Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
「それでは、コレにて失礼するのでして」
「セイバーの主人よ。邪魔をしたな」
京子が立ち上がったのをキッカケに、それで話が終わってしまった。
「まぁ、コッチから呼び出したからな。来てくれてありがとよ」
「おう二度と来んじゃねぇぞ」
玄関まで見送っていた榊は、適当に応えながらも手をヒラヒラトと振る。それとは対照的に、セイバーは未だにガルルゥと、野犬みたいに牙を立てていた。
「そうでしてね。いつ噛み付かれる分からない犬を放し飼いする家はコリゴリでしてよ」
そんな今にも襲ってきそうな
だが、そこで何かを思い出したようで、扉に手を掛けるよりも先に、袖の内を弄る。そして、そこから先程直葉に渡した時と同じように、一枚の符を取り出した。
「そうでして、食事のお礼として、此方を渡しておくのでしてよ」
「んだコレ……さっき直葉に渡してた札か? コレで式神でも呼べんのかよ」
「貴方如きに式神を使いこなせる筈が無いのでしてよ。まぁ、その時が来れば分かるのでしてよ」
手渡された符を試しに仰いでみるも、何も起きる様子は無い。だが、この巫女の事だから、何かしらの意味はあるだろうと、榊はズボンのポケットに一応仕舞っておく。
それを京子は苦笑交じりに見届けると、今度こそ扉に手を掛け、外へと足を踏み出す。だが、去り際に振り向いて、長い黒髪を靡かせた、その表情を見せる。
「さようならでしてよ。また会う時には、それ相応の面を見せるのでして。榊 浩一」
それは榊の知らない初めての表情、すっかり慣れてしまった侮蔑でも嘲笑でもなく、純粋な期待で口端を緩ませる、年相応らしい少女の顔。だが、それを確信するには、扉の隙間から見える一瞬では足りなかった。
「では俺も失礼する。世話になったな」
残ったランサーも後に続くようだ。しかし、扉に手を掛けるのではなく、どういう原理か、足元から光の泡を放出し、徐々にその身体を周囲と同調するように透過させていく。
コレが霊体化と言う奴か? と、馴染みのない現象に首を捻らせていると、ランサーが半分透けている拳で、榊の胸をトンッと軽く押し付ける。
「一つ、忠告しておく」
そして、凡そ主の敵になるかも知れない男へ向ける物とは思えない──ー一人の尊敬すべき者としての経緯に満ちた瞳で榊を見据えた。
「例え貴殿が何だろうと、今此処に居る貴殿こそが本物だ。それを努々忘れるな」
───それをどんな意図で、どんな思いでランサーが忠告したのかは、榊はハッキリとは分からない。そして、尋ねるよりも前に、残された言葉も押し付けられた拳も、そしてその姿さえ、跡形も無く消え去っていた。
「……ったく、そんなの当たり前だっての」
だが、言いたい事は何となく分かっている───己の内で眠っているであろう獣に、舵取りなどさせるつもりはない。此処からは自らの意思で成し遂げると、榊は既に誓っている。
「さぁて。やる事やったし、俺ちょっと寝るわ。直葉が帰って来たら、起こしてくれよな」
───だがそれはさておき、やるべき事はやった。一通り浮かんでいたチェックリストが埋まったのを感じると、途端に眠気が榊を襲う。思えば、朝早くから動きっ放しなのだから、当然に違いない。
どうせ直葉の事だから、寄り道でもしている事だろうし、まだ帰っては来ないだろう。榊は玄関から踵を返し、部屋のベッドで一眠りしようと廊下を歩き出す。
すると、不意にセイバーに呼び止められた。
「なぁ」
「どうした?」
その瞬間、榊の視界はグルリと回転した。
「ッ!!」
身体が廊下に打ち付けられる衝撃の後に、腹の中央に伸し掛かるような圧。そして、天井を見ていた視界に、馬乗りになったセイバーが映る。
「正気か、お前」
セイバーが詰め寄る。その無駄に整った顔には、京子に揶揄われた時のような分かりやすい苛立ちは無い。だが、抜け落ちたかのような無表情は、剥き出しに牙を剥くよりも如実に現れている。
「正気に、決まってんだろ」
まだヒリ付くように痛む背中に耐えながらも、榊は当たり前だとばかりに応える。すると、まるで出来の悪い生徒に教え込むように、セイバーはその口から淡々と語り出した。
