
「──―魔術師とは、理想を追う生き物でして」
魔術師が何故、魔術師たらしめるのか──ーそれは一重に追い求める理想があるから。魔術とは、その為の道具でしかない。
「原初より受け継がれた理想を追い求め、叶える為に自らの命さえも薪にくべる。それ故に、魔術師とは誰よりも冷酷であり、誰よりも尊き夢を見る者」
──ー初代が掲げる日ノ本の平穏を求めて、どれだけ残酷な歴史を繰り返したのか、そして何人もの信者が、それを夢見て血を流したのか。巫女である己だからこそ、誰よりも理解している。
それでも、止められる事の出来ない──ー止まる事が出来ない理想を追い続けた魔術師達は、誰よりも愚かで、誰よりも強い。
「貴方に、その
故に、魔術師の理想とは、この世のあらゆる物質より強固である。それを打ち砕く刃など、京子は未だ知らない。
果たして、榊はその刃と成り得るのか。
「上等だ。理想が何だろうが、俺の大事なモンに手を出すなら」
それが言えるのは無知故だろう。やはり、目の前の一般人如きが宣う理想論は当てになどならない。
そう結論付けようとした直後──―ゾワリとだ、背筋が凍り付く。まるで死と言う概念が身体中を駆け巡るような緊迫感に、失い掛けた興味が、再び榊の方に向けられる。
そこには、つい最近まで魔術も何も知らなかった阿呆が居る。そんな何処にでもいるような存在に、身体の産毛一本に至るまで
「死んでもぶっ殺す」
──―榊は気が付いているのか。いや、このお人好の一般人は、気が付いていないだろう。
数多の死線を潜り抜けて来た京子でさえ、身震いを抑えきれない程の気迫が、その背から滲み出ている事に。自ら語るその言葉一つ一つに、図りようも無い重みが加わっている事に。
己の中に潜んでいる獣の残滓が、奇しくもその姿と重なっている事に。
「……」
身震いを起こす筋肉を脱力させ、動揺を見せぬように微笑みで表情を固める。そして、改めて眼前で座る人間を見据えて、その意識を変える。
──―初めは、運良くセイバーを引き当てただけの阿呆だった。ただ
だが、今はどうだろうか。最早、榊の価値は、都合の良い駒などには収まらない。多くの人間を利用し続けた京子でさえ、どう転ぶか全く予想が付かない異常分子になっている。
──ー果たして、この男は一体何を目指し、何を成し遂げるのか。そして、己がそれを掌に納める事が出来る器であるのか。それを京子は知りたくなってしまった。
京子は正座を解して緩やかに立ち上がる。これ以上に何かを尋ねようと結局、この男からは同じ答えしか返って来ないだろう。
「ならばやってみれば、良いのでしてよ」
だからこそ、京子は見定める事を選択する。榊と言う人間の価値を今一度推し量る為に、敢えて干渉も敵対もせずに放置しておく。
聖杯戦争の勝利、日平和教の悲願の成就、そしてあの外道との対峙。今考え付くだけでも、この男の使い道は如何様にも考えられる。その期待に応える価値があるのかを、京子は確かめなければならない。
もし、その価値に応えられるのであれば、京子が想像も得ない何かを成し遂げたのであれば、その時は。
「期待しているのでしてよ、榊 浩一」
例え何が在ろうとも、この手中に納めてみせる。
多分、割合的には榊成分70% 獣成分30%のミックスブレンド具合。その内、成分が逆転してテセウスの船状態になりそうです。
『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。
https://x.com/8f8qdLIQID34426
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『追記』
本日の活動報告は申し訳ございませんが、明日に回させていただきます。
頭痛が……頭痛が酷い……!!
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