「───お前が戦わないというならそれで良い。オレが敵を殺してやる。それはテメェがどうとかじゃねぇ、オレという騎士の在り方の問題だ」
───セイバーは騎士である。騎士とは主の敵を殺す事こそが本懐。故に、セイバーが振るう剣は、切り裂く刃であると同時に、一切の害悪を断つ盾でもある。
「だがテメェ自身が戦うなら話は別だ。オレはお前を守る事は出来ない。1人の戦士として、テメェもオレも命を預けなきゃならねぇ」
───しかし守られるべき主が戦場に出てしまえば、その限りでは無い。そこに立ったが最後、セイバーの剣はもう届かなくなる。だからこそ、セイバーは騎士としてではなく、一人の強者として、その末路を教えてやる。
「ハッキリ言ってやる。誰も殺せないテメェじゃ足手纏いだ。死ぬぞ」
即ち、
「護る? 笑わせんじゃねぇぞ」
───しかし榊は恐れない。今、セイバーの両眼に血の海で藻掻き苦しむ己を見てなお、その意志を捻じ曲げようとはしない。そんな事は、最初から知っている。
チューブトップの襟を掴み寄せ、詰め寄るセイバーの顔面を、此方から更に近づけさせる。勘違いした馬鹿に、この覚悟がどれだけの物かを、徹底的に分からせる為に。
「俺が護られたいと、本気でそう思ってんのか? それこそフザケンじゃねぇぞ」
───守られたいのであれば、既に逃げ出している。全てを放り投げ、情けなく隅っこで蹲っている事だろう。しかし、榊はそれを選ばなかった。
「俺はテメェと同じで、護る為に戦うって決めてんだよ。今更イモ引いて逃げ出すと思ってんのか」
残骸に埋もれたダンスホールで、直葉の掌を握った時、榊は既に決めている。大事な存在を守る為であれば、何が起きようとも構わない。それこそ、結末が己の死で有っても、上々だと笑い飛ばせる。
「俺は俺で勝手にやる。その邪魔をすんなら、テメェであっても許さねぇ」
だから榊は戦う事を選択する。例え誰かを殺す事が出来なくも、それでも守る為であれば、無手のまま、喜んで戦場に躍り出てやる。
───互いの意思と言葉が交錯した末に、数秒の静寂が走る。その刹那の間に、何度もぶつかり合い、衝突し、目に見えない激しい火花を散らせる。
「……勝手にしろ」
そして、先に折れたのはセイバーの方だった。馬乗りになっていた榊の上から退くと、そのまま顔を見せずに、背を向ける。
「ただし、オレをマスターも護れない騎士にするんじゃねぇぞ」
そう言い残して最後、セイバーは玄関扉を静かに開くと、何も言わずに黙って出て行ってしまう。その顔は最後まで見えずとも、どれだけ歪んでいるのか想像に容易い。
「……ハハッ」
そして1人、榊は廊下に寝転がると、その口から無気力な笑いが込み上げてしまった。
───そりゃそうだ。こんな矛盾だらけの覚悟で、納得させられる筈が無い。その上で退いたという事は、セイバーなりの優しさと言う訳だろう。
過去の過ちと直視し、それでも護ると決めた覚悟は本物に違いない。だが、それでも誰かを殺す覚悟が出来ないのは、未だに逃げ続けているからだ。誰かの命を奪うというのは、それ程までに榊の深層に、トラウマとして染み付いている。
だから、例え殺すしかない相手が居るとなっても、榊はきっと留まってしまう。その上で大事な存在を失ってしまう恐怖と秤に掛けてしまい、そして振り切った末に過去の記憶で壊れてしまう。
「なっさけねぇなぁ……俺」
1人呟こうと、その情け無さを受け止める相手が居る筈も無い。結局は自分で背負って行くしか無いと、無痛の孤独が押し付けてくる。
それでも戦うしかない。例え不完全な覚悟のままだろうと、護る為ならばと、割り切って進むしかない。
その手が血に塗れた時、どうなるのかなんて、後で考えれば良い。
良い……主人公とセイバーがギスギスするの最高に良い……このままずっと争っていてくれ……!!
『追伸』
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https://x.com/8f8qdLIQID34426
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